木材の生物劣化箇所をサーモグラフィー法によって検知することの可能性を知るため,腐朽のモデルとして人工的に表面を穿孔したあるいは内部に空洞を設けた小試験体について,予備的な検討を行った。ここでは,試験体の各部分間の熱特性の差異を顕著にするため,試験体を冷却した後に常温(室温)に戻す過程,あるいは,加熱した後に常温に戻す過程で試験体に人為的に熱流を生じさせ,この時の表面温度の経時変化をサーモグラフィーによって測定する手法を用いた。両過程において,次の結論を得た。
1. はげしい劣化によって木材の表面に穿孔が在る場合をモデル化して,材面に繊維方向に直交する穴を穿った試験体では,穴の中央部(底部)と穴の外部(無欠点部分)との間の温度差が大きかった。したがって,試験体の温度を変化させた際の表面温度をサーモグラフィー法を用いて測定することによって,はげしい生物劣化による材面の穿孔や凹凸を検出することは可能であると考えられる。
2. 木材の表面は健全であっても内部にはげしい劣化が存在する場合をモデル化して,内部に空洞を設けた試験体において,閉鎖された内部空洞の上部と穴の外部(無欠点部分)との間の温度差は,ほとんど認められないか僅かであった。したがって,空洞までの深さが材表面から5mmあるいは2.5mmの場合,試験体の温度を変化させた際の表面温度をサーモグラフィー法を用いて測定し,内部空洞を検出することには限界があることが明らかになった。
材内部の劣化の検出を可能にし,本方法の実用化を計るためには,非測定物に人為的な熱流を簡便にかつ短時間で生じさせる手法の検討・改良が必要である。
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