マングローブ林における土壌圏から大気への炭素放出の動態を明らかにするため、従来型の自動開閉チャンバー
法(AOCC 法)装置に改良を加え、堆積物表面からのCO
2 放出速度(土壌呼吸速度)の連続測定を試みた。石垣島吹通川流域のオヒルギを優占種とするマングローブ林において、2013 年7 月4 日から8 日にかけて、土壌呼吸速度と環境要因の連続測定を行った。その結果、AOCC 法を用いることで、従来考えられていたマングローブ林や陸上森林生態系とは大きく異なる土壌呼吸の変動パターンを検出できた。本研究では、土壌呼吸速度と土壌温度に明瞭な相関は認められなかったが、潮位変動の影響を受けて複雑に変動する土壌温度が、土壌呼吸速度の変動パターンを説明する一つの要因として考えられた。土壌表層の冠水直前や干出直後には、一時的に高い土壌呼吸速度が観測され、潮位変動にともなう物理的影響と推察された。干出時の平均土壌呼吸速度(140 mgCO
2 m
-2 h
-1)は陸上生態系に比べて低い値を示し、これは測定された土壌呼吸に根呼吸がほとんど含まれていないこと、土壌圏の酸化的環境が少ないこと、発生したCO
2 が溶存無機炭素として流失していることなどが原因と考えられた。冠水時における堆積物から表層水を通して大気へ放出されるCO
2 の速度は干出時の約50%程度であった。従来のマングローブ林における土壌呼吸量の推定は主に干出時に測定した値を基にしていることから、年間の土壌呼吸量が過大評価されており、生態系純生産量の推定にも大きな影響を与えていることが示唆された。以上のことから、マングローブ林における土壌圏の炭素動態を明らかにするためには、様々な環境条件を考慮したうえで、AOCC 法などによる連続的な土壌呼吸速度の測定が有効であると考えられた。
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