日本生態学会誌
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63 巻, 1 号
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原著
  • 中村 こずえ, 佐野 淳之
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    本研究は、コナラ二次林の樹冠に温暖化を想定したオープントップキャノピーチャンバー(Open Top Canopy Chamber以下OTCCと記述)を3基設置し、OTCCの性能を評価するとともに、温度上昇がコナラ種子の発達に与える影響を明らかにすることを目的とする。OTCC内とOTCC外(以下controlと記述)のシュートに着生している種子の長さと幅を約10日ごとに計測した。また、それぞれの樹冠直下に設置したシードトラップによって落下種子を定期的に回収した。着生種子の長さと幅は、8月上旬から9月中旬までOTCCでcontrolより有意に大きかった。また、発芽能力があるといわれている9月中旬以降の虫害種子の長さと幅がOTCCでcontrolより有意に大きかった。これらのことは、OTCCがコナラ樹冠における温暖化実験において有効であり、温度上昇によって発達中の種子の成長速度が速くなり、サイズが大きくなることによって、虫害を受けても発芽能力を失わない種子が増え、コナラの更新に有利に働くことを示唆している。
特集1 なぜいま葉寿命なのか?
  • 及川 真平, 長田 典之, 宮沢 良行, 宮田 理恵, Onno Muller
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 11-17
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
  • 長田 典之, 及川 真平, 宮田 理恵, 神山 千穂, 永野 聡一郎, 塩寺 さとみ, 田畑 あずさ, 小野 清美
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 19-36
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    植物の種によって葉寿命が多様であることは古くから注目されてきた。近年では、種の機能型によって葉寿命が異なることや、葉寿命は様々な葉の形質と強い関連性を持つことが明らかにされている。これらの多くの研究では種間差に着目し、1種につき1つの葉寿命の値を比較している。しかし、一般に葉寿命には種内変異があり、光環境や土壌の栄養塩可給性などの環境条件によって葉寿命は変化する。もし種内変異の方向や大きさが種によって異なっていれば、種間比較で見られた傾向は環境条件に応じて変化するかもしれない。種内変異の方向や大きさは、その種の生存・成長戦略と捉えることができ、生育環境の多様性と関連する可能性がある。このため、植物の環境応答の種内変異について、様々な種を通して見られる一般的な傾向やその種間差を整理することは重要である。本論文では文献調査により、環境条件に応じた葉寿命の種内変異の一般的な傾向およびその機能型間の違いの比較を行った。環境要因として、光、土壌栄養塩、土壌乾燥、大気CO2濃度、標高・緯度を対象とした。その結果、葉寿命の種内変異のパターンは環境条件によって多様であり、葉寿命の種内変異の傾向が非常に明瞭なもの(光環境に応じた変異)から不明瞭なもの(土壌乾燥や大気CO2濃度に応じた変異)まで存在していた。また、機能型によって応答の大きさ(光、土壌乾燥)や方向(標高・緯度)に違いがみられることが明らかになった。このような種内変異のパターンや機能型による違いを整理することは、様々な植物種の環境応答を予測するうえで役立つであろう。
  • 塩寺 さとみ
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    熱帯域では、気温の季節変化が少ない一方、地域によっては降水量の季節変化が明瞭であるため、乾燥や浸水、土壌の湿度、大気と葉の内部との水蒸気濃度の差といった水にかかわる様々な要因が、複合的に植物の展葉・落葉パターン(以下、これらをまとめてリーフフェノロジーと呼ぶ)に作用すると考えられている。赤道からの距離が離れるにしたがって年間降水量は徐々に減少し、乾季は長く厳しいものとなる。このため、熱帯域の高緯度地帯においては、植物の生育環境における水ストレスの強さが植物の生死を左右するといえる。樹木にとっては、水ストレスを回避しつつ、リーフフェノロジー(ひいては葉寿命)を調節して効率的に光合成を行うというシステムが必要不可欠である。熱帯多雨林のような湿潤環境においては、リーフフェノロジーの季節性は不明瞭になるが、日射量の変化がリーフフェノロジーに影響を与える場合もある。浸水林や河口域・内湾の海岸線に見られるマングローブ林では、浸水や海水の塩分濃度、温度などとリーフフェノロジーとの関連性が顕著である。樹木はこれらの様々な環境ストレスを回避、または克服する戦略を持っており、乾燥や浸水により樹体内が水分欠乏に陥るのを防いでいる。落葉することによって樹体内の水分欠乏を回避する種もあれば、一方で、深い根、密度の低い材や根塊を持つことによって、葉をつけたまま厳しい環境を克服することを可能にしている種もみられる。このように、リーフフェノロジーに影響を与える環境要因とそれに対応した樹木の機能的多様性との組み合わせが、この地域でみられる様々なタイプのリーフフェノロジーや葉寿命の存在を可能にしていると考えられる。
  • 小野 清美, 永野 聡一郎
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 49-57
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    葉の老化は黄葉・紅葉現象に見られるように劇的な変化であり、古くから研究されてきた。また、葉は個体の成長を支える炭素獲得器官であり、窒素保持器官であることから、葉が老化することが個体の物質生産、子実の収量にどのような影響を与えるのか調べられてきた。ここでは葉の老化に影響を与える環境要因、およびそれらと個体レベルでの葉の老化の制御機構との関連について述べる。また、葉の老化の進行を実験的に操作することが個体の物質生産にどのような影響を与えたのかを明らかにした研究を紹介したい。
  • 及川 真平, 長田 典之
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    植物の一次生産は生態系のエネルギー供給源であり、その一次生産を担っているのは葉による炭素の有機物への固定、すなわち光合成である。葉を順次に展開する植物では、葉の光合成速度は葉齢とともに、とくに自己被陰によって徐々に低下する。このとき、葉が持つ窒素の一部は回収され、若い葉に転流され再利用される。窒素は光合成系タンパク質の主要構成物質であるため、窒素含量の減少もまた光合成速度を低下させる。光合成速度が低下した葉はやがて死に至る。日純光合成速度がゼロになるまで生きれば、その葉が生涯に固定する炭素の量は最大となる。しかし実際には、日純光合成速度がゼロになる前に葉が枯れる場合がある。これは、古い葉から回収した窒素が、新しい葉においてより高い光合成速度を達成するためであるかもしれない。まだ光合成をできるとしても効率が落ちた葉を枯らし、炭素獲得能力が高い新しい葉を作れば、個体全体の炭素獲得量は大きくなる。このような観点から葉寿命と植物個体の炭素獲得の関係を調べた研究について紹介する。
  • 高田 壮則
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    炭素収支に関わる費用および利得を計算することによって、個葉の寿命の多様性について説明しようとする考え方が 1980 年代に広く唱導された。ほぼ同時代に数理生物学の分野では、「最適戦略理論」にもとづく数理モデルが数多く提唱されていた。それらの潮流の中で展開された理論的研究では、葉寿命を戦略とし、何らかの量を目的関数とした時、目的関数を最大とする最適葉寿命を求めるという最適戦略理論の枠組みを用いている。1980年代後半から登場した三つの数理モデル(「落葉樹モデル」、「光合成効率モデル」、「温度依存モデル」)は、いずれも葉一枚を光合成工場として考え、「適当」な展葉時期と落葉時期を求めようとするものである。初期に開発された「落葉樹モデル」は、落葉性樹種の展葉・落葉時期に着目し、葉の老化が初夏の春植物の登場を促す要因の一つであることを示したが、一年のなかの季節変化だけを考慮し、常緑性も含めた一般の葉寿命をカバーしたモデルではないという欠点があった。また、葉の構成コストは考慮されていなかった。それらの欠点をカバーするために登場した「光合成効率モデル」は、葉寿命が光合成速度や構成コストにどのように依存しているか、なぜ常緑性樹種が熱帯域と寒帯域の二峰性をもつかを理論的に示すことに成功したが、「落葉樹モデル」とは異なる目的関数(光合成効率)を用いているために、以前のモデルで得られた結果との比較が難しいモデルであった。その後開発された「温度依存モデル」は光合成速度の気温依存性に着目し、世界の各地域における最適葉寿命を求めているが、これも他のモデルの結果との比較に耐えうるモデルではなかった。 これらの異なる仮定および目的のもとで構築されたモデル群を俯瞰すると、いくつかの疑問が生じる。これらのモデルを統合したモデルによって、今まで得られた結果をすべて示すことはできないのだろうか。そのために設定される統一された目的関数はどのようなものであろうか。統一された目的関数によって得られた落葉性の解は、「落葉樹モデル」のそれと一致するのであろうか。ここでは、これらの数理モデル開発の歴史を詳説するとともに、理論的アプローチの整合性という視点から、それらの理論的試みが内包する問題点について明らかにした。
  • 長田 典之, 及川 真平, Onno Muller, 宮田 理恵
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 81-83
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
特集2 代謝スケーリング理論
  • 小山 耕平, 八木 光晴, 福森 香代子, 森 茂太
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
  • 小山 耕平, 福森 香代子, 八木 光晴, 森 茂太
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 91-101
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    スケーリング関係とは、生物の体または器官のサイズと、それらのサイズに伴って変化する構造や機能との関係のことである。スケーリング関係は「べき乗則」で表されることが多い。本稿では、動植物の体サイズと表面積および代謝速度(個体呼吸速度または個体光合成速度)のべき乗則で表されるスケーリング関係について述べる。とくに、動物や植物の個体呼吸が個体重の3/4乗に比例するという「クライバーの法則」を中心に解説する。次に、これらのスケーリング関係を定量的に説明するための基本となる考え方として、相対成長(アロメトリー)、相似則およびフラクタル成長の3点について述べる。最後に、フラクタル成長に基づいたモデルの先駆例として代謝スケーリング理論(WBE理論)を解説し、スケーリング研究の今後の展望を述べる。
  • 八木 光晴, 福森 香代子, 小山 耕平, 森 茂太, 及川 信
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 103-112
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    生物の個体当たりのエネルギー代謝速度と個体サイズ(体サイズ)の関係(代謝スケーリング:metabolic scaling)を探る研究の歴史は古く、生理学、生態学、農学、水産学や薬理学など様々な学問の基礎をなしてきた。代謝スケーリング関係には、異なる体サイズを示す種の集団(代謝速度の系統発生)を対象とする場合と、ある種における様々な体サイズからなる個体の集団(代謝速度の個体発生)を対象とする場合とがある。過去の研究の多くは、哺乳類や鳥類などの代謝速度の系統発生を対象としてきており、代謝速度の個体発生は無視されるか、代謝速度の系統発生と同じであるかのように曖昧に扱われてきた。その一方で、代謝速度の系統発生と代謝速度の個体発生の生物学的な意味は明確に異なっており、両者は厳密に区別されるべきとの指摘もなされてきている。そこで本論では、代謝速度の系統発生と個体発生の違いの整理を試みる。さらに、代謝速度の個体発生が、これまで生態学において重視されてきた「食う-食われるの関係」をはじめとする生物間相互作用と密接に関係し合っていることの実証例を紹介し、今後の研究の方向性について議論する。
  • 福森 香代子, 奥田 昇
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 113-123
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    生物代謝のサイズスケーリング則は、生物学における最も普遍的な規則の一つである。近年、個体の代謝を生態系レベルにスケールアップして生態系の構造と機能の関係を理解する試みが注目されている。本稿では、スケーリング則を用いた生態系代謝に関する理論的枠組みと実証研究を紹介する。特に、生態系代謝を決定する主要因とみなされている生物群集の体サイズ分布が生態系代謝に及ぼす影響を検証する我々の実験的研究の概要を紹介するとともに、その実験結果から見えてきた新たな理論の展開について考察する。最後に、生物代謝をマクロ生態学の視点から理解しようと試みる「生態学の代謝理論」の将来展望について述べる。
  • 森 茂太, 小山 耕平, 八木 光晴, 福森 香代子
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 1 号 p. 125-132
    発行日: 2013/03/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    呼吸は、植物成長や二酸化炭素収支における消費、支出という概念で定義されてきた。しかし、広い意味で呼吸はエネルギーと多様な物質の間の変換プロセスであり、防衛、適応、成長などの生態学プロセスそのものである。近年、Metabolic Ecologyの提唱によって、こうした生態学プロセスを扱う境界領域研究が、地球環境研究のベースとして発展しつつある(Sibly et al. 2012)。Metabolic Ecologyでは、個体呼吸を目的変数、個体サイズ(mass,重量など)を説明変数として回帰分析を行う。しかし、根を含んだ大型樹木全体の個体呼吸測定は困難なため、葉、幹、枝、根の一部の測定値から推定する場合が多い。個体呼吸を正確に評価するため、Mori et al.(2010)はシベリア亜寒帯林から熱帯林において、実生から巨木を材料に個体重量幅10億倍で根を含む樹木全体の個体呼吸を実測した。その結果、個体重量と個体呼吸の間には両対数軸上で上に凸の傾向がみられ、これを実生側の傾き1と巨木側の傾き3/4の単純べき関数を2本の漸近線とした混合べき関数でモデル化した。徐々に変化する2つの傾きは、Reich et al.(2006)の傾き1とWest et al.(1997)の傾き3/4の双方の結果を支持した。亜寒帯林から熱帯までの多様なバイオームの各森林において、最小から最大個体サイズまでの実測から得たこのモデルは、植物個体呼吸とその重量が持ちうる網羅的な範囲を示すと考えられる。こうした植物個体呼吸の意義について、幅広い視点から解説を試みたい。
学術情報
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