頭皮電極で記録される, てんかん性放電である棘波, 鋭波の発生機構は, 突発性脱分極変位 (paroxysmal depolarization shift: PDS) であり, 通常表面 (頭皮上) 陰性, 深部陽性となり, 尖頂樹状突起の長軸に一致した双極子 (dipole) を形成し, 頭皮上脳波では陰性棘波として記録されることが多い。あるいは皮質が全層性に脱分極しても陰性棘波となる。一方, 頭皮上脳波で, 陽性棘波 (positive spike) が主体となることは臨床上まれであり, その発生機序の理解には, 双極子の向きと極性, solid angle (立体角) についての理解が重要となる。本稿では, てんかん外科による皮質切除後の症例, 周産期の硬膜下血腫に伴う外科術後の広範な脳組織の欠損症例で, いずれも陽性棘波を呈した2症例を提示した。大脳組織が損傷された状況で陽性電位のみが選択的に分布, あるいは恐らく大脳円蓋部に対し接線方向に双極子 (tangential dipole) が分布していると考えられた。また, 陽性棘波と鑑別を要する脳波所見, 原因として考慮すべき疾患についても述べた。
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