健常動物での血清alb,γ-glob濃度の恒常性をそれら蛋白産生のfeedback調節によって解釈しようという試みは,
in vivo実験で証明できず,高濃度時の異化促進などによって説明されている.しかし,最近家兎網状赤血球でのヘモグロビン産生,マウス骨髄腫細胞での免疫glob産生について,cell-free培養で完成蛋白(前者ではグロビンα鎖,後者では免疫グロブリン)が,合成過程におけるアミノ酸配列順序のよみとりの段階を抑制または調節することが報告されている.このような
in vivoと
in vitroの結果の相違を考えるとき,まず組織による血清蛋白のとりこみ如何が問題となる.
in vivoではラットで肝臓などによる
131I標識albの異化が報告され,pinocytosisに始まる細胞内異化順路の推論も出されている.
われわれはラット血清albならびにγ-globを
125I標識して,ラット肝,脾組織試料と
in vitro孵置し,これら蛋白の組織との相互作用をしらべた.組織ミンス200mg当たり5mg程度の標識蛋白を
in vitro投与すると37℃,1時間培養後,1回洗浄した組織部分にかなりの放射活性が移行する(albの場合,投与L量の6.8%(肝),8.0%(脾),γ-globの場合.11.5%(肝),5.6%(脾)).この移行は孵置時間とともに増大し,細胞分画を行なって検討したところ,放射活性の細胞内分布は臓器種,蛋白種別に異なり,また,時間別に変化した.さらに孵置後の細胞の上清分画の電気泳動分析で,蛋白性
125I放射活性の大部分が投与標識蛋白と等しい易動度を示した.以上から
in vitroでの放射活性の組織への移行は吸着によるものでなく,組織による標識蛋白のとりこみと推定し得る.
同時にその際,両組織の蛋白種別とりこみの程度に差が見られた.Albとりこみ量対γ-globとりこみ量の比を仮にA対G比として表現すると,肝臓組織ではこの値が1時間孵置で0.6,脾臓組織では1.6となり,両組織ともそれぞれの産生蛋白種を他より少なくとりこむ結果が得られた.一方,両組織よりミクロゾームを調製して,cellfree条件で標識蛋白との孵置を行なうと,30分孵置でA対G比は肝臓の場合1.04,脾臓の場合0.75と,それぞれ自己の産生蛋白種を多く結合する傾向が示された.これはマウス骨髄腫蛋白が骨髄腫細胞のmRNAと特異的に結合するとの他家の報告と並行する結果であり,細胞下レベルでは自己産生蛋白種との親和性が強い.
以上から,肝臓および脾臓の組織に蛋白種弁別,とりこみ抑制機構の存在が考えられ,これがまた他家による
in vivo実験でのfeedback調節の証明不成功につながったと推定する.
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