日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
選択された号の論文の353件中151~200を表示しています
発表要旨
  • 土`谷 敏治, 高原 純, 平林 航
    セッションID: 310
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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     Ⅰ.はじめに
     本来鉄道は,通勤・通学,買い物,通院,観光,用務などの諸目的を実現するため,その目的地に到達する移動手段の1つであり,鉄道に乗車すること自体が目的ではない.しかし,諸目的のうち観光については,鉄道が単なる移動手段だけではない場合が考えられ,鉄道そのもの,あるいは鉄道に乗車することが観光の目的となりうる.新納(2013)によると,鉄道をはじめとする乗り物は,①観光地への移動手段,②観光資源をみるための移動手段,③それ自体が観光資源となるものの3つの位置づけが可能であるとしている.すなわち,①は他の目的達成のための派生需要に過ぎないが,②と③は鉄道自体が目的の本源的需要であるとする.
     静岡県の大井川鐵道は,旧国鉄の蒸気機関車が全廃された後,SL列車の運行を最初に復活させ,さらに定期的に運行していることで知られる.収支面や技術面などさまざまな側面からの検討がなされた結果,1976年にSL列車の大井川本線での運行が開始され(白井,2013),明らかにSL列車自体を観光資源と位置づけた経営をしている.しかし,これまで利用者に対して,その属性や観光利用の特色について調査したことがないという.これを踏まえて,本研究では大井川鐵道のSL列車利用者について,その諸属性,旅行目的とその特色を調査・分析し,利用者の側面から大井川鐵道の観光利用の特色と今後の課題について検討することを目的とする. 

     Ⅱ.調査方法
     今回の調査は,大井川鐵道のSL列車利用者,すなわち,観光目的での大井川鐵道利用者を対象としている.このため,調査は2013年10月19日(土)と20日(日)の2日間にわたって実施した.両日は,いわゆる秋の観光シーズンの週末,土曜日と日曜日に相当する.また,大井川鐵道でもこの日から11月末までを観光シーズンの重点期間と位置づけており,19日に観光シーズンに向けての列車ダイヤ改正を実施した.
     アンケート調査は,2日間3往復6列車の車内で,利用者に調査票を配布し,利用者自身が記入する方式で回答を求めた.主な質問項目は,年齢・性別・居住地等の利用者の属性,個人・家族・団体等の同行者構成,旅行日数,大井川鐵道乗車回数,観光の目的などである.また,SL列車の利用パターンを明らかにするため,SL列車の停車駅間で,乗車中の旅客数を数え,輸送断面を作成した.

     Ⅲ.調査結果の概要
     2日間の調査によって,SL列車の旅客輸送断面とその特色が明らかになるとともに,アンケート調査の結果,503人から有効回答がえられた.
     1.SL列車の利用は,往路の下り千頭行きが中心で,上り新金谷行きは往路の半分程度以下の利用である.また,ツアー客を中心に,新金谷・家山間の区間利用がみられ,上り列車利用促進,全区間乗車促進策が求められる.
     2.SL列車の利用者は,いわゆる中高年の女性中心という観光客の一般的特色に比べ,広い年齢層にわたっていることが明らかになった.また,鉄道が対象ということもあり,比較的男性の利用者が多い.その居住地は,愛知県,三重県,岐阜県など中部地方が多く,距離的に大きな差がない東京都,神奈川県など南関東からの誘客が課題である.
     3.SL列車利用者の旅行目的は,SL列車に乗車することに集中しており,SL列車以外の観光目的への誘導が必要である.
     4.SL列車利用者は,一人旅をはじめ,夫婦旅行・家族旅行・友人同士などの個人旅行と,旅行会社のツアーやグループ旅行などの団体旅行に2分される.前者は,大井川鐵道までの交通手段として,家族旅行を中心に自家用車の利用が多い.ただし,夫婦旅行や一人旅のように同行者人数が少ないとJR線利用が増加する.後者は,ツアーバス利用が基本である.また,団体旅行に比べ個人旅行では,SL列車乗車以外の旅行目的の割合が高まる.
     5.SL列車利用者は約1/4が再訪者で,比較的リピーター率が高い.さらに,再訪者ほどSL列車乗車以外の旅行目的をもつ場合が多い.
     以上の結果から考えられる今後の課題としては,区間利用の対策として,蒸気機関車はもちろん,旧型客車,駅や検修設備を含めた大井川鐵道全体の特色・魅力をこれまで以上に利用者に伝え,車内・駅での見学の機会を増やすことが求められる.SL列車乗車に偏重した旅行目的,片道乗車への対策として,沿線・沿線以外の静岡県内の観光地・観光施設の活用・連携と広報,ツアーを企画する旅行会社への働きかけ,JR各社との協調,各種マスメディアの活用も重要である. 参考文献
    白井昭 2013.保存鉄道とは技術と文化の継承である。(インタビュー).みんてつ44:20-23.
    丁野朗 2013.観光資源としての地域鉄道.運輸と経済73(1):10-17.
    新納克広 2013.鉄道経営と観光 ―派生需要と本源需要―.運輸と経済73(1):4-9. 
  • 静岡県を事例に
    瀬戸 寿一, 杉本 直也
    セッションID: 525
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに 2000年代後半以降,機械判読と二次利用可能な形式で公開されるオープンデータが,市民参加の実現に向けた政治・文化運動として注目されるようになっている.特に,2009年に米国で発足した第一次オバマ政権が,政府の透明性や市民参加,官民の連携の促進を,オープンガバメント(Goldstein and Dyson, 2013)と位置づけ,これを実現する一つとして,公共機関の有する様々な情報をオープンデータ化しWeb上に公開し,英国やEUもこれに続いた.  我が国では,2010年末に福井県鯖江市が「データシティ鯖江」として活動を開始し,2012年7月に内閣府による「電子行政オープンデータ戦略」が策定された.これを元に,政府機関や地方自治体における行政情報のオープンデータ化が急速に整備され,2013年12月にはポータルサイトであるData.go.jpが開設された.  当初,米・英のオープンデータは白書や統計資料を中心に整備されたが,地方自治体における施設の位置情報や交通網など地理空間情報が次第に重要視された.2013年6月のG8サミットでは「オープンデータ憲章」が宣言され,地理空間情報が重要なオープンデータとして明記された.  本研究は以上の状況を背景に,先進事例である米・英における動向を整理するとともに,日本における事例として静岡県を対象に,オープンデータを介した市民参加の可能性を検討することを目的とした.   2.研究方法 本研究では,オープンデータ整備の活発な米国と英国の動向を踏まえて,静岡県のオープンデータ提供サイトである「ふじのくにオープンデータカタログ」における地理空間情報の提供経緯や,データの利用状況について検討した.   3.研究結果 地方自治体レベルのオープンデータは,米国においては日本と同様に各自治体のWebサイト上で,39州・44市が公開されている(2014年1月現在).他方,英国では,地方自治体や博物館等の公的機関のオープンデータが含まれ1,100組織以上である.このようなオープンデータのカタログサイトはオープンソースソフトウェアのSocrataやCKANをベースに,地図化や複数フォーマットでのダウンロード機能が実装されている.  静岡県では2013年8月末より公開を始め,2014年1月時点で,約90種類のオープンデータを国産のオープンソースCMSであるNetCommonsで提供している.他のポータルサイトほど多機能ではないが,2011年より運用されている統合型GIS(杉本,2013)で整備された都市計画図や道路インフラに関するベクトルデータ,観光施設に関する位置情報(5カテゴリ75データ)が,主にCSVやSHP形式で提供されている.ポータルサイトの閲覧状況は,2013年8月末から12月までに約8,500のユーザー(5ヶ月間の平均で約1700ユーザー)がWebサイトを訪れ,約16万ページビュー(同平均で約3万1千ページビュー)に達するなど関心が高い.また公開されているデータは,スマートフォン用のアプリケーションに組み込まれたほか,OSMデータに変換されるなど地図用途での活用も始まっている.   4.おわりに オープンデータは,地方自治体のWebサイト上で閲覧されるだけでなく,本来の目的である地理空間情報の特質を活かした地域課題の解決に向けて,市民活動での利用や地元企業・市民エンジニアによるアプリケーション開発への活用が望まれる.他方,日本国内で地理空間情報を最もオープンデータ化している静岡県でも,地域課題の解決に関するアプリケーションは少数に限られている.したがって,地域の地理的特質を加味したデータの活用ニーズやアプリケーションの実装に関するワークショップを通して,地域課題解決に向けた活動が継続的に実施されるべきである.
  • 權田 与志道
    セッションID: 718
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに 近年の防災教育に対する意識の高まりは,地理学のみならず社会科教育全般に及んでいる.地理学では『新地理』(60-1)で特集が組まれたほか,E-journal GEO(7-1)の地理教育特集号においても防災教育の重要性が指摘されている.また社会科教育学においても『社会科教育研究』(119)で「リスク社会における社会科のあり方(存在意義)を考える」という特集が組まれた.かつて,村山(2007)は地理教育の研究動向について,地理教育の問題を地理学界の中で地理学の問題としてしか捉えていないものが見受けられると指摘した.同様の傾向が近年の防災教育と地理教育をめぐる議論の高まりの中でも見受けられるのではないだろうか.特に中学校の社会科教育においては「地理」という独立教科は存在しないため,防災教育のあり方を論じるためには,地理教育だけではなく,社会科教育全体の枠組を踏まえて考えていく必要がある. そもそも,社会科教育と防災教育はどのような関係にあるのだろうか.社会科教育の最終的な目標は「公民的な資質を養う」ことにある.藤井(2011)はハイデガーの指摘にもとづいて,公民的資質,さらにはシティズンシップの最も深淵に横たわるものこそ,自らの死を予め先駆的に覚悟しておくことであると述べた.したがって,防災教育は,シティズンシップ教育において最も本質的な認識をはぐくむ重要な契機となりうるもの,と言えよう.また,シティズンシップ育成の具体的な方法論としては,大久保(2010)が論じるような実践が求められる.すなわち,「①調査・分析②課題発見・抽出③解決策の立案という課題解決のプロセスを経る」ことが必要である.しかし,実際には,このような実践を現場で行っていくことは時間的にとても難しい.そのため,意義のある防災教育を行っていくためには,地理教育だけでなく,中学3年間の社会科教育全体のなかで,教員が長期的な視野をもって実践に取り組んでいくことが必要である.そこで,本研究は社会科教育の目標に資する防災教育のあり方を3年間の実践を通して検討した.地理,歴史,公民の各分野において,それぞれの単元の目標を踏まえながら,防災の視点で3分野を有機的に連携させていくことを目指した.なお,本研究はいわゆる一般的な公立中学校における実践であり,その意味でも実際に現場で実現が可能な取り組みのあり方を検討するのに適している. 2.実践の概要 (1)実践校周辺の環境と歴史  対象校は犀川の扇状地上に位置する.千曲川の旧河道,自然堤防が分布し,学区域は長野市の洪水ハザードマップが示す浸水想定域と重なる地域もある.歴史的には,寛保2年(1742)の「戌の満水」の被害を受けている.また,弘化4年(1847)には長野盆地西縁活断層系の活動によってマグニチュード7を超える善光寺地震が発生し,その際に形成された堰止湖とその崩壊で数メートルの洪水高を経験している.現在も糸魚川-静岡構造線活断層系の活動による被害に対して警戒を強めている. (2)地理的分野における実践 「身近な地域の調査」の単元において,水害地域へのフィールドワークを位置づけ,自然堤防や旧河道などの微地形による被害の差異や,地域住民の水害に対する知恵を学び,社会参画の態度を育むことをねらった.授業の様子は岩本(2011)により『階』(17)で紹介された. (3)歴史的分野における実践  政治史を学習しながら,善光寺地震や「戌の満水」の歴史を扱った.その際,過去の地形図を用い,かつての集落立地や地名に着目し,自然とともに生きてきた人々の姿を考えた. (4)公民的分野における実践  地方自治の単元において「自分たちで守ろう 命と生活-我がまちのまちづくりと防災-」という単元を設定した.宿題として「通学路危険箇所マップ」の作成を課し,生徒に野外での観察を義務付けた.その上で「防災マップ」をグループ活動により作成し,まちづくりに関する生徒同士の意見交換の場を設けながら,前述の課題解決の学習プロセスを経ることで,公民的資質を養うことをねらった. 3.考察 大久保のいう課題解決の学習プロセスは,中学3年生の公民において最も手応えを感じることができた.中学3年生は地域の地理的・歴史的な理解が深まっている.その理解があってはじめて,地方自治との関係の中で「③解決策の立案」という学習プロセスにまで到達することができた.また,「地域のために自分たちができることは何か」というような生徒の主体性により強く働きかける問いを考察する時間を確保することもできた.公民の学習は抽象的な学習が増えてしまうが,防災という具体的な事例を取り扱ったことで生徒の学習に対する関心と満足度も高かった.
  • 青井 新之介, 中澤 高志
    セッションID: 814
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    はじめに 一時、メディアでも取り上げられたパラサイト・シングル(世帯内単身者)は、その社会・経済的地位の低さに目が向けられるにようになり、一種の社会問題と認識されるまでになった。しかしそれは、主にジェンダーや家族社会学の関心分野に留まっている。世帯内単身者の分布を検討した研究もみられるが、家族形態を社会・経済的地位との関連によって経年的に分析する試みは今もって十分でない状況である。家族形態が社会階層によって決定されるようになるならば、それは都市空間にどのように現れてくるだろうか。本報告では、世帯内単身者に焦点をあてて、それを分析する。   研究方法 本報告で用いるのは1980~2010年の国勢調査報告である。対象は男性のみとするが、その理由は、男女で世帯内単身者の形成要因が異なるうえ、今もって家族の家計を男性が主に担うことが期待されるため、家族形態に必要なコストに見合った職業につく、という仮定が成り立つためである。報告者らは各年時について20歳から59歳までの5歳階級ごとに分析を行ったが、ライフコースの変容がもっとも大きくなると考えられる30~34歳を取り上げる。年齢を限定するため、研究に用いる統計は市区町村を単位とし、郊外開発に関する先行研究(川口2007)を参考に、都心(東京駅)から60㎞圏内に自治体庁舎が存在する自治体を対象とする。 世帯内単身者率とブルーカラー率は、いずれも都心から離れるにしたがって上昇する。より詳細に空間パターンを分析するため、都心からの方位角を利用した展開法(Krakover and Casetti 1988)を用いて、世帯内単身者率とブルーカラー率の方位角による傾きがセクターによって異なることを示す。さらに、その残差の空間的偏りを検討する。   結果と考察 市町村を単位としてみると、世帯内単身者率とブルーカラー率との相関は強まる傾向にある。2010年においては、その分布においても展開法を用いたモデルの説明力が向上している。東京圏全体としてはセクター性を伴いつつも、同心円構造を強めており、社会・経済的地位の低い層が世帯内単身者として郊外の特定セクターに残存する傾向が指摘できる。このことは東京圏内部で社会階層による移動傾向の差異を示唆している。   文献 Krakover, S. and Casetti, E. 1988. Directionally biased metropolitan growth: A model and a case study. Economic Geography 64: 17-28. 川口太郎2007.社会経済的人口属性からみた大都市圏空間構造の変遷.明治大学人文科学研究所紀要60: 63-76.
  • 香川 雄一, 岡島 早希
    セッションID: 317
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに 航空輸送は迅速性に優れた輸送手段であるが、航空機が発着する空港周辺地域においては、航空機による騒音問題が発生している。我が国では、大阪国際空港や米軍基地に関する騒音訴訟が周辺住民によって提起されてきた。こうした地域を対象とした研究は数多くみられる一方で、航空機騒音が発生しながら、これまであまり注目されてこなかった地域も存在している。 現在、航空機の低騒音化が進み、発生源対策は大きな改善がみられる。そのため、今後は住宅防音工事をはじめとした空港周辺対策の重要性が増していくと考えられる。そこで本研究では、名古屋飛行場周辺住民による航空機騒音に対する意識を明らかにし、今後の空港周辺対策における課題を明らかにしていく。本研究の意義は、空港周辺自治体の参考となることと航空機騒音問題の解決に寄与することである。
    2.研究方法 まず、予備調査により把握した全国の空港周辺自治体に対し、空港周辺対策の実態等に関するアンケート調査を実施した。次に、名古屋飛行場の周辺住民を対象としたアンケート調査を行った。調査票は、騒音対策区域に含まれる区域内の地域と、それ以外の区域外の地域に分けて配布した。この調査結果をもとに、クロス集計やGISを用いた分析を行った。その結果から、名古屋飛行場に関する空港周辺対策の改善策を提案する。
    3.結果及び考察 全国の空港周辺自治体を対象としたアンケート調査では、航空機騒音に係る環境基準の達成状況は改善傾向であることがわかった。しかし、航空自衛隊基地の周辺など、一部の地域では騒音に対する苦情も寄せられており、地域差がうかがえた。名古屋飛行場の周辺住民を対象に行ったアンケート調査結果をクロス集計したところ、区域内外とも、航空機騒音に対してうるさいと感じる住民が多く存在することを把握した。中部国際空港開設に伴う、2005年の県営化によって民間機の発着数が減少した後も、主に自衛隊機による騒音被害が発生していることがうかがえた。また、航空機騒音への問題意識に関してGISを用いて地図化したところ、飛行ルート直下の地域では区域内だけでなく区域外においても騒音への被害意識が高いことがわかった。住宅防音工事等の助成を受けるには、対象区域や築年数などの条件を満たさなければならないため、施工を断念する住民も存在する。さらに、施工後の修理に困っている住民もおり、継続的な対応の充実が望まれる。空港周辺対策に関する認知度は、全体的にかなり高い結果となったが、若い世代や居住年数が短い住民を中心にやや低い傾向をみせた。本調査の結果により、名古屋飛行場の空港周辺対策の改善策として、防音工事等の助成を受けられる条件の緩和と工事後も補助の充実が望まれる。県営化によって対象区域が縮小されたが、現在においても住宅防音工事をはじめとする空港周辺対策の必要は高いと推測される。また、空港周辺対策に関して周知を行い、住民の関心を高めることも必要である。空港周辺地域においては経済的な利点も存在するが、航空機騒音に悩む住民が存在することを忘れてはならない。今後も、地域住民と空港が共生していくための対策が必要である。
  • 山下 博樹, 北川 博史
    セッションID: 811
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに
     米国南部のサンベルトは、1960年代より米国の人口増加の中心として北部の退職者やメキシコからの移民等、多くの移住者を受け入れてきた。1990年代以後はネバダやアリゾナなど乾燥地が広がる州が全米の人口増加率上位にランキングされている。乾燥に加え夏季の酷暑の気候条件のもと、定住人口の持続的な増加が可能になった背景には、水資源の確保、空調機器の開発・普及、人口増加を支える経済的基盤の存在が必要であった。
     他方、こうした条件が整う以前の当該地域は、資源採掘などで人口の定住化が進んでも、その持続性は極めて脆弱であった。そこで本研究では、本来定住化が困難な自然環境下にありながら、近年人口増加が顕著なアリゾナ州を対象に、人口定住化が困難であった時期に発生した集落等の中心地の特徴とその持続性について分析すると共に、1990年代より急速な人口増加を続けるフェニックス都市圏の経済開発の特性とその背景についても考察した。

    2.小規模中心地の形成とゴースト化
      アリゾナ州にはゴーストタウンとなった集落が多く、消滅した集落の調査や資料収集は容易ではない。本研究ではアリゾナ州の約130のゴーストタウンの事例を紹介したShermanら(1969)を用い、それらの事例を丹念に分析した。なお、集落の成立期間を明確に示すことは困難であり、本研究では本文献に記載されている郵便局の開設及び閉鎖の年を採用している。主な分析結果は次の通りである。
    ①ゴースト化した集落の多くは鉱産資源開発に伴い19世紀後半から20世紀前半に形成された集落で、数年から数十年の寿命のものが多い。
    ②19世紀末頃までの初期にゴースト化した事例の多くは、資源枯渇等により鉱山が放棄された集落で、その寿命は短く、最盛期の人口規模も小さい。
    ③コロラド川流域に位置した集落は、河港としての機能を存立基盤に形成されたが、貨物船の動力化、大型化による港の変更により衰退あるいは移動した。
    ④集落は、a鉱山に隣接、b特定のあるいは複数の鉱山の周辺に位置し労働者の生活拠点として機能、c河港など物流拠点等の機能、などの機能をベースに鉄道駅やカウンティ役場などの機能を兼ね備える集落もあった。
    ⑤集落内の施設は、食料品等の店舗、飲食店、ホテル、郵便局、酒場など限定的で、一部には学校、教会、新聞社などをもつ町もあった。一部には中華料理店もあり、中国からの移民の存在が推察される。
    ⑥20世紀には資源採掘の大規模が進んだことにより、労働人口も増え比較的人口規模の大きな集落が現れた。
    ⑦資源枯渇化以外に、一部に治安の悪化や大火、他の集落での鉄道駅設置による中心性低下等で衰退した例もある。
    ⑧乾燥や夏季の高温などの気候条件がゴースト化の直接的な原因になった事例はみられなかった。しかし、当時はこうした気候条件が鉱業以外の産業の発達の阻害要因であったと考えられ、間接的な原因といえよう。

    3.水資源開発と大都市化の進展(省略)

    4.フェニックス都市圏の経済開発とその背景
     フェニックス都市圏は、ニューディール政策のダム開発で得た豊富な電力供給を背景に、軍事産業に関連した航空機産業や電気機械工業を発展させた。1990年代にはフェニックス南郊のチャンドラーを中心にシリコンデザートと称されるエレクトロニクス産業とICT産業の集積地が形成され、同都市圏に急速な人口増加をもたらした。現在でも、こうした産業部門の重要性に変化はなく、2007年におけるフェニックス都市圏の先端産業の従業者数は約27万8千人で、製造業従業者の47%を占める。またソフトウェア業などのITサービス業の従業者数は43万3千人で、2001~2007年間のその成長率も約75%増加した。こうした産業部門の成長が砂漠都市フェニックスの経済を支えている。
     エレクトロニクスとICT産業の成長を伴う経済開発を可能にしたのは、安価な労働力と砂漠に広がる広大な工業用地、西部の大消費地への近接性、豊富な電力供給で、精密機械製造に適した乾燥した気候も優位な条件となった。アリゾナ州にみられるように、乾燥地でも産業発展の可能性はあり、良質な労働力、産業政策やインフラ等の条件が整備されれば、乾燥地における新たな産業立地が模索されることが期待できよう。

    [ 参考資料 ]
    Sherman, J.E. and Sherman, B.H. 1969. Ghost Towns of Arizona, Norman: University of Oklahoma Press. 

      本研究は,鳥取大学乾燥地研究センターの平成24~25年度共同研究である「アメリカ合衆国南西部における都市開発の多様性と小規模中心地の盛衰に関する研究」(山下)と「乾燥地都市における経済開発とその特性-北米地域を事例として-」(北川)の成果の一部である。
  • 横内 颯太, 橋本 雄一
    セッションID: 305
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.研究の目的と方法  地理学分野において,日本のスキー観光の動向は呉羽(2009)などで明らかにされており,バブル経済崩壊以降におけるスキー客の減少や観光産業の衰退が述べられている。しかし,この時期に北海道ニセコ地域は,外国人観光客を取り込むことで活性化を図り,近年ではICTを活用して国際的観光地としてのブランド化を進めている。そこで本研究は,ニセコ町におけるスキーリゾート開発におけるICT活用の実態を明らかにし,その課題を検討する。そのために,まずニセコ町におけるICT導入の経緯,次にスキーリゾートに関する具体的なICT活用を明らかにし,最後に,当該地域のICT活用の課題について述べる。 2.ニセコ町国際ICTリゾートタウン化構想 近年のニセコ町では,年間140万人を超える観光客があるが,北海道経済産業局(2009年)「北海道経済産業局北海道の観光産業のグローバル化促進調査事業報告書」で指摘されたように,情報入手に関する満足度が低い。そこで,2012年から「ニセコ町国際ICTリゾートタウン化構想」として,情報入手を容易にし,地域を活性化のための共通基盤となるICT整備が進められた。なお,この事業の一環である「冬季Wi-Fi実証実験」は,ビッグデータをスキーリゾート開発に活用しようという稀な実験である。 3.冬季Wi-Fi実証実験 「冬季Wi-Fi実証実験」(2013年1月~3月)では,道の駅や観光案内所,またスキー場周辺の宿泊施設など,観光の拠点となる場所の公衆無線LANに加え,スキー場を中心としたWi-Fi が整備された。さらに,スキー場利用客のためのスマートフォン用アプリも試験的に導入され,これによってスキー場利用のルール,施設位置,走行ログ,雪崩情報などを確認できるようになった。なお,このアプリは情報をサーバに蓄積してビッグデータを作成するため,これを解析することで,国・地域別利用者の嗜好を考慮した高度なサービスを行えるようにする狙いがあった。 4.ニセコ町におけるICT活用の課題 ニセコ町における上記取り組みには,システム間情報連携に関する技術面での課題や,無料公衆無線LAN設置に関する制度面での課題が確認された。 今後,このICT活用の取り組みは,リゾート開発だけではなく,ニセコ町が2014年から進めている「ICT街づくり推進事業」において続けられる予定である。特に,ビックデータ活用については行政保有データと複合的に連携させて「ニセコスマートコミュニティ共通ICT基盤」を構築することで,除排雪や防災などでの活用が期待されている。これらの動きを含めて,観光関係だけでなく,まちづくり全体での自治体によるICT活用を明らかにすることが,本研究の課題である。
  • 山島 有喜
    セッションID: 816
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに
     地上緑地の拡大が難しい都市部において,ヒートアイランド現象緩和や省エネルギー化の解決策として屋上緑化が注目されるようになってきた.
    これまで,緑化工学,造園学の分野において,熱収支,樹種,土壌,基盤,景観についての検討が,都市計画学において,具体的な都市における屋上緑化の現状や,関連する法制度や施策に関する分析が行われてきた.一方で,都市の中で屋上緑化がどのような過程を経て進むのかについて検討した研究は見られない.本研究は,東京都港区を事例に,各種条例・制度の比較検討,「みどりの実態調査」など各種資料の閲覧,ヒアリング調査を通じ,港区の屋上緑化の現状について整理するとともに,都心部において屋上緑化の進展過程をモデル化することを目的としている.
    2.港区における屋上緑化の現況
     木構造建築物が建て替わる際に耐火構造建築物に更新されることから,開発行為によって屋上緑化が広がっていくことを明らかにするため,丁目別屋上緑化率および丁目別木構造建築物率に着目し,港区全体の平均値より高いか低いかによって4つのグループに分けて現況分析を行った.その結果,六本木や新橋周辺の再開発地域において屋上緑化率が高く,木構造建築物率が低い,住宅地の広がる高輪地区において屋上緑化率が低く,木構造建築物率が高い,など,各分類が地域的にまとまって存在していることが明らかとなった(図).
    3.屋上緑化を進展させる要因
    以上の分析から,屋上緑化を進展させる要因を3点導き出した.
    1)建築物の構造
     木構造建築物は耐火構造建築物と比べて,屋上緑化を施せる強度を持っていないために屋上緑化が困難である.また,耐火構造建築物であっても,マンションなどの住居系建築物は積載荷重制限が厳しいため,簡素な屋上緑化になりやすい.一方,大規模民間施設の積載荷重には余裕があるため,植栽が豊かで土壌厚も十分な屋上緑化が可能となっている.
    2)建設主の意向
     屋上緑化に積極的な建設主は,顧客誘致の一環,利用者のアメニティ向上,企業・ビルのイメージ向上などを目的として屋上庭園を整備する一方,消極的な建設主は,設置・維持管理コストの高さ,屋上緑化設備の設置に伴う容積減少を忌避し,省管理型の粗放型屋上緑地を整備する.
    3)屋上緑化関連法制度の役割
     2001年より,東京都の緑化計画書制度によって敷地面積1,000㎡以上の開発行為(公共用地では250㎡以上)において,屋上面積の最低20%の屋上緑化義務が発生したことによって,2011年までの10年余りの間に,1,000㎡以上の敷地面積を持つ390箇所の大規模民間施設において,現在の港区屋上緑化面積の41%にあたる5.37haの屋上緑化がなされた.
     2001年,東京都が容積率緩和制度のメニューに屋上緑化が追加したことで,屋上緑化を行う主体が増加した.
     2003年,港区では屋上等緑化助成金制度を開始し,2008年には助成限度額を500万円まで増額している.この増額によって既存建築物に対する屋上緑化は多少進展したが,総件数は10年余りで88件にとどまっており,効果は限定的である.
    4.まとめ
     非屋上緑化建築物の屋上緑化は上記の3点に依拠している.再開発による建て替え・新築の場合,積載荷重の余裕,義務化,容積率の緩和策によって屋上緑化は大きく進展するものの,木構造建築物を含めた既存建築物への屋上緑化は進展しない.庭園型屋上緑地となるのは建設主が緑化に積極的であり,積載荷重に余裕がある場合に限られ,質的な差異も広がってきている.
  • ひたちなか市の公共交通施策
    鈴木 隆之
    セッションID: S0802
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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     Ⅰ.はじめに
     地方都市の公共交通施策に最も影響を与えたのが,2002年2月の道路運送法改正による規制緩和である.既にモータリゼーションの進展で赤字化していた地方のバス路線に対し,多くの地方都市は赤字補てん等を行い,路線維持に努めたが,利用者の減少はさらに進み,減便や廃止が続いた.本市でも,不採算路線の整理統合や廃止が加速するものと考え,2002年度から関係各課により構成された「公共交通問題研究会」を立ち上げ,市民3,000人を対象にバス利用の意識調査を実施するなど,バス路線の現状把握や対応について研究した.その結果,公共交通を維持するためには路線バスのシステム充実が有効であると結論付けられた.
     本市内での唯一のバス事業者である茨城交通㈱も,2002年以降路線の廃止を進めたため,廃線,減便の対象となった地域からバス路線の維持を望む声が上がった.さらに,進展する高齢化で,交通弱者が増えると予想される状況となったため,民間では採算の取れない公共交通を維持・確保する手段として,コミュニティバスを導入することになった.

     Ⅱ.スマイルあおぞらバス
     2006年度に運行を開始したコミュニティバスは,公募により「スマイルあおぞらバス」と名付けられ,旧勝田地区,旧那珂湊地区のそれぞれ1路線で運行を開始した.路線を設定するにあたっては,自治会の協力によるアンケートの実施や,地域ごとに説明会を開催するなど,地域の意見を反映するよう努め,循環型路線,運賃は100円でスタートした.2007年には5路線,2008年には各路線双方向運行となった.また,2009年度から2011年度まで,国の「地域公共交通活性化・再生総合事業」(2013年度は,「地域公共交通確保・維持事業」)の補助を受け,乗合タクシーの実証運行等を行い,2012年12月,市北部にワゴン車による路線を追加するとともに,既存路線についても大幅な見直しを実施した.可住地が広い本市は,路線設定が難しいが,どのようにすれば効果的な路線になるか,試行錯誤を重ねながら,多くの市民にとって利用しやすいスマイルあおぞらバスを目指したいと考えている.

     Ⅲ.ひたちなか海浜鉄道
     旧茨城交通湊線も,乗客の減少により存続の危機に直面した.規制緩和により,鉄道事業も撤退が事前届出制に変更されたことから,茨城交通は2008年3月末の路線廃止を申し出た.本市では,「湊鉄道対策協議会」を設立し,県,市,地域が一体となって存続に向けた検討を重ね,2004年3月に第3セクター「ひたちなか海浜鉄道湊線」が誕生した.
     存続できた理由の一つに,地域の湊線に対する思い入れがある.存続の原動力となったのは,「おらが湊鐵道応援団」である.廃線の申し出直後から利用促進に取り組むとともに,存続に向けた署名活動も行われた.現在も,商店街と協同して,海浜鉄道利用者に対する特典サービスの実施や広報紙発行などの活動に取り組んでおり,海浜鉄道の重要なパートナーとなっている.
     もう一つの理由は,この鉄道が市内で完結していたことも大きな要因である.複数の市町村に跨がる場合,存続に対する市町村の意識の差で廃線となったものも多い.しかし本市では,市長が地域の思いを受け止め,存続させることを決断した.市長自らが先頭に立ち,事業者や銀行と交渉を重ね,市民の日常の重要な交通手段としての必要性を訴えたのである.
     海浜鉄道は,2008年度から2012年度まで「湊鉄道線再生計画」に基づき,鉄道施設の改修,利用促進に取り組んできた.2013年度からの「第二期湊線基本計画」では,安定的な利用者増を図るため,新駅の設置や鉄道延伸の調査を行うなど,廃線間近であったとは考えられない状況となっている.

     Ⅳ.ひたちなか市の公共交通施策
     本市では,2008年年3月に公共交通活性化協議会を立ち上げ,「市民の誰もが気軽に利用できる公共交通体系づくり」を目標とし,スマイルあおぞらバスを中心としたネットワークづくりやひたちなか海浜鉄道の安全確保を基本とした「ひたちなか市地域公共交通総合連携計画」を2009年3月に策定した.現在ひたちなか市の高齢化率は22.2%(2013年9月末現在)で,今後も上昇することが見込まれ,交通弱者や買い物弱者が増えると考えられる.他方,人口の増加は頭打ちであり,公共交通利用者の大幅な増加は見込めない.このような状況から不採算路線が今後も増えていくことが予想され,行政が公共交通を支える必要性がますます高まると考えられる.
    2013年8月に実施した市民意識調査によれば,市民の54%が公共交通への行政の支援を現状程度,もしくはより充実させるべきと回答している.これは,行政が公共交通を維持・確保していくことについて,市民の理解が得られていることを示しており,今後さらに積極的に公共交通の充実を図っていきたい.
  • 安田 正次, 大丸 裕武
    セッションID: 906
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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     はじめに
    これまで演者らは黒部川源流部、北ノ俣岳(2662m)周辺の植生変化について調査を行ってきた。その結果、北ノ俣岳の稜線東側の残雪凹地周辺において、ハイマツなどの木本主体の植生の分布が拡大していることが明らかとなった。一方、その植生変化の要因を明らかにするために、当該地域における気候要素の変化について検討を行ってきた。 本報告では、植生と気候の変化を比較し、植生変化の主要因を明らかにする。

     調査方法
    植生の変化を検出するために、新旧の空中写真を比較した。用いたのは1969年(モノクロ)、1977年(カラー)2005年(モノクロ)である。これらをステレオマッチングによってオルソ化してArcGISに配置し、ハイマツのパッチのポリゴンを作成してその面積の経時変化を確認した(図1)。 植生の変化が認められた地点については、2009年8月、及び2012年9月に植生調査を実施した. 気候変化については、関西電力の第四黒部ダムの気象観測記録を用いて、1.年積雪被覆日数 2.夏期・冬期の降水量 3.暖かさの指数(WI) 4.亜高山針葉樹林帯の上限に相当するWI15の高度(気温低減率0.6℃/100mで計算)の4項目を検討した。

     結果
     空中写真の解析から、残雪凹地の無植生の砂礫地において草本植生が拡大していた。1969年以前に草本植生が生育していたと考えられる部分ではハイマツのパッチ状群落の拡大が認められた。面積は1969年から2005年の36年間で平均5%程度増加していた。  次に、気象要素の変化を検討したところ、降水量と積雪量は、積雪日数と夏期降水量は横這いだが、冬期降水量が増加傾向にあった。気温は夏期・冬期共に上昇傾向にあった。気温の上昇を受けてWIとWI15の高度は共に上昇傾向にあった(図2)。

    考察
    植生変化の要因については、融雪時期は変化していない事から、積雪環境の変化とは別の要因であると考えられる。気象要素の検討から気温が上昇しており、WI15の高度が約50年で300m程度上昇している。おおまかにいって、1990年以降は北ノ俣岳頂上でも亜高山針葉樹林が成立する温度帯に含まれており、ハイマツが生育可能な環境になっているといえるだろう。 以上から、北ノ俣岳の雪田周辺の植生変化は、近年の気温の上昇による立地環境の変化によるものであると推測された。今後は、ハイマツのパッチ状植生の面積の変化を高度に換算し、亜高山針葉樹林の森林限界の高度変化がどの程度具体的に現れているかを明らかにする必要がある。

    本研究の一部は環境省地球環境研究総合推進費(S-8-1)の支援および、本研究はJSPS科研費 25750114の助成を受けて行われた。
  • 両備グループの取り組みを事例に
    豊田 賢
    セッションID: S0804
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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     Ⅰ.はじめに
     2002年に施行されたバス事業の規制緩和は,全国的にバス路線の縮小,整理の動きを相次がせることとなり,結果的に事業者の倒産や法的整理を招くこととなった.
     両備グループでは,以前からこの動向を予見し,公共交通を今後も維持,発展させていくという決意のもと,交通運輸事業の再生に取り組んできた.
     両備グループで携わった交通運輸事業再生の事例は現在までに15社を越え,再生の渦中で多くの課題に直面することとなった.本発表では,主に乗合バス事業を中心に,両備グループがこれまでに行ってきた公共交通再生の実例を通じ,現在の地方公共交通の課題とその対策を考察する.
     
     Ⅱ.中国バスの事例
     2006年12月の中国バスの事例では,補助金政策が大きな課題となった.前事業者の経営コストは,同業他社と比較しても異常に高く,これが経営を圧迫している一因であることは明確であった.従来の補助金は = 赤字補填で,利益を認めておらず,補助金で延命してきた企業にとっては,企業努力によるコストダウンは補助金の減額を意味し,企業の利益にならないという経営感覚を生じさせた.いくら赤字を出しても補助金で補填されるという考え方から,顧客不在の経営やストライキが恒常化し,劣悪な労使関係の中で乗客数は急激に減少し,経営悪化に拍車をかけた.
     
     Ⅲ.井笠バスの事例
     2012年11月の井笠鉄道の事例では,全国的にも稀な経営破綻によって路線バス事業が全廃されるという,極めて異常なものであった.両備グループでは,道路運送法第21条1項による緊急措置として,12月から中国バスが代替運行を担い,翌年4月から井笠バスカンパニーを設立して運行を引き継いだ(一部は中国バスが代替運行を継続). 
     この原因は,規制緩和以後,政策的に「儲からない路線はやめるべき」という誤った費用対効果概念が蔓延し,本当に必要な補助金が有機的に機能しなかったことが挙げられる.井笠バス路線の大半は収支率が50%程度と極めて悪く,今後も少子高齢化によって乗客の減少が見込まれること,赤字部分を支える収益を生む付帯事業が皆無なことから,新たな民間企業による再生は不可能と考えられた.

     Ⅳ.今後の地方公共交通の課題
     以上のように,規制緩和以後,バス事業を取り巻く環境は大きく変容し,誤った補助金政策によるモラルハザードと,誤った費用対効果概念の蔓延による弊害により,多くの事業者が経営の危機に立たされた.
     公共交通を民間に任せっきりにしている先進国は日本のみであり,今後は抜本的に補助金制度を見直し,現在の延命策から,永久に維持できるシステムへと政策転換させることが必要である.そして,事業者自身も,行政や地域と連携した取り組みを構築し,これまでの輸送に特化した公共交通から脱却することも必要である.先進的な取り組みと付加価値の高いサービスは,これまでの「単純な輸送手段」としての公共交通のイメージを払拭するきかっけとなり,公共交通再生の一助となると考えられるためである.
  • 松本 秀明, 小林 文恵, 伊藤 晶文, 遠藤 大希
    セッションID: P013
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.大浜谷底平野の地形
     宮戸島は宮城県松島湾の湾口を塞ぐように位置する列島の一部をなす島である。島の北~北西岸は湾内に面し,南~東岸は外洋に面する。本研究の対象地域である大浜谷底平野の主軸は西北西-東南東方向に延び,東南東端は太平洋に面する。海岸線に沿って約300 mの砂浜海岸が延び,海岸から谷底平野奥部までの距離は1200 mである。海岸の浜堤の幅は約100 m,高さは約2 mである。浜堤背後の谷底平野の地盤高は0.5 mであり,しだいに高度を上げ,最奥地点での海抜高度は7 mである。
    2.ボーリング調査と堆積物分析
     大浜谷底平野の主谷で4地点,支谷で3地点の計7地点で深度6~10 mのオールコアボーリングを行い,堆積物を採取した。採取したボーリングコアは実験室にて堆積物の層相観察と記載の後,砂質堆積物の粒度分析と泥質堆積物のイオウ分析を行った。その結果,主谷主軸に沿う4本のボーリングのうち海岸線から約500 m地点より内陸側に位置するNo.2,No.3地点および支谷に位置するNo.7,No.9のボーリング地点において海浜堆積物に類似する淘汰良好な砂の薄層をそれぞれ複数枚確認した。砂の薄層の層厚は2~3 cmであり,まれに9 cmにおよぶ厚い砂層が確認された。これらの海浜堆積物に類似する淘汰良好な砂の薄層は,いずれも陸成堆積物(腐植質粘土層)中に見いだされた。
    3.放射性炭素年代測定,とくに試料採取に際して留意した事項
     陸成の後背湿地堆積物中から検出された淘汰良好な砂の薄層の堆積時期を求めるため,当該堆積物の直上に堆積する腐植物を試料として取り出しAMS放射性年代測定を実施した。試料採取に際しては,砂層上面に繁茂し枯死した草本植物遺体の葉の部位を選択的に採取することに留意した。それは,同層準に残された植物遺体であっても,根や茎などの部位は砂層堆積直後の年代を示さない場合が多いためである。
    4.砂の薄層の堆積年代
     各砂の薄層の上面に堆積する腐植物の年代測定結果は以下の通りである。上位から,1600 yrBP前後に堆積した砂層が主谷に沿うボーリングコアNo.2およびNo.3に,2050 yrBP前後に堆積した砂層がNo.2,No.3,No.9のコアに,また,2400 yrBPの堆積年代を示す砂層がNo.3,No7,No.9のコアに,さらに,2650 yrBPの堆積年代を示す砂層がNo.2,No.3,No.7のコアに,そして3100 yrBP前後の年代値を示す砂層がNo.7とNo.9のコアにそれぞれ確認された。
     淘汰良好な砂の薄層を津波堆積物として認定する条件を検討した松本ほか(2013a,b)は同時期に連続的かつ広範囲に確認されることを津波堆積物認定の最低限必要な条件とした。この条件に従い,1地点でのみ検出された砂層については,現時点で津波堆積物の可能性を議論することは避けた。たとえば,支谷のNo.7のコアにおいて3800 yrBP前後の堆積年代を示す淘汰良好な砂の薄層が確認されているものの,それ以外の地点では同時期の砂層は確認されていないため,津波堆積物の可能性についての判断はできない。
    5.津波堆積物の可能性のが高い砂層
     以上の結果から,大浜谷底平野では3100 yrBP前後,2560 yrBP前後,2400 yrBP前後,2050 yrBP前後,そして1600 yrBP前後の5つの時期に堆積した津波堆積物(注)が存在することが新に確認された。これらの砂層の堆積を津波によるものと仮定した場合,歴史時代に来襲した貞観地震津波(西暦869年)と慶長津波(西暦1611年)そして2011年東北地方太平洋沖地震による津波を含めて過去3200年間に7回の大津波の来襲を受けたと考えられる。
     なお,いずれのボーリング地点においても2011年東北地方東方沖地震津波による堆積物が地表に確認されるが,貞観地震津波と慶長津波による堆積物は確認できなかった。それらは耕作や圃場整備等による人為的攪乱によって消滅した可能性が高い。
    注:ただし,1600 yrBPの砂層は主谷にのみ認められることや堆積高度から高潮堆積物である可能性もある。
  • 保谷 忠男
    p. 100164-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    Solheim et al.(2012)の結果を参考に、海面温度偏差(sea surface temperature anomaly-以下SSTA)と前太陽周期長(previous solar cycle length-以下PSCL)の関係を確認するために、各種海域でSSTAとPSCLの関係を調べた。SSTAとしてHadISST1を使用した。また、期間はHadISST1のデータ期間の関係から太陽周期番号12(1878.9~)~23(~2008.0)の期間である。太陽活動周期長とSSTAの関係を調べるために、SSTAとしては太陽活動周期における平均値を用いる。特に断らない限り、ここではSSTAでその平均値を示すことにする。調査結果では、SSTAとPSCLとの相関は絶対値が大きい順に並べると、(北大西洋+北太平洋)(-0.87)、北大西洋(-0.84)、北半球(-0.78)、大西洋(-0.74)、北太平洋(-0.67)、全海洋(-0.65)、太平洋(-0.65)、南半球(-0.54)となり、(北大西洋+北太平洋)が最も相関が高く、南半球で低くなっている。一方、大西洋数十年規模振動(AMO)は北大西洋のSSTAの変動に関連が深い。しかし、PSCLとの相関はそれ程高くはない(相関係数-0.61)。<BR>
    全海洋SSTA(以下GL)をPSCLと(太平洋+インド洋)SSTA(以下P&I)とで推定すること試みた。P&IとPSCLには相関(-0.54)があるために、次のような方法を採用する。GLとP&Iに面積構成比の重み(0.73)を掛けて得た値の差をPSCLで回帰する。その結果は推定値の残差の標準偏差が0.04℃、推定値とGLの重相関係数が0.98となった。<BR>
    P&IがGLの推移をほとんど決定している(相関係数値:0.97)。そのP&Iの推移は特徴的な形をしている。P&Iの推移の原因を明らかにすることは今後の課題である。残差が大きな時期は16、17、21周期であり、P&Iがいずれも大きく変化する時期である。<BR>
    PSCLの回帰係数値は-0.06となる。PSCLが1年増加すると、0.06℃減少することを意味する。その寄与分の範囲は-0.06~0.07℃となり、あまり大きくはない。PSCLの寄与が最大の時期はこの調査の最後の周期23(1996.3~2008.0)である。GLに対するPSCLの寄与により、この周期の残差が非常に小さくなっている。なお、P&IとPSCLには相関があり、PSCLの1年の変化で約0.1℃ほど変化する。GLに対する影響はこの数値に面積構成比を乗じて得られた値である。都合PSCLの1年の変化でGLが-0.13℃ほど変化することになる。これはGLをPSCLで直線回帰した時の係数値0.14℃/年にほぼ一致する。<BR>
    以上の解析が正しいとすると、PSCLの変化に起因して、周期23(1896.3~2008.0)でGLが約0.1℃ほど昇温したと推定できる。
  • 北海道上川町層雲峡地区を事例に
    佐竹 泰和, 荒井 良雄
    セッションID: 527
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.背景と目的
    近年,高速インターネット,いわゆるブロードバンドが全国的に整備され,人々の生活や企業活動に様々な影響を与えつつある.山間部や離島などの条件不利地域におけるブロードバンドの普及には,ラストマイル問題と呼ばれるインターネット利用者と通信事業者の局舎を結ぶ通信手段の欠如が大きな問題となった.
    日本では,地上デジタル放送難視聴への対策から,山間部などの条件不利地域においても大容量通信が可能な光ファイバの整備が進み,都市部と変わらないブロードバンド環境が整った.しかし,そうした対策の必要がない一部の地域では,固定無線アクセス(FWA)など無線技術を導入することもある.無線技術は,光ファイバに比べて一般に整備・維持コストが低い一方で,通信速度や安定性に欠ける面がある.このように,ブロードバンドを支える通信インフラには地域差があるが,この差が地域に与える影響は明らかでない.
    そこで本研究では,FWAによるブロードバンド整備が地域に与える影響を明らかにすることを目的とする.具体的には,FWAが整備された山間部において,業務のオンライン化が進む宿泊業を対象に,ブロードバンドの需要を明らかにすることで,FWA整備の成果と課題を検討する.
    2.対象地域
    北海道上川町の層雲峡地区を調査対象とした.層雲峡地区は,石狩川上流の渓谷沿いの温泉街であり,北海道第二の都市である旭川市から60kmほどの距離にある.この地区は,団体客の受け入れを中心とした観光で成り立っていたが,宿泊客数は年々減少しており,ピークの1991年には110万人を超えたものの,2012年には62万人まで落ち込んでいる.打開策として,近年は新たに観光客を呼び込もうと旭川市などと協力して訪日外国人の誘客に力を入れてきた.訪日外国人客は2000年代に入って徐々に増加し ,2012年の宿泊者62万人のうち,訪日外国人が11万人(約18%)を占め,国際的な観光地へと変化となった.
    3.結果の概要
    (1) ブロードバンド整備の経緯
    層雲峡地区におけるブロードバンド整備は,宿泊業者の営業を補助する目的で進められたが,整備の際には,ラストマイル問題が大きな課題となった.町中心部から層雲峡地区までは道路管理用光ファイバが利用可能であったため,幹線の確保は容易であった.しかし,層雲峡地区から各宿泊業者までの通信手段の確保・維持には多額の費用を要するため,整備・維持コストが比較的低廉なFWAが用いられた.この地区では,地区住民の契約が見込めず,維持コストの大部分を宿泊業者が負担しなければならないということもFWA整備の動機となった.この地区に整備されたFWAの理論速度は,約10~30Mbpsである.
    (2) ブロードバンドの需要と課題
    FWA整備を契機に大きく変わったのは,宿泊予約の処理など宿泊業者の業務ではなく,Wi-Fi整備という宿泊者向けサービスの提供を可能にしたことだと考えられる.Wi-Fiを整備した主な理由は,訪日外国人客によるインターネット接続の需要に対応するためであった.また,宿泊客に対するアンケート調査を行った結果,訪日外国人客だけでなく国内客のWi-Fi需要もみられた.しかし,Wi-Fiを利用可能な場所は,どの宿泊施設においてもロビー周辺に限られ,各部屋からアクセスできない.このようにサービス提供が限られる要因として, FWA回線の速度では彼らのWi-Fi需要を支えるのは困難であることが考えられる.
    層雲峡地区におけるブロードバンド整備は,各企業の業務に対する需要を満たしたものの,宿泊客によるインターネット需要には対応しきれていないことが明らかになった. 通信インフラを整備するにあたっては,整備・維持コストだけでなく,その地域の特徴に応じた需要も検討する必要があるだろう.

    付記 本発表は,平成23-25年度科学研究費補助金基盤研究(B)「デジタル時代の情報生成・流通・活用に関する地理学的研究」(研究代表者:和田崇,課題番号23320187)による成果の一部である.
  • 佐藤 裕哉, 佐藤 健一, 原 憲行, 原田 結花
    セッションID: P051
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    本研究の目的は,1)地理情報システム(GIS)を用いて入市被曝者の移動経路と移動距離を把握し,そして,その結果と2)広島大学原爆放射線医科学研究所(原医研)が管理する「原爆被爆者データベース」(ABS)の死因データとの照合を行うことにより,移動距離や場所(爆心地からの距離)と健康影響との関連性を見い出すことにある.本報告では主に1)について紹介し,得られた知見や作業上の問題点を示す.まずは,広島市などが1973年から1974年に行った調査結果より入市被曝者の移動経路をデータ化した.同時にGISを用いて被爆前後の広島市の空中写真から当時の道路網と通行不可地点のデータを作成した.移動経路をみると,郊外から爆心地方向を目指す傾向が明らかとなった.放射線リスクに関する情報がなかったことが一因と考えられる。また,調査票への回答精度が大きく異なり,正確な経路の把握は困難である.健康影響評価の解析には,その不確実性を考慮する必要がある.
  • 小室 譲
    セッションID: 304
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.序論
    2003年の観光立国宣言以降,政府の積極的なインバウンドツーリズム施策に伴い,訪日外国人客数は約521万(2003)から1,036万人(2013)へ増加している(日本政府観光局「JNTO」).しかしながら観光産業が抱える慢性的な課題として,出国日本人数に対する訪日外国人客数の大幅な赤字が指摘でき,更なる訪日外国人客数獲得のためには各観光地における外国人客への受入れ態勢強化が急務である.2000年代に入り,北海道のニセコに端を発した豪州客を中心としたスキーブームは,近年では白馬や野沢,さらに妙高や蔵王といった幾つかの本州のスキー場においてもみられる.本研究では,長野県白馬村の八方尾根スキー場周辺地域におけるインバウンドツーリズムの動向を分析し,ツーリズムの発展に伴う変容と発展の要因を明らかにする事を目的とする.併せてインバウンドツーリズムの発展に伴う新たな地域課題について検討したい.
    2.インバウンドツーリズムの動向
    村内最大規模を誇る八方尾根スキー場は, JR大糸線白馬駅から西へ2km程度進んだ北アルプス唐松岳の東斜面にあたる.本研究では,この八方尾根スキー場およびスキー場の麓に位置し,60年代からのスキー観光拡大期にスキー場の宿泊地としての性格を強めた和田野,八方,エコーランドの3地区を研究対象地域とする.2002年に0.3万人であった村内外国人客数は,2011年には5.6万にまで急増しており,また世界最大の旅行口コミサイトTrip adviserの「ベストディスティネーション(観光地)トップ10」において国内第6位の人気観光地に選出されるなどインバウンドツーリズムの発展が顕著である.
    3.インバウンドツーリズムの発展に伴う変容
    泊食分離と長期滞在を嗜好する外国人スキー客の増加に伴い,スキー場や宿泊施設,さらに飲食施設や娯楽施設では受入れ態勢の強化が進められている。特にキッチン完備の長期滞在施設や異文化体験型施設など従来みられなかった新たな形態の施設が拡充する一方で,外国人スキー客の受入れの有無により施設間,地区間において格差が増大している点が課題として明らかとなった.
    4.インバウンドツーリズムの発展要因
    ツーリズムの発展要因として,(1)外国人客の直接的な来訪動機となるスキー場の規模や雪質に加えて,民宿発祥の地に根付く「もてなしの文化」による宿泊施設の固定客確保や残存する民宿や温泉といった地域観光資源の存在,(2)70年代以降のペンションブーム期に移住した和田野地区の宿泊施設を母体とする民間主導の外客誘致団体による発地国へのプロモーション活動や素泊まり客に対応した外国人のための飲食店ガイドブック作成と二次交通の拡充,(3)ゲストのホスト化により在住外国人が自ら旅行代理店や空港バス,宿泊施設など外国人スキー客に対応したサービス(事業)を創出している点に大きく分けられる.
    5.結論  
    外国人スキー客の急増は受入れ側である観光地の施設や地域に変容をもたらした.同時にインバウンドツーリズムの発展は新たな地域的課題を与え,ゲストの増加に伴う治安悪化や騒音問題,また施設間・地区間格差の増大やゲストのホスト化に伴う不動産投資や景観問題など,外国人客(住民)と既存住民の共存・共生が求められている.
  • 田中 耕市, 岩間 信之, 佐々木 緑, 池田 真志, 浅川 達人, 駒木 伸比古
    セッションID: S0807
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1. 背景と目的 近年,日本の地方都市中心部では,フードデザート(食の砂漠)問題が深刻化している.同問題の要因は多岐にわたるが,その問題を抱える住民の多くは,自家用車を所有しない交通弱者である.本報告では,フードデザート問題の解決・緩和に向けて,交通の側面から資する方策について検討する. 2. フードデザート問題とは フードデザート(食の砂漠)とは,生活環境の悪化のなかで健康的な食生活の維持が困難となった,都市の一部地域を意味する.中心商店街が衰退した地方都市中心部や,高齢住宅団地などがその典型例である.そのような地域には,自動車を所有しない高齢者が多く居住しており,モータリゼーションの進展によって商業機能の郊外化が促進された結果,食料品販売店に容易に訪れることが難しくなった.また,セーフティネットとして機能するはずである地域コミュニティ機能が衰退したことも,問題の深刻化に影響している.住民から店舗への空間的なアクセシビリティの悪化といった空間的側面のみに注目する「買い物弱者」や「買い物難民」とは異なり,フードデザート問題は地域コミュニティのソーシャルキャピタルや社会的排除など,社会的側面まで考慮している. 3. 住民のモビリティと買い物行動 地方都市では自動車普及率が高く,住宅地や商業機能の郊外化が著しい.上述の通り,都市中心部に居住する高齢者の自家用車所有率は低く,自身で運転する高齢者の割合はM市中心部で約25%,T市中心部では約39%にすぎない(岩間編,2013).自家用車を所有しない高齢者の多くは,自転車や徒歩で買い物に出かける.都市中心部であれば,不便ながらもある程度の時間をかければ生鮮食料品販売店にたどり着けられるものの,郊外住宅団地や農山村では自家用車がなければ買い物は非常に困難となる(薬師寺ほか,2013). さらに,フードデザート問題には上述の空間的要因のみならず,社会的要因も深く関わっているケースも散見される.社会的なつながりが弱くなっている地域では,空間的アクセスが良くても,食料品の購入状況や健康状態が悪化していることがある.すなわち,空間的アクセスを改良するだけで,必ずしもフードデザート問題が解決できるわけではないことに留意されたい. 4. フードデザート問題に対して交通面からできること フードデザート問題は,種々の要因があるために,容易に解決できるものではなく,地域によっても効果的な対策は異なる.食料品の入手方法は,単純化すれば「①(住民から食料品への)アクセス改善型」と「②(食料品を住民のもとに運ぶ)配達型」の二つのパターンに集約される.①は住民の買い物行動を促進する手段であり,公共交通や買い物バスが分類される.②には買い物代行サービスやネット通販等の宅配が分類される.特に宅配に対しては,民間企業からもビジネスチャンスと捉える向きがあり,関係者からの期待も高い.ただし,買い物は単に食料品を入手するだけではなく,外出する機会や,人と接する機会を提供するものである(田中,2010).社会とのつながりを維持しつつ,健康な生活を支えるためにも,自ら動き,外出して,買い物ができるように,交通面からみた住民のモビリティの維持・促進が肝要である.   参考文献 岩間信之編著 2013.『改訂新版フードデザート問題―無縁社会が生む「食の砂漠」』農林統計協会. 田中耕市 2010.交通面からみたフードデザート問題--買物バスの試みに注目して (特集 食の砂漠:フードデザート).地理 55(8):33-42. 薬師寺哲郎・高橋克也・田中耕市 2013.住民意識からみた食料品アクセス問題 : 食料品の買い物における不便や苦労の要因.農業経済研究 85(2):45-60.
  • 津波被災地の復興過程の記録として
    磯田 弦, 関根 良平
    セッションID: 105
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    津波で甚大な被害のあった陸前高田市について、商工会および仮設店舗経営者に対して行ったインタビュー調査にもとづき、同市の商業の現状と、今後の課題について報告する。
  • 高橋 伸幸, 水野 一晴
    セッションID: 601
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに  低緯度高山帯でも氷河の後退・縮小は進んでおり、氷河から解放された地域には植生の侵入・拡大がみられる。また、氷河からの解放後、周氷河環境下に置かれることから、植生の侵入・拡大過程を考える上で、周氷河環境を考慮する必要がある。本研究では、南米ボリビアアンデスのレアル山脈に位置するチャルキニ峰西カール、南カール、ワイナポトシ南斜面などにおいて周氷河現象の観察、気温・地温測定を行い、低緯度高山帯における周氷河環境の一端を明らかにした。
    2.調査地  ボリビアの首都ラパスの北方約25kmに位置するチャルキニ峰(標高5392m)の西カールおよび南カールが主な調査地である。チャルキニ峰でも氷河の後退が認められるが、南斜面と北斜面には現在でも顕著な氷河が残されている。一方、西斜面では、カール壁基部にわずかに氷河が残されているのみである。また、西カール内と南カール内には完新世の氷河後退に伴って形成された複数のモレーンがみられる。チャルキニ峰周辺の地質は、主に花崗岩類と堆積岩類によって構成されているが、西カール内に分布する氷河性堆積物は、花崗岩類が主体である。
    3.気温・地温観測 表1にチャルキニ峰西カールと南カール内における2012年9月~2013年8月の気温観測結果に基づく値を示した。これによると、氷河の縮小が著しい西カールにおいて気温は高目であり、その結果、融解指数も大きくなっている。凍結融解日数は、両地点ともに300日を超えており、特に氷河末端近くに位置する南カール観測点では351日に及んだ。西カール内における地温観測結果によると、土壌凍結は4月~10月の期間ほぼ毎日生じているが、その凍結深は10cm程度である。これに伴い、同期間中、表層部での日周期的凍結融解が頻出しており、標高4800mの観測点では、その回数が161回(図1)、標高4822m観測点では244回に及んだ。
    4.周氷河環境   年平均気温および凍結指数、融解指数から見る限り、チャルキニ峰周辺は周氷河地域に属するが、永久凍土が存在する可能性は小さい。表層付近での凍結融解頻度は、4月~10月(秋季~春季)にかけて非常に高いが、この期間は乾季に相当し(図1)、表層部の含水量が低い。一方、湿潤な雨季には凍結融解頻度が極めて低い。さらに凍結深度が浅いことから、ジェリフラクションやソリフラクションなど、周氷河作用が効果的に働かない。このことは氷河後退後の植生侵入にとって有利であると考えられる。
  • 鈴木 文彦
    セッションID: S0805
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    ・市民,行政,事業者といった,公共交通を取り巻くステークホルダーの相互の関係は,とくに運輸部門の規制緩和を経て,大きく変化してきています.その,現在の関係性について,あるいは,ここ数年の変化などについて,整理して頂きます.
    ・地理学出身の鈴木先生のご経験などをふまえ,現場へのかかわり方や,隣接分野(土木や工学,経済など)との比較を通して,地理学としてできること,特色,優位性,問題点など,ご提言頂きます.
  • 参加型農村開発に向けた景観分析
    藤岡 悠一郎, 西川 芳昭, 飯嶋 盛雄
    セッションID: 403
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1. はじめに
    地域の自然環境にあった適切な農村開発を行う上で、自然環境条件に関する情報を当該地域の住民といかに共有し、開発プロジェクトにフィードバックするのかという方法が、参加型アプローチが主流になった現在でも主要な課題の一つとなっている。発表者はこれまで、南部アフリカの乾燥地に位置するナミビア共和国において実施されてきた稲作導入に関する研究プロジェクト(科学研究費補助金:代表者 飯嶋盛雄)やJICA/JSTによる地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)プロジェクトに関わり、農牧社会における稲作導入やイネ-ヒエ混作農法の開発に携わってきた。本研究では、地理学の分野で研究がすすめられてきた景観分析の手法を用いて季節湿地の環境解析を実施し、住民による季節湿地の認識との差異を検討した。そして、科学的な知見と住民の認識が参加型アプローチのなかでどのように融合される可能性があるのか検討することを目的とした。 

    2. 方法
    2012年12月~2013年3月、2013年11月~2014年3月にナミビア北中部に位置する3村において現地調査を実施した。敷地内に季節湿地を有する14農家を対象とし、季節湿地の土壌、植生、水位変動の調査を実施した。また、これらの農家の世帯構成員が湿地環境をどのように認識しているのかを明らかにするため、農家の家長もしくは成人世帯構成員に聞き取り調査を行った。これらの世帯の一部においては、イネ-ヒエ混作農法を試験的に導入し、農家と一緒に農法を実践する過程を通じて、季節湿地の自然環境を彼らがどのように認識しているのかを把握した。 

    3. 結果と考察
    (1)多様な季節湿地:ナミビア北部は年間平均降水量400mm程度の半乾燥地域に位置するが、北部のアンゴラ国で降った雨が洪水となって押し寄せるため、氾濫原のような環境が広がっている。先行研究では、本地域に網の目状に分布する季節河川(現地語でオシャナ)に注目が集められ、本地域の代表的な景観として水環境などが調査されてきた。しかし、本地域の氾濫原には季節河川以外の多様な湿地がみられた。この地域に降った雨がたまり、雨の多い年にはオシャナともつながる池沼(現地語でオンドンベ)が多数分布しており、オンドンベのなかにも植生や土壌環境の異なる複数の種類があることが明らかになった。

    (2)季節湿地に対する住民の認識:本地域では降水量の経年変動が大きく、湿地の水環境も年々大きく変化する。現地の人々は、多数分布するオンドンベに関して、水位の変動パターンの差異や植生の違いを認識していた。そうした湿地間の差異は、湿地の呼称の違いとして分類されているものもみられたが、名称の違いとしては現れない環境の違いが人々に認識されていた。

    (3)混作農法の導入と新たな在来知の創出:これまで、本地域では季節湿地の農業への利用は行われてこなかった。イネ-ヒエ混作農法を導入する際、ワークショップなどを通じて住民と意見交換を行ってきたが、新しい農法が人々に認識され、実践されていく過程において、在来の湿地環境に関する在来知が再認識され、新しく生みだされていた。

    付記 本研究は、地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)「半乾燥地の水環境保全を目指した洪水-干ばつ対応農法の提案」(代表 飯嶋盛雄)の一環として行なわれている。
  • 今泉 俊文, 岡田 真介, 楮原 京子, 八木 浩司, 越後 智雄, 松原 由和, 三輪 敦志, 阿部 恒平, 小坂 英輝
    セッションID: 630
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    はじめに 逆断層を主体とする東北地方の主要な活断層帯(北上低地西縁や横手盆地東縁など)では,1条の明瞭な活断層が地形・地質境界をなす区間もあれば,数条の副断層を伴って地形境界前面に幅広く分布する場所もある.演者らは,これまでこうした地域で断層の地表と地下の関係(構造発達史)を明らかにしてきた.  山形盆地西縁の活断層は,概ね西方の出羽山地との地形境界に沿って分布しているが,場所によっては地形境界から数km東へ離れた場所に明瞭な活断層・活褶曲が分布している.寒河江~大石田間の村山地区では,数条の活断層・活褶曲が短区間を並走・雁行し,盆地の中央には北北東−南南西方向に河島山をはじめとする標高150m程度の高まりが連なる.そのため,この間を流れる最上川はこれらの配置に対応して激しく穿入蛇行している.また,河島山東方には向斜構造があり,山形盆地西縁の活構造の最も東よりの活構造であるとされている(池田ほか,2002).  そこで,演者らはこれらの変形帯の地表と地下の構造を明らかにして,本断層帯の活動性の再評価を目指している.  調査の概要 本研究では,空中写真・地形解析図を用いた地形判読,地表踏査を実施し,地下構造把握のために,断層帯を横断する総延長約8kmの反射法地震探査(中型バイブロ震源)と重力探査を実施した(図1).さらに変位速度を見積るために,河島山東方の沖積地で約100mのオールコアボーリングを行った(分析中). 結果の概要 地形・地表地質,反射断面から,最上川以西の台地上を複雑に雁行・並走する活断層・活褶曲は,地形境界西方にある地質断層(境界断層と呼ぶ)から分岐した断層と考えられる.境界断層は,北北東—南南西走向の逆断層で,近傍の新第三系はキンク帯を構成している.また,台地上の断層は境界断層に近い西側の断層程,断層面が高角となるので,これらの断層は概ね地下数100m付近で境界断層に向かって収束すると推定される.  一方,河島山の東麓には向斜構造西翼にほぼ沿った断層変位地形(撓曲崖)が認められた.反射断面では撓曲崖の地下に西側隆起の逆断層が存在することが確かめられた.本断層は,境界断層から東へ約5km離れた位置にあるが,その深部(1km以深)で境界断層に連続すると見られる.今後,活構造の成長と地形発達について検討を行う.
  • 清水 龍来
    セッションID: 633
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    米山海岸地域は、近年のGPS観測によって明らかになった最大剪断歪み速度の大きい地帯(新潟−神戸構造帯)(Sagiya et al. 2000)に含まれ,日本海東縁変動帯の陸域への延長部と考えられている。そこでは、歪みが塑性的な変形として蓄積され、主要な活構造が分布している(大竹ほか 2002)。近年、本地域の南西部に位置する高田平野の東縁に高田平野東縁断層帯(渡辺ほか 2002)が報告され、また周辺海域において2007年7月16日新潟県中越沖地震(M6.8)の震源断層と考えられているF−B断層や,より南西のF−D断層(原子力・安全保安委員会 2009)も報告されており,詳細な変動様式の解明と定量的な評価に基づく本地域のネオテクトニクスの解明が必要である。本地域には数段の海成段丘が分布し、分布高度が南西に向かって増大する傾向が指摘されていた(渡辺ほか 1964)。しかし、米山海岸地域全域に渡る系統的な地形・地質調査に基づく編年・対比は行われておらず,また隆起を引き起こす活構造など詳細は不明であった。本研究では米山海岸地域全域の地形・地質調査を実施し段丘の編年・対比を試みた。その上でそれらが示す地殻変動の傾向と周辺の活構造との関連を考察した。
    本研究では米山海岸地域に分布する段丘地形を、HH、H1、H2、M1、M2、Lの5面に区分した。岸ほか(1996)はM1面構成層と風成砂層との境界付近にNG(中子軽石層=飯綱上樽cテフラ:15–13万年前噴出(鈴木 2001))を見いだし、M1面を下末吉面相当とした。本研究では、M1面構成層とされる安田層及び大湊砂層を、より南西方まで追跡し、M1面の分布を明らかにした。また小池・町田(2001)などによってMIS5eに対比されていた上輪新田付近の段丘について,東京電力株式会社(2008)は、構成層にクサリ礫を含むことに加え、風成層上端から90cm以内にAT,DKP,Aso-4を確認しその下位に数mの風成ローム層を挟んで、温暖期を特徴付けると考えられる古赤色土(松井・加藤 1962)が存在することから,本面の形成を下末吉期より大きく遡ると考えた。本研究でも東京電力株式会社(2008)の見解を支持する結果が得られ本面をH1面に対比した。
    研究地域全域に広く分布するM1面の分布高度から地殻変動の傾向を明らかにした。M1面の旧汀線及び分布高度は、柏崎平野付近において約20mで南西に向かって高度を増大し、青海川付近で約50m、笠島付近で45mと概して北東へ傾動する傾向を示すことがわかった。
    周辺に分布する活断層の活動が,段丘の形成や高度分布に影響すると仮定し、Okada(1992)のディスロケーションモデルに基づき活断層の地殻変動量をモデルを用いて計算した。またF−B断層に関しては、国土地理院が公開している新潟県中越沖地震時の地殻変動データを参考にした。その結果、米山海岸地域の北東への傾動は、上越沖に分布するF−D断層の活動による南西側の大きな隆起による効果と,F−B断層の活動による北東側の沈降が大きく寄与すると考えられる。一方、ひずみ集中帯の重点調査研究による地殻構造調査では、高田平野東縁断層最北部では上端の深さは約3kmの東傾斜の断層が地下に認められている。この断層がより北東方向へ伸びるとすれば、米山海岸地域の傾動に寄与する可能性がある。  

    参考文献
    Okada 1992.BSSA 82:1018-1040.大竹ほか編 2002『日本海東縁の活断層と地震テクトニクス』.岸ほか 1996.第四紀研究135:1-16.原子力・安全保安委員会 2009.東電柏崎刈羽原発敷地周辺の地質・地質構造に関わる報告書. 小池・町田編 2001.『海成段丘アトラス』.地震調査研究推進本部2009a.高田平野東縁断層帯の長期評価について:1-31.鈴木 2001.第四紀研究40:29-41.東京電力株式会社 2008.東京電力株式会社柏崎刈羽原子力発電所 敷地周辺の地質・地質構造に関わる補足説明:1-14.ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクト『平成23年度成果報告書』.松井・加藤 1962第四紀研究 2:161-179. 渡辺ほか 1964.地質学雑誌70:409.渡辺ほか 2002.国土地理院技術資料 D・1-No. 396. Zeuner 1959.The Pleistocene Period :447 Hutchins
  • 大井 信三, 西連地 信男
    セッションID: 621
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1.はじめに
    那須火山の山麓に発達する岩屑なだれ堆積物には,様々な時代のものが分布しているが,特に古い時代のものはその年代や規模などが良くわかっていない.そこでテフラ層序から年代を,航空レーザDEMデータからはそれぞれの流れ山の規模や分布を議論する.
    2.那須火山岩屑なだれ堆積物のテフラ層序
    高久丘陵で見いだされる4つの岩屑なだれ堆積物のうち,今回新たに年代が定まったのは次の2つである.
    御冨士山岩屑なだれ堆積物のテフラ層序
    御冨士山岩屑なだれ堆積物(Of-DA)の層位は,赤城行川テフラ(Ag-Nm)の上位,那須大島第4テフラ(Ns-Os4)とATの間とされている(鈴木,1992).今回の調査でAg-Nmの上位にある赤城鹿沼テフラ(Ag-KP)の直上にOf-DAが位置することが判明した.Ag-KPは鹿島沖海底コアのMIS層序から44.2Kaの年代が出されている(青木ほか,2008)ことから,Of-DAの年代は4万年前と考えられる.
    余笹川岩屑なだれ堆積物のテフラ層序
    余笹川岩屑なだれ堆積物(Ys-DA)は,従来上位の黒磯岩屑なだれ堆積物(Kr-DA)と層位が近く約25万年前頃と考えられていた(山元,2006).しかし高久丘陵において,Kr-DAとYs-DAの間にはAPmを挟在する厚いローム層が存在し,Ys-DAを佐久山軽石(SkP;岩崎ほか,1984)が覆うことが明らかとなった.
    SkPは福島県矢吹丘陵において,塩原大田原テフラ(So-Ot;鈴木ほか,2004)・塩原下郷テフラ(So-SG;弦巻ほか,2009)の直上にあり,喜連川丘陵においてもSkPの下位にSo-Ot・So-SGと同時期の金和崎火砕流堆積物(KN-pfl;弦巻ほか,2009)起源と思われる灰神楽がローム層中に認められた.
    このことからYs-DAの年代はKN-pflの年代と近く,Ys-DAにはKN-pflの軽石が混入している(菊地・長谷川,2013)ことから,KN-pflの噴火後にYs-DAのイベントが起こったと考えられる.年代は下位にある貝塩上宝テフラ(KMT;鈴木,2000)のMIS年代(0.62Ma;中里,2006)と上位のAPmテフラ群の年代(0.3-0.4Ma)から外挿すると約50万年頃の年代が想定される.
    Ys-DAは茨城県側の粟河軽石層(AWP;坂本・宇野沢,1976)に対比されることが明らかとなった(菊地・長谷川,2013).茨城県側の那珂川流域において,AWPは標高100-120mの定高性のある丘陵背面を形成しており,一方同じ那珂川流域において風成ローム層下部に真岡軽石(MoP)を挟在する春園Ⅰ面とされる23万年前の河岸段丘(小池・町田,2001)は標高60-70mの段丘面をなす.このような茨城県側での段丘と丘陵の標高分布は,Ys-DAの想定される年代と整合的である.
    3.航空レーザDEMによる流れ山の分布特性
    高久丘陵には4つの時代の異なる岩屑なだれ堆積物が分布し,そのうち3つの岩屑なだれ堆積物には流れ山が見られる.従来はこれらの流れ山を一括して議論するか,相対的に新しい山体崩壊であるOf-DAのみを対象としている場合が多い.崩壊源が失われているKs-DAやYs-DAの山体崩壊の規模を議論するのに流れ山のサイズ分布は有効である(吉田,2010).近年高精度の航空レーザDEMデータが整備されたので,流れ山の地形解析により時代の異なるそれぞれの流れ山の分布や山体崩壊の規模について議論が出来るようになった.
    Of-DAの流れ山
    那須町りんどう湖周辺に分布する.流れ山の直径は平均50-150mほどで,後述するKs-DA・Ys-DAの流れ山より小さく,流れ山の分布域も南部の山麓まで達していない.
    Ks-DAの流れ山
    高久丘陵南西部の那珂川寄りに分布する.流れ山の直径は平均200-300mでYs-DAと変わりは無いが,Ys-DAより平滑な流れ山の断面形を示す.
    Ys-DAの流れ山
    高久丘陵の余笹川の東部に広く分布する.岩屑なだれ堆積物としては,Ys-DAにKr-DAが薄く重なっている場合が多いが,流れ山はYs-DAが形成したと考えられる.流れ山の直径は平均200-300mで,Ks-DAより解析が進んでいる.Ys-DAはその分布域の広さや,茨城県の海岸部まで到達していることなどから,那須火山の山体崩壊としては最大規模のものと考えられる.
  • 大井 信三, 七山 太, 中島 礼, 中里 裕臣
    セッションID: P001
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    平成22~25年度に産総研によって5万分の1地質図幅「茂原」の調査が実施された.このポスター発表においては,特に図幅内の地形記載に焦点をあてる.茂原図幅は千葉県房総半島中東部に位置し,北緯35˚20’ 11.8“~35˚30’11.8”,東経140˚14’48.2”~140˚29’48.1”(世界測地系)の範囲に相当する.本地域の全域が千葉県に属し,茂原市,千葉市,市原市,大網白里市,長生郡長南町,同長柄町,一宮町,長生村の各自治体が所轄している.
    図幅内の地形は大きく丘陵,台地及び低地に区分される.本図幅の西域を占める上総丘陵は,房総丘陵の北東部にあたる.台地は,図幅の北西端部に下総台地が小規模に分布している.両者の間は太平洋に注ぐ一宮川水系と東京湾に注ぐ村田川水系の分水界となっている.この分水界は急崖をなし牛久—東金崖線と呼ばれ,市原市牛久近辺から東金市までほぼ北東—南西の走向を持って連続している.また,図幅の南東部の綱田~市野々付近には夷隅川水系が小規模に認められる.
    図幅内に分布する段丘は上位から下総上位面,市原面,吉附(きつけ)面,南総面,完新世段丘に区分される.下総上位面は下総台地において最も上位の海成面であり,MIS5eの海成段丘面と理解される.市原面は河成面で主に養老川や小櫃川の両岸に広がる台地上に平坦面を形成し(鹿島,1982)複数面に細分されるが,ここでは村田川水系に市原Ⅱ面が小規模に分布する.吉附面は図幅南東端の夷隅川下流域にのみに分布するMIS3の海成段丘面とされる(桑原ほか,1999).南総面(鹿島,1982)や完新世段丘は一宮川流域などの台地や丘陵を刻む谷沿いに発達する.
    図幅内の低地は,一宮川,埴生(はぶ)川によって作られた低地と九十九里平野の南部である茂原低地に区分される.九十九里平野は,約5000~6000年前の後氷期海進からの海面の段階的な低下によって形成されてきた海岸平野であり,7~10km程度の広がりを持つ.東浪見~一宮間の上総台地と九十九里平野の間には比高30~50mの明瞭な海蝕崖が連続して存在し,九十九里崖線の南端部とされている.九十九里平野の浜堤は,第Ⅰ~第Ⅲ浜堤群に分けられる(森脇,1979).本図幅内の浜堤は,幅広い堤間低地に限られて第Ⅰ~第Ⅲ浜堤群が分布している.
    上総丘陵を構成する地質は第四紀後期~中期更新統の上総層群(三梨,1954)であり,深海~浅海成の泥岩砂岩互層,砂質泥岩,泥質砂層等の半固結堆積物からなる.本層群の地層は北東~南西方向の走向を持ち,東側で古く西方に行くに従って地層が新しくなっている.丘陵の高度は全般的に西側ほど高く,東方に向かって低くなっている.また丘陵の枝尾根の斜面は,北西へ傾く緩やかな斜面と南東へ傾く急な斜面の組み合わせが多く,ケスタ様の地形を呈している.また,前述の地質構造の影響を受け丘陵を開析する谷は,北東~南西方向のものが多くみられる.また,谷の幅は広く,谷型の斜面が尾根部まで食い込んでいるため尾根が痩せている.
    下総台地の面積を占めているのが上位段丘であり,下総層群木下層を段丘構成層として,その上位にHk-KlP群の軽石層より上位のテフラ群を挟む下末吉ローム層をのせる.また,木下層の砂層とローム層の間に常総粘土と呼ばれる粘土層が堆積している場合もある.この台地面は,本図幅内では60m前後~130m前後までの高度で分布し,台地の南端部で高く約130mを示し北に行くに従って高度を下げている.台地の勾配は,おおむね南南東から北西に傾き11/1000となっており,千葉県内に広がる下総台地の中で最も急傾斜を示す地域である.また下総台地は,東京湾に注ぐ村田川とその支流によって開析されており,平坦な面が小規模である.谷の殆どは南東側の牛久-東金崖線の段丘崖付近までをその流域として,谷底平野が谷の奥まで入り込み,谷頭が急崖となっているものが多い.また,丘陵と台地が接近する地域では,丘陵からの谷の浸食によって台地側の谷の谷頭付近の争奪が頻繁に行われている.
    【引用文献】 鹿島 薫 1982,地理学評論 55: 113-128.桑原拓一郎ほか 1999,第四紀研究 38: 313 -326.三梨 昂 1954,地質学雑誌 60: 461-472.森脇 広 1979,第四紀研究 18: 1-16.
  • 遠藤 匡俊
    セッションID: P062
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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     1856-1869年の三石場所におけるアイヌ集落では、家の集落間移動によって集落の構成は大きく変化していた。このような集団の空間的流動性は、ブッシュマン、ムブテイなどの狩猟採集社会においても見られる現象である。本研究では、家の集落間移動によって残される住居跡の数が、集落の戸数や集落の存続期間とどのような関係にあるのかを分析した。
    (1)集落の平均戸数と住居跡数には、強い正の相関が認められた。r=0.968(5%水準で有意)。
    (2)集落の存続期間と平均戸数には、かなりの相関が認められた。r=0.685(5%水準で有意)。
    (3)集落の存続期間と住居跡数には、かなりの相関が認められた。r=0.677(5%水準で有意)。
    (4)このような19世紀中期のアイヌ集落の分析結果は、例えば縄文時代の竪穴住居跡が発掘された場     合に、当時の集落を復元するうえで参考になる可能性がある。
  • 熊原 康博, 橋爪 誠
    セッションID: 634
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    はじめに  群馬県北東部片品川流域では,活断層研究会編(1991)により,長さ約7km,北北東-南南西走向の東傾斜の逆断層が認定され,断層と片品川の位置関係から片品川左岸断層と呼ばれた.さらに,黒ボク土を変位させる明瞭な逆断層露頭の写真も載せている.中田・今泉編(2002)では,活断層研究会編(1991)の断層トレースの位置の周辺において,より詳細な位置を提示し,二本の断層トレースが平行にのびていることを示した.両報告とも写真判読に基づくものであることや,これら以外に調査がなされていないことから,本断層の変位地形の特徴やスリップレートなどの検討は,これまで行われていない.
    本発表では,断層周辺の写真判読を改めて行い,活断層のトレースの全容を明らかにし,あわせて変位基準の認定を行った.さらに,断層沿いの地表踏査を行い,断面測量および断層露頭の記載などを行った.なお,竹本(1998)は,この流域の段丘形成史の詳細な検討を行い,テフラ層序から段丘面の年代を推定した.本研究では,段丘面の年代について,竹本(1998)に依拠し,本断層のスリップレートについても議論を行う.
     結果 写真判読の結果,断層の長さは,少なくとも25kmに及び,北端は片品村東小川,南端は沼田市(旧白沢村)高平である.全体としては,北北東-南南西走向であるが,南端付近では東西走向に変化する.断層の変位様式は,多く地点で撓曲崖が認められることから,南南東上がりの逆断層と考えられる.ただし,北部では,河谷の屈曲から右横ずれ変位も伴うと考えられる.
    断層の南部にあたる老神周辺では,片品川右岸の段丘面群を累積的に変形させており,活断層が存在する地形学的な証拠である.ここでは,少なくとも4段の段丘面上に南~南東上がりの撓曲崖が認められ,いずれも下流側が隆起している.これらの段丘面を変位基準とすると,上位から25~29m, 15.8~18.2m, 8.6~14.0m, 2.1m以上の垂直変位量が認められる(最近,この地域で数値標高モデル(5mメッシュ)が公開されたため,正確な値は,発表時に報告する).老神から南西部では,断層鞍部が連続し,椎坂峠に至る.峠をこえた高平地区では,高位段丘面が全体的に北に向かって傾動する.「片品川左岸断層」は,右岸にも連続していることが明らかになったことから,本断層を「片品川断層」と呼ぶほうが適切である.
    本断層の中部では,片品川左岸沿いの高位段丘面や,段丘面上に形成される新期扇状地面に撓曲崖が連続的に認められる.築地地区では,扇状地面の撓曲崖下で,直立する古期湖沼堆積物の露頭を発見した.露頭では,本堆積物中にマイナーな逆断層性断層も観察でき,断層上盤側の圧縮変形を示しているものと推定される.
    断層北部は,直線的なトレースで,いくつかの河谷がトレース上で右屈曲していることから,右横ずれ変位が卓越していると推定される.東小川では,写真判読で推定した断層トレース上で基盤岩中に,破砕帯と断層粘土を伴う高角な断層(N64°E, 84°E)が認められた.
     議論 本断層の垂直変位量と竹本(1998)による段丘面の年代から,本断層の長期にわたる垂直スリップレートは0.27-0.4mm/yr.である.しかし,計測した変位地形はいずれも撓曲崖であることから緩い傾斜と推定されるので,ネットの変位量はさらに大きくなり,それに伴いスリップレートも大きな値になると予想される.
    また,断層長は25kmに及ぶことから,松田(1975)による地震断層の長さとマグニチュードの経験式から,25kmの断層線が一度に断層破壊が生じるとみなすと,M=7.2程度の地震が想定される.ただし,断層の北延長はさらにのびる可能性がある.
    文献 活断層研究会編(1991)『新編 日本の活断層』;竹本(1998)地理評,71, 783-804;中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』;松田(1975)地震2, 28, 269-284.
  • 宮崎 真, 鄭 峻介, ブラギン イワン, 鈴木 力英, 鷹野 真也, 新宮原 諒, 両角 友喜, 杉本 敦子, マキシモフ トロフィム
    セッションID: 204
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1. はじめに
    北極域は近年の地球温暖化による全球平均気温の上昇の約2倍の温度上昇が起きている。タイガ域(e.g., Ohta et al., 2008,AFM; Miyazaki et al., 2014, Polar Sci.)やツンドラ域 (e.g., van der Molen et al., 2007, Biogeoscience:以下、VDM07; Parmentier et al., 2011, JGR)では研究例が多数あるが、タイガ・ツンドラ境界域では熱・炭素収支観測研究は行われていない。2013年6月から北極域シベリア北東部のロシア連邦サハ共和国チョクルダ近郊のエコトーン(生態系遷移域)のタイガ・ツンドラ境界域にあるコダックサイト(北緯70.564°、東経148.267°、標高7m)において熱・炭素収支観測を開始した。エコトーンは地球温暖化に伴う環境変化のシグナルが出やすい領域の一つである。同地域における熱・炭素収支の季節変化と気象条件の解析から、同地域の地表面-大気相互作用の素過程を明らかにすることを本研究の目的とする。
    2. 観測サイトと手法
    2.1 観測サイト コダックサイトは、シベリア北東部の北極海に流れるインディギルガ川流域(流域面積:324,244㎢)の支流域に位置しており、カラマツのあるマウンド状の少し高い地形とミズゴケがある少し低い湿地が混在している。年平均気温は-13.4℃、平均年降水量は200mm(1979年~2008年, BMDS Ver5.0; Yabuki et al., 2011)である。熱・水・二酸化炭素フラックス観測システムは,カラマツが優占している場所の北約200m北の高さ10数cmの灌木があるマウンドの上で、インディギルガ川の支流の東の約200mのところに設置した。地表面は20cm程度の厚さの有機層に覆われ,永久凍土があり、活動層の厚さは25-40cmである(VDM07)。
    2.2 観測手法 熱・水・二酸化炭素フラックス観測システムは,超音波風速温度計(Campbell Sci. Inc. CSAT3)と赤外線水蒸気二酸化炭素分析計(Campbell Sci. Inc. EC150)により高さ2.55mにおいて10Hzで計測を行い,渦相関法により30分平均のフラックスを算出した。放射収支の測定には4成分(長波・短波の上下)放射計(HukseFlux. NR01;高さ1.37m)を用い,地中熱流量は熱流板(Hukseflux; HFP01)と地温(Campbell Sci. Inc.; 107),土壌水分(Cambell Sci. Inc.; CS616,Sentek;EnviroSMART)の鉛直分布から算出した。その他に一般気象要素として気温,相対湿度,風向風速,気圧,降水量(Vaisala WXT520;高さ1.6m)を測定し(10分平均値を記録),地温と土壌水分についてはマウンドと湿地の両方において測定した。
    3.結果 2013年6月23日から10月27日までの観測結果を示す。日平均気温は-17.9~21.9℃で、期間中の総降水量は81.6mmであった。夏季には日平均気温と日平均風向の間には明瞭な関係があり、北風成分の時には気温が低く、南風成分の時には気温が高くなっていた。最表層の地温は-2.2~11.1℃の間で変動していたが、深さ0.625mの地温は0℃以下を維持しており、期間中を通じて凍結していたと考えられる。深さ0.225mと0.425mにおける地温はそれぞれ7/18と8/18に0度以上になり土壌は融解した。この地域の活動層厚は0.25-0.45mでVDM07と同程度であった。湿地の深さ0.145mの土壌水分は10月初めまで50%以上であったが、その後は急激に下降したのは、凍結によるものと考えられる。マウンド上の深さ0.335mの7月下旬から急激に上昇し、8月上旬には50%に達したのは、活動層底の氷の融解によるものと考えられる。期間中の日平均潜熱フラックス(20.8W∙m-2)は日平均顕熱フラックス(16.4W∙m-2)より少し大きかった。日平均正味生態系炭素交換量(NEE)は、8/25までは数日を除いて負の値で、地表面が大気の二酸化炭素を吸収していたが、その後は数日を除いて正の値で地表面から大気に二酸化炭素が放出されていた。期間中の積算NEEは-64g∙C∙m-2∙day-1で、この値はツンドラで観測された値(-92g∙C∙m-2∙day-1;VDM 07)より吸収量が少なめだが、本研究では6月中旬までの観測値が含まれていないので来年以降の観測結果を用いた検討が必要である。
    謝辞:本研究はGRENE北極気候変動事業により実施された。
  • 川上 征雄
    セッションID: S0106
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    国土計画などの国土政策分野においては、地理空間情報の活用は必須である。2050年の国土の姿を定量的・可視的に描き出した長期展望作業や東日本大震災の教訓を政策に反映する取組の際に用いた地域分析の事例などを紹介する。
  • 岩鼻 通明
    セッションID: 102
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
      本発表は、山形市で開催された震災特集上映に参加した観客に対するアンケートを通して、観客が震災特集上映に、どのようなイメージを有しており、災害を描いた映像を、どのように認識しているかを考察することを目的とする。
      観客アンケートは、2013年3月に開催された上映会と2013年10月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭の特集上映において行い、ともに会場内の観客へ封筒に入ったアンケート用紙を手渡し、鑑賞後に返信用封筒を郵送で回収する方法で実施した。前者ではアンケート配布数222、回収数60で回収率は27%となり、後者ではアンケート配布数188、回収数42で回収率は22%となった。
     被災地の映画館で実施した観客アンケートと、映画館ないし映画祭の役割について比較すると、癒しと安らぎの場としての必要性を肯定する回答が今回はかなり減少し、一方で多様な文化を知る場としての必要性を肯定する回答が増加したことが注目されよう。
     以上のように、東北地方で開催されてきた映画祭において、東日本震災を語り継ぐ映像を上映することの重要性が観客アンケートを通して明らかにされた。
  • 制約と商機
    マコサ ダン, 高柳 長直
    セッションID: 418
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    ウガンダにおいて,ほとんどの米は収入増加を目的として小規模な農家によって生産されている。本報告では,東ウガンダのナムトゥンバ地区における現地調査をもとに,流通市場のアクターの役割を明らかにするとともに,バリュー・チェーン・アプローチによって,流通市場向上のための制約と商機について分析した。
  • ラムダニ ファトゥワ
    セッションID: 706
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    Tropical rainforests was the primary land source for oil palm plantations development in Riau Province (Ramdani and Hino 2013). Our hypothesis is that the expansion of the area devoted to oil palm plantations at the expense of primary and secondary tropical rainforests will increase the local surface temperature. In this study, we used remotely-sensed data to quantify land use changes from tropical rainforests to oil palm plantations (Figure 1), calculated the surface temperature from thermal infrared data supplied by band 6 of the Landsat 5 Thematic Mapper (TM) and Landsat 7 Enhanced Thematic Mapper Plus (ETM+), examined the correlations of surface temperature to foliage cover, and conducted field work to verify the results obtained using the remotely-sensed data.
    For this study, we used a new spectral index, principal polar spectral greenness (PPSG) that is potentially more sensitive than other indices to small changes in foliage cover at high cover levels. The outcome of satellite image processing is only 0.2 °C different from direct temperature measurement in the field. Our study indicated that less density of the closed-canopy composition of oil palm trees resulted in higher surface temperature.
  • Ye 京禄
    セッションID: S0102
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    「私人による公物管理」の取り組みの一環として「エリアマネジメント」という概念が浸透しつつある。国内のまちづくり活動の成功事例が蓄積されることで認識が進み、「地域における良好な環境や地域の価値を維持・向上させるための、住民・事業主・地権者等による主体的な取り組み」と定義され、一定のエリアを対象にさまざまな活動が展開される仕組みとされている。ただ、この概念は、地域と言っても既成市街地や新規開発地の住宅地、業務・商業地での取り組みが主体であり国土の大部分を占める農山魚村や自然地の管理概念には及んでいない。少子高齢化、経済成長の鈍化などで公の力だけでは国土資源を管理できず、「新たな公」なる主体が求められている現状を考えると、市街地のみならず国土全域に対して「エリアマネジメント」なる活動が必要になってくる。 英国ではランドスケープ特性エリアと称して、同質な自然的・文化的特性を持った「エリア」を全国で159区分し、 そのエリアの特性を損なわないマネジメントを住民・地権者・行政・グラウンドワーカーなどの「パートナーシップ」によって行われている。この活動は様々な資金で支援されており、日本における国土のエリアマネジメントの良い事例になると考えられる。本シンポジウムでは、「エリアマネジメント」の成立条件である、「一定のエリア」をどう規定するか、管理主体となる「新たな公」をどう形成するか、「マネジメント方向」はどう定めるのか、どのように「支援していくか」などの議論につながるものである。具体的には、イギリスのNational>County> Local Character Areaの特定手法について、特にイギリス北東部Durham Countyを事例に紹介する。「新たな公」では、個別エリアを対象に地域活性化活動を行うLimestone Landscape Partnerships について、「マネジメントの方向」については、エリアの特性を損なわない保全管理活動の指針となるLandscape Profile、Action Planについて紹介する。「支援策」に至っては、英国の国営宝くじ基金の一つであるLP(Landscape Partnerships)について紹介する。これらを参照し、英国のような国土管理手法の国内への展開可能性について議論していきたい。
  • 西井 稜子, 松四 雄騎, 松崎 浩之
    セッションID: P005
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    1.はじめに
    重力性変形地形は,岩盤変形に伴う斜面内部の亀裂増加を示唆し,さらに現実に発生した崩壊の滑落崖となったケースもあるため,大規模崩壊の前兆地形として認識されている.したがって,重力性変形地形の形成年代を明らかにすることで,大規模崩壊の発生に至るまでの長期的な斜面変形プロセスを復元できる可能性がある.本発表では,複数の重力性変形地形を対象に,地表面露出年代測定を用いた重力性変形地形の形成時期の特定と長期的(102~103 yr)な動きの復元について紹介する.そして,形成開始時期に影響を及ぼしたであろう因子(気候変動や地震活動)との対応関係についても検討する.
    2.調査地域および方法
    調査地は,北アルプス中央部に位置する烏帽子岳~野口五郎岳にかけて南北約10 kmに延びる主稜線である.花崗岩類からなる主稜線周辺には,少なくとも70以上の重力性変形地形が発達している.対象とした5つの重力性変形地形は,1つは谷向き低崖,それ以外は山向き低崖の形態を示す.多くの低崖の高さは,10 m以下を示す.それら低崖の破断面の上部と下部から試料を採取し,物理的・化学的処理を行ったのち,東京大学タンデム加速研究施設にて10Be濃度を測定した.
    3.結果と考察
    破断面上部の複数地点の露出年代値*1は, 0.99~9.1 kaを示すことから,重力性変形地形はいずれも完新世に形成されたと考えられる.重力性変形地形の形成開始時期とその成長量(崖の比高)を比較したところ,必ずしも形成開始時期が古いほど,崖の比高が大きいという傾向は認められなかった.また,得られた値の多くは,崖の上部で古い年代を,下部で新しい年代を示す傾向があることから,それらの崖は1回のイベントではなく複数回のイベントによって形成されたと考えられる.また,対象とした5つの重力性変形地形は,狭い範囲(約6 kmの稜線上)に分布しているにもかかわらず,その形成開始時期には最大8 kaというばらつきが認められた.したがって,斜面の不安定化(変形)は狭い範囲であっても同時に始まるわけではないことを示唆している.次に,重力性変形地形の形成開始時期に影響を及ぼしたであろう因子(降水量と地震活動)との対応関係について検討する.最終氷期から完新世の移行期に,降水量が大幅に増加したことがモダンアナログ法によって示されている(公文ほか2013).したがって,本調査地の重力性変形の開始には,降水量の増加に伴う急激な河川の下刻や下方斜面の侵食が影響を及ぼしている可能性が高い.一方,調査地周辺の過去の地震活動については,糸魚川―静岡構造線活断層系(北部)の活動履歴を参照し,重力性変形の開始時期との比較をおこなった.最新の活動は,西暦762年に発生した地震規模M8程度の地震と推定されており,過去の活動間隔は約2000年と考えられている(地震調査研究推進本部地震調査委員会,1996).最新および一つ前の地震活動の時期は,3つの重力性変形地形の開始時期とほぼ重なる.一方,それ以前の地震活動時期についてはデータがないため,現時点では,重力性変形地形の開始時期との対応関係は不明である.
    *1採取地点の核種量が露出時に0とした場合の値.積雪の被覆効果や原地形面の傾斜効果を考慮していないため,今後,モデルを改良することで年代値が変わる可能性があることに注意.
    引用文献
    公文富士夫・河合小百合・木越智彦2013.中部山岳地域における第四紀後期の気候変動.地学雑誌122:571–590.地震調査研究推進本部地震調査委員会1996.糸魚川―静岡構造線活断層系の調査結果と評価について(平成8年9月11日).
  • 石川 怜志, 須貝 俊彦
    セッションID: P008
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1. 背景・目的
    天井川とは, 河床面が周辺平野面より高くなった河川である. 堤防により河道が固定されると洪水流の氾濫が抑制され, 堤外地での堆積が進行して河床が上昇し, 天井川が形成されると考えられてきた(町田ら, 1981).
    築堤という人間が関与することで形成された天井川の形成要因と発達過程を明らかにすることは, 科学的, 社会的要求を満たす重要な研究課題である. そこで本研究では河川地形としての天井川の形態や天井川周囲の平野面や上流域の地形学的特徴を検討し, 天井川の形成要因と発達過程を明らかにすることを目的とする.
    2. 対象地・方法
    明瞭な天井川が存在する地域である山城盆地・六甲山麓低地・甲府盆地・近江盆地を対象地として選定した. この4地域において, 国土地理院のDEMデータ等を用いて天井川を認定した. ArcGISを用いて天井川の河床縦断形を作成し, 近似関数をあてはめた(Ohmori, 1997). 既存の地形分類図を河床縦断図にあてはめ, 天井川がどの地形から始まるかを確認した.
    近江盆地内において改修の影響が少ないと考えられる天井川を4河川, 天井川化が明瞭でない河川を1河川選び, 天井川発達を議論するためのモデル河川とした. 河床縦断図から河床勾配を約500 m毎に算出した. 更にこれらの河川において河床礫径の計測を行い, 混合比(d84/d16)と限界掃流力を算出した. 水位データから, 掃流力の算出を行って掃流力の比較および掃流砂量の算出を行った. 河道に沿って周囲の地形面の縦断図を作成し, 標高と河床高の差をとって相対河床高を算出した.
    3. 結果・考察 多くの天井川は扇状地を有していた. 扇状地を持たない河川は, 上流域から蛇行原に移り変わる位置で天井川化が始まっており, 遷緩点が堆積に関与していると考えられた. 扇状地を有する河川では, 天井川区間の上流端位置は扇頂から扇端まで様々であった.
    天井川の河床縦断形のほとんどが累乗・線形関数で近似された. これは, 天井川の屈曲度が小さいことを示し, Ohmori(1997)が扇状地内の河川で指摘したように, 河川が平衡を保つために礫の堆積位置を前進させることで河床が上昇した可能性を示唆する.
    礫径と河床勾配の縦断変化について述べる. 河床のある点で礫の細粒化は弱まり, 河床勾配も一定に近い値が続いた. この位置は天井川区間の上流端とは一致せず, より上流に位置し, 天井川区間下流端付近まで続いており, 天井川区間より上流から河床上昇が生じていると考えられた. 掃流力は限界掃流力より大きいためアーマーコート化は生じておらず, 現在の河床の特徴が河床上昇に伴って生じたと考えられる. 掃流力は河床勾配の変化に伴って変動しており, ほぼ全ての地点で掃流による土砂運搬が卓越していたと考えられる. 礫径の細粒化速度は選択運搬を示し, 天井川の混合度は5程度と低い. 天井川の上流では最大礫径の限界掃流力と掃流力が釣り合っている一方, 天井川を構成する礫径は128 mm(-7 φ)以下であり, 2年に一度程度の頻度で発生する洪水時における掃流力は, 限界掃流力を大きく上回っていた. -7 φの礫の流下限界は河床勾配が約1‰に急変し, 掃流力が急減する部分である(Ohmori, 1997). 周囲の地形面には天井川区間の上流端より下流に遷緩線が存在した. よって-7 φ以下の礫が選択的に緩勾配地点まで流下し, 掃流力減少に伴う堆積が生じ, 河川が平衡を保つ形で河床が上昇したと考えられる. つまり築堤と砂礫の供給によって掃流力等, 河川の平衡条件が変動し, 遷緩点まで輸送された砂礫が掃流力の減少によって堆積し, 河床上昇が生じた. このプロセスの繰り返しが天井川化であると考えられた.
    一方, 掃流砂量は上流から緩やかに減少する傾向を見せるものの, 激しく増減していた. 天井川区間において掃流砂量の各地点での比は10以内に収まり, ほぼ一定の値を示していた. しかし, 掃流砂量の精度を見積もることは難しく, 掃流砂量から河川が平衡状態にあるかを判断するのは検討の必要があると考えられる.
    本研究では相対河床高は天井川区間の大部分で一定の値を保ち, 天井川区間が下流域の一部であったことから河床上昇による勾配の変動は無かった可能性が高い. これは砂礫供給量の増大による河床上昇は勾配の増加を伴い, 河床上昇は堆積面の上流端から生じているという従来の見解と異なる. 一方, 1 m/年のような非常に大きな堆積速度が推定されている天井川も存在する. つまり天井川の形成には砂礫供給量の顕著な増大を伴う場合とそうでない場合の, 二つの可能性があると考えられる. 
  • 堤 純
    セッションID: S0604
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    本報告は,オーストラリア統計局(以下,ABS)が提供する機能(カスタマイズ可能な詳細な国勢調査データ)を活用して,人口急増の著しいオーストラリアのシドニーにおけるジェントリフィケーションの特徴を考察した。
    1990年代後半以降に進展したグローバリゼーション下において,シドニーはオーストラリア国内では最も急速に,かつ顕著に成長した都市である。アジア太平洋地域の拠点として,国際金融機能や外資系企業の地域本社も集中した。シドニー都心部およびその周辺部ではオフィスと高層コンドミニアムを組み合わせた複合的な再開発事業が数多く行われ,ダーリングハーバー地区,ワールドスクエア地区,さらにはシドニー湾を越えてノース・シドニーへのバックオフィスの拡大などが急速に進展した。
    表1は,ABSが提供する国勢調査のうち,前回2006年実施および最新の2011年実施のデータに着目し,同局が提供するデータのカスタマイズ機能(Table Builder)を用いて,過去5年間の人口移動を集計したものである。表中のMarrickville (A)とSydney (C)-South の2つのSLA(≒中統計区)は,いずれもシドニーのCBDに隣接した近接性の高い地区であり,近年の現地の新聞等でも急速なジェントリフィケーションが引き起こす様々な社会問題について報道される機会の多い地区である。2006年から2011年にかけて住所変更のない住民は約40%にすぎず,それ以外の住人は過去5年の間に当該地区に流入してきた。
    図1(2006年)および図2(2011年)は,各年次の国勢調査の小統計区を対象に,世帯収入(常住地)に基づいて世帯数を集計し,週給2,000豪ドル(≒19万円,年収約1,000万円以上,@95円/豪ドル換算)以上の割合を示したものである。これらの図によると,2006年の段階では高所得者の割合の高い地区はシドニー湾に面した(とくに北部の)眺望のよい地区が中心であったが,わずか5年後の2011年には,シドニーのCBD(図中★)の西南西約3kmのNewtown地区や約3km南のWaterloo地区を中心に,各統計区内に占める高所得者の割合が50%を越える地区が急増した様子がみてとれる。こうした急速なジェントリフィケーションの進展により,立ち退きを余儀なくされる住民も少なくない。紙面の都合により,社会・経済的な特徴の詳細については当日報告する。
  • 趙 政原
    セッションID: 410
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    グローバル化の進展は,従来の産業集積に大きな変容を与えてきた.企業はローカルなリンケージに限らず,グローバルなネットワークに組み入れられ,ローカル,グローバル双方の影響を強く受けている.文化創造産業に関しては,地理的集積とともに,グローバルリンケージの重要性が指摘されてきたが,そうした研究の大半は先進国を対象にしたものであった.上海をはじめ,経済成長とともに,急速に拡大している中国の世界都市では,多数の多国籍広告会社が進出する一方で,地元の中小広告会社の増加も著しい.中国の新興世界都市において,どのように企業間関係が構築され,産業集積地域でいかなる変化が生じているか,こうした点については未解明な点が多い.
    本報告では,統計資料の分析および現地調査の結果をもとに,各広告会社の立地行動と空間分布を確認した上で,取引関係の地理的範囲,重層的な空間展開,および域内外の労働市場などから,集積地域の内的構造を検討する.
    中国広告産業の特徴として,①多国籍企業が人材,資本,クライアント資源などのあらゆる面に優位で,市場をリードしていること,②広告産業の市場経済化が進む一方で,関連したメディア部門は国家統制力が強く,省や都市ごとの地域障壁が高いこと,③人材は特定の企業に対する忠誠心が低く,転勤・転職が頻繁で,高質な広告人材が不足する一方で若手クリエーターが大量存在すること,④北京,上海,広州の3大中心都市に集積する傾向が強いこと,以上の4点を指摘できる.創造産業部門の最大集積地である上海は,全国20%の広告関連企業,14%の広告費を占める.
    上海の広告業は,少数の大型広告企業(日本や欧米の外資系が中心)と大多数の中小規模民間企業と2極化している.大型会社は,都心部に集積するのに対し,中小会社は市内の各場所に幅広く分散している.
    大規模な広告会社における取引関係や事業展開の地理的範囲は比較的広く,全国市場を相手に北京と広州に拠点を持っている.中小規模の広告会社の場合,地域障壁に止められ,取引はほぼ上海市内のメインクライアントに依存しているとみられる.この差異は,取り扱う商品や使用した媒体にも反映されている.
    一方,広告人材の社会ネットワークでは,ベテランの高級人材や若手クリエーターの存在によって,多様で重層的な外的リンケージがみられる.地方政府の行政指令によって広告会社の空間集積は市街地において多数整備され,産業支援策として起業活動に多くの利便性が与えられた一方,激しい競合関係で集積内の情報交換・相互学習はまだ低いレベルに止まっている.そこで,ローカル環境で連帯感が持つ若手クリエーター間では,サイバー空間での情報共有が活発になされている.それに対し,大型広告会社の経営者や高級人材は,全国各地で開催された広告やメディア関連のフォーラム,イベントを通じ定期的に面会し,比較的安定化したネットワークが構築されている.
    従来の産業集積理論は,ローカルな小規模の製造業企業を想定したうえで発展してきた.上海広告業の集積は,企業と労働市場の階層性に対応し,グローバル・ナショナル空間とローカル空間に2極分化した内的構造を特徴とするものといえる.ピラミッドの上層部に位置し,グローバル志向の大型広告会社と高級広告人材にとって,世界都市としての上海は,域外のビジネス資源や知識情報を活用できる利便性を提供した.それに対し,中小広告会社や若手クリエーターの外的リンケージはよりローカルなものであり,彼らにとって,上海という場はピラミッド上層部への近接性を与えるものになっている.
  • 池谷 和信
    セッションID: S0510
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1 はじめに
     地理学は、地球上のすべての地表面を対象にした学問であり、人類による微地形利用に関してこれまで多数の研究を蓄積してきた。しかし、これらは世界各地のミクロな地域の事例研究として紹介されることが多く、人類の微地形利用をとおして地球のなかの地域性を把握する枠組みを構築する試みはほとんどみられない。本研究では、筆者が現地調査を進めてきた事例研究を比較することから、人類の微地形利用に関する地域的特性と一般的な傾向を把握することをねらいとする。まず、気候帯によって、熱帯、温帯、寒帯、高山帯、海洋に地球環境を5分類する。そして、そこでの人類の微地形利用の詳細について事例を報告する。
    2 結果
     世界の熱帯は、湿潤と乾燥に分かれる。湿潤では、アマゾン川流域(事例1)とバングラデシュのベンガルデルタ(事例2)をとりあげる。両者とも、氾濫原での微地形利用が特徴的である。水位の変化にともなう氾濫域の違いに応じて、土地利用が異なる。前者ではバナナやキャッサバの農耕地の選択、後者では稲の異なる品種の選択や豚の遊牧などに微地形の条件が大きく関与する。一方で、乾燥では、カラハリ砂漠(事例3)とソマリランド(事例4)をとりあげる。両者とも年間の降水量が500mm以内で、年変動が激しく、干ばつの多発地域である。ここでは、パンや人口プールが人びとや家畜が利用する水を貯蓄するために欠かせない。
     温帯は、日本の東北地方の山地における狩猟、採集、焼畑、放牧のような伝統的生業をとりあげる(事例5)。これらは現在、衰退したり消滅しつつある活動であるが、山地の斜面や平坦部を利用する活動であった。なかでも、ゼンマイ採集活動は、多雪地帯の急峻な地形を細やかに利用するものであり、世界的にみてユニークな利用形態を示す。
     寒帯は、極北のロシア北東部チュコト自治管区をとりあげる(事例6)。ここでの生業の中心は、ツンドラ植生を利用するトナカイ牧畜である。この牧畜の場合、冬季のあいだ降雪の状況が微地形で異なるのに応じて植生が異なっており、トナカイの放牧に影響を与える。なお、4千mを越えるプーノと呼ばれるアンデスの高地(事例7)では、リャマやアルパカの牧畜、ジャマイモなどの農耕が生業の中心である。ただ、微地形が重要であるのか否かは不明である。また、海洋は、熱帯から寒帯まで広がっているが、サンゴ礁での微地形利用が知られている(事例8)。
    3 比較考察
     以上の8事例から、「微地形、植生、土地利用を1つのシステム」として把握することが重要である。筆者は、人類の活動を反映する土地利用から微地形にアプローチしてきたが、現代の地球では、土地と人類とのかかわりが希薄になっていて、地表空間に対する人類のかかわり方の変化を歴史的に把握することが不可欠になっている(池谷編2009)。また、地球のさまざまな気候帯において、農耕、家畜飼育、水利用、採集などの微地形利用に共通性を指摘できる。さらに、人類は狩猟採集、農耕、牧畜、都市の社会へと進化してきたとみられるが、現代の都市の土地利用では、微地形の利用が軽視されてきたことで、さまざまな問題が生じている。筆者は、地理学では古今東西の微地形利用を地球環境史の視点や生き物文化の視点から広く総合的にまとめることが重要であると考えている(池谷編2013)。
    文献
    池谷和信編2009『地球環境史からの問い』岩波書店。
    池谷和信編2013『生き物文化の地理学』海青社。
  • 鍬塚 賢太郎, 神谷 浩夫, 丹羽 孝仁, 中川 聡史, 由井 義通, 中澤 高志
    セッションID: 522
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    ■研究の目的と背景
    本報告では,日本企業もしくは日本人がバンコクに設立したコールセンター企業をとりあげ,それらの立地の経緯と当該事業所から提供されるサービスの特徴について検討を加える。バンコクに日本人の労働力プールが形成され,それが涵養されることで当該企業の「日本語」によるサービス提供が可能となっていることについて,日本人の海外就職と関連づけながら議論する素材を得ることが念頭にある。 コールセンターは,オペレータが電話に代表される情報通信技術を用いて,販売・サービス等に関する問い合わせや注文受付などを行ったり,勧誘による販売などを行ったりする事業所である。それらの日本国内における立地をみると,1990年代後半より安価な労働力を求めて大都市から地方へと分散するとともに広域中心都市やそれに準ずる都市などに集積した(鍬塚,2008)。さらに,国境を越えて中国の大連へ日本語コールセンターを設立する動きもあった。ただし「ネイティブレベルの日本語能力」を持つオペレータを中国で継続的に確保することは難しく,電話を用いて業務を行う日本語人材の在り方が,当該事業所の存続を方向づけることが指摘されている(阿部,2012)。もっぱら日本語話者の利用者を念頭に置いた場合,当該サービスの提供者を,どこで確保するのかというコールセンター立地にかかわる問題は,アメリカ合衆国を市場として成長を遂げたインドの当該産業との比較において重要な意味を持つ。バンコクに設立された日本語コールセンターは,日本語を学習したタイ人ではなく,もっぱら日本語を母語とする人びとが当該サービスの担い手となっているからである。

     ■タイにおける外資規制とコールセンター立地
    タイにおいて,サービス業分野の多くの業種は外資規制の対象となっている。こうしたなか,タイ語以外の言語でサービス提供を行うコールセンター業務は,2003年にタイ投資委員会(BOI)の投資奨励対象業種となり,当該事業を行う企業を外資100%で設立することが可能となった。またタイにおいて外国人を雇用するためには資本金の最低額,法人税の納税額,タイ人雇用比率,給与の最低額,雇用人数などの条件が課せられる。しかしBOI投資奨励対象として承認された事業には,こうした条件が適用されない。例えば,日本人の雇用にあたって月給5万バーツ以上という条件は適用されない。タイにおける外資規制のあり方が,日本語コールセンターの立地を可能としたことを,まず確認したい。  BOIの資料に基づくならば,タイ全体で2003年から12年までの10年間にあわせて48件のコールセンター事業がBOIによって認められた。国籍別にみると日本が10件と最も多く,バンコクを拠点としてあわせて900人弱の外国人雇用が承認された。それらのなかには日本に本社を置くコールセンター運営企業が設立したものもあり,もっぱら日本人を雇用している。このほかドイツ(5件),デンマーク(4件)からの投資によって設立されたコールセンターもあるが,英語圏からの投資が少ない。

    ■「声」によるサービス提供と担い手
    コールセンター業務は,オペレータから利用者への対人サービスの提供というかたちをとることが多い。業務の性格もあって自動化には限界があり,またコールセンターの効率的な運営には勤務時間を綿密に計画し必要に応じて従業員数を増減させる必要がある。そのためコールセンターの立地を検討するにあたっては,常に変動する需要にみあったオペレータを確保可能な立地条件について,検討する必要がある。人口規模が大きく労働移動も活発な地域に立地することが,コールセンターの運営に有利に働くからである。  加えて,情報通信技術を用いた対人サービスの提供という点において,その立地には独特の論理が働いていることも見逃せない。コールセンター業務のように,もっぱら「声」によるサービスが成り立つためには,提供者と利用者との間において言語だけでなく,交わされる言葉の理解や解釈という点でも何らかの共通基盤があることが必要とされる。つまり当該サービスの提供者と利用者との関係は,サービスの特質や評価といった文化的な要素を多分に含み込んでいる。こうした条件を兼ね備えるのが,「若者」が流入し大規模な日本人の労働力プールが形成されているバンコクなのである。  当日は,報告者が実施したタイで日本語コールセンター事業を展開する企業へのインタビュー調査に基づき,その事業内容を日本人の労働力プールと関連づけながら検討する。
  • -根尾谷断層水鳥断層崖を例に-
    熊原 康博, 内山 庄一郎, 中田 高, 井上 公, 杉田 暁, 井筒 潤, 後藤 秀昭, 福井 弘道, 鈴木 比奈子, 谷口 薫
    セッションID: P036
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    はじめに 近年のラジコン技術の進歩によって,非軍事用のUAV(Unmanned Aerial Vehicle)の小型化と低価格化が進み,機材を自ら操作して低空空撮を行うことが可能となりつつある.日本でも,これらの機材を災害発生後の被害把握に活用する動きはあった(井上ほか,2012など)が,従来,専門業者にデータ取得を依頼することが多く,誰でも,どこでも,いつでも容易に利用できる状況ではなかった.最近,安価なホビー用ヘリコプターの高性能化が進み,これを利用して斜めあるいは垂直画像の低空空撮を容易に行うことが可能となった.本発表では根尾谷断層水鳥地震断層崖周辺で,ホビー用GPSマルチロータ-ヘリ(DJI社製Phantom)を用いた低空空撮の結果を紹介する.  さらに,得られた空撮写真からSfm(Structure from Motion)ソフトを用いることで, DSM(Digital Surface Model)を作成する事も容易になった.SfMとは,コンピュータビジョンの分野ではメジャーな要素技術であり,リアルな立体CG作成などの映像産業やロボットや自動車制御における三次元的な自己位置認識などで用いられている.自然科学の分野では大量の写真画像から地形などの三次元モデルやオルソ画像を生成する用途で使われ始めている.今回は,断層変位地形の三次元モデルの再現を企図してSfMソフトウェアの一つであるAgiSoft社のPhotoScanを使用した.   調査対象範囲 濃尾地震(1891)は歴史時代に発生した我が国最大の内陸地震(M 8.0)で,本巣市根尾水鳥では縦ずれ最大6m,横ずれ2mの断層変位によって明瞭な地震断層崖が出現し,国指定の天然記念物に指定されている.このため,地震発生後120年以上経過するが,断層変位地形の保存状態がよい.空撮実験はこの断層崖を中心に南北約400m,東西約150mの範囲で行った.    UAVによる写真画像の取得 Phantomは電動4ローターを持つラジコン機で,長さと幅約50㎝,重量約700g,ペイロードは最大約400gであり,最長7分程度の飛行が可能である.GPSとジャイロによって,初心者でも安定した飛行が可能である.使用した機材は.機体とインターバル撮影が可能なデジタルカメラを含め10万円以下である.  地表画像は,Phantomにデジタルカメラ(Ricoh GRⅢ:重量約200g)を機体下部に下向きに取り付け,高度約50-100mから5秒間隔で撮影した.低空でからの空撮であるために地上の物体を鮮明にとらえており,地震断層崖の地形も詳細に把握することができる.機体が傾いても,カメラの向きを常に一定に保つジンバルを用いれば,立体視可能なステレオ画像を容易に得ることが可能となる.   Sfmソフトを用いたDSMの作成 撮影した約80枚の画像を,PhotoScanに取り込み,ワークフローにしたがって処理を行った.今回は,特に飛行ルートを設定して撮影をしたものではなく,カメラポジションはバラバラである.それでも,高解像度の3D画像が生成され,任意の角度や縮尺で断層変位地形を観察することができる.ソフトへの画像の取り込みから3D画像の完成までに要する時間は1時間弱である.正確な画像を作成するためには,カメラのレンズ特性や,地理院地図などから緯度・経度・標高を読み取り,地表のコントロールポイントを設定する必要がある.  PhotoScanを活用すれば,GeoTIFF形式の書き出しもでき,他のソフトでも読み込むことが可能となる.本研究では, GeoTIFF形式で出力したDSMをGlobal Mapperで処理し作成した水鳥断層崖周辺の1 mコンターの3 D等高線図や断面測量を行った.   おわりに 今回紹介した小型UAVとSfmソフトを利用した手法は,今後,活断層研究をはじめとする各種の地形研究や災害後の調査など多くの研究に活用が期待される.特に数100 m x 数100 m程度の比較的狭い範囲の地形を詳細に把握するには,多いに利用できると考えられる.この手法を用いれば,活断層や地震断層沿いの変位量を効率的に行うことが可能となり,地震の予測精度の向上に重要な震源断層面上のアスペリティー位置の推定などに貢献できる.
  • 常総市内守谷町きぬの里を事例として
    卯田 卓矢, 矢ケ﨑 太洋, 石坂 愛, 上野 李佳子, 松井 圭介
    セッションID: 823
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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     初詣や初宮、七五三などの年中行事・人生儀礼を通じた地域の社寺との関わりは、日本人の宗教的行動の一つとして位置づけられる。この行動に関しては、主に宗教社会学において各種の宗教意識調査を用いた経年的分析が行われてきた。ただ、既往の研究では日本人全般を分析対象とする傾向が強く、特定の地域に視点を置いた考察は十分ではない。特に、農村部とは異なり地域の社寺との関係が希薄な居住者が多く存在するニュータウン地区については、現代日本の宗教的行動と地域との関係を検討する上で重要な対象地域であるが、これまで本格的に論じられることはなかった。一方、宗教地理学では、特定の宗教の地域受容過程や信仰圏を主なるテーマとしており、地域住民の宗教行動(参拝行動)に主眼を置いた研究は行われていない。
     以上を踏まえ、本研究ではニュータウン地区を対象に、住民の年中行事(初詣)および人生儀礼(初宮、七五三、厄除け)をめぐる参拝行動と地域との関係について検討することを目的とする。対象地域のきぬの里は常総市の南西部に位置し、常総ニュータウンの一部として1990年後半ごろより開発が行われた。
  • 顧 江
    p. 100194-
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    Since the comprehensive reform and opening up started from the first half of 1990s, large scale of residential areas have been constructed in the suburban area of Beijing. At the same time, a lot of projects for redevelopmet of welfare housing areas have been done in the core area of the city. As a result, Beijing metropolitan region experienced a remarkable expansion and development after 1990s. With the transformation of the housing supply system, the unit yard system began to disintegrate. The welfare housings were replaced by the commercial housing, and a new type of modern community was established. This study is to present the distribution of new types of residential area and to reveal the reconstruction process. The study area was the area within the fifth ring road of Beijing. In this study we obtained data from satellite images and fieldwork. The satellite images were collected from USGS, which were photographed in the spring of 1990, 2000, 2010 and 2013. We made fieldwork to help making the classication and accuracy assessment. The field work was done on October 2013. As the result of fieldwork, the distribution of each type of land use was collected. In Beijing, most of the new type of commercial housing was constructed after 1998. A large number of low buildings in a densely area belong to the unit yards. Very high buildings with green space inside the yards can be seen as the feature of the high residential area. However, in the case of high commerical buildings (such as hotel, shopping malls and so on), these buildings always locted in a open area without green space. After distinguishing the high buildings and low by using the shadows of themselves, eight types of land use were classified by using the Erdas software: high commercial buildings, high residential buildings, low and old buildings, agriculture land, green space, empty or under construction land, Water and street. As a result of time series analysis, it was proved that the area of low an old buildings decreased rapidly and were replaced by high commercial buildings and high residential buildings. At the same time, a rapid expansion of high residential area progressed in the suburb. We realized that these two types of transformation promoted the rapid growth of Beijing city, and that the housing development was one of the main factors leading Beijing rapid urban development. 
  • 田代 崇, 渡邊 眞紀子, Mario B. Collado, 森島 済
    セッションID: 901
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    背景と目的  IPWP北東域にあたるフィリピンを含む西部熱帯北太平洋域は,アジアモンスーン地域の中でも西部北太平洋モンスーン地域(WNPM)として固有の分類がされ,この地域の対流活動(=降水量の変動)は,東アジアを含む全球的な気候変動にも強い影響を及ぼすことが知られている.したがって,同領域の長期的な環境変動を明らかにすることは,気候変動を介した全球的環境変動を理解する上でも重要な課題の一つと考えられる.フィリピン・ルソン島において,湖底堆積物の植物珪酸体分析をおこなった吉田ほか(2011)は,イネ科チガヤ属の多年生草本であるコゴン(Cogon;Imperata Cylindrica (L.) Beauv.,)と木本類が交互に出現するパターンが過去2,500年間にわたって現れることを明らかにしており,この原因の一つとして人為的影響を挙げている.しかしながら,気候変動よる乾燥ストレスとそれに伴う植生の衰退がきっかけとなり,コゴンが優占種になるといった自然環境の変化に起因している可能性も考えられる為,本研究では,フィリピン・ルソン島中央平原における植生と気候変化の関連性の解明を目的とし,同領域に位置する湖から得られた湖底堆積物試料の粒度分析および,植物珪酸体分析から推定される気候変動と植生との関係について考察を行った.結果と考察粒度分析結果は,中央粒径がおよそ7~8φという小粒径に最頻値を持ち,淘汰の進んだ分布を示す層と5φ以下の大粒径に最頻値を持ち,淘汰の進んでいない分布を示す層といった2つの特徴を示した.中央粒径(Mdφ)と歪度(Skα)の関係は,中央粒径が大きくなるにつれ,淘汰度が小さくなるといった特徴を示し,この結果は各層が堆積した際の湖水位変化とそれに伴う採取地点の湖岸からの距離の変化を反映すると考えられた.また,湖岸からの距離は,湖水位の変化によって生じる為,降水量の変化を反映している可能性が考えられる事から,粒度組成データに対しクラスター分析(K-mean)をおこない,湖岸から湖底への堆積環境毎に4分類したタイプ(Type1~4)と植物珪酸体組成との対応関係を整理した.その結果,乾燥指標と考えられるコゴンは,湖岸環境で増加,湖底環境で減少を示し,湿潤指標と考えられる木本類は,逆の関係を示した.これらの関係は,湖岸から湖底への堆積環境の変化と植生側からみたときの乾燥湿潤との対応関係がほぼ一致して現れる事を示しており,湖水位の変化による堆積環境と植生変化を代表しているものとして考えられ,この原因が降水量の増減である可能性が考えられる. しかしながら,年代測定値が少ない事から分析試料の持つ時間スケールが一定ではなく,植生の反応時間と粒度組成タイプが一対一の対応を示していない可能性が考えられる.この為,年代測定値に基づいた堆積速度を詳細に検討し,これを基に堆積環境の変化に伴う降水量変化と植生の応答を再検討する必要が課題となる.
  • ―首都機能移転と集約型都市構造への転換を中心に―
    戸所 隆
    セッションID: S0105
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    「しなやかに立ち直れる強さ」を備えた国土や地域の構築には、国土構造の基本的枠組みを転換すべき事業とそれを推進する人間力が必要となる。前者は首都機能移転をコア事業として中枢管理機能や主要機能にバックアップシステムを備えた分散型で地域間が水平ネットワークする国土構造への転換を必要とする。後者では、自力更生型地域社会の構築や自然と人間の共生を図る財政負担の少ない開発方法の創造など従前の開発哲学を再構築が求められる。そこでは人間活動を自然の論理に対応したものに転換しなければならず、自然環境と人間活動の関係や空間的コミュニケーション能力開発に優れた地理教育・地理学研究の果たす役割が大きい。
  • 佐藤 浩, 青山 雅史
    セッションID: 624
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    1944年12月7日に発生した東南海地震(M7.9)では、紀伊半島沿岸で甚大な津波被害が発生した。その3日後には、米軍が偵察飛行によって被害状況を調べ、縮尺1/16,000の空中写真を残した。先行研究は、空中写真判読によって三重県尾鷲市中心部の被害状況を報告した。本研究では、尾鷲市南部に焦点を当てて、その空中写真判読によってその被害状況を報告する。
  • 学校における環境観測にもとづいた環境教育(20年間の実践)
    山下 脩二
    セッションID: P072
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    グローブとは「Global Learning and Observations to Benefit the Environment](環境のための地球学習観測プログラム)のことである。1994年の地球の日(4月22日)当時のアメリカの副大統領アル・ゴア氏が世界に向けて提唱したプログラムで、児童生徒が学校において自らの環境を観測し、インターネットを使ってグローブ本部に送信し、世界から集まったデータを科学者が解析し、地図化、図表化し、再び学校はそれら資料を受信し、教育に役立てる。大気、水、土壌、土地被覆、生物季節を世界で同じ基準・方法・観測器で観測する。そのためのプロトコルを定め、それをマスターするためのトレーニングワークショップを開いて、指導者も同じレベルにし、科学研究に活用できる精度を持ったデータを取ることが義務付けられている。世界112ヶ国が参加している。実際の活動は1995年から始まり、日本も最初から参加し、活動してきた実践を報告する。 
  • 横山 智, インサイ パンサイ
    セッションID: 509
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    はじめに
    ラオス北部における農林産物の契約栽培は、中国企業とのパラゴムノキに代表される。中国雲南省でパラゴムノキが試験的に開始されたが1948年であり、1956年から政府の農園で栽培が始まり、それ以降は中国政府の奨励でゴムの植林が西双版納州で急激に広がった。そして、1990年代の中国におけるゴムの需要増によって、ラオスでも植林が開始され、近年、急激に面積を拡大させている。しかし、ラオスの中国国境沿いでは、パラゴムノキに加えて、2000年以降からは乾季の水田裏作物の契約栽培が導入され、農民の生業と伝統的な土地利用が大きく変化している。
    本発表では、中国国境域で生活する少数民族の農民が中国の影響を受けつつも、いかにその変化に対応しているのか、説明したい。特に2000年以降に導入された露地作物の契約栽培を取り上げ、地方行政と農民の対応を周辺という地理的要因に着目しつつ、契約栽培が進展した要因を検討する。

    ラオス北部の中国国境における契約栽培の導入
    研究対象地域は、図1に示すラオス北部ポンサーリー県ブンヌア郡である。そこでは、1990年代終盤からサトウキビの契約栽培が導入され始め、2000年代に入ると乾季水田裏作、そして2009年からは、山地部でのバナナやコーヒーの契約栽培が開始された。作物は、2国間の住民だけに開放されている、ローカル国境ゲートを利用して中国に輸出されている。

    契約栽培の導入・進展の要因
    国境の農民が中国の契約栽培を受け入れるに至ったもっとも大きな要因は、ポンサリー県のような冷涼な気候を有する地域では、水が得られても二期作が出来なかった点であろう。当然、国境の農民たちも、乾季の稲作はできなくても、小規模ながら、地元の市場向けの作物を栽培してきた。しかし、国境付近は、人口密度も低く大きな都市もないことから、市場が限られ、乾季水田裏作は小規模であった。そうした使われていない土地に目を付けたのが、中国雲南省の企業であった。 次に、国境の農民にとって言語の障壁が低かったことが契約栽培の拡大につながったことがあげられるだろう。研究対象地域の主要民民族は、ラオス側も中国側もタイ・ルー族である。国民国家という枠組みで考えると、両国では少数民族であるが、ラオス—中国国境沿いにおいては、比較的人口が多い民族であり、技術移転が比較的容易に行われた。
    最後に、ローカル国境の弾力的な運営制度が契約栽培の進展に大きく寄与していることが明らかになった。ローカル国境は、県によって管理され、そこを通行するにはパスポートは必要としない。しかも、どの国境からどの作物を輸出するか、農林産物の輸出管理も県が担っているため、新たな作物が導入されても県の判断だけで迅速に対応することができる。研究対象地域の国境ゲートでは、1996年から開始されたサトウキビの契約栽培を皮切りに、2000年代に入り乾季農作物の輸出に次々と対応してきた。それに対して、国際国境ゲートは、中央政府が管理する国境なので、パスポートが必要となるだけでなく、関税手続きも面倒であり、近年は農林産物の輸出にはほとんど利用されていない。このような点から、県が管理することが認められたローカル国境の存在そのものが農林産物の契約栽培を進展させたと言える。

    おわりに

    契約栽培は、ラオスの国境の少数民族の生活を大きく変えた。しかし、中国側の需要をラオスの少数民族が受け入れざるを得なかったという状況で今に至っているわけではない。国境線が引かれた1900年から今に至るまでのおよそ100年間にわたり、国境が地理的に周辺と置かれてきたことで、契約栽培を受け入れるような素地が歴史的に醸成されてきたのである。これまでマイナスの要素と認識されてきた地理的な周辺性を、国境の少数民族はある意味逆手にとって、それを彼らなりに活用してきた結果として捉えることができよう。
  • 大宮駅東口地域を事例として
    泉谷 拓
    セッションID: 818
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
    会議録・要旨集 フリー
    高度経済成長期以降、土地の高度利用化と都市の機能更新を目的とする市街地再開発事業が鉄道駅周辺を中心に全国各地で展開されてきた。武者(2006)は、とくに地方都市において、潤沢な国庫補助に支えられた大規模再開発事業が一貫して継続してきたことを指摘している。しかし、バブル経済崩壊後全国の地価が下降傾向を続ける中、民間需要の低迷もあり、土地の高度利用化をともなう都市再開発は大規模事業ほど経済的リスクが大きくなった。こうした環境下では、事業主体となる地権者や自治体は再開発事業に慎重にならざるをえなくなり、差し迫った事業の必要性のない都市ほどその傾向が強くなると思われる。加えて、まちづくりにおける官民協働・住民参加など社会的意識の高揚も、行政が主導する形での事業遂行を抑制すると考えられる。 また、事業化に際しては地権者のみならず居住者や通勤者を含む広範なアクターの合意形成を以前にも増して重視するようになった。地理学において、こうした状況下の合意形成を扱った研究は松本(2011)など極めて限られている。そこで本研究では、今日的な都市再開発をめぐる合意形成過程におけるアクター間の意識差と関係性、行政の意識の変化について分析・考察し、ポストバブル期の都市再開発事業を経済的視点と合意形成メカニズムの双方から捉えることを目的とする。本研究では、埼玉県の大宮駅東口地域を研究対象地域として選定した。対象地域は新幹線開業にともなう西口地域における再開発を先行事例とし、現在まで長期にわたって再開発をめぐる議論が展開されており、今日的な都市再開発をめぐる合意形成過程の縮図と考えられることが選定理由である。 西口地域においては昭和40年代以降、新幹線開通の計画と並行して行政主導の区画整理および再開発が実施され、大規模オフィスや商業施設が林立した。一方、宿場町・門前町としての歴史があり長期的に商業の繁栄が続いてきた対象地域においても、昭和58年に再開発計画が告示された。しかし、行政による「網かけ」に対する住民運動などの影響から、平成16年に白紙撤回された。それ以降、11のまちづくり団体が結成され、現在も再開発をめぐる合意形成段階にあることから、駅を挟んで対照的な経緯がみられる地域といえよう。現在、行政および各団体は当地域のグランドデザインを描きながらも、現実的には合意形成の実現が見込まれる2団体が活動する地区においてのみ再開発事業が検討されている。いずれの団体も老朽化ビルの所有者や行政など有力地権者が大半を占めており、ともに再開発準備組合として活動している。うち1つは低利用の市有地を抱えており、公共・公益施設および商業、業務機能の複合化を図る事業計画を具体化させつつある。一方で、再開発に消極的な団体は小規模店舗経営者やテナント貸しが大半を占めており、現状維持志向のまちづくり活動をしている。その他、当地域におけるまちづくりのあり方を総合的に検討する団体、女性の視点を生かした提案を図る団体、商店街イベントなどによるソフト面の活性化を図る団体などが精力的に活動している。このように、再開発による権利価値の上昇を見込む団体と事業抑制および現状維持志向で活動する団体などが、当地域内の限られた範囲において乱立・同居状態にある。 昨年、各団体の連携を目的としたまちづくり連絡会が行政主導で発足したが、地区全体の包括的な合意形成は難航しており、当面は街区単位で検討せざるをえないのが現状である。行政は各団体の勉強会への参加や補助金による活動支援に取り組んでいるものの「地元からの積極的な動きがあれば協力する」と述べるなど、実質的にはオブザーバーとしての役割に終始している。事業計画の白紙撤回という過去の教訓に加え再開発に伴う経済的リスクの懸念を背景として、行政は多様な意見をもつアクターによる情報発信を推奨しつつも、積極的な合意形成には慎重な立場を貫いていると考えられる。都市再開発は、事業実施に伴う経済的リスクの最小化と多様な意見をもつアクター間での合意形成が事業遂行の条件となりつつある。結果として、合意形成の前段階から議論が長期化し、事業が遂行可能な地区のみで実施されるために点的で小規模な事業が増加していくと考えられる。それでも、民間需要のある大都市および中心市街地の空洞化が進む地方都市における再開発事業は、採算性が確保できる限りにおいて行政が主導する傾向が見込まれる。一方で、少なくとも中心市街地の空洞化に直面しておらず、差し迫った事業の必要性のない都市において、行政は再開発事業をめぐる合意形成過程において戦略的にオブザーバーという立場をとり、まずはアクターの多様な意識を表面化させることに注力するものと考えられる。
  • 大西 有子, 肱岡 靖明
    セッションID: P029
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    地球温暖化の生物への影響を評価には、生物分布モデルを使った種の潜在分布域の予測が使われることが多い。生物分布モデルでは、一般的に生物の分布図や生物標本などの調査データが使われるが、モデルのインプットとなるデータの種類の違いが予測結果に与える影響については明らかになっていない。本研究では、分布の異なる14種の日本の植物を対象に、生物の分布図と、在・不在情報を持つ調査データ、在情報のみの調査データの3種類の異なるデータを用いて、生物分布モデルを構築し、モデルの精度を比較した。生物分布モデルには、不確実性を考慮するため、ニューラル・ネットワークとMaxentモデルの2種類を使用した。また、温暖化気候シナリオを用いて2100年の種の潜在分布域の予測を行い、現在と将来の分布域を比較することにより、対象植物に対する地球温暖化の影響を評価した。その結果、高標高に生息する植物では調査データが、それ以外の植物については分布図のほうがモデルの精度が高かった。地球温暖化の影響下における将来の分布では、分布図のほうが調査データより、温暖化の影響が強いという結果になった。在・不在と在のみデータでは、低解像度では違いは少なかったが、高解像度では、在・不在データのほうが精度が高かった。この結果は、データの種類によりデータ取得の方法が異なり、誤認不在データの割合、サンプリングのバイアス、解像度の違いに起因する。生物分布モデルを温暖化影響評価に使う際は、対象とする種やデータの特徴を精査した上で、適したデータを選ぶことが重要である。
  • 宮城 豊彦
    セッションID: S0505
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/03/31
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    地すべり地形の実形を写真判読から明らかする作業がほぼ完了している。日本では、このスケールよりも一段小規模な微地形スケールで見た地すべり地形の特徴を、地すべりの再活動可能性の指標として再評価することで、地すべり地形の再活動可能性を評価し始めている。この発想の土台には、田村先生の地形観が反映されている。
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