日本生態学会誌
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63 巻, 3 号
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宮地賞受賞者総説
特集 枯死木をめぐる生物間相互作用
  • 深澤 遊, 山下 聡
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 3 号 p. 301-309
    発行日: 2013/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    倒木・立枯れ・切株などの枯死木や、枯れ枝・心材腐朽といった生木の枯死部(以後、まとめて枯死木と呼ぶ)は多様な生物の住み場所や食物資源として森林生態系の種多様性の維持に重要な役割を果たしている。幅広い生物群の多様性に果たす枯死木の重要性が明らかにされてきているが、それらの生物種間の相互作用のネットワークについてはほとんど分かっていない。生物間相互作用のネットワーク構造を明らかにすることは、生物群集の時間的安定性や撹乱に対する抵抗性やレジリエンスを予測するために重要である。本特集では、枯死木の分解に主要な役割を果たす真菌類(fungi)による材分解がその他の生物群集に与える影響を起点として、枯死木をめぐる様々な分類群の生物群集の直接的・間接的、栄養・非栄養の相互作用のネットワーク(生態ネットワーク)をつなげられる可能性が示された。今後は、いまだ調べられていない分類群の生物群集を含んだ生態ネットワークの構造に関する研究を進めるとともに、それらの時間的・空間的な動態を明らかにしていくことが、森林生態系の生物群集の安定性に果たす枯死木の役割を明らかにする上で重要になる。
  • 深澤 遊
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 3 号 p. 311-325
    発行日: 2013/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    菌類は枯死木の分解において中心的な役割を果たしている。枯死木の細胞壁を構成する有機物であるリグニンとホロセルロースに対する菌類の分解力に基づき、大きく分けて3つの「腐朽型(decay type)」が知られている。白色腐朽では、リグニンが分解されるため材は白色化し、繊維状に崩壊する。褐色腐朽では、リグニンが変性するだけで分解されずに残るため材は褐色化し、ブロック状に崩壊する。軟腐朽は含水率の高い条件で起こり、主に材の表面が泥状になる。異なる腐朽型の材では、物理化学性が異なるため、枯死木を住み場所や餌資源として利用する様々な生物群集に影響を与えることが予想される。本稿では、細菌、菌類、植物、無脊椎動物、および脊椎動物の群集に対する材の腐朽型の影響について実証的な研究をレビューする。細菌については、褐色腐朽材に比べ白色腐朽材で窒素固定細菌の活性が高いことが知られている。腐朽型が菌類に与える影響に関しては研究例が非常に少ないが、腐朽菌や菌根菌が材の腐朽型の影響を受けることが示唆されている。植物についても研究例が非常に少ないが、種により実生定着に適した腐朽型が異なるようだ。無脊椎動物については、特に鞘翅目およびゴキブリ目の昆虫に関する研究例が多く、種により好む腐朽型が異なることが知られている。脊椎動物についてはほとんど研究例がなかったが、腐朽菌の種類によってキツツキの営巣に影響があることが示唆されている。腐朽型が生物群集に影響する理由としては、材の有機物組成や生長阻害物質、pHが腐朽型によって異なることが挙げられている。このように菌類には、ハビタットとしての枯死木の物理化学性を変化させることで他の広範な分類群の生物群集に強い影響を与える生態系エンジニアとしての働きがあると考えられる。ただし、その一般性については今後さらに多くの分類群の生物に対する菌類およびその腐朽型の影響を検証していく必要がある。
  • 山下 聡
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 3 号 p. 327-340
    発行日: 2013/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    枯死木は森林中に大量に存在するものの、難分解物質から構成され、多くの動物にとって餌として利用しにくい資源である。菌類はこれを分解することで様々な動物に利用可能な形態に変換している。担子菌類の有性胞子は子実体で形成され、風により分散すると考えられている。その一方で一部の担子菌類が形成する大型の子実体(キノコ、サルノコシカケ)は様々な昆虫により摂食されている。昆虫が胞子分散に寄与している可能性もあるが、十分に検討されていない。本総説では、風による胞子分散と木材腐朽性の大型担子菌類の資源利用様式についてまとめたうえで、これらの菌類と昆虫の対応関係、昆虫の利用頻度、昆虫により摂食される胞子の数とその生存率、昆虫の移動距離と方向などに関する知見を整理した。そして風による胞子分散と動物による胞子分散の有効性を検討し比較した。大型担子菌類では、種によっては1日に1000万個以上の胞子が放出されている。一つの子実体から放出される胞子のうち大部分は子実体の近傍に落下するが、100kmを超える距離を移動する胞子もある。木材腐朽菌の定着には、1日当たり4700個/m2程度の胞子が少なくとも必要と考えられている。子実体の周辺5km程度では、この密度の胞子が確保されているようである。多孔菌類では鞘翅目昆虫が、ハラタケ類では双翅目が優占し、高頻度で子実体を訪問している。昆虫は約1万〜10万個/匹の胞子を消化管に取り込みうる。昆虫に摂食された胞子は、完全に発芽能力を失う場合から維持される場合まで、昆虫の種類によって様々である。鞘翅目は1日に10数km、双翅目は数kmを移動しうるが、風によって長距離を移動する場合もある。菌食性昆虫は菌の匂いをたよりに子実体間を移動すると考えられている。昆虫1個体内に取り込まれる胞子の数は、発芽能力が維持される場合、菌が定着するのに十分な量であり、昆虫による胞子分散の可能性は必ずしも否定されない。その一方で、運搬される場所は菌の新たな定着には不適当な場所である可能性が残されていることと、風による分散のみで空間分布様式が説明できている事を考慮すると、現時点では、昆虫による分散を強く支持する理由はない。昆虫による胞子分散の可能性を示すためには、昆虫の行動パターンを含め、胞子が運搬される場所と量を明らかにしていく事が必要であろう。そのうえで風散布と動物散布の相対的重要性を示していくことが必要である。
  • 井上 太樹, 飯島 勇人
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 3 号 p. 341-348
    発行日: 2013/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    倒木更新は、北方林を中心に一部の樹種にとって重要な更新様式である。ただし、全ての倒木が倒木更新に適しているわけではなく、樹木の更新密度は倒木間で大きく異なる。その要因として、これまでは倒木発生からの倒木の物理化学特性の時系列変化に着目した研究が多かった。しかし、倒木の時系列変化を評価する方法は、研究間で統一されていない。また、倒木更新の可否をもたらす要因として、生物間相互作用に着目した研究は、物理化学特性と比較すると少ない。本稿では、これまでに実施された倒木の時系列変化の評価方法と、倒木更新に蘚苔類が与える影響を整理した。倒木の時系列変化の評価方法としては、外見で判断する腐朽度、物理的な硬さや養分濃度などの物理化学特性、倒木の発生からの経過年数(毎木調査データの利用、倒木上の最大個体の齢、年輪年代学的手法、倒木の長期観察などによる)があった。また、倒木上の蘚苔類は、倒木更新する樹木の実生に対し、種子の捕捉、水分の保持等の正の影響と、被陰や根の伸長阻害、アレロパシーによる負の影響を与えていることが明らかになった。今後は、倒木の時系列変化を定量的に把握すること、他の生物群が倒木更新する樹木に与える影響を検討する必要がある。
  • 小高 信彦
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 3 号 p. 349-360
    発行日: 2013/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
    森林に生息する多くの脊椎動物が立枯れ木や腐朽木に形成される樹洞に依存して生活している。樹洞の生産とその利用を巡る樹洞営巣種間の生物間相互作用を研究する理論的枠組みとして、食物網のアナロジーであるnest web(以下、樹洞営巣網)という見方が提案され、キツツキ類の樹洞提供者としての役割について着目した研究が進展してきた。樹洞営巣網は、食物網にみられるような群集構造の特徴を備えており、構成メンバーにとって必要な資源である樹洞が構成メンバーの一部によって生産され、樹洞の消費者には階層がある(一次樹洞営巣種、二次樹洞営巣種;すなわち樹洞営巣ギルド)。樹洞営巣種の中でも、自ら繁殖のために樹洞を掘ることが出来る一次樹洞営巣種であるキツツキ類が堀った樹洞は、自ら巣穴を掘ることができない二次樹洞営巣種にとって重要な資源として利用される。樹洞の現存量によって個体数を制限される二次樹洞営巣種に対して樹洞を提供する能力を持つことから、キツツキ類は森林生態系の鍵種と考えられている。木材腐朽菌類は、キツツキ類とならんで樹洞を生産する生態系エンジニアとして重要な役割を担っている。腐朽菌類そのものが重要な樹洞生産者であり、また、腐朽菌類による木材の軟化プロセスは、キツツキ類による樹洞生産を促進する。腐朽菌類は、その種によって樹木の腐朽部位(幹や根部など)や、腐朽プロセス(辺材腐朽か心材腐朽など)の特性が異なる。このような腐朽菌類の特性の違いは、キツツキ類の繁殖成功や営巣場所選択にも影響を及ぼす。しかしながら、樹洞の形成や利用を巡る生物間相互作用の研究では、腐朽菌類の種まで同定してその役割が樹洞を利用する脊椎動物の個体や群集に及ぼす影響を明らかにした研究は少ない。本稿では、木材腐朽菌類の樹洞形成における役割に着目して、キツツキ類と樹木、腐朽菌類の三者関係についての一連の研究や、木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込み、樹洞を利用する脊椎動物群集との関係について議論した初めての研究事例を紹介する。木材腐朽菌類を樹洞営巣網に組み込むことで、樹洞生産の経路が明らかとなり、樹洞を利用する鳥類の分類群と樹洞形成に関わる木材腐朽菌類の対応関係を明らかにすることが可能である。今後、樹洞形成に関わる多様な分類群の生物を視野に入れた樹洞営巣網の構築が期待される。
  • 野田 隆史
    原稿種別: 本文
    2013 年 63 巻 3 号 p. 361-363
    発行日: 2013/11/30
    公開日: 2017/04/28
    ジャーナル フリー
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