機動的にロックフィルダムの振動特性を求めるために,常時微動計測を利用する方法について検討した。ダムが立地する山間部では常時微動の振幅レベルが微小であるため,堤体が十分に励起されないことが懸念される。そこで,複数種のセンサーによる計測を実施して,計測データの妥当性について確認した。また,堤体の増幅特性について,常時微動計測結果と地震観測記録との比較を行い,両者の関係性について検討した。最後に,天端における水平方向の複数点で常時微動計測を行い,フィルダムの振動形状を求めた。
近年,日本では既存のダムの運用高度化が求められている。そのなかで発電ダムの治水への活用が検討されているが,治水と発電の利益相反やデータ不足等により十分な検討は進んでいない。本研究では,発電ダム群でカスケードモデルを作成し,無効放流を減らしつつ治水効果を改善する事前放流方法を検討した。結果として,予測雨量を用いた事前放流操作の追加により一洪水あたり平均0.7億円相当の無効放流の削減ができ,また連携操作と事前放流操作を組み合わせることで治水にも一定の効果があることが示された。
一般にダムの耐震設計では基礎地盤を含めた連成系の動的解析が行われる。この際,地盤表面で与えられた地震波(設計加速度)を地盤モデル底面である基盤に引き戻し,これを基盤加速度として入力して系全体の動的応答解析が行われる。本稿は,このような地震波の引戻しの物理的な意義と効果について理論的な解釈と考察を加え,あわせて地震波の引戻しを行う際の解析上の留意点について論じたものである。
2019年台風第19号時に大規模出水が発生したダム流域の長時間アンサンブル降雨予測情報に統計的ダウンスケーリング手法を適用し,大型台風接近時における長時間アンサンブル降雨予測の適用性と効果的な事前放流方法についてモデル解析を行った。その結果,長時間アンサンブル降雨予測を用いて総降雨量,必要な洪水貯留量および回復可能量を経時的,確率論的に把握できることが示された。それに基づき,事前放流の早期開始および降雨予測の変化に適応した放流量設定の考え方を整理し,その算定方法を提案した。
ダム本体や関連構造物の耐震性能照査を進めるに当たって,過去のダム構造物の地震被害事例を収集・整理し,その構造物の耐震性能を分析することは重要なことである。本論文は,大規模地震における国内外のダム本体ならびに関連構造物に関する被害事例を収集・整理し,各ダム型式ならびに各関連構造物の被害実態を分析するとともに,この地震被害実態に基づいて今後のダムの耐震性能照査において留意すべき事項を考察した。
新桂沢ダム堤体建設工事は,幾春別川総合開発事業の一環として,約60年前に建設された北海道初の多目的ダムである桂沢ダムを,ダム軸を同じくして11.9m嵩上げする工事である。ダム高を1.2倍にすることにより貯水池の総貯水容量が1.6倍となる効率の良いダム再開発である。直轄ダムでは初となる同軸嵩上げを,冬期の5カ月が打設休止となる北海道において約2年で打設した。原石採取・骨材製造を含めたコンクリート打設実績と嵩上げダム施工上の特徴について報告する。