本研究は,公的病院と民間病院において,入院の原因となった有害事象および入院中に発生した有害事象の両方の頻度を調査し,予防可能性を評価するとともに,その主な当事者エラーや組織エラーについて分析することを目的とした。入院患者を最長で7日間にわたり観察し,有害事象発生率を調査した。対象は,層化三段無作為抽出法により抽出した。対象となった各病棟では,まず看護師の調査者が17項目のスクリーニング基準を用いて有害事象を把握した。次に医師調査者が,患者の受持医と協力するとともに,診療記録を閲覧して,有害事象の医療との因果関係の程度,予防可能性,当事者エラーを分析した。その後,一部の有害事象について根本原因分析を実施した。
71病院,292病棟における8754人の患者が対象となり,のべ35,234日分の在院期間(内科系病棟は17,194日分,外科系病棟は18,129日分)について調査が行われた。把握された有害事象450件(外科系247件,内科系203件)のうち,40%は予防可能と判断された。66%の外科系病棟と58%の内科系病棟では,各病棟における7日間の調査期間において少なくとも1件の有害事象が把握された。有害事象は虚弱患者に多く発生しており,有害事象発生患者の平均年齢は全体の平均年齢より4歳高かった。全入院のうち3.9%(95%信頼区間3.4~5.6%)は有害事象が原因となっていた。その3分の2は地域(一般医)により提供された医療によるもので,残りは以前の入院が原因となった再入院であった。これらの有害事象のうち,47%は予防可能と考えられた。薬剤関連が約40%を占めていた。
入院中に発生した有害事象頻度は入院1000日につき6.6件(95%信頼区間5.5~7.5)であった。これらのうち35%は予防可能と考えられた。侵襲的処置,特に外科的治療は,入院中に発生した有害事象の半分を占めていた。予防行為や診断行為に関連した当事者エラーは,治療行為によるものより予防可能なものが多かった。組織エラーは分析した45件の有害事象のうち37件(82.2%)を占めていた。全145件のエラーのうち,チームワークの問題がもっとも頻度が高く,有害事象の発生に密接に関連していた。
フランス全土では,予防可能な入院が12.5万~20万件,入院中に予防可能な有害事象が12万~19万件発生しているものと推計される。周術期ならびに高齢患者の診療について,注意を払う必要がある。特に,啓発,トレーニング,エラーや有害事象の分析に基づくリスク管理文化が,緊急に,幅広く,必要とされる。
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