著者らは,断層変位を受ける構造物のフラジリティ評価において,知識・データ不足に起因する認識論的不確かさを考慮した評価手法の提案を行っている。本提案における,フラジリティ評価のための最適評価モデルの策定では,台湾石岡ダムの被害事例を分析し,断層変位を受ける構造物フラジリティ評価における重要な論点を整理した。また,同整理に基づき全体応答および局所応答を評価するモデルを用いて再現性の確認を行い,最適評価モデルの妥当性を確認した。本稿では,提案の概要および妥当性確認の内容について報告する。
2017年長野県の裾花ダムにおいて,洪水調節中の常用洪水吐きのゲートが吞口敷高に達した堆砂および沈木等により操作不能となった。同事象はダムの機能上許容できないリスクであり,また他ダムも含めた再発防止のため,同事象の発生要因の特定と対策を行う必要がある。そこで本研究では,主に土砂や沈木等の通過を考慮していない常用洪水吐きの高圧ローラゲートを対象に,土砂および沈木に起因するゲート操作不能に関するフォルトツリーを作成し,各リスク要因を体系的に整理するとともに,裾花ダムにおける操作不能シナリオの定量的な分析を試みた。