発達心理学研究
Online ISSN : 2187-9346
Print ISSN : 0915-9029
32 巻, 2 号
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原著
  • 直原 康光, 坂野 剛崇, 安藤 智子
    2021 年 32 巻 2 号 p. 53-67
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,別居・離婚後に子どもと同居する母親が面会交流を継続していくプロセスを明らかにすることであった。6か月から8年以内に別居または離婚し,面会交流を継続していた10名の母親の語りを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)により分析を行った。分析の結果,母親たちは,<「子どものため」になるか自信のもてない一方で「子どものため」に面会交流を開始>し,<「父親役割」への期待とあきらめの間で揺れながら面会交流を継続>していた。そのプロセスには,<面会交流への不安>と<子どもが離れていかない安心感>との間の揺れや<面会交流が子どものためになることを実感>と<元夫の不誠実な態度が子どものためになるのか疑問>との揺れが認められた。また,これらのプロセスには,離婚後の余裕のなさ,周囲のサポートなどが影響を与えていた。そして,母親たちが感じている困難さ,面会交流を継続できている要因について考察を行った。

  • 大野 愛哉, 田中 真理
    2021 年 32 巻 2 号 p. 68-78
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder;ASD)者の“かわいい”認知に対するベビースキーマ(Baby schema;BS)の影響および“かわいい”認知が視線に与える影響を検討することであった。4~45歳のASD者22名,3~48歳の定型発達(TD)者25名(最終分析;ASD16名,TD24名)に対し,BS度が5段階の顔刺激へのかわいさ評定(5件法)を求め,その際の視線を計測した。結果,主に以下3点が認められた。①かわいさ評定:ASDの有無・BS度を独立変数,かわいさ評定を従属変数とする2要因分散分析の結果,ASD者はBS度がかわいさ評定に影響を与えなかった。②視線:ASDの有無・Area Of Interest(興味関心領域;AOI)を独立変数,注視時間を従属変数とする2要因分散分析の結果,ASD者はTD者に比べ目の注視時間が短かった。③かわいさ評定が視線に与える影響:ASDの有無・かわいさ評定別AOIを独立変数,注視時間を従属変数とする2要因分散分析の結果,ASD者はかわいさを高く評定した刺激の目の注視時間が有意に長かった。以上よりASD者はBS顔刺激を呈示された際,刺激を“かわいい”と評定した際には刺激の目付近を注視する可能性が示唆され,学習における注視の促しなどASD者支援における“かわいい”の適用可能性の基礎となる知見が得られた。

  • 浜田 恵, 伊藤 大幸, 村山 恭朗, 香取 みずほ, 髙柳 伸哉, 中島 卓裕, 明翫 光宜, 辻井 正次
    2021 年 32 巻 2 号 p. 79-90
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,既存の性別違和感尺度を短縮してカットオフ値を設定し,一般小中学生において性別違和感と心理社会的不適応の関連を検証することであった。性別違和感を主訴とするジェンダー外来通院者58名と,小学4年生から中学3年生までの5,221名の一般小中学生から得た大規模データを用いて検討を行った。患者群には子どもの頃を想起して回答を求めた。その結果,性別違和感尺度得点の20点をカットオフ値として妥当と判断した。カットオフ値以上の者は,小学生では,男子0.82%,女子2.02%,中学生では,男子0.60%,女子3.27%だった。さらに,性別違和感が高い者の心理社会的不適応の特徴を明らかにするため,抑うつ,攻撃性,友人関係,食行動異常,自傷行為,非行について,設定したカットオフ値より高い得点を示した小中学生とそうでない者を比較した。その結果,友人関係と食行動異常には交互作用が見られ,性別違和感の高い男子ほど不適応の程度が高かった。その他の項目については性別違和感の高い者がそうでない者よりも不適応の程度が高かった。これら心理社会的不適応が性別違和感のある本人だけの問題ではなく,周囲の対応や関わりが影響している可能性について考察した。

  • 伊藤 大幸, 浜田 恵, 村山 恭朗, 髙柳 伸哉, 明翫 光宜, 辻井 正次
    2021 年 32 巻 2 号 p. 91-104
    発行日: 2021年
    公開日: 2023/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究では,自由時間における多様な活動(学習,読書,外遊び,テレビ,ゲーム,携帯電話)が,小中学生の心理社会的適応,具体的には,学業面(学業成績)および情緒・行動面(向社会的行動,友人関係,抑うつ,攻撃性)にどのような影響をもたらすかを,5408名の小中学生から得られた大規模な縦断データ(男子2729名,女子2679名)に基づいて体系的に検証した。因果関係の検証に用いた2つのモデル(遅延効果モデルと同時効果モデル)の結果はほぼ一致しており,(1)学業面に対しては学習,読書が肯定的な効果を持つ一方で,外遊びが否定的な効果を持つこと,(2)情緒・行動面に対しては,外遊び,学習が肯定的な効果を持つ一方で,読書,ゲーム(単独プレイ)が否定的な効果を持つことが示された。こうした結果から,学業面の発達には屋内での認知処理を伴う活動,情緒・行動面の発達には友人や親などの他者との相互作用を伴う活動が寄与することが示唆された。これらの結果は欧米の研究知見とは必ずしも一致しておらず,わが国の社会文化的特徴を色濃く反映したものであると考えられる。

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