システム農学
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31 巻, 4 号
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研究論文
  • 寺谷 諒, 守屋 和幸, 酒井 徹朗
    2015 年 31 巻 4 号 p. 99-108
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    近年、都市近郊における農地の減少が進んでおり、問題となっている。農地は多面的機能を有しており、保全の推進が求められる。今後、適切な保全対策を実行していくためには、過去の農地の変化のメカニズムを把握するとともに、それを踏まえたうえで、将来の変化について予測し、とり得るべき政策について検討していくことが重要である。本研究では、対象地域を大阪府とし、社会的要因などの農地の変化に関連する要因について分析するとともに、ナイーブベイズによる予測モデルを構築し、シミュレーションを実施した。分析の結果、区域区分や近傍の土地利用(農地、建物)が農地の変化に大きな影響を与えていることがわかった。また、予測モデルの精度を検証するため、近年の実際の農地の分布を予測する再現シミュレーションを実施したところ、一致率は70%以上の値をとり、先行研究と比較して高い精度となった。さらに、モデルを用いて、将来の農地の変化についてシミュレーションを実施したところ、現在の状況が続いた場合、今後も多くの農地が転用され、大阪府の掲げる農地の保全目標値とは大きく乖離する結果になることが示唆された。一方で、集団的な農地を優先的に規制するように区域区分の見直しを行った場合、転用される農地は少なくなり、一定の効果がみられることが分かった。
  • 岡本 勝男, 小野 公大, 土井 佑也
    2015 年 31 巻 4 号 p. 109-116
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    統計資料は災害把握や食料需給見積もり、政策立案のうえで基本資料となる。広域や地上調査困難地域で客観的で信頼できるデータを得るためには、衛星リモート・センシングは強力なツールとなる。筆者らは衛星光学センサ・データから算出した改良型正規化差分水指数(MNDWI: Modified Normalized Difference Water Index)と正規化差分植生指数(NDVI: Normalized Difference Vegetation Index)を用いて水田に注目して土地利用・土地被覆を分類する手法を開発した。この手法を青森県のLandsat TM(Thematic Mapper)/ETM+(Enhanced Thematic Mapper Plus)データに適用して水田を検出した。水田とその周囲のミクセルから画素内水田面積率を計算して、2002 年の市町村別水稲作付面積を推定した。ミクセル内の水田面積率100%は田植え期の水域のMNDWI 平均-3σ(Path= 107 は0.15、Path= 108 は0.10)、水田面積率0%は田植え期の土・人工構造物のMNDWI 平均+2σ(= -0.17)だった。その結果、2002 年の青森県の水稲作付面積は、51,283 ha と推定され、統計値52,597 ha の97.5%だった。水田分類精度は93.0~97.7%、水田検出精度は、85.0~97.0%だった。本研究で開発した簡易分類手法を用いることにより、従来の教師なし分類や教師付き分類より作業時間が短縮できた。
  • 安中 勇大, 大石 風人, 安在 弘樹, 三輪 雅史, 熊谷 元, 広岡 博之, 家入 誠二
    2015 年 31 巻 4 号 p. 117-125
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    阿蘇山周辺に広がる草原は古くから火入れ(野焼き)と放牧によって維持されてきたが、後継者不足による放牧頭数と火入れ面積の減少により草原の維持が危ぶまれている。そこで本研究では、1999 年から2014 年の衛星画像を利用し阿蘇の草原の植生量を広域かつ長期にわたり解析し、草原の維持に放牧と火入れが与える影響を定量的に示すことを試みた。熊本県阿蘇市および近隣6 町村からなる170 の牧野を分析対象とし、火入れと放牧の実施状況に関するデータを収集した。また、1999 年から2014 年において、各年火入れ前の時期(時期Ⅰ)、火入れ後の放牧開始時期(時期Ⅱ)、放牧終了後の時期(時期Ⅲ)と3 時期の衛星画像を解析に用いて、各画像につき正規化植生指標(Normalized Difference Vegetation Index: NDVI)を牧野ごとに平均して算出した。その後、3 時期それぞれのNDVI および2 時期間のNDVI の差に対する年次と火入れ、放牧、火入れと放牧の交互作用の影響を調査した。その結果、全ての分析に対して年次と火入れの効果は有意であった(P<0.01)。火入れを実施した牧野でNDVIが低かったことから、火入れは草原の森林遷移を防ぐ効果があることが示された。また、放牧の効果については時期Ⅱおよび時期Ⅲと時期Ⅱの差(時期Ⅲ-Ⅱ)に対してのみ有意であった(P<0.05)。時期Ⅱでは前年放牧を実施した牧野のNDVI が有意に高くなっており、放牧牛が排泄する糞尿により土壌が肥沃となり植物の生長が促進されることが示唆された。また、時期Ⅲ-Ⅱでは放牧を実施した牧野のNDVI が有意に減少したことから、ウシの採食行動により植物量が少なくなることが示された。時期Ⅲでは交互作用も有意に認められ(P<0.05)、放牧を実施した場合では火入れの効果が有意となる一方、放牧を実施しなかった場合では火入れの効果は見られなかった。以上より、火入れは草地の森林遷移を防ぐ効果があり、放牧は火入れとの組み合わせにより森林遷移を抑制する一方、土壌を肥沃にして植物の生長を促進させる効果がある可能性が示唆された。
資料
  • 広岡 博之
    2015 年 31 巻 4 号 p. 127-132
    発行日: 2015/11/30
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    わが国のシステム農学会は1984年4月に設立し、学会誌である「システム農学」は、農業システムに関する広範な専門分野とさまざまな対象を扱う研究の場として1984 年9 月に創刊号が出版された。特に、システム農学会と「システム農学」は当初から農学における学際研究の必要性を強調し、社会・人文科学と自然科学の研究手法の統合を目指すことを目的としていた。本稿では、利用できるデータの違いと研究方法の相違によって社会・人文科学と自然科学における異なる4 つの研究スタイルを特定し、システム農学ではこれら4 つの研究スタイルをすべて受け入れる必要のあることを指摘した。さらに、本稿ではシステム農学のフレームワークと役割について議論し、ライフサイエンスにおけるシステムバイオロジーを例としてシステム農学の新しい方向性を示すことを試みた。
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