臨床神経生理学
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43 巻, 6 号
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解説
  • 井上 岳司, 池田 昭夫
    2015 年 43 巻 6 号 p. 477-481
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー

    頭皮電極で記録される, てんかん性放電である棘波, 鋭波の発生機構は, 突発性脱分極変位 (paroxysmal depolarization shift: PDS) であり, 通常表面 (頭皮上) 陰性, 深部陽性となり, 尖頂樹状突起の長軸に一致した双極子 (dipole) を形成し, 頭皮上脳波では陰性棘波として記録されることが多い。あるいは皮質が全層性に脱分極しても陰性棘波となる。一方, 頭皮上脳波で, 陽性棘波 (positive spike) が主体となることは臨床上まれであり, その発生機序の理解には, 双極子の向きと極性, solid angle (立体角) についての理解が重要となる。本稿では, てんかん外科による皮質切除後の症例, 周産期の硬膜下血腫に伴う外科術後の広範な脳組織の欠損症例で, いずれも陽性棘波を呈した2症例を提示した。大脳組織が損傷された状況で陽性電位のみが選択的に分布, あるいは恐らく大脳円蓋部に対し接線方向に双極子 (tangential dipole) が分布していると考えられた。また, 陽性棘波と鑑別を要する脳波所見, 原因として考慮すべき疾患についても述べた。

特集「てんかん性wide-band EEGの記録と解析のコンセンサスへ : DC電位 (緩電位) と高周波振動 (HFO) 」
  • 池田 昭夫
    2015 年 43 巻 6 号 p. 482
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー
  • 池田 昭夫
    2015 年 43 巻 6 号 p. 483-488
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー

    ヒトのてんかん焦点活動を, 神経細胞とグリア細胞の視点から脳波活動を分析することによって病態を解明するアプローチが, 基礎と臨床の相互のtranslatabilityとしててんかん病態の理解やてんかん外科の術前脳機能評価に応用されつつある。てんかん性DC電位 (緩電位) の発生機構として, 1) 神経細胞群がてんかん性に過剰興奮 (=突発性脱分極変位) し, 脱分極性の膜電位変動 (=フィールド電位に反映される) が遷延した状態, 2) 上記の細胞外Kの上昇によりグリア細胞に受動的な脱分極が起こり, それに対応したフィールド電位変化を増幅した状態, 3) グリア細胞が能動的に膜電位変動をきたし, 緩徐な律動的変動を示した状態, が現在想定されている。今後, DC電位 (緩電位) とHFOを比較して, マクロ記録, ミクロ記録の検討を行うことで, 両者の発生機構がより明瞭になることが期待される。

  • 金澤 恭子, 池田 昭夫
    2015 年 43 巻 6 号 p. 489-496
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー

    1. てんかん患者の侵襲記録での発作時DC電位は, 3秒以上持続する主に陰性 (時に陽性) の電位で, 時定数を0.1秒から10秒に変更するとより明瞭となり, 各患者において出現部位, 波形, 持続時間, 振幅に再現性のあるものと, 臨床的には定義される。2. 上記の定義のDC電位 (厳密には緩電位) は, 交流増幅器の時定数を10秒とし, 以下の設定条件で記録可能である。(1) 入力インピーダンスの高い増幅器を使用する。(2) 非分極電極材質が望ましいが, 銀/塩化銀電極は脳組織障害性があり硬膜下記録で使用できないため, 分極電極だがDC電位を記録可能な白金を用いる。(3) 電極の記録表面積は理論上大きい方がよい。3. システム基準電極としては, 頭蓋内電極と同じ材質である白金電極を使用し, 手術側と対側の乳様突起部頭皮上に装着する。4. データ表示と解析: オンライン以外に詳細な解析のためオフラインの信号解析ソフトも併用する。5. データの解釈には, ドリフト雑音との鑑別のため, 再現性の確認が重要である

  • 大坪 宏, 諸岡 光, 馬場 史郎
    2015 年 43 巻 6 号 p. 497-498
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー
  • 秋山 倫之
    2015 年 43 巻 6 号 p. 499-503
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー

    高周波振動 (high-frequency oscillations: HFO) は, γ帯域を超える80 Hz以上の脳波活動である。てんかん性HFOはてんかん原性領域の代理マーカーとして注目されており, てんかん外科の成績向上に貢献が期待されている。しかし, その記録法や判読法は施設によって差異が大きいのが現状である。HFOの記録にはサンプリング周波数2 kHz以上, アンチエイリアシングフィルタ600 Hz以上が推奨される。頭蓋内電極の接触面積は0.2~5 mm2が望ましい。HFOの適切な表示には, 日本光電製ビューワの場合, モニタの水平ピクセル数1,920以上, 高域遮断フィルタオフ, 時定数0.001–0.003秒 (低域遮断フィルタとして53–160 Hz), 感度1~5 μV/mm, タイムスケール0.5~1秒/ページが推奨される。コンピュータを用いたHFOのスペクトル解析と自動検出についても触れることにする。

解説
  • 桑原 聡
    2015 年 43 巻 6 号 p. 504-508
    発行日: 2015/12/01
    公開日: 2016/12/30
    ジャーナル フリー

    3カ月の経過で左手内筋の筋力低下・萎縮を呈した69歳女性例を提示した。臨床的に母指球筋 (APB) と第一背側骨間筋 (FDI) が高度に萎縮し, 小指球筋 (ADM) が保たれていたことから筋萎縮性側索硬化症 (ALS) を疑い, 系統的な針筋電図で広汎な脱神経所見を認めた。ALSではsplit handと呼ばれる特異的な小手筋萎縮のパターンが認められ, 注目されている。APBとFDIが優位に萎縮し, ADMが保たれるために手の外側筋群が萎縮し内側が保たれて萎縮の有無を分割するような線が引ける (split) ことから命名された。いずれの筋肉も同じ髄節 (C8–T1) 支配であり, この解離性筋萎縮は解剖学的には説明できず, ALSに特異的とされている。Split handは神経伝導検査において上記3筋の複合筋活動電位振幅で定量できる。Split handのメカニズムとして皮質運動ニューロンレベルで母指球側筋が優位に障害される中枢説と, 脊髄運動ニューロンにおいて母指球筋支配軸索の興奮性が生理的に高いことによる末梢説が提唱されている。母指球筋は小手球筋と比べてヒトの日常動作において使用頻度が高いために, 代謝要求が高く, 酸化ストレスに暴露されやすい。Split handはALSにほぼ特異的に認められ, 臨床診断における意義は非常に高い。

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