真菌類が放散する揮発性有機化合物(FVOCs)の中には生物活性を有する化合物が存在しており,生物活性を介して生物間相互作用における情報伝達物質として機能することが示唆されている。本研究は,木材腐朽菌間の相互作用においてFVOCsが果たす機能に関する知見を得ることを目的とした。その第一段階として,木材腐朽菌が放散するFVOCsが有する生物活性を,菌糸成長の変化を指標として評価した。13種のFVOCsを7種の木材腐朽菌に曝露した結果,2,5-dimethylfuranのみが供試した全ての菌種に対して強い菌糸成長抑制作用を示した。その他のFVOCsに対する反応は,菌種によって異なっていた。さらに,6種の炭素数8のFVOCsを用いて,FVOCsの濃度が菌糸成長に及ぼす影響を調査した。このとき,Gloeophyllum trabeumとGanoderma mastoporumを対象とした。その結果,FVOCsが菌糸成長に与える影響は,濃度によって異なることが明らかになった。以上のことから,木材腐朽菌は異なるFVOCsをそれぞれ認識していること,また,FVOCsに対する感受性は菌種によって異なることが示唆された。
我が国では,CLTの需要拡大を図るため土木分野における利用技術の開発が推進されている。本研究では,CLTの土木利用の推進の一環として橋梁床版としての利用を想定し,鉄道まくら木の処理に用いられている油剤のナフテン酸銅(NCU-O)やクレオソート油を用いたCLTの保存処理技術を確立するため,スギ(Cryptomeria japonica),トドマツ(Abies sachalinensis)およびカラマツ(Larix kaempferi)の心材ラミナを用いて製造した実験室レベルのCLT試験体(3層3プライ,幅420mm,長さ850mm)を用いた検討を行った。加圧処理によるNCU-Oとクレオソート油の注入量は同程度であり,いずれもスギ>トドマツ>カラマツの順で多かった。また,加圧処理によるNCU-Oの浸潤度はクレオソート油よりも高く,スギCLT試験体とトドマツCLT試験体では全断面に対してほぼ100%の浸潤度が得られた。また,いずれの薬剤も,浸漬処理や塗布処理では内層にほとんど浸透しないことが確認されたが,NCU-Oを用いたスギCLTでは表層10mmで加圧処理に匹敵する浸潤度が得られることが確認された。また,いずれの処理についてもCLTの初期の接着性能に対する影響はほとんどないと考えられた。
近年,保存処理木材には高い寸法精度と安定した保存処理品質が求められている。そこで本研究では深浸潤処理法のための新規薬剤「モクボーHP」を開発し,その性能評価を行った。インサイジングしたヒノキ,ベイマツ,オウシュウアカマツ集成材を対象に,「モクボーHP」希釈液(有効成分 : ヘキサコナゾールとして0.37%,ペルメトリンとして0.43%)を動力噴霧器を用いて,0.5MPaの圧力で試験体の材面4面に吹付処理した。その結果,一定の付着量(400g/m2以上)を確保することで,AQ認証基準を満たす浸潤度が得られることが確認された。また吸収量分布の測定により,2種類の有効成分(ヘキサコナゾールとペルメトリン)が同等の比率で浸透していることが示された。さらに,防腐・防蟻性能についてJIS K 1571 : 2010に準拠した室内試験および野外試験を実施した。室内防腐試験ではヘキサコナゾールの吸収量が0.11kg/m3以上でオオウズラタケおよびカワラタケによる質量減少率が0%となり,室内防蟻性能試験ではペルメトリンの吸収量が0.12kg/m3以上でイエシロアリによる質量減少率が0%となることが確認された。野外試験・ファンガスセラー試験においてもこれらの吸収量でJIS K 1571 : 2010に規定される性能基準を満たすことができた。以上の結果から,「モクボーHP」は表面処理用(油溶性)-深浸潤用木材保存剤として十分な性能を持つことが示された。