発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
28 巻, 2 号
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原著
  • 滝吉 美知香, 鈴木 大輔, 田中 真理
    2017 年 28 巻 2 号 p. 63-73
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究は,社会性の発達において重要な指標となる「気まずさ」の認識について,典型発達(TD)者の発達段階,ならびに自閉スペクトラム症(ASD)者の特徴を明らかにすることを目的とした。TD者214名とASD者111名に「あなたが“気まずい”と感じるのはどういうときですか」と質問し回答を12のカテゴリーに分類し分析した。TD者において,小学生は自己の信念や感情が他者のそれとは異なることへの気づきにより生じる気まずさ(不都合,想定外の言動,ネガティブ感情,感情のズレ),高校生は生活空間や人間関係の広がりにより認識されやすい気まずさ(性・恋愛,他者の存在)に,それぞれ言及しやすいことが示された。ASD者においては,会話で共有される話題や雰囲気を瞬時に把握したり,自分と対照させて関係性をとらえることで引き起こされる気まずさ(雰囲気を乱す,他者の存在)について,年齢発達に伴う認識の増加が示されず,高校以上における言及率がTD者よりも少ないことが示された。また,自分が何をすべきかわからないときや対処できないときに言い出せない気まずさ(不都合)や,失敗に対する気まずさ(想定外の言動)の認識が多いことが示された。ASD者の気まずさ認識の特徴と発達について,TD者と比較検討し,ASD者の気まずさの認識に添った対人関係支援について考察した。

  • 工藤 英美
    2017 年 28 巻 2 号 p. 74-83
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/06/20
    ジャーナル フリー

    幼児は多義図形の反転認知が困難であることが知られている。本研究では,3~5歳児を対象に,①幼児は何歳ぐらいから多義図形の反転が可能になるか,②図形の刺激特性の違いによって反転困難度に違いが生じるか否か,③図形を一旦解体し別の対象として再体制化する過程を経験することによって,最初の見え方から別の見え方への自発的切り替えが促進されるか否か,の3点を調べることを目的として実験を行った。結果は,図形の如何にかかわらず3歳児は1つの見え方しか報告できないが,5歳児になると,図形の違いが反転の困難度に影響するものの,多義図形の2通りの見えを自発的に反転できるようになった。また,図形の再体制化の経験の効果に関しては,3,4歳児では一旦は別の見えを報告できるようになるにもかかわらず,自発的に2通りの見えを反転できるには至らなかった。但し,4歳児では以前自分が報告した見えを想起喚起させれば,2通りの見え方を報告することが可能であった。3歳児はそれでも報告できない傾向がみられた。これらの結果を踏まえて,多義図形の2通りの見えを実在そのものと異なる主観的経験としてメタ表象的に理解できるようになることが,その自発的反転を可能とする条件である可能性について議論した。

  • 日原 尚吾, 杉村 和美
    2017 年 28 巻 2 号 p. 84-95
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/06/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,Eriksonが提唱した否定的アイデンティティの概念に基づいて,否定的アイデンティティを有する青年を抽出し,その抽出手続きが妥当かどうかを検討することであった。研究1では,否定的アイデンティティを有する青年を抽出するために,20答法の記述の分類基準を作成した。そして,大学生を対象に質問紙調査を実施し,否定的アイデンティティを有する者と有さない者で,アイデンティティ達成,罪悪感,基本的信頼感,キャリア探索,職業未決定の得点を比較した。その結果,理論的に予測された通りの得点差のパターンが示された。研究2では,研究1の調査1の対象者から抽出した大学生22名に対して半構造化面接を行い,否定的アイデンティティを有する者と有さない者で回答の内容を比較した。否定的アイデンティティを有する青年は,自己が全体的に社会的に望ましくないという感覚を持つとともに,アイデンティティの危機,罪悪感,基本的信頼感の喪失を経験していることが確認された。以上より,本研究で使用した20答法による抽出手続きによって,否定的アイデンティティを有する青年を適切に抽出できることが示された。

  • 三宅 英典, 杉村 伸一郎
    2017 年 28 巻 2 号 p. 96-105
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/06/20
    ジャーナル フリー

    対人コミュニケーションにおいて,私たちは話者の発話だけでなく,身振りも考慮してメッセージ理解をしている。このように,発話と身振りがそれぞれ独自に伝達する情報を組み合わせて理解をすることを統合的理解と呼ぶ。発話と身振りの統合的理解は幼児期に発達するが,幼児の日常場面において,発話には身振りを指示する指示語発話がしばしば伴うものの,先行研究では指示語発話を考慮した統合的理解の検討がなされてこなかった。そこで本研究では,指示語発話無し条件と有り条件を設定し,3歳~6歳児210名を対象に,発話と身振りの統合的理解の発達を検討した。発話2種類と身振り2種類を組み合わせて作成した4つのメッセージを順番に提示し,4つの選択肢の中からメッセージと一致するものを選択させた。身振りとして,実験1では映像的身振りを,実験2では暗喩的身振りを提示した。その結果,発話情報と身振り情報の両方が正しい統合選択肢の選択割合が,映像的身振りと暗喩的身振りの両方で,指示語発話無し条件よりも有り条件の方が高く,指示語発話が統合的理解を促進したことが明らかになった。また,統合選択肢の割合は,映像的身振りでは加齢とともに高まったが,暗喩的身振りでは各年齢間で差がみられなかった。これらの知見をもとに,幼児期における発話と身振りの統合的理解の発達過程を考察した。

  • 藤野 博, 松井 智子, 東條 吉邦, 計野 浩一郎
    2017 年 28 巻 2 号 p. 106-114
    発行日: 2017年
    公開日: 2019/06/20
    ジャーナル フリー

    自閉スペクトラム症の児童における誤信念理解への言語的命題手がかりの促進効果について検討し,言語力の観点から考察した。参加児は6歳から12歳までの54名の児童であった。介入前のベースライン条件における誤信念課題には25名が通過し,その語彙年齢(VA)の平均は9歳9カ月であった。通過しなかった29名に対し別な誤信念課題を実施した。信念質問の前に「見ることは知ること」の原理を言語的命題として提示することを介入として行った。そして介入条件を通過した8名の児童に対し,般化を確認するためのさらに別な誤信念課題を実施した。また,すべての課題で答えの理由について質問した。般化確認条件を通過した児童は4名であり,うち2名は答えの理由として知覚と知識の関係に言及していた。彼らのVAは10歳11カ月と10歳4カ月であり,他の2名は8歳10カ月と8歳7カ月であった。これらの結果は,言語的命題化はVAが9歳頃のASD児の誤信念理解を促進することを示唆する。そしてVAが10歳を超えると,言語的命題化によって誤信念の理解と般化が可能になると考えられた。

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