本研究の目的は,Self-Concept and Identity Measureの日本語版(SCIM-J)を作成し,妥当性と信頼性を検証することである。SCIMを日本語訳したうえで,大学生400名および18歳以上の成人600名を対象としたインターネット調査を行った。確認的因子分析の結果,SCIM-Jの因子構造は,1項目を除いて原版と同じく,「統合された同一性」,「混乱した同一性」,「同一性の欠如」の3因子構造であることが確認された。多母集団同時分析の結果,性別の等質性が確認された。SCIM-Jの項目についての内的一貫性および再検査信頼性はともに良好であった。SCIM-Jの下位尺度の基準関連妥当性は,同一性の構造と形成過程のほか,同一性障害,抑うつ,感情調整困難性,境界性パーソナリティ特性,自傷傾向といった精神病理的指標との関連から評価された。その結果,「統合された同一性」の適応性と「同一性の欠如」の不適応性が示された一方,「混乱した同一性」は適応的,不適応的指標との関連が示され,健全な発達における同一性の危機を測定しているものと考えられた。これらの結果から,SCIM-Jは成人の同一性の問題における精神病理的側面を測定する尺度として,妥当性と信頼性をもつことが確認された。
【インパクト】
SCIM-Jは,DSM-5でパーソナリティ障害についての代替診断モデルが発表され,その基準に同一性が含まれたことを受けて作成された新しい同一性測定尺度であり,臨床的な同一性の問題を評価できる。本研究でSCIM-Jの妥当性と信頼性が示されたことで,これまであまり重要視されてこなかった成人の同一性の問題がメンタルヘルスに与える影響について,SCIM-Jを用いた簡便なアセスメントの可能性が示された。
本研究は,攻撃性や多動性などの外在化問題への保育者による対応が,保育者の認知(外在化問題に対する評価,背景要因の推定)及び保育方法,保育経験年数とどのように関連するのかを定量的に検討した。保育者を対象にアンケート調査を実施し,628名の回答を分析した。評価と対応について,「責任性」は不適切な対応を含む多様な対応と正の関連が認められた。背景要因の推定と対応について,「保育環境」の推定は不適切な対応と負の関連,その他の多様な対応と正の関連が確認された。また,子どもに関する要因や家庭に関する要因の推定は不適切な対応と部分的に正の関連があった。そして,保育方法と対応について,「保育者主導・一斉保育志向」は,多様な対応とも正の関連を示すものの,不適切な対応と直接的に正の関連を示した。一方,「子ども中心・個別保育志向」は,不適切な対応を除く多様な対応と正の関連を示した。最後に,保育経験年数と外在化問題に対する認知や対応との関連は,保育方法と比べて相対的に低い関連であった。以上から,外在化問題に対して保育者は多様な対応をしているものの,不適切な対応も含むことが分かった。そして,保育者の認知や保育方法によって対応は異なることが明らかとなった。
【インパクト】
多くの保育者が対応に困難さを感じる外在化問題に関して,対応と関連する要因を総合的に検討した。その結果,外在化問題への保育者による不適切な対応を防ぐためには,背景要因として保育に関する要因を推定することと,保育者主導で一斉志向の保育を弱めることの重要性が示唆された。背景要因の推定,保育方法ともに介入可能な要因であることから,本研究の結果に基づいた保育者支援の開発が期待できる。
ある行動がもたらす副次的な結果の道徳的善悪によってその行動の意図性に関する判断が左右されるという副作用効果は幼児にも観察される。行動の意思決定者とその行動の副作用を引き受ける相手との親疎関係が副作用効果に影響を与えることが示されてきたが,行為者の行動の意図性を判断する者と行為者の関係性も影響を与えるのかは明らかではない。そこで本研究では,最小条件集団パラダイムを用いて内集団・外集団を構成することで実験参加者と行為者の社会集団を操作し,行動の意図性判断に及ぼす影響について検討した。また,行動の意図性判断との関連が仮定される行動ならびに行為者の善悪判断についても実際に関連がみられるかを検討すると同時に,集団帰属による影響についても検討した。その結果,幼児における副作用効果は追試されたものの,行為者が内集団メンバーだった場合,行動の意図性判断は副作用の正負に影響を受けなかった。また,行動や行為者への評価は行動の意図性判断と関連し,いずれも正の副作用が生じた場合には善,負の副作用が生じた場合には悪と判断された。ただし,行動への評価については,正の副作用が生じた場合においてのみ,行為者が内集団である場合に外集団である場合より善と多く判断された。本結果から,行動の意図性判断と行動の評価は,行為者の行動の意図性に関する判断者と行為者が所属する社会集団の同異が影響を与える可能性が示された。
【インパクト】
本研究は,正負の副作用を伴った行動の意図性を幼児が判断する際に,その判断者である幼児自身と行為者との社会集団の同異が影響を及ぼすことを初めて明らかにしたものであり,行動の意図性判断に作用する要因の1つを特定した点にインパクトがある。行動の意図性を判断する者と行為者との間に何らかの社会的関係が存在することは現実的に多く,日常のコミュニケーションにおける行動の意図性判断を考えるうえでも有用である。
性犯罪被害を受けた子どもから,被害を受けた時の洋服の着脱状況について詳細な情報を得ることは,犯罪捜査において重要である。そこで本研究では,洋服の着脱状況に関する詳細な情報を得るための質問方法を明らかにするために,5~6歳の未就学児を対象とした実験を行った。本研究で検討した質問方法は,①はい・いいえ質問,選択式質問,選択式質問に「選択肢がどっちとも違う」を加えた質問(以下,選択式質問+以外),WH質問の4つの質問条件による回答内容,②クローズド質問の後で,自由報告を促す質問で尋ねるペアリングによって得られる回答内容,③選択式質問+以外の後続の質問に対する回答内容への影響,である。分析の結果,はい・いいえ質問と比較して,選択式質問は簡潔な回答が多く,WH質問は詳細な回答が多かった。また,ペアリングを用いることで詳細な回答が引き出せることが示された。さらに選択式質問+以外について,質問で提示された選択肢を回答することを回避し,後続の質問に対して詳細な回答が得られることが示された。得られた知見から,司法面接に対する応用的示唆を考察した。
【インパクト】
本研究は,子どもから洋服の着脱状況に関する情報を得るための質問方法について,はい・いいえ質問と比較して,詳細回答はWH質問,簡潔回答は選択式質問のほうが多いことや,クローズド質問の後で自由報告を促す質問をすると詳細回答が得られることを実証的に明らかにした。さらに,「A?B?それともどっちとも違う?」という質問には,質問で提示された選択肢を回答することを回避する効果が示された。