カンフェンの自働酸化を行い,その生成物ならびに反応速度を調べた。使用したカンフェンはα-ピネンより合成した。カンフェンは昇華性であるためB P O とともにオートクレーブに入れ, 酸素圧800mmHg,反応温度60~150℃の範囲で酸化を行った。
生成物はヒドロペルオキシドの反応を示さないが,他のラジカル反応を促進することが出来る。生成物を蒸留し,各留分の赤外線吸収スペクトルをとった結果,未反応カンフェン,異性化テルペンの他にケトンが見出された。このケトレのセミカルバゾンはmp223℃を示し,この値は別法で得たカンフェニロンのそれと一致し,したがってこのケトンはカンフェニロンであることを確かめた。このカンフェニロンの量は反応温度の上昇とともに増加しており,130~150℃では35~38%に達する。カンフェニロン以外の酸化生成物たとえばアルデヒド,アルコールあるいは酸は認められなかった。
次に反応機構をより明らかにするため,酸化速度を測定した。すなわち酸素吸収速度と酸素圧,カンフェン濃度およびBPO濃度との関係をしらべた。その結果速度の逆数と酸素圧の逆数およびカンフェン濃度の逆数とはそれぞれよい直線関係を示す。またBPO濃度についてはその1/2乗に比例することがわかった。したがって次の速度式が得られ,定数
r=[BPO]
1/2K=[RH] [O
2]/(A[RH]+B[O
2])
ABの値を求めることが出来た。それから計算した活性化エネルギーはすでに行ったテルピノレンあるいはα-ピネンのそれよりも大きい。
以上の結果からカンフェンの自働酸化では中間体としてポリマーペルオキシドが生成され,それが分解してカンフェニロンとなると推定して反応機構を考えると都合がよい。カンフェンが酸化されにくいのは,二重結合のα位の炭素がブリッジヘッドであるため,水素がとれにくいという構造上の理由によると考えられる。
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