Ⅰ はじめに
1949年新中国設立の後,「職住近接」という都市計画の方針の下で,新興工場の建設と従業員の住宅や福祉サービス等を一体的に整備する「単位」が生まれた(柴 1996).この時代に,住宅は福利厚生の一部として,所属する「単位」から分配されていた.1988年,中国の改革開放の一環として,『土地管理法』が導入され,中国都市部における土地の使用権は,市政府にが譲渡できるようになった.この変化によって,1990年代初期,福利厚生目的の単位住宅とは異なり,民間デベロッパーが開発した商品住宅が市場で販売され始めた.1998年,「単位」の住宅分配制度が中止され, 都市住民の居住地は,もはや所属単位によって決定されるものではなく,個人意思によってに自由に選択できるようになり,都市住民の居住ニーズがにわかに顕在化した.そのニーズに応じて,商品居住区が大規模に開発され始め,「単位住宅」に代わって,中国都市の主要な住宅類型となってきている.
一方,家族の世代間関係が,都市住民がこのような制度の改革や都市空間の変化に対応するにあたっては,重要な役割を果たしている(柴, 陳 2009).本発表では,北京市を事例として,家族のライフコースを分析し,制度改革や都市空間の劇的な変化がどのように住民のライフコースに影響を与えるのか,また中国大都市住民の居住地選択において,欧米や日本とは異なる独特な要因があるのかといった点を明らかにしたい.
Ⅱ 調査方法
2011年3月から5月にかけて,北京市で単位住宅地と商品住宅地それぞれ一箇所を取り(図1A,B),まず,事前調査として,其処の高齢者住民と接触し,居住移動に関する簡単な聞き取り調査を行い,4つの高齢者世帯を事例としてを選定した.それから,彼ら自身(高齢者夫婦)とその子世代家族のライフコースに関する詳細なインタビュー調査を実行た.
Ⅲ 結論と考察
欧米の理論における居住移動の要因は,家庭需要,及び住宅への期待と実際の住環境とのミスマッチから生み出された圧力であると認識されている。中国の市場経済転換期においては,核家族の住宅需要だけでなく,親世代や子世代の家族の住宅需要と,制度的要因も重要な役割を果たしている. 世代間関係が都市住民のライフコースに与える影響としては,まず,「単位制度」の改革による福祉レベルの低下に対応する際に,高齢期に入った親世代の援助が,重要な役割を果たしている.親世代は,子世代の家族と同居,あるいは近居し,子育てや家事を分担するだけではなく,「単位」福祉住宅分配制度から獲得した経済的利益を,住宅の頭金を払う等の形でその子世代へ移転する.第二に,親世代が後期高齢者になると子世代との同居や近居を通じて看護を求めるのも,彼らの居住移動の要因の一つである.
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