日本生態学会誌
Online ISSN : 2424-127X
Print ISSN : 0021-5007
ISSN-L : 0021-5007
73 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
学術情報
  • 京極 大助, 川津 一隆
    2023 年 73 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    博士課程学生と教員の関係には独特の難しさ-科学研究に不慣れな学生は様々なサポートを必要とする一方で、教員の多くはそのための教育を受けていない-がある。そのため学生・教員ともにどのように振る舞えば良いか悩むことも多いのではないだろうか。より良い博士課程の実現には、現状にある課題を整理し議論することから始めなければならない。こうした問題意識から、筆者らは2017 年3 月の日本生態学会において自由集会「Ph.D の育ちかた、育て方。」を主催した。本稿では自由集会の企画趣旨説明をベースに、学生と教員の関係を考えるためのヒントを提示する。具体的には、1)生態学という分野の特殊性と時代の変化のため、他分野や過去の事例が必ずしも現代生態学の博士課程に適用可能とは限らない;2)「より良い博士課程」は多義的であり、唯一の正解は存在しないだろう;3)学生と教員の関係に影響する要因は多岐にわたり、最低限満たされるべき条件と理想的な状態という少なくとも2 つの異なる視点が存在する、という三点を明確にする。こうした事実を認めたうえで、学生と教員の相性と、双方の資質について考えるための簡単なフレームワークを提示する。本稿の目的は博士課程のあり方に関する議論を喚起することにあるが、こうした議論を行う上での注意点も指摘する。自由集会の準備過程、自由集会で語られたこと、自由集会後に報告された調査結果についても紹介する。
  • 渡辺 伸一, 野田 琢嗣, 小泉 拓也, 依田 憲, 吉田 誠, 岩田 高志, 西澤 秀明, 奥山 隼一, 青木 かがり, 木村 里子, 坂 ...
    2023 年 73 巻 1 号 p. 9-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    バイオロギング(biologging)とは、動物に様々なセンサーを取りつけて動物の行動や生態およびその周辺環境を調べる手法である。今世紀に入り、バイオロギングデータを共有するウェブ上の電子基盤システムとなるプラットフォームが世界各国で次々と構築されている。一方、日本国内で取得されたバイオロギングデータの共有は立ち後れている。本稿では、日本国内のバイオロギングデータを保存・管理・利用するために新たに開発したプラットフォーム(Biologging intelligent Platform: BiP)について紹介する。BiP の仕様を決めるにあたり、既存の12 のプラットフォームが格納するデータの種類や解析機能に関する特徴6 項目を3 段階で評価し、格納するデータ量の増大に寄与する特徴について考察し、その結果をもとにBiP の仕様、ならびに今後発展すべき方向性について検討した。既存プラットフォームを比較した結果、格納するデータ量の増加には、データ公開レベルとデータタイプの自由度が高く、データ解析ツールの充実度が高いという特徴が寄与していた。これらの特徴を踏まえてデータ公開レベルとデータタイプの自由度を高めるようにBiP を設計した。さらに次に示すBiP 独自のウェブ解析システム(Online Analytical Processing: OLAP)を搭載した。BiP のOLAP は次のような機能を持つ:1)バイオロギング機器によって得られたセンサーデータ(Level 0)をBiPウェブサイトへアップロードし、個体や装着時のメタデータを入力すると、動物の放出前や機器の回収後の不要部分を除去して、標準形式へ変換したLevel 1 データを作成する。2)GPS データをもとに、海流・風・波浪といった海洋物理情報(Level 2 データ)を抽出できる。3)登録者が公開設定したデータの場合、利用者はLevel 1, 2 データをCSV 形式およびネットワーク共通データ形式(Network Common Data Form: NetCDF)でダウンロードできる。今後は、海洋物理情報をグリッド化したLevel 3 データを生成する機能を付与し、対象種を海洋動物から陸生動物まで、対象地域も全世界へと広げて、収集するデータの質と量を増大させる計画である。
連載 生態教育の今と未来(12)
  • 嶋田 正和
    2023 年 73 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    学習指導要領が10年ぶりに改訂された。高校生物の教科書の主な改訂点は、(1)進路に関わらず広く履修する低学年用「生物基礎」(2単位)と、生物に興味のある生徒が理系学部を大学受験するとき学ぶ上級生用「生物」(4単位)の2科目構成は前期改訂(2012 ~ 2013年施行)と同様に維持されたこと、(2)「生物基礎」では能動的な学び(アクティブラーニング)を前面に出し、生徒が主体的に学ぶ工夫が施されたこと、(3)「生物」では進化の単元が冒頭に配置され、他の分野(遺伝、生理、発生、生態、系統)は進化の視点から理解させること、の3点である。しかし、(3)については、T.ドブジャンスキーの有名な「進化に照らして見ないと生物学は何も意味をなさない」の格言通りには行かず、現場の教師たちからはこの教科書だと教えづらいとの苦情も出ており、これを受けて教科書作成には各出版社によってばらつきが生じている。「生物基礎」は2022年4月からすでに施行されており、2023年4月からはこの「生物」が新しく教室で使用されることになる。
連載 生態教育の今と未来(13)
  • 宮下 直
    2023 年 73 巻 1 号 p. 29-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/04/21
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、2018 年に改訂された「生物基礎」および「生物」の学習指導要領に記された新視点を抽出し、授業における活用の仕方や課題についての私見を述べた。内容は生態学分野を中心に、広い視野からの提言も含んでいる。新たに追加、変更された注目すべき事柄として以下の5 点を挙げた。すなわち、1)自然環境の保全に寄与する態度を養う、2)見通しをもった観察や実験をおこなう、3)見出して理解する、4)重要用語の数を絞り込む、5)他教科との関連を配慮する、である。地球環境や社会の激動が予想されるなか、高校の生物で地球環境や生物多様性を考える機会を与えることの意義は大きい。生態学をどう教えるかの議論は、新たな段階に入ってきたと言える。
feedback
Top