臨床神経生理学
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51 巻, 3 号
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原著
  • —視線追跡装置を用いた検討—
    角川 広輝, 高崎 浩壽, 末廣 健児, 石濱 崇史, 鈴木 俊明
    2023 年51 巻3 号 p. 89-95
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    運動観察において, 視線の動向が脊髄前角細胞の興奮性に及ぼす影響について視線追跡装置とF波を用いて検討した。健常成人31名を対象に, 座位で右尺骨神経刺激により右小指外転筋から安静時のF波を導出した。4分間の休息後, 映像を提示し視線追跡装置で視線の動向とF波を測定した。映像課題は母指以外の4指の屈曲運動 (課題A) と小指の屈曲運動 (課題B) を用い, 各課題にて自由観察条件と注視条件を設けた。統計学的解析には振幅F/M比相対値と映像上に設定した小指の興味領域内に留まった停留時間を用いた。振幅F/M比相対値, 停留時間ともに課題Aの自由観察条件と比較し課題Aの注視条件, 課題Bの両条件で高値を示した。課題Aは課題Bに比べ視覚的情報量が多く, 自由観察条件では小指に視線は向かず脊髄前角細胞の興奮性は変化しなかった。つまり, 運動部位を注視することが脊髄前角細胞の興奮性を高める要素と推察する。

  • スドスキャンと神経伝導検査による検討
    馬場 正之, 小林 恵輔, 三橋 達郎, 藤田 朋之, 樽澤 武房, 川嶋 詳子, 松井 淳, 小川 吉司
    2023 年51 巻3 号 p. 96-104
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    【目的・方法】2型糖尿病 (T2DM) における小径線維 (SF) と大径線維障害 (LF) の関係を知るために, T2DM患者168名でスドスキャンSudoscan (SS) による電気化学皮膚コンダクタンス (ESC) と神経伝導検査 (NCS) による糖尿病神経障害重症度馬場分類 (BDC) の関係を調べた。SSはフランスで開発された末梢C線維機能検査で本邦未導入であるため, SSの有用性についても検討した。【結果】BDCで検討症例の75%にLF障害が把握された。SSによる足底ESC低下率は47%で, BDC-0度群の21%にESC低下があった。ESC低下度・低下頻度とBDC進行の間には正の相関 (p<0.001) がみられた。【結論】T2DMではSFとLFが平行的に障害される。SSの診断感度はNCSにやや劣るが, SSはLF障害が軽度な神経障害初期のSF障害把握に有効である。本邦神経障害診療現場への速やかな導入が期待される。

特集「ウエラブル機器による生体活動の測定」
  • 石井 良平, 木下 利彦
    2023 年51 巻3 号 p. 105-106
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー
  • 畑 真弘, 宮﨑 友希, 髙橋 隼, 城間 千奈, 上野 慶太, 石井 良平, 柳澤 琢史, 池田 学
    2023 年51 巻3 号 p. 107-111
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    少子高齢化が急速に進行する本邦では, 認知症疾患は急激な増加傾向を示しており, 安価で簡便ながら高精度な認知症疾患のスクリーニング検査が必要とされている。脳波は脳神経活動への鋭敏さやアクセスのしやすさから, 低コストで非侵襲なバイオマーカーとして認知症診療で期待されている。本稿では, 認知症疾患に関する従来の神経生理学的な知見を概説するとともに, 脳波データに人工知能を適用した自動解析の試みや手軽に測定できるシート式脳波計を用いた取り組みを紹介する。これらの新しい技術を駆使することで, 認知症疾患のスクリーニング検査への活用などの発展が期待できる。

  • 西澤 由貴, 積 知輝, 篠崎 元
    2023 年51 巻3 号 p. 112-118
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    せん妄は入院中の高齢者において頻度が高く, 予後の悪い疾患であるため, 早期発見, 介入が重要であるが, 見過ごされやすく適切な治療が行われないことも多い。現在よく使用されているせん妄スクリーニングツールであるConfusion Assessment Method (CAM) などは感度や特異度は優れているとされるものの, 多忙な臨床現場においては感度が著しく低下することが報告されている。その一方で脳波計によってせん妄が検出できることは以前より良く知られており, diffuse slowingと呼ばれる全電極での徐波が特徴的所見とされている。しかしながら, 電極の配置や判読には専門的知識が必要とされており, 機器自体も大きいためスクリーニングツールとしては使用しづらい。そこで我々は, せん妄の特徴的所見に着目して, 限られた電極から得られる脳波を用いたBESEEG (bispectral EEG) と呼ぶ独自のアルゴリズムを開発し, せん妄の検出や転帰予測に用いることができることを示した。本稿では, これまでの研究の概要と発展の過程, 研究成果を示したうえで, 今後の展望について述べる。

特集「MMN」
  • 住吉 太幹, 樋口 悠子
    2023 年51 巻3 号 p. 119
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー
  • 小松 三佐子
    2023 年51 巻3 号 p. 120-125
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    脳は, 時々刻々と入力される刺激に対し絶え間なく般化と予測 (予測符号化; predictive coding) を行っている。予測符号化の枠組みでは, 脳は常に感覚入力の予測を生成し, 実際の入力との比較に基づく予測誤差に応じて内部モデルを更新する。しかしながら予測符号化の重要な特徴である階層性の神経基盤はまだ十分に分かっていない。一方, 統合失調症などのバイオマーカーとして期待されるミスマッチ陰性電位 (MMN; mismatch negativity) はしばしば予測符号化の枠組みで議論されており, 予測符号化の神経基盤を解明することは病態生理の解明に寄与すると期待される。本稿では, local-global paradigmと呼ばれる, 2つの異なる時間的規則で設計された聴覚刺激を用いた霊長類研究について, 予測符号化の時空間的階層性に着目して概説した。

  • 切原 賢治, 多田 真理子, 越山 太輔, 藤岡 真生, 臼井 香, 西村 亮一, 荒木 剛, 笠井 清登
    2023 年51 巻3 号 p. 126-130
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    統合失調症でミスマッチ陰性電位 (mismatch negativity: MMN) が低下することは繰り返し報告されているが統合失調症の早期段階を対象とした研究において, MMNはハイリスクですでに低下していること, 全般的機能や認知機能と関連すること, ハイリスクの予後を予測すること, グルタミン酸血中濃度と関連することが明らかになった。これらの結果から, MMNは統合失調症の早期段階における有用なバイオマーカーとなることが期待される。また, MMNは受動的な課題で測定することができ, 皮質脳波や動物実験においてもヒトでの頭皮脳波と同じ課題で測定することが可能であり, translatable biomarkerでもあると考えられる。MMNをバイオマーカーとして用いる研究の進展により, 統合失調症の早期段階の病態解明さらには新規治療法や予防法の開発につながることが期待される。

  • 水井 亮
    2023 年51 巻3 号 p. 131-134
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    注意欠如・多動症 (attention-deficit/hyperactivity disorder: ADHD) は, 発達に不相応な著しい不注意, 多動性, 衝動性といった行動上の特性によって特徴づけられる神経発達症である。ADHDに関する生物学的研究は, 神経心理学, 神経解剖学, 神経化学, 神経生理学, 神経薬理学, 遺伝学など様々な視点から行われている。ADHDについての臨床研究の多くが情報処理の最終産物をみているにすぎない。そこで我々はその最終産物に至るまでの過程においての大脳活動を調べることができる事象関連電位 (event-related potentials: ERP) に注目し検討を行ってきた。本稿では, これまでの精神生理学的研究について概説した上で筆者らが行っているERPを用いた治療効果判定についても紹介し, ADHDの生物学的研究をどのように臨床応用できるのかについて考察する。

  • 星野 大, 荒川 英香, 錫谷 研, 板垣 俊太郎, 矢部 博興
    2023 年51 巻3 号 p. 135-137
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    事象関連電位の一つであるミスマッチ陰性電位は様々な音の差異を検出して発生する脳波である。研究で用いられる刺激も様々であるが, 一般的には持続長変化課題 (Duration change task) と周波数変化課題 (Frequency change task) が用いられる場合が多い。本論では音刺激の差異を検出する前提となる聴覚情景分析について時間統合と音脈分凝の機能についてふれ, 現在までの研究で判明している差異の検出に関する傾向を概括し, 特に周波数変化課題について実施中の研究内容を交えて解説する。

  • 志賀 哲也, 三浦 至, 矢部 博興
    2023 年51 巻3 号 p. 138-142
    発行日: 2023/06/01
    公開日: 2023/06/03
    ジャーナル フリー

    ミスマッチ陰性電位 (MMN) は脳内の予測符号化理論に基づき, これから入力される刺激の予測と, 新しく入力された刺激の比較によって生じた予測誤差を反映している。統合失調症でのMMN減衰は一貫した生理学的異常所見として報告されており, 発症ハイリスク期において, 持続長変化MMNの減衰がその後の発症を予測しうるという研究が近年相次いで発表されてからは, 同疾患のリスクバイオマーカーとしても期待されるようになった。ドパミンD2受容体遮断作用のある抗精神病薬は, 統合失調症治療に反応してMMNも改善するというエビデンスは乏しいものの, いくつかの非定型抗精神病薬はMMNを改善させるという報告もある。また, その他の新規に試みられるようになった治療方法についても, MMNへの影響は検証されてきている。こういった一連の研究からも, MMNはシナプスの可塑性を反映し, 今後治療反応性や副作用を定量的に評価するためのバイオマーカーとなりうる可能性が示唆される。

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