1.はじめに
家畜排せつ物処理は地域住民の苦情対策が主目的で,堆肥を生産して循環させるという意図は副次的であった.環境三法の施行後,副産物は物々交換から金銭取引へ移行しつつあり,静脈部門として発展してきた.農業における静脈部門には,第1に畜産農家の経済的負担,第2に排せつ物処理施設の運営の継続性,第3に原料収集地と副産物還元地の空間的範囲バランスの問題がある.本研究では,畜産業における静脈部門の形成と3つの課題を明らかにし,地域資源循環をするための経済システムを考察する.研究対象地域は,宮城県内で米生産及び畜産業が盛んな仙北地域とした.農家が個別あるいは複数の農家で排せつ物処理の対応を図っている宮城県大崎地域と,自治体,農協,農家,地域住民が一丸となって,環境保全型農業に取り組み,1つの市域に有機センターを7施設設置し,行政主体で静脈産業の形成を図っている宮城県登米市を取り上げ,両者の静脈部門の経済システムを比較する.
2.家畜排せつ物処理における農家の経済的負担
個別処理施設は,堆肥舎や堆肥盤といった簡易的なもので,設置には200~4,500万円の初期投資がかかる.農家主体の共同処理施設や行政主体の共同処理施設は,自動撹拌する機械を備えた施設であり,初期投資額は,前者が8,000万~1億4,500万円,後者が5.5~10億円となっている.初期投資に占める公的補助金額の割合は,個別処理は0~60%,農家主体の共同処理は90%,行政主体の共同処理は100%となっている.
3.家畜排せつ物処理施設の運営の継続性
農家主体で排せつ物処理を行っている場合,個別,共同処理ともに施設使用料金は300~1,000円,堆肥販売価格は1,000~1,500円となっている.個別処理では,自家施設で排せつ物を処理するため,施設使用料金は発生しない.個別処理の場合,支出の50%以上を水道・光熱費,資材費が占めているが,共同処理の場合,支出の60%以上を減価償却費が占めている.
行政主体で施設運営行っている場合,市域内で価格差が生じると,農家は少しでも価格の低い施設を利用するようになり,施設利用の偏りが発生すると考えられるため,施設使用料金は600円,堆肥販売価格は3,150円と一律の価格になっている.両価格は,農家主体の処理施設より高額になっており,支出の60%以上を減価償却費が占めている.
静脈部門での支出を同部門の収入で相殺するならば,施設使用料金と堆肥の販売価格を現在の価格より高額にする必要があるが,そうすると化学肥料よりも高額となり,堆肥の需要が低下し,堆肥の在庫余剰が懸念される.その結果,静脈部門において支出より収入を高額にする方策を見つけることが難しい.
4.原料収集地と副産物還元地の空間的範囲
農家主体の場合,原料を自家,及び近隣農家から収集しているため,数m~8km圏内と狭域であるが,堆肥は地域外まで流通しているため,20~30km圏内と広域となっている.一方,行政主体の場合,原料を地域内で収集,また地域内で堆肥を消費する仕組みを作っており,原料収集地と堆肥の流通範囲はほぼ同範囲となっている.施設によっては,地域外に流通しているところもあり,20km圏内と広域に流通しているところもあるが,地域外へ販売している量を含めると,農家主体の方が広域な範囲で堆肥の流通が行われている.さらに,原料と副産物を地域内で流通・消費させるためには,自治体や農協の協力が不可欠だと考えられる.
5.まとめ
JAみやぎ登米(津山地区を除く)管内では,1997年から「売れる米づくり」を開始し,1998年から環境保全米を本格的に導入し,現在の作付は登米市の水田の80%ほどである.その結果,堆肥の需要が高まり,有機センターで生産される堆肥の販売先が確保された.また,堆肥利用を促すために「登米ブランド」を設立した.
一方,大崎地域も登米市と同様に穀倉地帯であるが,環境保全米の栽培導入は遅れている.JAみどりの管内では,農家を中心とした組織を作り,田尻地区で1988年から取り組まれているが,田尻地区と古川地区と地域の一部に限られ,環境保全米の作付割合は16%(2007年度)にとどまっている.このように両地域での取り組みの差異は,地域の耕種農業のあり方が家畜排せつ物処理の形態に大きな影響を与えている.
農家の個別対応ではなく,自治体や農協を主体とすることで,新たな堆肥の販売先の確保が容易であり,農家への負担も少ない.また,高品質で均一な品質の堆肥を生産でき,耕種農家が堆肥を購入しやすい状況になっている.したがって,静脈部門において輸送コストを低減し,堆肥の生産余剰を作らないようにするためには,農家の個別対応ではなく,自治体や農協を主体とした登米市の事例が望ましいと考えられる.
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