九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第32回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • 体幹前屈までに何が起こっているのか
    長田 悠路, 渕 雅子
    セッションID: 1
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    歩き始め動作や足あげ動作などでは、運動前に生じる逆応答(移動側と反対方向への圧中心の移動)が動作開始の円滑性や効率性に貢献している。健常者の起立動作においても、動作開始に先行した足部床反力の減弱が圧中心(以下COP)の後方移動を引き起こし、これが重心の前方移動を効率的に引き起こしている。この現象が脳卒中患者で観察されるか否か、その逆応答の大きさと起立動作時間の相関関係を分析することが本研究の目的である。
    【対象】
    著名な関節可動域制限・足関節の痙性・高次脳機能障害を有さない片麻痺患者37名(平均年齢57.8±14歳、発症後期間平均212.1±301.3日、平均身長161.2±7.7cm、平均体重58.0±10.4Kg)。
    【方法】
    承認された倫理審査に従って、インフォームドコンセントが得られた患者に対してのみ計測を行った。開始姿勢は、大腿長中点の深さまで木製40cm台に座り、両手を下方に垂らすものとした。その後、起立動作を3次元動作解析装置(VICON MX)・床反力計(AMTI社製)にて計測した。そして動作開始時に起こるCOPの一時的な後方偏移量を時間で積分した値(以下逆応答量)と動作時間(肩峰動きだしから殿部離床まで)の相関をspearmanの順位相関係数にて検定した(危険率1%)。また、体幹前屈が開始する以前に生じる足部床反力減少のパターン分類(両側減少群、一側のみ減少群、非減少群)を行い、群間における逆応答量の違いを多重比較による一元配置の分散分析(Fisher's PLSD法)にて検定した(危険率1%)。
    【結果】
    離殿までの時間と逆応答量の間に中程度の相関(r=-0.66、P<0.01)がみられ、逆応答量が多い患者ほど離臀までの時間が早かった。動作に先行した足部床反力のパターンは、両側減少群13名、一側のみ減少群12名、非減少群12名に分類可能であり、逆応答量について全ての群間で有意な差(P<0.01)が認められた。
    【考察】
    3名を除く全ての患者に逆応答が観察され、離臀までがスムーズに行える患者では、健常者同様の姿勢制御(体幹前屈開始に先行した足部床反力低下が引き起こす逆応答の出現)が観察された。動作時間と逆応答量に負の相関がみられたことから、時間的・空間的にCOPの後方移動が大きいことが重心前方加速を素早くすると考えられる。一方、離臀に時間を要す患者は逆応答量が少なかったことから、COPと身体重心のずれ(力学的に不均衡な状態)を作り出さず、徐々に体幹を倒す開始パターンをとったと考えられる。また、一側のみよりも両側の足部床反力減少が起きた患者群でより大きな逆応答が出現したことから、静止坐位という力学的安定状態を合目的的に崩す引き金として、両足部床反力を減弱させることがより効率的であることが分かった。以上のことから、本研究の臨床的意義として、より大きなCOP後方移動を引き出すために、わずかな足部挙上が出来るような、体幹前屈に先行した股関節・体幹屈筋群の活動性を引き出すことの重要性が示唆された。
  • 長野 毅, 松崎 哲治, 堺 裕
    セッションID: 2
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    機能的片麻痺歩行評価表(Functional Assessment for Hemiplegic Gait:FAHG)は、我々が行ってきた研究結果を基に開発した脳血管障害後片麻痺者(片麻痺者)の歩行を評価する検査表である。21項目からなり、総得点は50点満点(内訳:体幹6点、立脚初期11点、立脚中期11点、立脚後期11点、遊脚期11点)であり、各項目は麻痺側を中心に身体各部分の運動性(運動方向)と歩幅を観察して判断し、点数化する。これまでに、FAHGの検者間信頼性と内的整合性は検証している。今回は、片麻痺者の客観的な評価として一般的に用いられている評価項目とFAHGの関連性を調査することで、FAHGの有用性を検証するのが目的である。
    【対象】
    4施設で入院及び外来にてリハビリテーションサービスを受けている片麻痺者38名(右麻痺20名・左麻痺18名、10歳代2名・30歳代1名・40歳代2名・50歳代9名・60歳代10名・70歳代9名・80歳代4名・90歳代1名、平均発症期間44.2±60.2ヶ月)であった。
    【方法】
    歩行時の運動機能はFAHGを用い点数化した。歩行能力として、歩行レベルを1点(全介助)~10点(屋外独歩)で採点し、歩行のスピード性は10m歩行時間を計測した。加えて、麻痺側上肢・下肢の運動機能はBrunnstrom recovery stage(Br-stage)を用い6段階で評価した。統計学的処理は、FAHGの合計点及び体幹、立脚初期、立脚中期、立脚後期、遊脚期の各相の点数と、歩行能力(レベル・スピード性)、Br-stageの関連性について、Spearman順位相関係数にて検証した。有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    FAHG合計と歩行レベル、スピード性、上肢・下肢運動機能の全てにおいて有意水準1%未満で相関が認められた。スピード性とはr=-0.8と高い相関が得られた。FAHGの体幹及び各相点数と歩行レベル、スピード性、上肢・下肢運動機能は有意水準1%未満ないし5%未満で全てにおいて相関が認められた。スピード性とは全てで1%未満での相関であった。
    【考察】
    FAHG合計点だけではなく、体幹及び各相の点数に関しても歩行能力(レベルとスピード性)、上肢・下肢運動機能との相関が認められた。すなわち、FAHGの点数が高くなっていくことに伴って、歩行の自立度と麻痺側上肢・下肢の運動機能が高くなり、10m歩行時間が短くなるという関係である。これにより、歩行のレベルとスピード性及び上肢・下肢運動機能からみて、歩行時の各関節の運動性を観察することの必要性が改めて確認できた。このことからFAHGは片麻痺歩行の評価法として有用であると思われる。今後は、歩行レベルごとの運動機能の特徴を明らかにしていきたい。
  • 中 翔一郎, 石井 隆之, 黒瀬 一郎, 渡邊 亜紀, 梅野 裕昭, 佐藤 浩二
    セッションID: 3
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、担当した多発性脳梗塞の症例は難聴や認知症の影響も加わり、立位・歩行場面において円滑な重心移動能力や姿勢保持機能の低下により安定した動作遂行が行えなかった。そこで足底板や弾性包帯付き歩行器を用いて機械的に重心及び姿勢保持を誘導したことで目標としたアームウォーカー歩行の獲得に至った。本症例の姿勢調節障害に焦点をあて今回のアプローチについて考察する。
    【症例紹介】
    83歳、男性。診断名は多発性脳梗塞後(麻痺側は右)。CT上、基底核周囲には多数のラクナ梗塞を認めた。また、重度の難聴を有していた。入院時Br-stageは上肢・手指・下肢共に_IV_、HDS-Rは8点。ADLはBI35点であった。立ち上がりは重心の前方移動が難しく介助を要した。立位は前方への重心移動困難であり姿勢保持困難であった。歩行は体幹動揺が著明であり常時後方介助を要した。
    【アプローチと経過】
    訓練は立位・歩行主体に進めた。しかし、徒手的な介助や姿勢矯正を行うと抵抗を著明に示した。また、認知機能の低下により、指示理解が十分に出来ず立位・歩行時では恐怖心が増大し介助量は増加した。そこで訓練開始3週目より安定した姿勢の確保と円滑な重心移動の促通目的で足底板の活用と歩行器の工夫を行った。足底板は高さ2cmの楔状の物を踵部に取り付け重心を前方に促した。また、歩行器は後方の支柱に弾性包帯を巻き体幹前面を弾性包帯に押し付けることで安定性を確保した。1ヵ月後、セラピストが介助せずとも前方への重心移動が獲得され、歩行時の体幹動揺も軽減した。恐怖心も軽減し、20mの歩行器歩行が50m程度に延長した。4ヵ月後にはHDS-Rは8点と変化はないものの、足底板及び弾性包帯を除去した状態でアームウォーカー歩行が見守りで可能となりBIは50点となった。
    【考察】
    文献では脊髄小脳変性症のバランス障害に対する弾性包帯付き歩行器の効果やパーキンソン病患者の後方重心に対する足底板を用いたアプローチの効果が述べられている。今回の症例は、疾患や病態は異なるが姿勢調節障害の視点からこれらの手法は効果が期待できると考え実施した。結果、足底板を用いることで、立ち上がりから歩行における前方への重心移動と体幹・下肢の回転モーメントを機械的に効率よく促す事ができた。また、歩行器に弾性包帯を取り付け体幹の支持面を増やすことで動揺軽減を図ることができた。これら2つの工夫を行い動作を反復することで、動作要領と必要な筋活動が学習されたと推測する。今回は認知機能の低下も認めた症例ではあったが、多発性脳梗塞患者の姿勢調節障害に対する理学療法として足底板と弾性包帯付き歩行器は有効な手段と考える。
  • 野田 真依子, 篠田 聡, 青木 三利子, 宮守 龍一, 興呂木 祐子, 平田 好文, 大隈 秀信, 又吉 達, 堀尾 愼彌
    セッションID: 4
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、全身性ジストニア患者のリハビリテーション(以下、リハ)を実施する機会を得た。筋緊張異常により随意運動困難であった症例に対し、感覚入力の工夫と視覚的・聴覚的フィードバックを利用した反復運動を行い、動作の再学習を図った。結果、随意運動が向上し動作の改善が得られたので、考察を加え報告する。尚、症例には説明と同意を得ている。
    【症例紹介】
    34歳 女性 全身性ジストニア 脳深部刺激療法術後
    【評価と理学療法】
    初期時(術後一ヶ月半)、筋緊張は動作・姿勢・精神状態によって亢進及び弛緩するなど変動が著明であった。四肢の随意運動困難で、感覚は表在・深部共に鈍麻しており、前腕や下腿を空洞に感じるというボディイメージの崩れを生じていた。車椅子主体の生活であったが、家屋内は伝い歩き、階段は四つ這いで移動していた。
    筋緊張は臥位で比較的安定していたため、体幹、下肢を中心に臥位での運動学習を図った。随意運動の向上に伴い起立、歩行練習を開始した。この際、両上下肢に弾性包帯で圧刺激を加え感覚入力の強化を試みたところ、ボディイメージが改善し、運動時筋緊張を緩和することができた。また、鏡やビデオなど視覚的・聴覚的フィードバックを利用し、起立歩行訓練には装具療法での感覚入力の一定化を図った。
    これらの訓練を約四ヶ月間継続した結果、感覚は軽度改善し、随意運動は向上した。家屋内は独歩、階段は手すりで昇降可能となり、調理への参加をするなど活動幅も拡大した。
    【考察】
    ジストニアとは、「持続的な異常筋緊張により捻転性あるいは反復性の運動や異常姿勢をきたす病態」と定義されている。本症例は一般的なジストニア症状に一致し、随意運動は共収縮と陰性ジストニアによって阻害され、さらに体性感覚の鈍麻、ボディイメージの部分的欠如を生じていた。症例のフリップフロップ現象は圧刺激の入力で軽快が見られ、ボディイメージが改善した。
    一般的に、運動を的確に制御したり新しい運動を獲得するには、筋骨格系からのフィードバック情報が重要な役割を果たすとある。また、運動学習においてMarkovの感覚運動制御モデルで、「正常な感覚入力が中枢神経で処理され正常な運動を引き出し、出力された運動は感覚情報として再入力され、反復により強化される」と述べられている。このことから、ジストニア症状が軽快した環境のもと徒手的な正常運動パターン、装具療法による歩行練習を反復したことで、運動学習が促進され、姿勢保持能力向上や正常な運動パターンの再獲得による円滑な動作遂行に繋がり、活動幅が拡大したものと考える。
    ジストニア患者のリハ報告はまだ少なく、その症状は様々でリハのアプローチ方法も確立されていないのが現状である。今回の症例を通し、ジストニア症状を軽快させる刺激方法を見出し、フリップフロップ現象を引き出すことがリハ遂行のポイントとなると思われた。
  • 上肢到達運動に焦点をあてたケーススタディ
    池田 耕治, 松原 誠仁, 増田 安至, 松田 隆治, 宮城 大介, 坂本 勝哉, 中薗 寿人
    セッションID: 5
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     脳動静脈奇形(以下、AVM)は、脳の血管が動脈と静脈の異常吻合を生じている先天性疾患であり、若年者のクモ膜下出血の原因として重要である。本患者は、左皮質下出血として発症し、右片麻痺を呈した。
     本研究では、発症後入院直後からリハビリテーション(以下、リハ)を経験したが、退院後運動機能は高いにも関わらず、利き手使用が著しく少なかった患者に対し、新しい理論のもと認知神経リハビリテーション(以下、NCR)を施行し良好な結果を得たので報告する。
    【方法】
     対象は、2008年12月某日にAVMを発症した20歳男性である。入院後、手術、リハを実施した。入院時のBr.Stageは、上肢-手指-下肢共に1、退院時は6に改善した。感覚障害が重度であった。
     『認知理論』に基づき、『認知問題』を構築し、患者に体性感覚による形状認識の解答を求めた。
    1)セラピストが他動的に患者の上肢を動かし、どの関節が動いているのかたずねた。
    2)そのとき関節の動きの開始、終了や方向をたずねた。
    3)次に●▲■のタブレットを使用し、セラピストが他動的に患者の上肢(肩関節中心)を動かした。
    【説明と同意】
     当学院倫理委員会の規程に基づき、本研究に対する内容,個人情報管理,目的以外には測定結果を公表しないことを口頭にて説明し同意を得た.
    【結果】
    1)患者の上肢深部感覚(特に、位置覚、運動覚)は向上した。
    2)到達運動時の手の速度は向上し、速度へのセグメントの貢献を増加させた。
    3)到達運動の間、手の速度への体幹上部動きは減少し、より安定した運動になった。
    【考察】
     NCRは、1970年代イタリアで神経科医のCalro Perfetti が提唱した治療システムであり、運動を身体が外部環境との関係を築くための手段としている。
    NCRでは治療の本質を「自らの能動的な探索によって自己身体と環境との相互作用によって情報を選択し,段階的に組織化していく過程」と考えている。治療がそれを経験する患者にとって,自らの学習となるよう “認知問題→知覚仮説→解答”という状況を作り、『認知過程(知覚・注意・記憶・判断・言語)』に介入している。身体と環境との相互作用には治療媒介として「道具」を介在させている。
     本患者は、退院時機能的には良好だったにも関わらず日常的使用はなかった(補助手)。しかし、NCRを導入後明らかな改善を認めた(実用手)。この理由としては、以下の3点が考えられる。
    1)患者が自己の身体を(再)認識した。
    2)再認識した身体と環境(道具)との相互作用により身体スキーマが構築された。
    3)知覚と運動の連関が強まり、必要な情報から運動を作ることが可能となった。
     すなわち、これらは学習である。NCRでは、学習の本質が認知過程の組織化によりもたらされるとするならば、あらゆる機能の回復は『病的状態からの学習』として捉えている。
  • 遠山 さつき, 臼杵 扶佐子
    セッションID: 6
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【序論】
     維持期の神経疾患患者に振動刺激や促通反復療法(川平法)を継続して行った報告はない。今回、足底痛が強くリハビリテーション(リハ)が困難であった50代の胎児性水俣病患者に、振動刺激および促通反復療法を実施し、1年の経過で疼痛と痙縮の改善を経験した。そのリハ内容と症状の変化に考察を加え報告する。なお、この報告は当事者の同意を得ているものである
    【症例紹介】
     50代男性。胎児性水俣病患者。
    【治療開始前の所見】
     MAS:上肢2、下肢3(右>左)。ROM:膝関節伸展右-10°左-20°、足関節背屈右-10°左0°、足関節外反右-10°左0°。内反尖足著明。膝蓋腱反射、アキレス腱反射:両側+++。Babinski反射:両側強陽性。感覚:右正中神経支配領域に中等度鈍磨。全身性のジストニアがあり、動作緩慢。構音障害、嚥下障害あり。右足底腱膜の緊張亢進に伴う疼痛(VAS 10/10)あり。右手掌腱膜の緊張が強く伸展の柔軟性低下あり。ADL:FIM(61/126)。寝返り、起き上がりに時間を要す(50~60秒)。手すり使用で立位可能ではあるが、疼痛のため右足底の接地が不十分で安定せず。移乗は介助ベルトを使用し要介助。
    【OTプログラム】
     1)振動刺激:スライブ社のMD-01を用い右手掌、左大腿内側部、右足底に同時に各15分50Hzにて実施。2)促通反復療法:振動刺激後、下肢全体の促通(股関節伸展・外転、伸展⇔屈曲・内転、膝屈曲、足関節背屈)、股関節内外転、膝関節屈曲・伸展、足関節背屈を各50回実施。3)ADL訓練:起居動作、移乗動作、摂食嚥下訓練。
    【1年後の変動所見】
     MAS:下肢2(右<左)。ROM:左膝関節伸展-10°(他変化なし)。膝蓋腱反射、アキレス腱反射:両側++。Babinski反射:両側弱陽性、右足底痛(VAS 5/10、振動刺激直後はVAS 3/10)。右手掌腱膜の緊張軽減、伸展の柔軟性向上。ADL:FIM(63/126)。寝返り、起き上がり時間30~40秒と短縮。立位動作、移乗動作:監視にて可能。
    【考察】
     症例は、慢性化していた強い右足底痛のためリハを拒否し、ADLに支障をきたしていた。振動刺激と促通反復療法を併用したリハを1週間に2回ずつ1年間継続した結果、疼痛および痙縮が軽減し、運動機能と起居動作、移乗動作が向上した。治療開始前は左下肢より重篤であった右下肢の痙縮が左下肢より軽減したことから、右足底の振動刺激と促通反復療法の併用は足底腱膜の緊張亢進の軽減のみならず痙縮抑制にも有効であったといえる。亜急性期における緊張性足底反射に対する振動刺激の効果についての報告はあるが、維持期の神経疾患患者の痙縮抑制に足底の振動刺激と促通反復療法の併用が有効であったという報告はなく、その機序と方法についてさらに検討を続けている。
  • 機能・ADLは改善したものの脳卒中後抑うつが改善しなかった症例との関りを通して
    玉城 希, 赤嶺 保和
    セッションID: 7
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     回復期において脳卒中後抑うつを呈する人は少なくない。そこで、ADLの介入に加え、対象者が意味があると思える作業に着目し、関る事も必要であると考える。
     今回、左視床出血後遺症により役割や習慣が変化した事で、抑うつ状態となっている80代の女性(以下、A氏) を担当した。A氏は、機能・ADLは改善したが、抑うつは改善しなかった。そこで、人間作業モデル(以下、MOHO)を用いて評価し、A氏の価値や興味ある作業を用いて関った結果、抑うつ状態が改善した。以下に考察を加え、報告する。当症例報告は、書面で症例の同意を得ている。
    【症例紹介】
     80代女性。今回、左視床出血後遺症にて運動麻痺、感覚障害、運動性失語出現。全身状態安定後、リハビリ目的にて当院へ入院。
    【評価】
    1.環境:前住居への入居条件はADL・掃除・洗濯自立で家族・管理人は困難と認識。畳・トイレ・ベランダに段差あり。畑まで坂・段差あり。
    2.遂行:GDS10/15点軽度抑うつ。FIM72/126点(下衣更衣・排泄・入浴・歩行(歩行器使用)・理解軽介助、認知項目は中等度介助)、掃除・洗濯全介助。
    3.習慣:患者役割。リハビリへ消極的。活動性低い。
    4.意志:「いつ死んでも良い。やりたい事はやった。諦めではなく満足」。
    【内容】
     当初は、機能・ADLに介入し、改善した。しかし、抑うつは改善しなかった。そこで、MOHOの評価にある作業に関する自己評価(以下、OSA-2)を行った。生活について「楽しめない」、畑について「50%やりたいけどできない。とても楽しみな日課」と話し、家族、前住居の友人・畑に価値がある事がわかった。その為、前住居へ退院し、畑も楽しむという目標を立て、機能、洗濯・掃除動作練習、畑、家族・管理人へ情報提供等を行った。徐々に主体性が向上し、活動性も向上した。
    【結果】
    1.環境:前住居へ退院。家族・管理人も可能と認識。
    2.遂行:GDS1/15点。FIM115/126点(理解・表出・記憶・階段見守り、入浴・浴室での移乗・問題解決修正自立)。洗濯・掃除自立。
    3.習慣:前住居で友人と畑等を行う。
    4.意志:「畑できる。生きる喜びをくれてありがとう」
    【考察】
     A氏は、左視床出血後遺症により、習慣や環境が変化した事で有効感の低下・抑うつ状態が生じ、また、「やりたい事はやった。満足」と作業する機会を回避し続ける事で、さらに有効感を低下させていると考えた。そこで、現状からの脱却を目的に、OSA-2を用いて課題や目標を協業し価値・興味ある事に関った結果、有効感が向上し抑うつ状態も改善した。このように変化した要因として、ADL・洗濯・掃除が自立した事に加え、大事な場所で大事な人と好きな作業ができた事、家族・管理人の理解等が考えられる。
    【まとめ】
     作業導入が困難な対象者は多い。しかし、今回の症例のように価値や興味ある作業に着目する事で変化する対象者もいる。今後も、クライエントにとって価値や興味ある作業に着目し関れるよう努力していきたい。
  • デマンドが聴取できないクライアントに対する作業療法の経験から
    田村 浩介, 原田 伸吾
    セッションID: 8
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     筆者は作業療法実践と事例研究において作業の意味を考えることを重視してきた.あるクライアントはインタビューで自身の作業について話し,作業を再獲得することが出来た.しかし,一方でデマンドを聴取できないケースも経験してきた.
     今回はデマンドを聴取できなかったケースである.この作業療法の経過を報告し,作業の意味・機能・形態について考えることの重要性について考察する.
    【方法】
     A氏は,通所リハビリテーション(以下,通所リハ)に通う60歳代後半男性である.X年,脳梗塞発症,右片麻痺が残存.退院後,通所リハ利用開始.現在,週3日利用,妻と2人暮らし.要介護度2.右利き.
     利用開始当初は車を運転したいと話した.A氏の家族は車の運転に反対,高次脳機能検査の結果,注意力障害と判断し,本人と家族へ説明,A氏は車の運転を諦らめた.
     主観的評価としてカナダ作業遂行測定(以下,COPM)を実施,「特にやりたいことはない.今のままで満足している.」と話した.客観的評価としてFIMは115/126.ブルンストロームステージ上下肢手指共に_III_.表在覚,上肢中等度から重度鈍麻,下肢軽度鈍麻.姿勢反射頸部,体幹の立ち直り共に右側陰性.歩行は短下肢装具,T字杖使用し自立.
     筆者は右上肢使用困難,独歩で移動可能,注意力は日常生活上問題ないことから左上肢でデジタルカメラを使用し写真撮影が可能であると判断.A氏はデジタルカメラを購入した.
    【結果】
     左上肢で写真を取る方法を練習し獲得した.「孫を撮ってみようかな」と話し次第にカメラを取り出して触るようになった.ある日,孫の写真を撮った.プリントアウトを覚え,孫の写真を嬉しそうにプリントアウトするようになった.また「家族にもと喜ばれた」と話した.今後は「旅行の時に写真を撮りたい」「外食して美味しい料理やお店を写真に撮りたい」と話した.
    【まとめ】
     今回,やりたいことが特にないというクライアントに対して,デジタルカメラで写真を撮るという作業を提案,作業を共に練習した結果,クライアントの自己有能感が改善し,意志を促進できた.
    【考察】
     今回,写真を撮るという作業は趣味となることが期待できるだけではなく,他者との交流手段となることも考えた.また,A氏にとって家族との生活の記録としての意味づけがされたと考える.その後のインタビューで「以前はやりたいことはあったが言ってもしょうがない」と諦めていたことがわかった.やりたい作業を諦めさせられた経験から主張することを抑えていたと考えられる.インタビューでデマンドが聴取できない場合,その理由を明らかすることも重要であると考える.また,作業の機能とクライアントの遂行技能を照らし合わせ,作業の形態を調整し作業を提案すること,またこれをきっかけとして作業の広がりを期待することができると考える.
  • ~排泄コントロールを通して~
    大森 政哉, 山下 こず恵, 吉嶺 公晴, 岩村 浩平, 酒匂 翔伍, 湯田平 美咲, 東垂水 明子, 牧角 寛郎, 根路銘 周子
    セッションID: 9
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、脳血栓症により左片麻痺と全失語を主とし、失行失認を含む多様な高次脳機能障害を呈した症例に対し、オペラント学習を応用した行動学的介入を実施した。本症例の日常生活における表出に関しては、そのほとんどが体動による意思伝達であり、介助者側はその意図の推察が困難な状態であった。しかし、体動後のトイレ誘導を反復することにより、それがコミュニケーションの手段となり、ADLにおける排泄コントロールで介助量の軽減が認められたので報告する。
    【症例紹介】
    70歳代男性、左利き、病前の性格:亭主関白であり他者の助言など一切聞き入れない頑固な性格。
    【評価】
    診断名:脳血栓(右中大脳動脈領域)、現症:左片麻痺Br.stage:上肢2手指2下肢3、高次脳機能障害:全失語・動作性保続・左半側空間無視・注意障害・遂行機能障害、ADL:FIM29/126(排泄コントロール1点)
    【介入方法】
    発症5ヶ月目より8週間実施した。排泄コントロールへの介入として、日中のトイレ誘導を実施。誘導は8時から17時までの2時間間隔の時間誘導と、体動出現時に行った。症例の体動表出に対する介助者側の反応をトイレ誘導に固定することでオペラント行動の強化を図ることを目的とした。
    【経過】
    非介入期:ADLにおいて柵を掴んでがたがたする動作や脱衣動作を急ぐ様な激しい体動が見受けられた。これに対して介助者はオムツ交換や車いす移乗など様々な対応を検討、実施して体動の解消に努めたが、解消までに多くの時間を要した。また、体動後に失禁が多い傾向にあった。介入期:開始より 3週目までは時間誘導が中心となり、誘導時には排泄が確認された。体動後の誘導に関しては、排泄が行われないことや失禁が確認され、排泄はほとんど行われなかった。4週目以降で体動後の排泄が確認されるようになり、排泄回数に急激な増加が認められた。また、全体の経過で失禁回数は1日1回程度まで減少し、体動後の誘導で排泄が行われない回数も同程度となった。
    【結果】
    日中の失禁回数が1週間に38回から7回まで減少した。体動後の排泄が可能となった。FIM29/126から30/126へ改善した。
    【考察】
    過去の失語症研究より失語症者の多くはコミュニケーションが成功する手段をほとんど自動的に求め開発しているとされている。今回、意思疎通が困難な症例に対し、オペラント学習を応用した行動学的介入を実施した。オペラント条件付けは自発行動後の環境の変化に応じて、その後の自発行動が変化する学習である。今回は排泄意表出の獲得を目的とし、症例の体動に対する介助者の反応をトイレ誘導に固定・反復した。この行動学的介入の実施により学習が促進され、体動がコミュニケーションの手段となり失禁回数の減少に至ったと考えられる。
  • 事例を通しての考察
    北井 玄, 原田 伸吾
    セッションID: 10
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    CVAを発症し左片麻痺、高次脳機能障害を呈したA氏を担当する機会を得た。A氏の希望は、企業への復帰であった。A氏と労働組合と共に復職に向けて働きかけたところ企業側は難色を示した。復職の実現に向けて働きかけたプロセスを紹介し、その中から見えてきたPT・OTの役割について考察する。
    【事例紹介】
    40歳代男性。
    生活歴:発症前は営業職のマネージャー。現病歴:平成19年8月右被殻出血。平成20年2月通所リハ利用開始。週4回利用で要介護1。
    ADL:FIM 120/126移動:階段歩行・屋外歩行共に自立(短下肢装具使用)Brunnstrom stage:上肢_III_下肢_IV_手指_III_。感覚:中等度鈍麻 高次脳機能:左半側空間失認が認められる。
    【評価】
    A氏の不安:身体のこと(麻痺の回復・応用歩行・持久力)能力のこと(制服・運転)AMPS:Motor Skillsが1,41logits、Process Skillsが0,95logits。Time up & go test:平均15秒。更衣(制服)自立。自動車免許は更新できた。
    労働組合の依頼により評価結果を企業に提出した。その後、企業とA氏との話し合いが続いたが難航し、企業が解雇の意向を示したことで裁判となった。
    【介入の基本方針と介入経過】
    復職の為に、企業が難色を示す理由を明確化し、それに対する評価結果を数値化して復職が可能なことを企業に示すこと。また、企業が難色を示す理由に対して介入することとした。
    解雇理由は、会社がバリアフリー構造でない。体力上フルタイム勤務は困難ではないか。(身体機能面への理由)一人で業務を遂行できるのか。業務中フォローする人材と時間の不足。(作業遂行の質に関する理由)であった。
    介入結果は、Time up & go testが平均13秒。持久力として屋外歩行2kmコースを連続歩行可能(所要時間約50分)となった。また、AMPSではMotor Skillsが1,92logits、Process Skillsが1,18logitsとなった。
    これらを企業に提出した結果、裁判はA氏の要望が通る形で和解し、復職が決定。PT・OTの評価は裁判の資料として取り扱われた。
    復職後、労働組合の担当者は「PT・OTの作成した書類は、結論を先延ばししようとする企業に対して非常に効果的だった。おかげで話が前に進んだ」と語った。
    【考察】
    当初、復職に至らなかったことに関して、A氏同様、企業の不安も明確化し、双方に介入する必要性があったと考える。また今回の事例では、企業の雇用継続に関して不安な点として、身体機能面と作業遂行の質に関する面に分けられた。これは、就労にまつわる多くの事例に共通する不安と推測する。
    上記2点において、PT・OTが協働して企業側が示す不安を解消し得るデータとフォロー方法を提示することが重要であり、それがPT・OTの役割であると考える。
  • -過去5年間の自験例より-
    出田 良輔, 椎野 達, 植田 尊善
    セッションID: 11
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    高齢化社会を反映した脊髄損傷者の高齢化、特に頚髄不全損傷の割合が増加している。しかし、頚髄損傷不全麻痺における機能回復の経時的変化に関する報告は少ない。そこで、当院データベース(DB)をもとに頚髄不全損傷の骨傷型と麻痺型ならびに予後について調査したので報告する。
    【対象と方法】
    対象は、当院DB登録者(2005年7月~2010年4月)で、以下の条件1)中下位頚髄損傷、2)受傷後7日以内の入院、3)180日以上経過観察可能、4)入院時改良Frankel分類A~C2、を満たした脊髄損傷93名(男性79、女14名、平均年齢=56.3±18.5歳、平均在院日数=325.9±107.1日)である。方法は、受傷原因、骨傷型、麻痺程度(改良Frankel分類)、麻痺型(ASIA Clinical Syndrome分類)、ASIA Motor Score(AMS)ならびにADL点数(SCIM Score)を入院時より経時的に調査した。なお、対象者全員に対し本研究の趣旨を説明し同意を得ている。
    【結果】
    受傷原因は、転落37例(40%)、交通事故28例(30%)、転倒17例(18%)、スポーツ8例(8%)の順に多かった。骨傷型では、非骨傷52例・前方脱臼32例・椎体骨折9例であり、入院時改良Frankel分類Aの割合は、骨傷ありで68%(28例)、非骨傷で13%(7例)であった。また、入院時改良Frankel分類B1以上の者の73%に1段階以上の回復が認められた。麻痺型の割合は、横断型48例(51%)・中心型32例(34%)・半側型8例・前部型6例・後部型1例であった。各時期の平均AMSは、入院時19.6±16.8点、3ヶ月後47.3±32.3点、6ヶ月後50.2±33.5点、退院時53.5±33.9点であった。各時期の平均SCIM scoreは、入院時8.0±2.3点、3ヶ月後35.6±24.1点、6ヶ月後41.8±28.1点、退院時48.4±29.3点であった。
    【考察】
    頚髄不全損傷のうち、非骨傷性頚髄損傷が半数以上(56%)を占め、転倒転落によるもの(61%)が多い現状が示された。今後の超高齢化社会を反映し、この傾向は急速に高まるものと考える。頚髄損傷不全麻痺例の中心型は34%を占めており、横断型の次に多い病態であった。入院時改良Frankel分類別での歩行可能(D1以上)となる割合は、A~B1:0%、B2:16%、B3:40%、C1:75%、C2:100%であった。また、AMS・SCIMともに段階的に回復して傾向が認められた。また、同程度の機能障害であっても高齢者では動作獲得が困難であることが多いため、能力障害に対するアプローチが高齢者では特に必要であろうと考える。頚髄損傷後の機能回復をある程度予測した上で、リハプログラムを作成する必要があると考えられた。
  • IPPVからNPPV移行までの努力性肺活量と自発呼吸時間の経過
    有地 祐人, 椎野 達, 小川 栄美子, 植田 尊善
    セッションID: 12
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】高位頸髄損傷者は呼吸筋麻痺を呈し、重度の換気障害を伴うため受傷直後は、侵襲的陽圧換気療法(IPPV)による呼吸管理を行うことが多い。しかしIPPVの管理は呼吸器合併症やコミュニケーション困難等の問題を併発する。そのためIPPVに代わり、近年は徐々に高位頸髄損傷者に対しての非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)が広まりつつある。今回NPPV導入の機会を得たため、努力性肺活量(FVC)と自発呼吸時間に着目し、その経過を報告する。
    【対象と経過】対象は本報告に関し趣旨を説明しご本人に同意を頂いた20代男性。診断名は第1頸椎脱臼骨折後頸髄損傷。PT初回評価時(20日目)はASIA分類A、感覚機能はC2領域以下脱失。運動機能は胸鎖乳突筋1・頭部伸展1・以下0。FVCは0ml。受傷後400日の評価での変化点は、運動機能は胸鎖乳突筋3、頭部伸展2・僧帽筋1。FVCは480ml、自発呼吸時間は平均30分。経過日数は受傷日を1日目とした。7日目前医にて頚椎に対するopeと気管切開術施行。19日目リハ目的で当センターに転院。20日目リハ開始。45日目リクライニング式車いす乗車開始。93日目7.0mmカフなしカニューレに移行し、発声が可能。115日目自発呼吸練習開始。146日目夜間鼻マスク・鼻プラグにて就寝。157日目電動車いす乗車開始。167日目日中はマウスピースにて出棟。232日目気管切開部を閉じNPPVへ移行。
    【方法】FVCと自発呼吸時間の測定方法はオートスパイロAS-302(ミナト社製)を使用し、3回測定の最大値をFVCの値とした。測定期間は入院初日、72時間後、2・4・6・8・12・16週、NPPV後は1週おきに行った。自発呼吸時間の測定はNPPV導入時期から1週おきに開始し、SPO2:90%以上での時間を測定した。
    【結果】FVCでは0→0→30→70→140→480mlへ上昇。(NPPV移行期ではFVCの値は一時減少するものの、気管切開部が閉じることでFVCの値は上昇した)自発呼吸時間もまた3→30分へ最終的に延長した。
    【考察】FVCの値が増加することで、自発呼吸時間も共に延長された。IPPVからNPPVへ移行したことで、容易に自発呼吸を行う機会が増えたことがFVCと自発呼吸時間の増加の一番の要因である。またNPPV導入時期に一時的にFVCの量が低下するがこれは、鼻腔や、気管切開部からのエアリークが原因と考えられる。本症例にNPPVが導入されたことで発声、痰の量の減少、息だめ等が可能となった。またIPPVより呼吸器合併症のリスクは軽減され、呼吸状態は安定し、患者のQOLも高まると考えられる。しかし患者へ関わる側が医師と密に連携を取り、NPPVのメリット・デメリットを十分理解した上で、適切に行う必要があるため、本報告の経過が治療者側への方向性を示す一助となれば幸いである。
  • ~熊本県認知症予防モデル事業での取り組み~
    川畑 智
    セッションID: 13
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    平成21年12月より熊本県庁高齢者支援総室(現、長寿社会局)の事業として「熊本県認知症予防モデル事業」が始動し、「あそび」と「リハビリテーション」を融合させた認知症予防プログラムの研究開発が進んでいる。
    今回は、身体機能と認知機能との関係性について調査し、一定の知見を得たので、ここに報告する。
    【対象】
    熊本県認知症予防モデル事業を受託した県内2施設の事業参加者63名(男性16名、女性47名、平均年齢82.6±6.9歳、要支援者数44名、要介護者数19名)。
    【方法】
    身体反応評価としては、バンダイナムコ社製「ワニワニパニックRT(以下、RTマシン)」の得点と、三協社製「アイタッチ(以下、光反応マシン)」を用いた120秒間の光刺激反応における正答数、誤答数、無答数の測定を行った。また認知機能評価として改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)を実施し、疑認知症群と非認知症群の2群に分類し、2群間における身体反応の違いや、身体反応評価と認知機能評価との関係性について検証した。統計処理にはF検定、2標本t検定を行い、有意水準は5%以下とした。
    また、本研究は事業参加者や家族の同意に加え、事業を受託した2施設の各倫理委員会より承認を受けており、ヘルシンキ宣言に沿った研究である。
    【結果】
    疑認知症群(HDS-R:16.3±3.7点)と非認知症群(HDS-R:25.1±2.5点)の身体反応を比較すると、RTマシン得点では、疑認知症群37.3±20.4点、非認知症群53.8±23.4点で、有意な得点差が認められた(p<0.05)。
    また、光反応マシンでは、正答数において、疑認知症群78.3±42.4点、非認知症群110.7±37.6点、無答数において、疑認知症群37.4±17.0点、非認知症群25.5±10.8点と、2群間に有意差が認められた(p<0.05)。
    【考察】
    RTマシンや光反応マシンは、視覚刺激に伴う上肢反応を測定するものであり、視覚情報の入力から叩打出力までを瞬時的、反復的に反応することが求められる。
    今回、非認知症群と比べ、疑認知症群ではRTマシンや光反応マシンの反応回数が有意に低下していることがわかったが、この原因として、認知機能低下による「脳内における情報処理能力の低下」に伴う「動作の不活発性」や「注意力・集中力の減退」などが考えられる。
    光反応マシンの正答数を1回反応時間で算出すると、疑認知症群では1.53秒/回、非認知症群では1.08秒/回となり、疑認知症群の反応速度は、非認知症群の約70%であることが示唆される。
    【まとめ】
    今回の研究で、身体反応速度が認知機能に深く関与していることが分かった。今後は、認知機能スクリーニングテストとしての可能性や、転倒骨折との関係性、認知機能と身体反応の学習効果の関係性についても研究していきたい。
  • 吉原 直貴, 久保 美華
    セッションID: 14
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院は市内34ヶ所あるものわすれ外来協力医療機関として機能している。外来受診時の診断方法として、神経学的診察、血液検査、頭部CTが挙げられる。また診断の補助としてOTではOLD、MMSE、FAB、CDRを実施している。そして知り得た情報を基に総合的に判断している。今後、より多角的に検討していくために「近赤外線分光法(NIRS)がそのひとつになり得るか」をテーマに考察したので以下に報告する。
    【対象】
    脳損傷の既往のない健常者30名(男性11名、女性19名、平均年齢26.9±5.7歳)であり、全例右手利きであった。
    【方法】
    計測機器は日立メディコ製の光トポグラフィ装置(ETG-4000)を使用し、課題遂行時の前頭前野のOxy-Hb変化について検討した。計測課題として意味カテゴリー課題(動物および野菜の語想起)をそれぞれ行い比較した。また語産生数を記録した。計測は椅子座位(顎台にて頭部を固定)にて行い、安静条件30秒(あいうえおの復唱)、課題条件30秒を2回交互に行った。分析は、計測したプローブのうち前頭前野に相当する18チャンネル(以下、ch)のOxy-Hb変化量を比較した。
    【結果】
    対象者30名における動物および野菜の語想起課題遂行中のOxy-Hb変化量を加算平均し、t検定を行った。この結果、前頭前野18ch中10chで野菜課題と比較し、動物課題の方が有意に高い値を示した(p<0.01)。平均語産生数は、動物は20.1±5.8語、野菜は16.9±3.4語であった。また、性別の影響はないか検証した結果、動物課題では有意差はみられなかったものの野菜課題において、3chで女性の方が有意に高い値を示した(p<0.01)。
    【考察】
    今回の結果において、野菜課題よりも動物課題の方が有意に高い値を示したことについて、動物という概念の特性上、比較的イメージしやすかったのではないかと推察される。また、野菜課題は性別によってOxy-Hb変化量に差がみられたことから生活習慣や生活歴の違いが反映するものと考える。このことも動物課題が有意に高い値を示した一つの要因として捉えることができる。意味カテゴリー課題を行う場合、動物の語想起を用いた方がイメージしやすく、また性別の影響は受けずに計測できることが示唆された。語産生数について、太田らは若齢群で動物は19語、野菜は16語が目安であると述べている。今回の計測結果においても近似値になったことから今後の計測の目安になるものと考える。現在、認知症は大変身近な問題となってきているが、周辺の適切な理解や対処法はまだ十分とはいえない状況である。早期診断や症状の変化を即座に捉えることが認知症へのよりよいアプローチに繋がっていくと考える。今後、高齢者を含めたデータを蓄積し、診断のツールのひとつとして確立していきたいと考える。
  • 県士会支部の活動として
    四元 孝道, 山内 愛, 小川 千穂, 増永 美奈, 金田 明子, 立山 栄香, 城之下  唯子, 溜 いずみ, 山下 智子
    セッションID: 15
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    介護予防事業は市町村主体で行われ理学療法士や作業療法士等が活動している。作業療法士の活動では石川県作業療法士会の認知症予防事業が知られている。しかし、鹿児島県内において、認知症予防事業に作業療法士が関わる活動は少ない。そこで鹿児島県作業療法士会霧島・姶良支部ではA町地域包括支援センター及びB地域リハビリテーション広域支援センターの協力を得て、特定高齢者に対し認知症予防教室を平成20年度と平成21年度に行ったので、その結果に若干の考察を加え報告する。
    【対象】
    65歳以上の高齢者を対象に生活機能評価(基本チェックリスト)と呼ばれる自己調査が行われる。これは生活機能動作や閉じこもり予防支援および認知症予防支援などの7つの大項目に分類されており、身体機能を勘案した上で、特定高齢者として介護予防事業の対象者とされる。今回、平成20・21年C月にA町にて特定高齢者と診断され、基本チェックリストにおける自己調査で認知症予防支援項目のいずれかに自己チェックをつけた者(以下、平成20年/平成21年)(116名/130名)の中から、本教室への参加希望のあった者(17名/21名)を対象とした。その内訳は男性(5名/7名)、女性(12名/14名)で年齢は(81.1±5.7歳/80.9±5.0歳)(平均±標準偏差)であった。なお、参加者には本教室参加にあたり説明を行い書面にて同意を得た。
    【方法】
    矢冨ら(2007)は認知症の前段階にエピソード記憶障害、注意分割機能障害、遂行機能障害が出現するとしている。そのため教室の活動としてReality Orientation、軽体操、記憶や注意を用いる認知機能訓練やActivity及び生活・運動習慣などの指導を週1回2時間、計12回行った。なお、効果判定の評価として本教室第1回目と第12回目に長谷川式簡易知能評価スケール(以下、HDS-R)を施行し、基本チェックリストは本教室の前後に行った。
    【結果】
    1)HDS-R
    平成20年度では23.2±6.1点から26.3±3.7点へと有意に向上し、平成21年度では25.2±3.7点から27.0±3.2点へと向上したが有意差を認める程ではなかった。
    2)基本チェックリスト
    平成20年度では認知症予防支援項目において有意な改善が認めらたが、平成21年度では差はなく閉じこもり支援項目に有意な改善が認められた。
    【考察】
    HDS-Rの得点が向上する傾向がみられたことは本教室が認知機能へ良い影響を与えたと思われた。しかし、基本チェックリストの自己評価で異なった結果がみられたことは、記憶に関する認知訓練が異なったため対象者が受け入れやすい取り組みを考慮する必要性があると思われた。また、今後は山崎ら(2009)が指摘するように教室期間の検討や自主グループ化を促せるように地域と連携した活動をしたい。
  • 永田 誠一, 松野 ひとみ, 高嶋 幸男
    セッションID: 16
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、脳卒中片麻痺の上肢機能へのアプローチとその治療効果に関する報告が増えつつある。しかし、治療効果と脳の機能的再構成に関する報告はいまだ少ないことが現状である。機能障害評価に加えて、機能的脳画像を用いることにより、改善に伴う大脳皮質活動の傾向が把握できるものと考える。
    【対象】
    対象は、Aリハビリテーション病院に入院中または外来通院中の慢性期片麻痺患者22名で、内訳は、左片麻痺者9名、右片麻痺者13名、男性15名・女性7名で、平均年齢は59±9.3歳(42~79)であった。診断名は、脳出血17名・脳梗塞5名で、発症からの期間は、平均1250±688.8日(375~2595)であった。機能的アプローチは、3~6回/週の頻度にてマンツーマンで行い、1回の治療時間は40分間であった。治療内容は主に、徒手誘導を用いた軟部組織の伸張と促通手技の実施や物品操作を用いた課題指向的訓練であった。対象者の選択においては、個人情報の保護に十分配慮を行い、研究の主旨に同意が得られたケースのみを対象とした。また、研究に先立ち事前にB大学倫理委員会による審査を受け、承認を得た後に開始した。
    【方法】
    アプローチ中30日間の前後においてFugl-Meyer Assessment(以下、FMA)と光トポグラフィの評価を行った。光トポグラフィの計測は、日立メディコ社製ETG-4000を用いて、酸化ヘモグロビン濃度の相対的変化を記録した。計測課題は、肩関節90度屈曲運動の反復を自動運動もしくは自動介助運動にて1回/2秒間の割合で行うこととした。計測部位は、国際式10/20法により推定した一次運動野部とし、解析には、日立メディコ社製複数人加算解析ソフトを用いた。さらに、左右半球間の活動比率を示す左右差指数を算出した。
    【結果】
    FMAでは、上肢合計が平均40.5±14.9から45.1±13.4へと有意な改善を示した(p<0.01)ほか、肩/肘/前腕(p<0.01)、手、協調性/スピード(p<0.05)においても優位な改善を認めた。光トポグラフィにおいては、左右片麻痺群とも両側半球において酸化ヘモグロビン濃度の減少が見られ、左右差指数においては非傷害側半球の関与がより高くなる結果となった。
    【考察】
    先攻研究では、発症後における非傷害側半球の一次運動野や運動前野の活動増加に関する報告がある。これを踏まえて今回は、治療効果と大脳皮質活動の関連性について検討した。その結果、慢性期の機能改善に伴う傾向は、一次運動野の活動減少と非傷害側半球のさらなる活動比率の増大であることが示唆された。
  • 3年間の新規相談の分析を通して
    和田 明美, 久野 彩
    セッションID: 17
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     平成18年度に開始された高次脳機能障害支援普及事業では、拠点機関にコーディネーターを配置し、相談支援や普及啓発を行ってきた。福岡市立心身障がい福祉センター(以下当センター)も拠点機関として理学療法士をコーディネーターに配置するとともに、包括的全体論的リハビリテーションを実施している。
    【目的】
     当センターで対応した新規相談について分析し、高次脳機能障害の支援の状況を知る。
    【対象および方法】
     平成18年度から20年度の3年間に当センターで受けた高次脳機能障害の新規相談について、相談記録から年度ごとの件数と対象者の性別、年齢、原因疾患、発症からの期間、相談者、相談内容、および相談後の転帰について調査した。
    【結果】
     高次脳機能障害の新規相談件数は、平成18年度74件、19年度90件、20年度137件と年々増加し、3年間で301件であった。性別は男性が、年齢は20代~50代が多かった。原因疾患は脳外傷と脳血管障害の2つが多数を占めていた。発症からの期間は1年未満が32%で病院退院前後の相談が多い一方、3年以上も26%あった。相談者は、家族と医療機関の2つが多かった。相談の内容は、1.診断・評価・訓練、2.利用できるサービスや高次脳機能障害の知識などの情報提供、3.就労・就学や家庭生活の支援がそれぞれ約3分の1を占めていた。
     平成21年10月1日時点での相談後の転帰は、情報提供で終結したものが38%で、他は当センターの来所を案内したが、診断・評価・訓練に入ったものは47%であった。訓練後終了した65名について21年10月1日時点の状況を調べたところ、31%が就労・就学、33%が作業所等の施設利用につながっていた。
    【考察】
     新規相談件数は年々増加傾向にあるが、これは啓発事業の成果であると考える。
     性別、年齢、原因疾患などはモデル事業など他の報告と大きな差はなかった。
     福岡県の発症率調査結果によると、当センターは福岡市内の新規発症者の約半数の相談を受けていることになった。当センターは相談対応に加え通所による高次脳機能障害のリハビリテーションを実施していることで、回復期リハ病棟退院後の継続した流れができてきている。それが3割の就労就学率を得るなどの成果につながっていると考える。しかし支援事業開始前の発症例では、最近高次脳機能障害の存在を知り相談に至る場合が多いという問題も明らかになった。
    【まとめ】
     当センターにおける3年間の高次脳機能障害の新規相談について分析した。その結果、普及啓発により相談件数が伸び、不十分な部分はあるものの支援の流れができ、一定の成果が見られていることがわかった。
  • 藤原 愛作, 池田 道子, 井上 貴博
    セッションID: 18
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では平成21年4月より大分県北部圏域脳卒中地域連携パス(以下地域連携パス)の運用を開始した。本パスは回復期リハ病棟への入棟時の日常生活自立度(以下生活自立度)を基に入院期間を設定している。
     しかし、回復期リハ病棟において導入前後での平均在院日数の変化は認められなかった。今回職員アンケートや入棟・退棟時の生活自立度を調査し、業務分析を行ったのでここに報告する。
    【地域連携パス導入前後での平均在院日数の変化】
     脳卒中とくも膜下出血にて回復期リハ病棟に入院・退棟した平成21年4~10月の症例と平成20年4月から平成21年3月の70症例を対象とした。平均在院日数に関して平成21年度は76.9日、平成20年度は72.3日と導入前のほうが短くなっていた。
    【現状分析】
     現状分析として回復期リハビリ病棟に勤務している療法士、看護師、MSWの24名にアンケートを実施した。生活自立度別の入院日数を把握していない職員が62.5%に及んでいた。また、円滑なマネージメントが行えているかという質問においては79.2%がどちらとも言えないとしていた。
     退院へ向けて要である家族指導や退院前訪問指導に関して計画通り行えているかという質問に対して、60.8%が上手く行えていないという回答であった。
     対象患者の入院・退院時の生活自立度の推移を調べてみると、入棟時Cレベルの症例37症例のうち54%が施設入所であり、特に大脳・脳幹損傷の症例になるとそのうち95%と高値を占めしていた。
    【考察】
     脳卒中連携パスは全国的にも取り組んでいる地域も増えており、当圏域でも開始して1年が経過した。その中で、シームレスな医療に必要な情報提供は行なえているが、適切な退院時アプローチが上手く行えないケースがしばしば見られている。
     今回のアンケートより在院日数を考慮してのマネージメントが行えていないことがわかった。これは、回復期リハビリ職員が若い職員が多く、身体機能からゴールをボトムアップしていく傾向にあることが予想される。今後対策として、患者のデマンドに即した目標指向型アプローチを提供し、各職種の計画立案を行なうことが重要と思われる。
     地域連携パスを使用することで、計画的なアプローチが行えるイメージがあるが、実際は院内での啓蒙を十分に行わないと効果的な運用が望めないことが分かった。特に患者のデマンドへの対応は回復期病棟に入棟してから情報収集しているのが現状である。運用後のデータ分析がより効果的な地域連携パスに進化するポイントと言える。
     今後上記の問題点に対して、課題を的確に捉えた退院支援や連携先との円滑な調整につながるよう業務改善を進めていく。
  • 宮里 幸, 河野 一郎, 時枝 美貴, 藤吉 大輔, 岡 瑠美, 北里 直子, 高杉 紳一郎, 岩本 幸英
    セッションID: 19
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    人工膝関節全置換術(TKA)において術前の膝関節屈曲可動域制限が術後の獲得可動域に影響することについての報告は多く存在するが、伸展可動域制限の影響についての報告は少ない。本研究の目的は術前の伸展制限の有無と術前・退院時の膝関節可動域(ROM)、歩行能力、疼痛、筋力との関係を明らかにすることである。
    【方法】
    対象は2007年4月~2009年11月までの間に当院にてTKAを施行した119例141膝である。本研究の対象には十分な説明を行い、同意を得た。対象を術前の膝関節伸展可動域から0~-5°を伸展制限なし群(男性4名、女性76名、平均年齢73.9歳、平均術後在院日数27.0日)、-10~-20°を伸展制限があり群(男性5名、女性43名、平均年齢73.3歳、平均術後在院日数26.4日)に分類した。それぞれの群の術前・退院時の膝関節伸展、屈曲ROMと筋力、疼痛の評価として安静時のVisual analog scale(VAS)、歩行能力の評価として10m最大努力歩行時間、歩数、Timed up & go test(TUG)を比較検討した。筋力測定はCOMBIT(ミナト医科社製)で、座位での膝関節屈曲60度で等尺性運動を行った。統計には、対応のないt検定を用い、有意水準を5%未満とした。なお、本研究は当院の倫理委員会の承認を得て実施した。
    【結果】
    伸展制限あり群の術前伸展ROMは-13.5°、屈曲ROMは121.0.°で、なし群の-2.1°、132.0°よりも有意に制限されていた(p<0.01)。退院時においても、あり群-4.3°、120.3°、なし群-1.4°、126.1°で制限が有意に大きかった(p<0.01)。10m最大努力歩行時間、歩数、TUGは、術前はあり群:12.0秒、21.3歩、17.1秒、なし群:10.1秒、19.4歩、14.8秒になり有意な差があったが(p<0.05)退院時には差はなかった。VASは、術前はあり群21.9mm、なし群14.0mmで、あり群が有意に大きかったが(p<0.05)退院時には差はなかった。術前の屈曲筋力は、なし群が有意に強かったが(p<0.05)、術後の屈曲筋力、術前・退院時の伸展筋力に差はなかった。
    【考察】
    伸展制限あり群はなし群に比較して、術前に屈曲制限や疼痛が大きく、歩行能力は有意に低かった。TKA施行により疼痛や歩行能力では両群の差はなくなったが、屈曲・伸展のROM制限の差は残存した。このことより術前の伸展制限は、退院時のROMに影響することが示唆され、術前からの伸展可動域改善に対するアプローチは重要であると考えられた。また、歩行能力はTKA施行により、疼痛軽減、伸展ROMが拡大したことによる歩幅の増大などによって差が無くなったものと考えられた。退院時の屈曲ROMが術前と同程度にとどまっていたことより、退院時にROM訓練のホームプログラムの指導が必要であり、今後は退院後の長期的な経過について分析することが課題である。
  • 田中 剛, 江口 淳子, 中山 彰一, 池田 真琴, 湯朝 友基(MD), 張 敬範(MD), 江本 玄(MD)
    セッションID: 20
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
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    【目的】
    前十字靱帯(以下ACL)損傷に半月板損傷が合併することはよく知られている。また、ACL再建術後のスポーツ復帰において、筋力回復は重要項目の1つとして挙げられ、筋力トレーニングに対する方法も多くの研究がなされている。今回、ACL再建術時に半月板損傷を伴っていた場合、その半月板に対する処置の違いが筋力回復に及ぼす影響について、大腿四頭筋およびハムストリングスの筋力回復の観点から調査したので報告する。
    【対象および方法】
    対象は、2009年1月〜10月の間にACL再建術を行った症例の内、A群は半月板損傷なしの14膝(男性6膝、女性8膝)、平均年齢23.1歳(14歳~42歳)。B群は半月板部分切除術を合わせて行った13膝(男性8膝、女性5膝)、平均年齢28.6歳(16歳~44歳)。C群は半月板縫合術を合わせて行った9膝(男性3膝、女性6膝)、平均年齢26.7歳(16歳~45歳)とした。筋力測定はCSMI社製CYBEX HUMAC NORMを用い、術後3ヶ月、6ヶ月での大腿四頭筋、ハムストリングスの筋力を60deg/secおよび180deg/sec等速性収縮にて測定し、体重トルク比に換算した。術後3ヶ月の値を基準とし、術後6ヶ月での上昇分を百分率で表し統計処理した。統計処理には一元配置分散分析を行い、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    ヘルシンキ宣言に基づき全ての症例に対し、測定前に研究の説明し同意を得た。
    【結果】3群間における大腿四頭筋、およびハムストリングスの上昇分において60deg/secおよび180deg/sec共に有意差は認められなかった。60deg/secでの大腿四頭筋の上昇値:A群27.2N/m、B群28.5N/m、C群45.4N/m(P=0.441)、ハムストリングスの上昇値:A群13.8N/m、B群22.2N/m、C群20.6N/m(P=0.400)。180deg/secでの大腿四頭筋の上昇値:A群14.8N/m、B群24.8N/m、C群34.4N/m(P=0.068)、ハムストリングスの上昇値:A群6.1N/m、B群20.7N/m、C群15.2N/m(P=0.091)となった。
    【考察】
    ACLの単独損傷と半月板部分切除術を合併したACL損傷例の筋力回復には相関がないと言われている。当クリニックにおいて半月板を縫合した場合、術後初期の屈曲角度制限や筋力訓練、ランニングの開始時期に制限を設けたプログラムを実施している。今回の調査でACL損傷に半月板損傷を合併した場合、半月板部分切除術または縫合術を施行しても筋力回復には有意差がみられなかった。これはスポーツ復帰の時期を筋力回復という点だけで判断すれば、今回の対象では半月板の処置方法は関係ないと考えられる。また、一般的に半月板部分切除術を施行すると、長期的な予後で関節変形が発生しやすいと言われていることから、ACL損傷に半月板損傷を合併した場合には、半月板縫合術にアドバンテージがあるのではないかと思われる。今後は、さらに症例数を増やし、長期的な予後も含めて、追跡調査を行っていきたい。
  • -表面筋電図を用いての検討-
    石井 瞬, 下迫 淳平, 川原 紗弥香, 森本 陽介, 上原 ひろの, 山下 正太郎, 米倉 暁彦
    セッションID: 21
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    前十字靭帯の受傷直後や手術直後には膝周囲の腫脹が強く、大腿四頭筋,特に内側広筋の萎縮が生じやすいといわれている。内側広筋の筋萎縮予防として電気筋肉刺激(以下EMS)を用いて軽度膝屈曲位での大腿四頭筋セッティング(以下セッティング)を行わせることが多い。今回表面筋電図を用いて前十字靭帯再建術(以下ACLR)症例の周術期におけるEMSに対する即時効果を中間周波数(以下MdPF)・筋電図積分値(以下IEMG)を使用し検討したので報告する。
    【対象と方法】
    対象は当院にてACLRを施行した症例の術前10名(男性8名・女性2名)・術後11名(男性9名・女性2名)とした。対象症例には本研究の目的・方法及び危険性等を説明し同意を得た。測定時期は手術前日・手術14日後・測定筋は両側の内側広筋(以下VM)・外側広筋(以下VL)・半腱様筋(以下ST)とした。EMSはスーパーテクトロンHX606(テクノリンク社)にてVMに低周波電気刺激を与えながらセッティングを10分間実施した。EMS前後に術側・非術側共にセッティングを3回実施し、MULTI-TELEMETR 511(日本電気三栄社)を用い、サンプリング周波数1kHzで導出・記録した。記録した筋電図については生体情報解析プログラムBIMUTAS2(キッセイコムテック社)を用いて、運動開始後より波形の安定した2秒間の各筋のIEMG・MdPFを算出した。IEMGはEMS前の測定値を100%としてEMS後の増加率を算出した。同時にVM/VL比・ST/VM比を算出した。統計処理にはWilcoxonの符号付き順位検定を用い有意水準は5%未満として、術前後の術側・非術側におけるEMS前後の値を比較した。
    【結果】
    MdPFは術前非術側VLに優位な減少が認められ、それ以外にはEMS前後に優位な差は認められなかった。IEMGは術前術側VM・VL,術後非術側のVM・VL・ST,術後術側VM・VLにおいて優位な増加が認められた。VM/VL比・ST/VM比には優位な差は認められなかったが、術前術側においてST/VM比に減少傾向が認められた。
    【考察】
    MdPFは速筋線維比率・IEMGは動員される筋線維数に相関するといわれている。また、筋疲労の進行に伴いMdPFが一貫して低下すること、IEMGが増加することは多数報告されている。今回は術前術側,術後術側・非術側のEMS後にはVM・VLを中心にIEMGのみが増加する傾向が認められた。MdPFの減少が認められないために、この結果は筋線維数の動員の増加に伴い筋出力が向上したと考えられる。ACLR周術期におけるEMSを用いたセッティング練習は即時的効果があることが示唆された。低周波電気刺激のみの効果・長期的な効果に関しては今後も検討が必要である。
  • 術後の患肢荷重率に注目して
    榮 彩人
    セッションID: 22
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
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    【目的】
    大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術予定者では骨折部の安静が必ずしも必要でないことから、術前より起立練習を試行したところ、術後の早期離床・早期歩行獲得につながる報告がある。そこで当院において平均在院日数が約2週間と短い中、術後の理学療法プログラムがスムーズに進行できるように大腿骨頚部骨折人工骨頭置換術待機の患者に対して術前起立練習を行い、術後の患肢荷重率に及ぼす影響について注目した。
    【対象と方法】
    対象は大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術適応の患者とし、骨折型は内側骨折で転位型とする。除外基準として1.受傷前歩行不能であった症例。2.認知症により理解が得られないと医師が判断した症例。3.重度の合併症と医師が判断した症例。予め作成した割付表を基に、同意を得た順番で術前起立練習実施群と対照群とに振り分けた。平成21年12月から平成22年3月までの間で実施群9例(男性1例、女性8例、平均年齢77.8±5.3歳)、対照群5例(女性5例、平均年齢80.0±7.2歳)を対象とした。
    介入方法はベッドサイドにて背臥位からギャッチアップを経て端坐位に移行する。この時、患者は可能な限り自分で体位変換を行う。端坐位から患肢は荷重をせず足底接地のみで健側下肢にて起立する。練習期間は入院日翌日から手術前日までとし、1日2回。30分前には坐薬の投与を行う。練習時間は約15分(60秒の立位保持と30秒の休憩を1回とし10回行う)とした。対照群に対しては手術待機期間中何もアプローチしない。術後のリハビリテーションにおいて内容に差が生じないように術後プロトコールを作成し、それに基づきリハビリを行う。
    効果判定として術後の患肢荷重率を測定した。立位時の患肢への荷重率(%)=(努力荷重/体重)は術後2日と術後7日に測定した。また、車椅子移乗動作の獲得時期と歩行器歩行獲得時期についても評価した。各動作は見守りレベルにて獲得とする。
    【結果】
    実施群の術後2日の患肢荷重率は平均63.1±13.8%、術後7日の荷重率は85.0±8.2%で、術後の車椅子移乗獲得時期は平均1.2±0.4日、歩行器歩行獲得時期は3.0±1.0日であった。一方、対照群の術後2日の患肢荷重率は平均33.9±4.2%、術後7日の荷重率は58.2±8.5%で、術後の車椅子移乗獲得時期は平均5.2±2.2日、歩行器歩行獲得時期は9.2±2.3日であった。
    【考察】
    術前から起立練習を行うことで、術後1日目の車椅子離床に対する不安や抵抗感も少なく、スムーズに術後のリハビリテーションを進めることができ、早期に荷重を行うことができた。今回はまだ症例数が少なく、統計的な差が示せなかったため、症例数を増やし検証していきたい。
    【まとめ】
    大腿骨頚部骨折で人工骨頭置換術適応の患者に対して術前起立練習を行った。術後の患肢荷重率は実施群が対照群に比べ高く、車椅子移乗獲得時期、歩行器歩行獲得時期も実施群が早い傾向にあった。今後さらに症例数を増やし、その効果を検証していきたい。
  • インタータンとガンマネイルの術式の違い
    村上 雅哉, 福田 文雄
    セッションID: 23
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
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    【はじめに】
    当院における大腿骨転子部骨折の不安定型骨折に対して、骨接合術としてガンマネイルが用いられてきた.2009年秋より新機種であるインタータンが導入された.この機種は2本のスクリューによって術中に骨折部に圧迫をかけることが可能である.骨折部に圧迫をかけることによって骨折部が安定化し、早期に疼痛が軽減するのではないかと仮説をたてた.
    【目的】
    理学療法を実施するにあたり機種の違いにより歩行開始時期に違いがあるか否かを明らかにすることである.<BR >【対象・方法】
    当院入院し今回の研究にあたり同意を得た大腿骨転子部骨折患者14名(インタータン7名・ガンマネイル7名)、男性4名・女性10名、平均年齢82.3±8.4歳、改訂長谷川式簡易知能スケールは平均15点、いずれも受傷前は歩行可能な患者を対象とした.術後の後療法は、翌日から痛みに応じて離床・荷重可能であった.平行棒内歩行開始時期においては、疼痛が自制内に可能になった時期に平行棒内歩行を開始し、術後からの日数を算定した.これらの術式においてWilcoxonの検定により比較し有意水準は5%未満とした. <BR >【結果】
    インタータン実施患者の平行棒内開始時期は3.2±0.9日、ガンマネイル実施患者の平行棒内開始時期は3.4±1.4日であった.これらの術式において平行棒内歩行開始時期に有意な相関は認められなかった.
    【考察】
    高齢者の術後リハビリテーションにおいて、可能な限り早期に離床を促し、廃用症候群を予防することが重要である.しかし、離床・荷重・平行棒内での運動を開始するにあたっての阻害因子として疼痛が挙げられる.特に平行棒内歩行を開始する時期において難渋する場合が多く疼痛が強ければなかなか開始することが困難である.インタータンは術中に骨折部に圧迫をかけ早期に疼痛が軽減し、平行棒内歩行開始が早まるのではと考えたが、今回の結果からはインタータンはガンマネイルと比較して術後理学療法において平行棒内歩行開始時期を早めることはできなかった.
  • 足立 祐紀, 浅香 雄太, 西 洋樹, 坂田 大介, 清田 克彦
    セッションID: 24
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院における人工股関節全置換術(以下THA)のクリニカルパス(以下パス)は、退院目標期間を術後4~6週、退院基準は1本杖歩行獲得としていた。2010年1月よりパスを改訂し、退院目標期間を術後3~4週へと短縮した。そこで従来のパス(以下旧パス)と改訂パス(以下新パス)を比較検討することにより、パス改訂の効果と課題を検討したので報告する。
    【対象】
    旧パス対象者は2007年9月~2009年8月までTHA施行した症例172名(平均年齢63.7±10.6歳、男性34名、女性138名)。新パス対象者は2010年1~3月までに施行した症例22名(平均年齢66.6±12.5歳、男性5名、女性17名)である。旧パス、新パス共に再置換術、術後荷重制限ありの症例は除外した。
    【方法】
    年齢、術後在院日数及び1本杖歩行自立日数について旧パス群と新パス群の2群間で比較検討した。身体機能の評価として日本整形外科学会股関節判定基準(以下JOAスコア)を使用した。個別の評価項目として筋力、関節可動域、疼痛、歩行能力について測定した。筋力は股関節外転及び屈曲筋力について日本メディックス社製マイクロFET2を用い測定した。測定は大腿遠位での等尺性運動によって得られた筋出力値より体重比を算出した。関節可動域は股関節外転及び屈曲可動域を測定した。疼痛は安静時、荷重時においてFaceScaleを用いて6段階で測定した。歩行能力は10m歩行時間を測定した。術前と退院時の各評価項目を2群間で比較検討した。統計処理はMann-WhitneyのU検定を用い、有意水準5%未満とした。
    【結果】
    年齢に有意差は認めなかった。術後在院日数は旧パス群(41.97日)に対して新パス群(28.36日)が有意に短縮した。1本杖歩行自立日数は旧パス群(16.78日)に対して新パス群(11.29日)が有意に短縮した。JOAスコアは入院時、退院時共に有意差は認めなかった。入院時の個別評価は全ての項目で有意差は認めなかった。退院時の股関節外転筋力において新パス群が有意に低下した。退院時の荷重時痛において新パス群の疼痛が有意に強かった。退院時の10m歩行時間において新パス群が有意に遅延した。その他の項目では有意差は認めなかった。
    【考察】
    今回のパス改訂に伴い術後在院日数及び1本杖歩行自立日数の短縮が認められた。入院期間は短縮したものの退院基準である1本杖歩行獲得は100%達成しており、JOAスコアにも差が見られなかった。このことから、身体機能は旧パスと同様の能力を有していることが示唆された。しかし、個別の評価項目では股関節外転筋力、荷重時痛、10m歩行時間において旧パス群の値が良好との結果になった。新パス群は症例数が22名と少なく、今後更なる調査が必要である。
  • 角 裕之, 池田 聡
    セッションID: 25
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    高周期に筋活動電位測定と低周波刺激を繰返す随意運動介助型電気刺激装置は随意筋電に比例した強度で電気刺激を行うため、作業やADLなど一連の動作を行いながら筋の収縮力を高める効果がある。今回、肩関節挙上障害の患者に対しPAS system(OG技研社製;以下PAS)を用い簡易上肢機能検査(以下STEF)と機能的作業療法の分析、動作解析を行ったので報告する。
    【対象と方法】
    対象は今回の研究に同意が得られた術前の頚椎症の患者1名、65歳、男性であった。実験する部位は右上肢としC3/4椎間の圧排著明、筋緊張低下がみられた。運動機能はMMTにて肩関節屈曲・外転2、肘関節屈曲・伸展4、握力10.5kg、ピンチ力(1-2指間)1.1kg、近位筋優位の筋萎縮が有り手指の分離運動低下や痺れを伴い巧緻運動障害もみられた。方法は右上肢の三角筋前部繊維に筋電検出・出力用の2極導子、中部繊維に出力用単極導子を貼付し筋電感度と電気刺激強度を設定、STEFをPASの有無で行い各項目の所要時間と得点で比較した。また、検査項目3(大直方体の横移動)と6(小立方体の縦移動)の往復動作に対し症例と健常者1名(以下N)に三次元動作解析装置 3space Win(Polhemus社製)を使用して肩関節角変位の解析を行い波形の形状、最大屈曲角・最大外転角を比較した。また、肩関節挙上の作業として机上体前面のコーン(三角錐)を体前面遠位の高さ20cmの台上に移動する動作も解析の対象とした。統計処理はWilcoxonの符号付順位検定、Mann-WhitneyのU検定を用い優位水準は5%未満とした。
    【結果】
    STEFの得点はPAS無47点、PAS有52点、各検査項目の所要時間ではPAS有が短く有意差がみられた(P<0.05)。動作解析では検査項目3より最大屈曲角はPAS無、PAS有、Nの順に高く各々有意差があり、最大外転角はPAS有とNが同等の値で大きくPAS無と有意差がみられた(P<0.05)。検査項目6の最大屈曲角はPAS有とNが同等の値で大きくPAS無と有意差がみられた(P<0.05)。最大外転角は大きな差異は見られなかった。コーンでは検査項目6と同様の比較結果であった。波形の形状ではPAS有はNと同様の滑らかな曲線であった。
    【考察】
    三角筋は上肢自体と把握物の重量を保持すると同時に運動性が求められるため大きなトルクを必要とする。今回の頚椎症患者の三角筋前部・中部繊維にPASを使用しSTEFと一作業動作にて健常者と同様の動作解析結果が得られたことより、PASは筋力低下による肩関節挙上障害に対する作業療法に有用であると考えられる。問題点としてはPASの対象となる筋は筋力が低下しており低周波刺激に対し疲労が早いこと、特定の筋の収縮力が高まるため正常な関節内運動と異なるなどが挙げられた。今後は症例数を増やし治療効果について検討していきたい。
  • 心理的要因に着目して
    小牧 隼人, 小牧 順道
    セッションID: 26
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】運動器疾患へのアプローチは生物医学的モデルから生物心理社会的モデルへの転換が求められている。今回、心理評価を実施しながら身体活動を促すことで左肩関節痛の改善が得られた症例を経験したため報告する。本報告は本人へ説明し同意を得ている。
    【症例紹介】67歳、女性。診断名:左肩関節周囲炎、外傷性頸部症候群。現病歴:自損事故で3病日入院。退院後左肩屈曲時痛あり。7病日理学療法開始。既往歴:帯状疱疹。内服薬:ロキソプロフェンナトリウム、塩酸エペリゾン、ニトラゼパム。保険:医療保険。性格:神経質かつ不安が強い。
    【初期評価】主訴は洗濯物を干す時に左肩が痛い(VAS:8/10)。部位は僧帽筋上部線維。左胸部に打撲痛もあり。「事故の夢で目が覚めて眠れない」、「頭が混乱している」等の訴えあり。医師に「後日症状が出るかも」と言われ不安あり。「自覚症しらべ」にて、ねむけ感19点、不安定感22点、不快感17点、だるさ感14点、ぼやけ感13点(症状なければ各5点)。呼吸は胸式呼吸で横隔膜・肋骨の動きは左で制限あり。左大胸筋・腰方形筋・脊柱起立筋緊張亢進。静止立位・座位とも骨盤軽度前傾、体幹軽度左側屈・右回旋。左肩関節可動域制限はないが、自動屈曲時肩甲骨の代償と疼痛出現。歩行時左肩内旋、手指屈曲位固定。食事中左上肢は体幹に固定。「痛いから動かない方がいいですか?」との発言あり。
    【理学療法経過】左胸部痛、心理的不安により左上肢・体幹を固定し、代償的な肩屈曲により疼痛が生じていると判断。徒手的リラクセーション、呼吸練習、左肩の自動介助運動など患部周囲から開始。食事姿勢や歩行時の腕の振りを指導し、家事は出来る範囲で実施するよう活動を促した。理学療法実施中は心理的支持を心がけ、問題点ではなく改善点を中心に身体状況を説明。症状の改善に伴いバルーンやスリングを利用した自動運動主体の上肢体幹エクササイズへ変更。
    【最終評価】3週後挙上時痛VAS:2/10。身体機能に著明な問題は認めず、代償なく洗濯物を干す動作が可能となった。「自覚症しらべ」は、ねむけ感8点、不安定感11点、不快感8点、だるさ感9点、ぼやけ感7点。「身体を動かすと気持ち良い」との発言あり、「孫と一緒に自主練習している」とのこと。「良くなったのでグループの活動に参加できます」と趣味活動も再開。
    【考察】問診時の主観的心理評価は精神的苦痛や障害のある患者を識別するには感度と的中度が低く、質問表の使用が推奨されている。また、心理的要因のある患者へは活動の再開を促し、受動的アプローチから能動的アプローチへ変更していくことで活動耐性を向上させることが必要と言われている。本例では「自覚症しらべ」を使用し、身体的な病期に加え心理状態も本人と共有しながら活動を促し、プログラムを変更出来たことが症状の改善につながったと思われた。
  • ~入浴動作を中心に~
    宜野座 美咲, 與儀 高茂, 大城 貢, 福嶺 紀明
    セッションID: 27
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院では腱板修復術患者に対し、約2週間の入院となっている。外転枕装具固定の3週間は自動運動が禁忌のため、退院後も約1週間は入浴や更衣動作に介助が必要である。腱板修復術施行後の患者・家族が早期退院するために安全な入浴・更衣動作を獲得し再断裂防止を目的に介入を行なってきたので以下に報告する。
    【対象】
     平成19年3月~平成21年10月当院で修復術を施行された45名のうち34名(男性26名 女性8名 平均年齢61歳)
    【取り組み】
     平成19年3月から当院にて腱板修復術が実施され始め、同時に入浴指導が開始。当院では入院期間が2週間と県内の他施設に比べ早期の退院となっている事や病棟ではルーム担当性のため介助方法が汎化されにくいという点から安全に取り組めるようリハビリテーション(以下リハ)で入浴指導を行っている。当初は外転枕装具固定と同様の肢位が取れるようにペットボトルで作成した入浴用スリングを使用。しかし支持面がせまく安定性に乏しかったため装具士と相談し支持面を広げるなど、安心して使用できる入浴用装具を再作成。病棟においてはNrs.や助手へ安全な介助方法の共通認識がもてるよう各病棟で介助方法・禁忌肢位について勉強会を実施した。入浴はOpe後3日目から開始されるため実際の練習期間は約10日間となっている。介入回数に限りがあることで、家族の不安が感じられたため平成20年から外来でのOpe前評価時に入浴用装具についてパンフレットを使用し入浴方法の紹介を始めた。実際に入浴用装具を装着し固定肢位の経験・禁忌肢位の指導を行っている。
     実際の入浴においては全身状態や家族との日程調整の上、リハ介入。Nrs.とも協力しオーバーテーブル・入浴用装具を使用。患者・家族へ実施前に「わきを閉める」「自分で動かす」をしないようパンフレットを使用して説明。更に、家族だけでも安心して入浴介助がしやすいよう簡単に要約した風呂場用のパンフレットを設置した。患者・家族の理解、動作遂行に応じ練習を継続。禁忌肢位の理解が得られた後は共通認識強化のため病棟Nrs.や助手へ依頼。カンファレンスの際に入浴やリハの状況を本人・家族・医師へ報告し退院について検討、退院が決定した際は私服での更衣練習も追加している。退院時に入浴用装具を貸し出し、外転枕固定終了時に返却となっている。
    【まとめ】
     平成19年から当院にて腱板修復術が実施され入浴指導において安全に入浴動作を行い早期退院できるよう装具・パンフレットの作成を実施。しかし、2週間の入院期間では練習期間に限りがあるため、装具の変更や外来でのADL指導、病棟との共通認識の強化など安全な早期退院を目指し取り組みに検討を重ねてきた。現段階では徐々に理解も得られ、臨床上問題となるような再断裂者は認めず良好な経過を得ている。
  • 投球障害肘に着目して
    鶴田 崇, 渡辺 裕介, 湯朝 友基, 張 敬範, 江本 玄, 緑川 孝二
    セッションID: 28
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     当院における投球障害肘に対する理学評価は、肘関節・下肢・体幹も含めた全身は勿論のこと、肩関節の評価として原の11項目も利用している。原の11項目における肩甲上腕関節の柔軟性を評価するCombined Abduction Test(以下CAT)・Horizontal Flexion Test(以下HFT)は、肩甲骨を徒手的に固定して上肢を外転や水平屈曲させ、その角度を計測する方法で左右差を調べるが、陽性と陰性を判断する角度基準が明確でない。そこで今回、投球障害肘に対するCAT・HFTの初回の陽性角度と陰性に改善した角度を計測し比較検討した。
    【対象】
     野球部に所属し、投球障害肘を持つ男性30例、全例投球側。平均年齢は12,7±1,7歳(10~17歳)。なお、対象者には本研究の目的を十分に説明し同意を得た。
    【方法】
     投球禁止・投球開始・試合復帰時期、初回の陽性時の角度と陰性に改善した時のCAT・HFTをそれぞれゴニオメーターで計測し比較した。陽性と陰性の判断基準は原に準じ、CATにおいては上腕部が側頭に近づくと正常で、近づかなければ異常、HFTは手指が反対側の床に着くと正常、床に着かない場合は異常と判断した。また、投球禁止~投球開始までの期間、投球開始~試合復帰までの期間を計測した。
    【結果】
     投球禁止宣告時の平均CATは103,5°±6,3(29/30例陽性)、HFTは88,7°±3,0(30/30例陽性)。投球開始許可時の平均CATは129.5°±1,3(1/30例陽性)、HFTは106,5°±5,6(10/30例陽性)。試合復帰許可時の平均CATは128,3°±3,1(2/30例陽性)、HFTは105,3°±6,2(11/30例陽性)。初診時のCAT陽性平均角度は103,3±6,3、陰性改善時は130°±0。初診時のHFT陽性平均角度は89.5°±1,8、陰性改善時は110,5°±0,9。
     投球禁止~投球開始までの平均期間は28,2±10,7日、投球開始~試合復帰までの平均期間は54,9±20,4日。
    【考察】
     投球障害肘を評価する上で、肘関節よりも中枢部である肩関節・体幹を評価することは必須である。それ故に、投球障害肘を治療する際、原の11項目に含まれているCAT・HFTは肩甲上腕関節の柔軟性を的確に診る上で非常に重要である。しかし、患者の理解力や治療における目標設定が曖昧であり、双方とも陽性・陰性の判断角度が明確ではない。
     今回の研究によって、目標角度がCATはおおよそ130°、HFTはおおよそ110°と明確になることで、具体的な数値として表現されれば、患者と治療側の間で問題点や治療選択が共有でき、自己認識が高まると思われる。
  • 野中 信宏, 貝田 英二, 宮崎 洋一, 山中 健生
    セッションID: 29
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     腱縫合術後早期運動療法の目的は腱縫合部の治癒を促し,腱性・関節性拘縮を予防することであり,順調であれば拘縮矯正訓練をほとんど必要としない.今回,手指伸筋腱Zone5での伸筋腱縫合術例に対してMP関節他動屈曲運動を含めた早期運動療法を試み,対照的な2例を経験したので報告する.
    【症例と術中所見】
     本報告に承諾を得た症例1,2各40代,50代の男性で症例1は鋸にて右示指,2は鎌にて左中指のMP関節背側を受傷した.伸筋腱完全断裂にて同日津下法にmattress縫合を加えた腱縫合術を行った.
    【術後セラピィと経過】
     両症例共に術直後から患側手挙上させ,術後2日時に手関節軽度背屈・損傷指伸展位でスプリントを作製し,運動時以外装着させた.術後3週間は1日1~2セット以下の運動をセラピスト管理下で行った.1他動伸展位を維持する程度の自動伸展運動,2PIP関節自他動屈曲運動,3MP関節他動内外転運動,4MP関節約60度他動屈曲運動.症例2は術後1週時に4の運動の際,遠位関節に腱固定効果が見られはじめ,またその運動に対する疼痛も出現し防御的に手関節・手指自動屈曲しようとする反応が出現したため,以降の運動はそれらが出現しないMP関節他動屈曲可動域約30度までに変更した.術後3週時から管理下以外で指自動伸展運動とPIP・DIP関節屈曲運動を許可した.症例2は浮腫の残存を認め,この時期よりPIP関節伸展不全が出現した.術後5週時から制限ないMP関節他動屈曲運動を開始した.術後6週時にスプリントを完全除去し,症例1は抵抗運動のみ禁止して治療終了し,症例2は残存した拘縮に対して術後12週時まで積極的な改善訓練を行った.
    【結果】
     術後6週時%TAMは症例1は100%,2は60%であり,術後12週時に症例2は90%となった.
    【考察】
     腱縫合術後の早期運動療法中,創傷治癒が成熟してくる術後10日前後から訓練間の安静時にできた極軽い腱癒着を臨床上良く経験する.ここで腱癒着を許すと術後3週以降の運動にて改善訓練が必要になる.症例1は伸筋腱癒着とMP関節伸展拘縮がほぼ発生せず,早期運動療法効果があった.一方症例2は早期運動中に腱癒着が予防できず伸展拘縮が発生したため,その改善訓練を必要とした.なおかつ最終的な成績は症例1より低かった.この両症例の差は4の運動継続の差にあったと思われる.その4の運動を症例2に控えた原因は,腱癒着による腱固定効果と運動時痛に対する防御的な反応の出現であり,再断裂の危険性を判断し変更した.また,症例2は浮腫消退が遅く,創周辺部も長らく肥厚しており,浮腫の残存が周辺組織の線維化を促進させ,より拘縮を発生させやすい環境下にあったと思われる.腱縫合術後の早期運動療法は継続し続けることで効果があるといえた.しかしながら,再断裂を最大限に回避することはいうまでもなく,今回症例2に控えた運動判断がどうであったか皆様の意見を頂戴したい.
  • 田崎 和幸
    セッションID: 30
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    第25回本学会において母指対立再建術後に早期運動療法を行い、良好な成績を得た一症例について報告した。その後も症例を積み重ねており、今回、その長期成績を調査する機会を得たので、その結果を報告する。
    【対象】
    2003~2007年の5年間に環指の浅指屈筋が力源で、ギオン管をpulleyとして利用した母指対立再建術後に早期運動療法を行った42例47手のうち有効回答と同意を得た低位正中神経麻痺例24例27手を対象とした。内訳は、男6例7手、女18例20手、年齢は53~88歳(平均69.5歳)であり、全例右利きで、再建側は右17手、左10手であった。
    【方法】
    Kapandji test(母指対立)、握力、指腹摘み力、側腹摘み力を調査し術前と比較した。またADLにおいては、ボタン・書字・爪切り・箸・蛇口の開閉・タオル絞り・洗顔動作の独自の7項目を容易3点、やや困難2点、困難1点、不可能0点の4段階で評価した。
    【結果】
    Kapandji testは術前2から術後5~10(平均8.9)、同様に、握力は0~39kg(平均16.7kg)から8~38kg(平均18.9kg)、指腹摘み力は0~6.6kg(平均2.7kg)から2.6~7.2kg(平均4.5kg)、側腹摘み力は0.9~8.8kg(平均4.6kg)から2~10.6kg(平均6.7kg)と改善していた。7項目のADL評価では、11~21点(平均19.5点)であった。また、早期運動療法による腱縫合部の断裂例および環指PIP関節の過伸展変形例はなかったが、2手の環指PIP関節に不可逆的な屈曲拘縮が生じ、拘縮解離術を施行した。
    【考察】
    腱移行術後のセラピィにおいては、腱縫合部中心に必発する周囲組織との癒着を可能な限り改善させるだけでなく、switchingを意識させる筋再教育が重要となる。一旦、腱縫合部の癒着が生じると筋再教育訓練である移行筋の収縮と弛緩が目的とする動作として現れにくいため、switchingへの認識は獲得されにくくなる。すなわち、switchingを認識させるには、腱縫合部の癒着が生じていない可及的早期に安全に筋再教育訓練を行うことが望ましいといえる。況して移行筋である環指の浅指屈筋は、代償する母指対立筋および短母指外転筋との共動筋ではないため、早期にswitchingを認識させることが重要と考えられる。今回の結果からは良好な摘み形態・力が獲得でき、独自のADL評価においても平均19.5点/21点であり、早期運動療法によって良好なswitchingによるuseful handが獲得できたと考えられた。一方、donor siteの機能損失による障害は、一般的に環指PIP関節の過伸展変形と握力低下が謳われているが、今回の結果からは両者とも問題なかった。しかし、2手の環指PIP関節に不可逆的な屈曲拘縮が生じており、この予防が今後の課題である。
  • 安東 大輔, 鶴崎 俊哉, 浜本 寿治, 門口 修二
    セッションID: 31
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
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    【目的】
    表面筋電図は正規化を行わないとデータ間の比較ができない為、最大随意収縮を用いて正規化されることが多い。しかし、この方法は環境や被検者の状態に左右され、再現性も低い。そこで関節トルクの推定により筋ごとの発揮するトルクを筋電図の正規化の一手法として使用できるのではないかと考え、足関節の底背屈について検討を行った。
    【方法】
    対象は、下肢・中枢に既往のない健常成人で、研究の趣旨・内容等を十分に説明し同意が得られた22名(平均年齢24.3±3.3歳)であった。被験筋は右側の前脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋とし、筋腹の1/3遠位に電極間距離20mmにて貼付して筋電信号を採取した。実験肢位は非験側足底非接地での90度座位とした。験側は足関節背屈10度から底屈30度まで10度ごとに測定した。収縮様式は等尺性収縮とし、漸増背屈運動を5秒間、同様に漸増底屈運動を5秒間、底背屈の同時収縮を5秒間行わせ、その状態のまま背屈方向へ5秒間、その後底屈方向へ5秒間の3パターンを行わせた。
    筋電信号および関節トルクは筋電図測定装置(エヌエフ回路設計ブロック社製)を経由し、サンプリング周波数1kHzにてパーソナルコンピュータに取り込んだ。測定した5秒間の信号は、0.5秒毎に全10データを抽出した。抽出したデータは、MATLAB Ver.6.5.1(Math Work社製)を用いてdaubechies5で離散ウェブレット変換を用いた多重解像度解析を行い、分解レベルjにおけるエネルギー密度の総和である PD(j)と筋電信号の総パワー密度であるTPwを求めた。実測トルクと各筋のTPwの平方根より重回帰式をStatView-J 5.0にて求め、有意水準5%にて筋電信号と関節トルクの関係を求めた。
    なお、本研究は長崎大学大学院医歯薬総合研究科倫理委員会の承認を受けて実施した(承認番号08061293)。
    【結果】
    個人間のデータにおいて、実測トルクと推定トルクの回帰係数は背屈10度、底背屈0度、底屈10度、底屈20度、底屈30度で0.7039~0.9655、0.6433~0.9538、0.7707~0.9817、0.7880~0.9853、0.8210~0.9805であった。
    各関節角度において、実測トルクと推定トルクの回帰係数は背屈10度、底背屈0度、底屈10度、底屈20度、底屈30度で、0.8913、0.9057、0.9281、0.9226、0.9343であった。
    【考察】
    個人間でのデータでは、実測トルクと予測トルクが各角度で高い相関があった。このことより推定式は成り立つと考えられる。また、各角度において験者間の実測トルクと予測トルクにも相関が得られた。このことより各角度では、これらの筋トルクにより験者間の比較ができると考えられ、この方法を用いることで筋電図信号を正規化できることが示唆された。
    今後日常生活へのアプローチにつなげるためには、肢位による違いや角度要素を含めての推定式を考案しなければならない。さらに動的な状況下での筋電図の正規化などにも用いる事ができるかを検討する必要があると考えられる。
  • 鮫島 淳一, 松元 秀次, 宮永 なる美, 崎川 和彦, 富岡 一俊, 小野田 哲也
    セッションID: 32
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【緒言】
     歩行では立脚初期から荷重応答期にかけて体幹支持筋の収縮がピークとなる。このことから体幹筋の筋力増強を図ることで歩行時の体幹動揺が軽減することが期待される。そこで本研究の目的として、大腿骨近位部骨折患者に対する体幹筋の筋力増強によって歩行時の体幹動揺に軽減がみられるかを検討したので報告する。
    【対象】
     対象は大腿骨近位部骨折術後の患者11名でT字杖歩行可能な者。中枢疾患や片側の大腿骨近位部骨折以外の整形外科的疾患の既往がなく、本研究の参加に同意が得られた者とした。
    【方法】
     体幹の筋力増強訓練を実施する群と実施しない群に無作為に割付けを行ない、両群ともに通常のリハビリテーションプログラムは実施した。本研究は当院の倫理委員会より承認を受けたうえで実施した。体幹筋の筋力増強訓練の方法は、骨盤前方挙上位からの抵抗・圧縮を加える方法を用い4週間実施した。評価方法は研究導入前後の歩行をビデオにて撮影し、画像解析ソフトDARTFISH (DARTFISH社製)を用いて解析を行った。 その他の評価項目として、体幹筋力、タイムアップアンドゴーテスト(以下、TUG)、ファンクショナルリーチテスト(以下、FRT)を測定した。体幹動揺の測定方法は被検者の両肩峰と上前腸骨極にマーカーを貼り、荷重応答期における両肩峰のラインと両上前腸骨極のラインのなす角度を測定した(加藤ら、2007)。体幹筋力の測定にはOG技研社製のISOFORCE GT‐300を用い、体幹筋の筋力増強訓練と同じ姿勢にて行った。
    【結果】
     対象者11名のうち、最終的に実施しえたのは8名(筋力増強群:4名、なし群:4名)であった。体幹動揺について健側立脚期では筋力増強群の方が動揺角度が大きくなったが、患側立脚期では両群間で大きな差は認められなかった。体幹筋力は健側、患側ともに筋力増強群の方が大きくなる傾向にあった。その他のTUG、FRTにおいても筋力増強群の方が優位になる傾向にあった。
    【考察】
    正常歩行では荷重応答期から立脚中期にかけて胸部と骨盤を正中位に保持することが要求される。特に体幹は運動の主体であり、胸部‐骨盤の安定化が必要である。奥村ら(2006)は股関節の運動自由度低下によって生じている体幹や骨盤の機能改善を行うことで運動連鎖機能を効率よく行うことができ、術後早期より安定した歩行(歩容)改善に結びつくとしている。これらの報告や我々の本研究より、体幹筋の筋力増強に加えて姿勢・動作戦略や運動の協調性に関しても学習させることで、体幹動揺をより制御できるものと期待される。
    【まとめ】
     本研究では体幹筋の筋力増強訓練は体幹筋力とTUG、FRTに好影響を与えたが、体幹動揺に関しては影響が不明確であった。症例数が少ないため、今後も調査を継続していく必要がある。
  • -腹横筋筋厚変化に着目して-
    山形 卓也, 荒木 秀明, 武田 雅史, 猪田 健太郎, 赤川 精彦, 太田 陽介, 廣瀬 泰之, 吉冨 公昭, 末次 康平, 野中 崇弘, ...
    セッションID: 33
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    現在、腰痛の治療として腹横筋・多裂筋等の深層筋再教育が提唱され実施されている、しかし深層筋群を特異的に収縮させるトレーニングに関しては臨床的な観点から否定的な論文も発表されている。現在我々はキルケソーラ氏により提唱されている、レッドコードを用いて不安定下の状況を設定し、疼痛により抑制されている運動単位を最大限に動員させるトレーニング方法(Maximizing neuromuscular recruitment:以下MNR)を用いて腰痛症例の亜急性期から積極的に実施し、良好な反応を得ている。しかし、MNRに関する基礎的、および臨床的検討は見当たらず、表層筋群と深層筋群が同時に収縮しているかは不明である。今回安静時とMNR時の腹横筋筋厚の変化を超音波診断装置を用いて比較、検討したので報告する。
    【方法】
    健常成人男性5名(平均年齢24.8±3.6歳)を対象にTOSHIBA社製超音波診断装置SSA-260ACEを使用した。計測方法は安静時とMNRトレーニング実施中に超音波診断装置で静止画を撮影し、撮影した静止画から腹横筋筋厚を計測した。プローブは肋骨下縁と腸骨稜の中央より下部に当て外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の境界が明瞭に表出されるよう微調整した。運動方法はレッドコードを用いて後部靭帯系理論を基本に後部斜方向、前部斜方向、外側方向の安定化筋群を対象とした3種類を施行した。各運動時の安静時と運動時の腹横筋筋厚を計測し、その平均腹横筋筋厚を算出した。その差を運動群間で比較した。症例には研究施行開始前に、当院の倫理規則に従いこの研究の趣旨を十分に説明し同意を得た。
    【結果】
    後部斜方向は安静時に比べ収縮時で平均2.26mm増加した。前部斜方向は平均4.88mmの増加、外側方向は平均1.64mm増加していた。以上の結果から腹横筋筋厚の変化が最も大きいのは前部斜方向で、最も小さいのは外側方向であった。運動時中に疼痛が生じた例では安静時と収縮時の変化量が小さく疼痛を生じさせないことが前提であることが再確認された
    【考察】
    腰痛症の体幹筋トレーニンク゛に関してはMcGillとHodgesらの業績を中心に議論されており、双方とも理論的モテ゛ルに適合させた良好なサイエンスから興味深い結果が報告されている。今回、体幹筋の共同収縮を不安定下の状況で行う事で、表層筋と深層筋が協調して収縮することが可能なのか、またはどの運動ハ゜ターンが最も効果的なのかを健常人を対象に検討した。結果として腹横筋筋厚の変化は股関節内転筋と外・内腹斜筋の共同収縮を伴う前部斜方向で最大で、外側方向で最も小さかった。これは股関節内転筋群の筋力低下と骨盤帯機能障害の重症度が相関しているという報告があり、今回の結果はその報告を肯定する結果となった。
    【まとめ】
    今後腰痛症のサフ゛ク゛ルーフ゜分けに準じ、各群に効果的な運動ハ゜ターンの優先順位について検討を行うのが急務と思える。
  • 河野 洋介, 川上 剛, 東 里美, 今島 弘喜, 紙屋 育美, 田口 光, 大西 芳輝
    セッションID: 34
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    Hirschberg、Lewisらは長期間の身体不活動に起因する2次的な障害を “廃用症候群”と報告している。その1例である関節拘縮の原因については多くの報告がなされており、筋硬結や筋緊張の影響が示唆されている。今回、治療台・体圧分散用具上における肢位(背臥位、側臥位)および体圧の変化と筋硬度との関係を調査し、若干の知見を得たのでここに報告する。なお、本研究はインフォームドコンセントの元、個人情報保護を含めた倫理的承認を得たものである。
    【方法】
    対象者は、重度脳血管障害患者16名(平均年齢80.9±11.4歳、日常生活自立度C2)。治療台(マットプラットホーム)および体圧分散用具上(イエルベン社製衛生マットレスウォーターリリー)にて体圧と筋硬度を測定。体圧測定にはCAPE社製PRESSURE SCANNING AID CELLO/CR270を使用し、測定部位は仙骨部および大転子部とした。筋硬度測定にはTRY-ALL社製NEUTONE TDM-N1を使用し、測定部位は膝蓋骨上縁5cmの左右大腿直筋部とした。測定肢位は背臥位(両側の肩峰を結ぶ線および両側の上前腸骨棘を結ぶ線が可能な限り体幹と垂直に設定)および側臥位(右側臥位にて両側の肩峰を結ぶ線が治療台および体圧分散用具へと可能な限り垂直に設定)とした。なお、測定環境は、仕切りにより視覚的遮断を行い、室内温度は25℃とした。体圧と筋硬度の比較には、それぞれ対応のあるt検定を用い、肢位別における体圧と筋硬度の関係については、ピアソンの相関係数を用い統計学的解析を行った。
    【結果】
    体圧の比較では有意差(P<0.01)がみられたものの、筋硬度の比較では有意差を認めなかった。さらに、治療台における肢位別の体圧と筋硬度の関係は、背臥位では有意な相関関係を認めず、側臥位においては、右大腿直筋はr=0.55(P<0.05)、左大腿直筋はr=0.53(P<0.05)であり、有意な正の相関関係を認めた。
    【考察】
    重度脳血管障害患者において、治療台と体圧分散用具における筋硬度に有意差が認められなかったものの、側臥位における体圧と筋硬度では有意な正の相関関係を認めた。神崎は、筋硬度は筋および組織に依存すると報告し、松本らは血管圧迫による循環障害が筋硬度上昇の一因としている。32mmHg以上の圧で動脈性毛細血管が閉塞し、血流が阻害されると言われているため、より圧のかかる側臥位では、血管圧迫による循環障害により筋硬度が増加したと考える。この結果、筋硬度は肢位変化と体圧変化に影響を受ける可能性が示唆された。今回の調査では、重度脳血管障害患者が対象であったため、肢位変化と筋硬度に対し、どの程度影響を及ぼしたかの確認までは困難であった。今後は責任病巣の関連についても考慮し、研究を進めていきたい。
  • 三次元動作解析による質的評価に向けて
    大田 瑞穂, 鈴山 久美子, 田邉 紗織, 坂口 重樹
    セッションID: 35
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    我々が日常的に何気なく行っている到達把持運動は古くからそのメカニズム解明のために多くの研究が行われてきた。近年では把持対象物の大きさ・形状などを変化させることで把持運動と到達運動が時空間的な協調関係にあることが証明されている。今回、3次元動作解析装置を用い、把持対象物の重さの異なることによって到達把持運動の姿勢制御が異なることを検証するために研究を行った。
    【方法】
    対象は手に運動機能障害をもたない健常成人8名(平均年齢26.1±3.0歳)とした。利き手は全員右側であり、手掌面の大きさ9.3±0.5cm、上肢長48.9±1.7cmであった。研究計画において当院の倫理審査委員会の承認を得た後、対象者に研究の趣旨を説明した上で同意を得られた対象者のみ計測をおこなった。使用機器は三次元動作解析装置(VICON MX)、椅子、机を使用した。椅子・机間距離は10cmとし、対象物までの距離は机の被験者側から40cm前方、開始姿勢は端座位(膝関節90°屈曲位)とし、手関節は対象物の位置から後方40cm、横に25cmの位置とした。計測課題は利き手で対象物を把持し、10cm上方へ持ち上げる動作とした。速度ならびに把持方法に関しては被験者の任意として、重さの異なる対象物A(35g)、B(1035g)を無作為に把持挙上させた。対象物A・Bは大きさ・形状ともに同一のものとした(500mlペットボトル)。計測に先だって対象物の重さを認識させるために5回練習を行った。抽出データは母指・示指間の3次元的な距離の最大値(以下、最大手指口径)、さらに、最大手指口径時までの身体重心前方移動距離、股関節屈曲角度を算出した。データ分析には対象物A・Bの条件下で算出した数値を対応のあるT-testにて検定した。
    【結果】
    動作開始から対象物を把持するまでの最大手指口径は対象物AとBで有意な差を認め(p<0.05)、対象物Bで大きくなった。最大手指口径時までの身体重心前方移動距離においても対象物AとBで有意な差を認め(p<0.05)、対象物Bで前方移動距離が大きくなり、股関節屈曲角度においても同様に対象物Aよりも対象物Bで有意に屈曲角度が増加した(P<0.05)。
    【考察】
    ヒトが重量の重い物体を把持して持ち上げる際には末梢の筋群だけではなく、上肢・体幹の筋活動・運動野の広範囲な活動が認められるという報告がある。本研究においても手指口径の大きさだけでなく股関節屈曲による体幹前傾角度が大きくなること、それに伴い身体重心が前方に運ばれることが示唆された。さらにそれらが把持する以前の到達運動時に準備されている点で、到達・把持・操作の上肢・手指運動が密接に関連しており、時空間的な協調関係にあることを認めている。今後も到達把持運動が様々な条件下で変容していくことを理解していき、それらの知見を基に到達把持運動の質的評価の検討、または上肢・手指機能障害に対する治療方法の一助を検討していきたい。
  • 倉野 久美, 井福 裕俊
    セッションID: 36
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     運動による循環応答は、その運動様式・強度・時間等により影響を受ける。筋活動による代謝産物蓄積により筋内での化学受容器が刺激され起こる筋代謝受容器反射調節について、近年下肢の大筋群を使った静・動的運動によるものが報告されている。本研究ではハンドグリップ(HG)運動という上肢の小筋群運動で、循環応答はいかに変化するか、その変化は運動強度・運動量どちらに依存するかを知るため、以下の研究を行った。
    【方法】
     被験者は22歳の健常男性5名。すべての被験者に対し、事前に実験の内容について説明し同意を得た。
     実験は、以下の2つの方法で行った。1)事前に最大随意握力を電子血圧計(ED-100、YAMAGAMI社)にて計測した。運動量を統一するため先行研究より、その最大握力の30%で2分間、45%で1分30秒間、60%で1分間の静的HG運動を行った。手順は、仰臥位にて安静10分、HG運動1~2分、回復10分とした(CER)。2)日を改めて、1)の運動負荷を行い、運動直後に運動側上腕部に収縮期血圧より20mmHg以上の圧力をかけて2分間阻血した。その後回復を10分とった(PEMI)。運動中、Physio Flow(MANATEC社製)と自動血圧計にて、心拍数(HR)、1回拍出量(SV)、心拍出量(CO)、 最高血圧(SBP)、最低血圧(DBP)を測定した。HRは胸部双極誘導による心電図のR-R間隔より算出し、平均血圧(MBP)は(SBP-DBP)/3+SBPから、 末梢血管抵抗(TPR)はMBP/COから求めた。統計処理には、すべての項目に対しコントロール値との変化量の比較にDunnett’s testを用いた。また、各条件下の比較を行うため、ANOVA4を用い、多重分析としてBonferroni post hoc testを行った。有意水準は5%とし、それ未満を有意とした。
    【結果】
     運動強度と運動量との関係では、HG運動終了時は各強度ともHR増加・SV減少・CO増加し、運動強度による影響は受けなかった。運動後の筋代謝受容器反射では、MBPとTPRにおいてCER群と比較して有意にPEMI群が増加を示し、その他の項目では有意な差はなかった。
    【考察】
     小笠原(2009)らは運動強度の異なる各1分間の下肢の静的運動を行い、運動強度が高いほどSVは減少し、その影響はMBPとHRの増加が関係していると述べている。静的運動では、静脈環流量に影響を大きく与える下肢の運動と同様に、HG運動という上肢の小筋群の運動においてもSVはMBPやHR増加の影響を受け減少することがわかった。また、運動強度より運動量の影響を受けることがわかった。
     筋代謝受容器反射は、先行研究の通り、心臓交感神経へは関与せず末梢血管抵抗に関与することが分かった。
  • 嶋田 誠治, 石丸 智之, 木村 多寿子, 雨宮 妃, 曽我 芳光, 横井 宏佳
    セッションID: 37
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    末梢動脈疾患(以下,PAD)は間歇性跛行を主とした虚血症状を呈する疾患である。その治療内容は多岐にわたるが、血管内治療である経皮的末梢動脈形成術(以下,PPI)の適応が近年拡大してきている。PAD患者の治療目標は下肢を健全に保ち、長期生命予後とQOLを改善することであり、運動療法も効果的な治療として重要視されている。しかし、PPI後の運動療法に関する報告はほとんど認められず、PPIを受けた患者は適切な運動指導を受けることなく、運動の恩恵から見離されている傾向がある。そこで今回、我々はPPI翌日の運動療法の安全性に関して検討したので報告する。
    【対象】
    2009年8月から2010年1月までの期間中に当院にて経皮的末梢動脈形成術を行なったPAD患者126症例のうち翌日に運動療法が可能であった41症例59病変を対象とした。
    【方法】
    当院規定のPPIクリニカルパスに基づき全例で少なくともPPI前日より抗血小板薬を投与し、以降1ヶ月以上継続させた。PPI翌日に屋内平地歩行において自覚的運動強度13を目標に行なうこととし、運動負荷中ならびに退院30日以内の心血管事故発生について調査した。クリニカルパスは入院から退院まで4日間で構成されており、PPI翌々日が退院日である。なお、本研究は所属長の承認のもと、対象者の個人情報に十分配慮し実施した。
    【結果】
    対象患者の背景は、平均年齢72歳、男性71%、高血圧症66%、脂質異常症61%、糖尿病59%、慢性腎臓病44%、肥満24%、虚血性心疾患61%、脳血管疾患39%であった。PPI翌日の屋内平地歩行での平均跛行出現距離は265mで、PPI前の自己申告での平均跛行出現距離98mよりも改善していた。運動中に重篤な合併症(急性下肢虚血、穿刺部血腫増大、意識消失、胸部痛など)が生じた症例はいなかった。また、PPI後30日以内に亜急性血栓閉塞、再血行再建、切断、脳血管疾患、虚血性心疾患、死亡となった症例も認められなかった。
    【考察】
    PPI後に生じる最も重大な合併症は急性下肢虚血と亜急性血栓閉塞である。特に退院後に生じる亜急性血栓閉塞は緊急バイパス手術や切断となり得る合併症である。今回の検討では、対象は少数例ではあるもののPPI翌日からの自覚的運動強度13程度での運動療法は抗血小板療法の効果を損なうものではないと考えられた。PAD患者の長期生命予後は健常人と比較して不良であることが知られており、間歇性跛行患者の5年死亡率は30%で死因の70%が脳梗塞や心筋梗塞といった心血管イベントである。患者自身もPADは「全身的な動脈硬化の一疾患」であることを認識する必要がある。そのため、治療後早期に退院する患者であっても、可能な限り運動療法から得られる情報で運動指導を行なうことが重要であり、それにより長期生命予後改善に貢献できるのではないかと考える。
    【結語】
    PPI翌日であっても自覚的運動強度13程度での運動療法は安全に行なうことができると考えられる。
  • 筋出力パターン分析と病理組織所見から
    立野 伸一, 石橋 輝彦, 奥村 亜沙美, 新堀 裕, 外牧 潤
    セッションID: 38
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    X連鎖性拡張型心筋症(X-linked dilated cardiomyopathy:XLDCM)による重症心不全患者の海外渡航心移植後、スポーツ再開を目指す症例の心臓リハビリテーションを施行する中、運動耐容能向上の阻害因子としての抹消機能(骨格筋持久力)の問題に直面した。そこで、筋機能評価と病理学的所見からスポーツの可能性について検討した。
    【症例・経過】
    18歳男性、190cm、69kg、2004年13歳の時に息切れ動悸を主訴に受診、拡張型心筋症の診断加療。筋肉痛、CPK上昇認め精査にてX 連鎖性拡張型心筋症(XLDCM)と診断、LVDd88mm、EF25%、XLDCMは20歳前後の死亡が多く、CRTDの適応なく2009年3月ドイツ、バドユーンハウゼン心臓センター転院、HUリストとなり5月心移植施行。退院後も二度の急性拒絶反応にて免疫抑制療法施行、9月帰国、心リハ開始。
    【方法】
    運動耐容能についてはトッレッドミル運動負荷試験施行。筋出力パターン分析はBIODEXによる60,120,180deg/secにおける Peak Torque, Peak Torque-%BW、%Work-Fatiqueを解析。病理組織学的所見は筋生検による心筋・骨格筋の免疫組織染色、WesternBlotting解析、遺伝子解析所見を参考にした。
    【結果】
    運動耐容能(負荷終了理由)は5.3METs(呼吸苦)から8.6METs(両下肢痛)と改善。筋出力パターン分析では、Peak Torque, Peak Torque-%BWは術後8ヶ月までは順調に改善、10ヶ月にはプラトー、%Work-Fatiqueについては、特に左下肢では32%,60.1%と骨格筋痛を伴う極端な低下を認めた。病理組織所見では、免疫組織染色にてジストロフィンに対する抗体反応はやや低下していたが、ウエスタンブロッティングの結果からは、骨格筋のジストロフィンに異常はみられなかった。RNA解析では骨格筋において脳型、プルキンエ型ジストロフィンが代償していた。
    【考察】
    移植後、心機能改善し一見順調な回復を呈するように思われたが、一旦低下したCK値が1000Ul前後で推移していること、運動誘発性骨格筋痛出現をみること、組織所見で染色低下をみたことより、安易にスポーツの可能性を伝えるのは疑問、しかし、今後、細胞の代償作用にも期待をしたい。
    【結語】
    今後、スポーツ再開を目的とする心リハを進めていく上で、骨格筋機能、特に筋持久力の改善がどこまで得られるか、病理組織学的側面も含め、拒絶反応、感染等を考慮しながら経過観察予定である。
  • 池永 千寿子, 黒山 荘太, 中村 宇大
    セッションID: 39
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    糖尿病に対する運動療法の課題は、日常生活の中で運動療法が安全で効果的に実践され、習慣化・継続されることである。継続の有効な手段の一つとして自己把握のできる「記録」が上げられる。当院では糖尿病教育入院中に自己管理表を用いて1日の運動量を毎日記録している。今回、自己管理表の使用が糖尿病患者の身体活動量の維持やHbA1cの改善に有効かどうかについて検討した。
    【方法】
    対象は2009年8月~2010年3月に2週間の教育入院をした2型糖尿病患者35名(男性10名女性25名)平均年齢66.9歳、平均HbA1c9.1%。除外基準は運動制限が必要な細小血管症合併例と心血管疾患合併例とした。全症例に入院中を通して自己管理表を用いた血糖値・体重・運動量を毎日記録し把握させた。退院時に自己管理表を配布し、退院1ヶ月後(以下1ヵ月後)に提出するように指示し、使用の有無は自己判断とした。自己管理表使用群を実施群(n=24)、運動は実施したが自己管理表は用いなかった群を非実施群(n=11)とした。評価項目はHbA1cと国際標準化身体活動度質問表(以下IPAQ)の short versionを使用し算出した平均的な1日の身体活動における消費エネルギー。さらに各項目の1ヶ月後より入院時を引き、改善値とし算出した。各群の入院時と1ヶ月後を比較と両群間の改善値はt検定を用いて比較検討し、P<0.05を統計学的に有意差ありとした。
    【結果】
    HbA1cは実施群入院時9.4%→1ヵ月後7.5%(P<0.01)、非実施群入院時8.2%→1ヵ月後6.9%(P<0.01)。IPAQを用いた平均的な1日の身体活動における消費エネルギーは実施群入院時62.4kcal→1ヵ月後221.3kcal(P<0.01)、非実施群入院時105.1kcal→1ヵ月後182.6kcal (P<0.01)。2群間の改善値はHbA1c実施群-1.9%、非実施群-1.3%(P=0.12)、IPAQを用いた平均的な1日の身体活動における消費エネルギーでは実施群+158.8Kcal、非実施群+77.5Kcal(P<0.05)と有意差を認めた。
    【結語】
    糖尿病教育入院後の食事・運動療法の実施により1ヵ月後のHbA1cと身体活動量は有意に改善した。自己管理表の利用における比較では、実施群の身体活動量が有意に増加した。自己管理表は運動量の把握ができ、退院後の身体活動量増加に有効であると思われた。今後も長期的な検討が必要と考える。
  • 田中 康明, 大崎 祐史, 田中 亮輔, 近藤 英明
    セッションID: 40
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    糖尿病は非糖尿病に比較して高血圧の頻度は1.5~3倍高いことが知られている。また、心大血管リハビリテーション対象症例では、糖尿病や高血圧等の動脈硬化性疾患の危険因子の合併が多い。糖尿病における高血圧の合併は心血管障害のリスクを高め、かつ糖尿病腎症の憎悪を促進させる。そこで今回24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)を用いて糖尿病患者における24時間血圧変動の臨床上の意義を検討した。
    【対象と方法】
    糖尿病患者74例(男性43名,女性31名,平均年齢63.6±12.2歳)を対象とした。測定方法は、ホルター心電図(フクダ電子社製デジタルウォークFM-800)を使用し、血圧は午前7時から午後10時までは30分間隔で、午後10時から翌朝午前7時までは1時間間隔で左上腕にカフを装着しリバロッチ法により測定した。24時間血圧測定の結果より、(1)24時間平均値、(2)睡眠時平均値、(3)覚醒時平均値、(4)就寝前2時間平均値、(5)夜間最低血圧前後2時間の平均値、(6)起床前2時間平均値、(7)起床後2時間平均値の7項目を算出した。合併症は、糖尿病3大合併症である、網膜症、末梢神経障害、腎症、および動脈硬化性疾患で検討した。統計学的解析はPASW17.02を用いた。血圧と合併症との関連性はクロス集計を行いFisherの直接法によるχ2検定を行った。有意水準は0.05とした。
    【結果】
    昼間の血圧では正常と判断される例でも夜間高血圧は多く、夜間血圧を指標とすると56名(75.7%)の症例が高血圧と診断された。夜間の高血圧が認められるものでは、第2期以降の腎症の合併、および動脈硬化性疾患が多く認められた(腎症:P=0.046、動脈硬化性疾患:P=0.016)。糖尿病患者の58名(78.4%)がnon dipper typeであった。睡眠中の血圧変動と糖尿病の3大合併症において統計学的に有意な結果は得られなかった。動脈硬化性疾患との関連についても,有意な関連性は認めなかったが(p=0.054)、動脈硬化性疾患を有するものの多くはnon dipper typeであり、non dipperの1/3の患者が動脈硬化性疾患を有していた。
    【結語】
    糖尿病患者においては、夜間高血圧やnon dipper型が多く、これらの症例には糖尿病性合併症や動脈硬化性疾患の合併が多かった。糖尿病を有している症例に対するリハビリテーションでは、ABPMの結果より、動脈硬化性疾患や腎症など合併症の出現にも留意しつつアプローチする必要があると考えられる。
  • 宮城 さやか, 玉城 すみれ, 伊藤 高一郎
    セッションID: 41
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    当院では昨年度リハビリテーション(以下リハ)介入中において患者急変に伴う救急要請が4件発生した。今回、その要因と緊急時対応をふまえ、リハ介入中におけるリスク管理を検討する。
    【方法】
    (A)対象期間:平成21年4月~平成22年3月。(B)対象者:リハ室内で急変となり救急要請を行った4症例。(C)検討事例:1)疾患名2)年齢3)既往歴4)急変前の身体状況5)急変発生状況6)救急要請から医師到着時間7)使用器具8)急変の原因、以上をカルテより後方視的に調査した。
    【事例検討】
    (症例1)1)右大腿骨転子部骨折術後2)91歳3)大動脈弁/僧帽弁/三尖弁閉鎖不全症、肺高血圧、心房細動、ヘ゜ースメーカー植え込み4)歩行器歩行軽介助レベル5)歩行器にて移動中意識消失6)救急要請は対応が遅れ、救急要請と医師到着が同時期。7)血圧計、パルスオキシメーター8)抗不整脈薬の副作用、電解質異常による不整脈。
    (症例2)1)変形性腰椎症2)95歳3)腰椎圧迫骨折4)平行棒内歩行中等度介助レベル;数日前より食思不振5)平行棒内歩行中意識レベル低下6)1分7)救急カート、血圧計、パルスオキシメーター、心電図モニター8)脱水
    (症例3)1)冠動脈バイパス術後(外来通院中)2)55歳3)脳梗塞4)独歩にて通院可能5)臥位から座位への体動時意識消失6)3分7)症例2と同等物品8)一過性房室ブロック、迷走神経反射疑い
    (症例4)1)亜急性硬膜下血腫2)93歳3)高血圧、心房細動4)起立中等度介助:数日前より食思不振5)車椅子座位中意識レベル低下6)1分7)症例2と同等物品8)電解質異常、脱水。
    【結果】
    4症例中3症例が90歳以上であり、循環器疾患を有していた。4症例中2症例は電解質異常、脱水であり、数日前より食思不振となっていた。症例1以外では医師の到着時間が3分以内と早期対応が可能であった。
    【考察】
    今回、症例1において急変発生時、対応の不慣れにより時間を要し、必要な器具など確保できないまま救急要請となった。その事例後より、リハスタッフ、他部署との連携を深め、緊急要請における対応を周知徹底を行った。そのため、症例2以降では救急要請での医師到着時間が3分以内と極めて早期対応となり、リハスタッフや院内における救急対応の意識度は改善されたと考える。今回の事例から高齢化社会に伴い、担当する症例は高齢であり、現疾患以外にも他疾患合併の症例が数多く存在する。今回リスク管理を行っていたにも関わらず、急変を起こすような状況に遭遇した。その要因として、高齢者は自覚症状の訴えが曖昧であり、リスク管理を行う上で評価が非常に難しい。そのため、検査データや全身状態など客観的評価をふまえたリスク管理が今後重要であると考える。また、現在の施設基準では心疾患リハビリテーション基準のみにリハビリテーション室への心電図モニターや救急カートの設置を義務付けており、今後リスク管理や急変事態に備え、心電図モニターや救急カートの設置を検討する必要があると考える。
  • 橋本 祐二, 猪野 嘉一
    セッションID: 42
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当老健から医療機関への退所理由を調査した所,誤嚥性肺炎による退所者(以下肺炎退所)が多い事が分かった.その為平成21年10月から誤嚥性肺炎予防に対して取り組み,若干の成果を得ることができたので,肺炎退所の傾向と取り組み・効果を含めここに報告する.
    【対象と方法】
    対象は(1)平成21年10月~平成22年3月末までの入所者139名(男性38,女性101,年齢81.7±10.4)と前年同月の平成20年10月~平成21年3月末までの入所者146名(男性36,女性110,年齢82.3±11.0).(2)平成20年10月~平成21年10月末までの肺炎退所24名(男性10,女性17,年齢82.9±8.7)と非発症の入所者145名(男性38,女性107,年齢82.4±10.9)とした.分析方法は(1)では各期間の肺炎退所数,年齢,入所日数,障害老人の日常生活自立度(以下障害自立度),認知症老人の日常生活自立度(以下認知症自立度),嚥下グレード(以下Gr)について,(2)では年齢を84歳以下(n=83)と85歳以上(n=86),入所日数を365日以内(n=73)と366日以上(n=96),障害自立度をJ~B1(n=106)とB2(n=63),認知症自立度をなし~_III_(n=117)と_IV_~M(n=52),Grを正常~軽度(n=98)と中等度~重度(n=71)の2群に分類して(1)(2)ともMann-Whitney 検定を用いて分析した.統計ソフトはSPSSver14.0Jを用い,有意水準5%にて検定した.
    【結果】
    (1)では肺炎退所数に有意差が見られたが,その他の項目に有意差は見られなかった.(2)では年齢を除く全ての2群間に有意差が見られた.
    【考察】
    (1)について肺炎退所数以外の項目の結果から,両期間における入所者の心身状態の偏りはなく,取り組みが肺炎退所の減少に影響したのではないかと考えられる.取り組みとしてSTやPT・OTによる食事評価,食事環境調整及び定着状況の継続的確認,職員間での現状共有,勉強会などを行った.(2)について入所日数が長くなると廃用などが進み,体力などの低下が肺炎退所に繋がったのではないかと考えられた.また基本動作能力が低下している要介護高齢者は摂食・嚥下障害の予備軍との報告がありB2群はそれに該当すると考えられ,廃用の進行防止,基本動作能力や活動量の維持・向上の重要性が示唆された.更に摂食・嚥下における先行期は食物の認知や摂食行動のプログラミングなどが行われる時期である.その為重度の認知症の場合,口腔・咽頭機能に障害が無くても肺炎発症に繋がった可能性が示唆され,認知機能に応じた食事環境の準備や調整が必要ではないかと考えられた.Gr中等度~重度は正常と軽度と比較して肺炎発症しやすいという判定の妥当性を支持する結果であった.
  • ‐Endurance Shuttle Walking Testによる検討‐
    新貝 和也, 千住 秀明
    セッションID: 43
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
    運動のアドヒアランスを高めるために音楽の有用性が示唆されているが,音楽が運動時の身体に与える影響は明らかではない.そこで本研究では,音楽が運動時の身体に与える影響を自覚的運動強度(下肢疲労感・呼吸困難感),呼気ガス分析によるデータから検討したので報告する.
    【方法】
    本研究を十分に理解し,同意が得られた健常若年男性13名(年齢20.7±1歳)を対象とした.対象者は事前評価として,自転車エルゴメーターによる運動負荷試験を実施し,その結果から得られた最高酸素摂取量の40%に相当するレベルのEndurance Shuttle Walking Testを音楽有・無の条件(以下音楽ESWT,コントロールESWT)で2回実施した.研究デザインは無作為クロスオーバー試験を採用し,実験は2分間の安静座位, 20分間のESWT,10分間の回復段階(安静座位)とした.また,2回のESWT時には携帯型呼気ガス分析装置を装着して測定した.評価項目は,自覚的運動強度(修正Borg Scale),楽しさ(Visual Analog Scale),心拍数,呼気ガス分析より得られるパラメーターとした.自覚的運動強度は,ESWT実施時に3分毎,回復段階では1分毎にそれぞれ評価した.音楽ESWTでは,被験者が好みの音楽をESWT実施中・回復時にCDプレーヤーにて流した.なお,本研究は当大学の倫理委員会の承認を得た.
    【解析】
    音楽ESWT,コントロールESWT間における各パラメーターの比較には,対応のあるt検定,Wilcoxonの符号付順位和検定を用いた.呼吸困難感・下肢疲労感の音楽有・無の条件と運動時間の関連性を,対応のある因子と対応のある因子の二元配置の分散分析にて分析した.いずれも危険率5%未満を有意とした.
    【結果】
    呼吸困難感・下肢疲労感は音楽ESWT・コントロールESWT共に,運動開始直後から直線的に上昇し,運動終了後緩やかに下降していった.また,呼吸困難感・下肢疲労感共に,運動開始数分後から運動終了数分後にかけて,コントロールESWTよりも音楽ESWTの方が有意に低値を示した.さらに,音楽の有無と運動時間に有意な交互作用がみられ,運動時間が経過するにつれ,音楽による呼吸困難感・下肢疲労感の軽減効果が増大していた.呼気ガスデータでは,運動開始後,定常状態になってからのVO2/Wが音楽ESWTで有意に高値を示したが,その他のパラメーターには有意な差はみられなかった.また,楽しさは音楽ESWTで有意に高値を示した.
    【まとめ】
    音楽で運動時・運動終了後の呼吸困難感・下肢疲労感が減少し,楽しさが増大した.また呼吸困難感・下肢疲労感の軽減は運動時間の経過につれて増大した.これらのことから運動中の音楽は,楽しく少ない疲労感で長時間の運動が可能となることが示唆された.
  • ―呼吸リハビリテーションの必要性の検討―
    徳永 伸一, 村上 恵子, 西山 賢太郎, 西嶋 江理, 岡田 明子, 山下 由里江, 上野 康博, 木下 正治, 三木 康行
    セッションID: 44
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    終末期呼吸器疾患患者の呼吸リハビリテーション(以下,呼吸リハ)の関りについては未だ十分ではないのが現状である.今回当院において終末期呼吸器疾患患者に対する呼吸リハを経験したのでここに報告し,今後の呼吸リハのあり方について検討した.
    【対象】
    平成20年3月~平成22年3月までに終末期呼吸器疾患患者で呼吸リハを実施した28名を対象とした.原因疾患については,COPD11名,間質性肺炎6名,肺癌8名,びまん性汎細気管支炎1名,気管支拡張症1名,結核後遺症1名であった. 呼吸リハについては,1日に2~3回,1回につき10分程度で実施した. 呼吸リハ内容は,離床(散歩等)や呼吸介助を状態観察しながら実施した.
    【結果】
    今回、担当した終末期呼吸器疾患患者すべてにおいて死亡退院される平均2日前まで呼吸リハを施行した。SpO2の変動については、徒手的呼吸介助施行後COPDや間質性肺炎、結核後遺症についてはSpO2の改善を認めた。しかし肺癌・びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症については大きな変化は見られなかった。自覚症状については徒手的呼吸介助施行後 COPDや間質性肺炎・結核後遺症については「楽になった」や「落ち着いた」といった意見が多かったのに対し肺癌・びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症については「気持ちよかった」といった意見多かった。
    【考察】
    死亡退院される数日前まで呼吸リハを施行した.患者は,呼吸困難感や倦怠感の訴えが強く,死への恐怖も高まり,呼吸をすることで精一杯の状態であったが呼吸リハの介入により短時間ではあるが呼吸が楽になり会話が可能となった.家族との会話も可能になる事で双方の精神面も落ち着いてきた.理学療法士、作業療法士が担当する患者は入院当初より同じであるため,1人1人の患者の病状や全身状態さらには性格なども十分に理解している.しかし終末期呼吸器疾患患者については,退院まで呼吸リハを提供することは少なく,増悪することでリハビリ中止というのが現状である.機能向上つまりADLの拡大だけでなく心理的,身体的な側面での苦痛を和らげることも理学療法士、作業療法士の知識や技術で可能なのではないか.今後のリハビリテーションはチームとして活躍すべきであり,このようなリハビリテーションのあり方を再検討すべきであると考える.
  • 島添 裕史, 山内 康太, 鈴木 裕也, 石村 博史
    セッションID: 45
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     上部開腹術後のリハビリテーションの目的として、肺炎などの呼吸器合併症の予防や運動耐容能の改善などが挙げられる。今回、胃癌手術後早期の肺活量(VC)と咳嗽時最大呼気流速(PCF)、6分間歩行距離(6MWD)を経時的に評価し、回復推移を検討したので報告する。
    【対象と方法】
     2009年5月から2010年4月までに胃癌に対して切除手術を施行され、周術期リハビリテーションを実施した症例で、術前・術後に経時的にVC、PCF、6MWDを測定できた21例を対象とした。術式の内訳は、開腹胃部分切除術7例、開腹胃全摘術7例、腹腔鏡補助下胃部分切除術7例であった。
    VCはライトレスピロメーター(nSpireHealth社、ハロースケール)、PCFはピークフローメーター(レスピロニクス社、ASSESS)を用いて、各々フェイスマスクに取り付けて測定した。測定肢位は端坐位とし、端坐位がとれない場合はギャッジアップ坐位とした。PCFは全肺気量位からの咳嗽時の呼気流速を測定した。VC、PCFの測定は3回ずつ行い、最高値を代表値とした。VC、PCFの測定は術前、術後1-7日目、14日目に測定し、6MWDは術前、術後7日目、14日目に測定した。また、回復推移を検討するために、術前比を算出した。
    統計処理は二元配置分散分析およびTukey法を用い、有意水準を5%とした。
    【結果】
     VCは術前2913.3mlであり、術後1日目が1456.5ml(47.9%)と最も低値を示した。術後7日目2344.8ml(81.3%)、術後14日目2540.0ml(87.8%)であり、ともに術前値と有意差を認めた(p<0.01)。PCFは術前364.0L/minであり、術後1日目が155.5L/min(41.3%)と最も低値を示した。術後7日目は276.4L/min(76.7%)で術前値と有意差を認めた(p<0.01)が、術後14日目は317.6L/min(87.7%)であり、術前値と有意差を認めなかった。6MWDは術前450.7mであり、術後7日目357.8m(78.4%)で術前値と有意差を認めた(p<0.01)。術後14日目も404.9m(90.6%)で術前値と有意差を認めた(p<0.05)。
    【結語】
     胃癌術後のVC、PCF、6MWDは術後7日目で術前値の8割程度まで改善し、術後14日目で9割程度までに改善した。
  • ~%FEV1、身体能力、ADLの関係について~
    今泉 裕次郎, 堀江 淳, 阿波 邦彦, 白仁田 秀一, 市丸 勝昭, 直塚 博行, 平田 晃久, 三村 さやか, 堀 邦広, 小柳 孝太郎 ...
    セッションID: 46
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者は、呼吸困難のための不活動性に伴い、身体機能の失調、低下を形成し、能力障害へと進行する。今回、我々はバランス能力と「Gloval Initiactive for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)ガイドラインの病期分類に使用される予測値一秒量(%FEV1)、身体能力、ADLの関係を客観的に検証した。
    【対象】
    対象は病態が安定しているCOPD患者17例(全例男性、平均年齢76.2±4.7歳) 、%FEV1 47.8±22.5%であった。除外対象は、重篤な内科疾患を合併している者、有痛性疾患を有する者、研究の主旨が理解出来のない者とした。なお、本研究は当院の倫理審査委員会の承認を得て実施した。
    【方法】
    測定項目は、バランス能力(片脚立位時間、Functional Reach Test(FR)、Timed Up and Go(TUG)、重心動揺(外周面積、総軌跡長))、%FEV1、身体能力(MRC息切れ分類(MRC)、呼吸筋力、握力、膝伸展筋力、最大歩行速度、6分間歩行テスト(6MWT)、Incremental Shuttle Walking Test(ISWT) 、30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30))、The Nagasaki University Respiratory ADL Questionnaire (NRADL)とした。統計学的分析は、バランス能力とその他の測定項目の関係をPersonの積率相関係数を用いて分析した。
    【結果】
    バランス能力とその他測定項目において、片脚立位時間は6MWT(r=0.50, p=0.034)、TUGは最大歩行速度(r=0.85, p<0.001)、6MWT(r=-0.56, p=0.015)、CS-30(r=-0.50, p=0.039)、外周面積は%FEV1(r=-0.55, p=0.018)、MRC(r=0.55, p=0.021)、総軌跡長は%FEV1(r=-0.51, p=0.033)、MRC(r=0.73, p=0.001)、最大歩行速度(r=-0.72, p=0.02)、6MWT(r=-0.47, p=0.050)、NRADL(r=-0.59, p=0.010)、CS-30(r=-0.61, p=0.009)の間に有意な相関が認められた。
    【結語】
    本研究において、COPD患者のバランス能力は、病期の進行、身体能力、ADLと関連のあることが示唆された。今後、COPDの病期がどの程度進行すれば、バランス能力が顕著に低下しはじめるのかを明確にし、COPD患者の理学療法プログラム、ADL指導に活用できるようにしたい。
  • -継続・非継続の初期評価での因子-
    大平 美咲, 門司 映美, 鍋島 一樹, 塩貝 勇太, 深山 慶介, ハーランド 泰代, 植野 拓, 中司 貴大, 澤田 芳雄, 角銅 しお ...
    セッションID: 47
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    包括的呼吸リハビリテーション(以下、呼吸リハ)における患者教育の重要性は広く認識され、効果も実証されつつある。しかし、呼吸器疾患に対するクリニカルパスは、さまざまなバリアンスがあるため困難なことが多く、慢性呼吸器疾患に対するクリニカルパスについての報告は少ない。今回、当院にて2週間の呼吸リハビリテーション教育入院を開始し初期評価での継続と非継続の因子の検討を行った。
    【対象】
    2008年2月~2009年12月に入院しインフォームドコンセントが得られた慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD)患者(継続群10名68歳±14歳、非継続群11名 71歳±21歳)。
    【方法】
    入院期間の2週間で運動療法と多職種での包括的な患者教育を中心とした呼吸リハビリテーションクリニカルパス(以下、呼吸リハパス)を作成した。肺機能検査(肺活量、%肺活量 以下%VC、1秒率 以下FEV1.0%)、標準評価(MRCの息切れスケール、身体所見、BMI、横隔膜呼吸の熟達度grade)、ADL評価(千住らのADLテスト)、下肢筋力検査(等尺性膝伸展筋力)、運動耐容能検査(シャトルウォーキングテストまたは6分間歩行テスト)、セルフマネージメント検査(Lung information Needs Questionaire 以下LINQ)を多職種で検査・評価を行う。両群内において初期評価の各項目をそれぞれ比較した。解析方法はwilcoxon順位和検定を用い、p<0.05を優位水準とした。
    【結果】
    両群間において統計学的な有意差は認められなかった。継続群ではMRCスケールより呼吸困難は様々であったが下肢筋力は保たれておりLINQの点数は低くセルフマネージメントは高い傾向であった。非継続群ではFEV1.0%が低くMRCスケールは重症傾向でありLINQの点数は高くセルフマネージメントは低い傾向であった。
    【結論】
    継続群では呼吸困難は様々であったが身体機能・セルフマネージメントは比較的保たれていた。初期評価時に呼吸リハの教育を受けた経験がない症例が多く呼吸リハパス終了時の最終評価ではセルフマネージメントにおいて統計学上有意に向上した。非継続群ではLINQの点数よりセルフマネージメントに欠ける傾向がみられた。FEV1.0%が平均56%と低肺機能でありMRCスケール3以上、下肢筋力、運動耐容能が低く初期評価の介入で呼吸困難が増強し運動への動機づけが困難であり継続できなかったと思われる。COPDの呼吸リハは運動療法を主軸としたプログラムが有効であり患者教育も同様に必須条件である。今回の検討を通して同一疾患においても肺機能以外にも呼吸困難の程度や下肢筋力の個々の身体能力を評価し、現呼吸リハパスの適応と不適応を判別できる基準が分かった。パス適応ではない患者にはコンディショニングやADLを中心とした介入が必要であり個別性を重視した内容のプログラムと継続方法についての検討が必要である。また、個々に必要な患者教育を十分に行なっていくことが運動療法を進めていく上でも改めて重要であると感じた。
  • 市坪 明子, 伊東山 洋一, 伊東山 徹代, 野間 俊司, 中村 智哉, 河上 紗智子, 池田 美穂, 千代田 愛美, 永田 英二, 松崎 ...
    セッションID: 48
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    パーキンソン病に対する理学療法とし ては、転倒なき歩行能力の確保が重要であり、訓練プ ログラムとしては様々なものがあるが、明らかな効果 を示すものは少ない。そこで今回、歩行能力の維持・ 向上を目的に、腹臥位療法を取り入れたところ、歩行 のみならずADLも改善し、効果が得られたので若干 の考察を加えてここに報告する。
    【方法】
    対象者はパーキンソン病と診断された男女10名、年 齢は平均67.7±9.15才、発症からの経過は平均45.7 ±18.7ヶ月である。Yahrのstageは_II_が2名、_III_が4 名、_IV_が4名である。そこでこれらの症例に対して腹 臥位を20分間とって貰い、その前後で10mタイム、 10m間の歩数、10m中のすくみ足の回数を測定すると ともに、ADLはFIMとYahrの分類を用いて評価した。 統計学的処理は、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い て効果判定をした。有意水準は5%未満とした。尚、 本研究は症例に研究の意図を説明し、了承を得て実施 した。
    【結果】
    10mタイムは施行前34.0± 19.9秒、施行後25.0±11.5秒(p<0.05)。10m歩 数は施行前57.2±32.4歩、施行後43.0±23.9歩(p< 0.05)。10m中のすくみ足の回数は施行前3.2±1.4回、 施行後1.5±1.28回(p<0.05)。FIMの点数は施行前 58.2±19.3点、施行後65.9±17.1点(p<0.05)とな りYahrの評価では施行前3±0.67が施行後2.8±0.75 (p<0.05)となり、全ての項目に効果を示し、有意 差を認めた。
    【考察】
    パーキンソン病を有 する症例に対し、有働が提唱する腹臥位療法を取り入 れ、歩行改善を目標にプログラムを実施した。その結 果、歩行能力の改善のみならず、症例の中には一回の みの施行でADLが介助から監視レベルへと改善しYahr の重症度分類をも下げる程の効果を示した例もあっ た。その理由としては、腹臥位をとることで症例の持 つ自重により股関節ならびに脊柱がストレッチされ、 関節の可撓性の増大に繋がったからであろう。その事 で、姿勢アライメントならびに歩行時のダイナミック なバランスが改善され、パーキンソン病に特有のすく み足や突進現象の改善に効果を示したと考える。今回、 腹臥位療法の効果について確認できた事で、在宅や施 設でも簡単に出来る訓練法として更に推奨される訓 練法と考える。ただ、今回試行時間や持続性について は検討しておらず、今後とも研究を続けていきたい。
    【まとめ】
    1.パーキンソン病を有する症例 に対して腹臥位療法を施行した。
    2.腹臥位療法 を行った前後で、歩行能力、ADLともに改善が見られ、 効果が確認できた。
    3.腹臥位療法の効果の持続 性や試行時間などは、今後検討が必要と考える。
  • 環境設定から考えるアプローチの検討
    末村 剛大, 肝付 兼能 , 谷崎 豊喜, 上川 真吾, 姉川 由佳
    セッションID: 49
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     機能維持期の外来リハビリにおいて身体機能の改善を目的としたリハビリテーションプログラムと同時に、残存機能を生かした生活場面でのアプローチがQOL向上のために重要であると考える。そこで、食事場面における患者様のdemandに答えるため、自助具を作成し残存機能を生かしたアプローチを行なった。その結果若干の変化を得たのでここに報告する。
    【症例紹介】
     70歳代 男性 脳出血後遺症 左片麻痺 demand:お椀を口元まで運んで食べたい
    【医学的所見】
     Br.stage:3-5-4 筋緊張:安静時において、肩甲帯周囲筋、腹筋群、大殿筋の低下が認められ、胡座位での食事場面においては、肩関節周囲筋の過剰努力が出現する。 FIM:118/126 減点項目 移乗、歩行、階段
    【身体機能面】
     実際の食事場面:麻痺側で茶碗を把持し、大腿部上に載せ、茶碗から口元までの距離が遠い状態で食事動作を行なうため、食べこぼしがみられる。吸い物は、机上に6cm程度の板を置き、頚部・体幹を前屈させながらお椀へ口元を近づけるように動作を行なうため、麻痺側上肢の参加が見られていない。
    【問題点】
    #1.肩甲帯周囲・体幹の安定性低下 #2.上肢挙上時の肩周囲の過剰努力 #3.食事動作能力低下
    【プログラム】
     1.環境設定 2.リーチ動作練習 3.食事動作練習
    【結果】
     実際の食事動作:上腕から前腕をサポートできる環境設定の導入により、肩甲帯と手関節の安定性が向上し、茶碗から口元までの距離や食べこぼしの減少が図れた。
    【考察】
     食事動作観察上、除重力下でのリーチはスムーズであった点をヒントにスプリングバランサー(以下SB)を作成した。
     リーチ動作の場面ではSB装着により、肩周囲・手関節の過剰努力やクローヌスを軽減させることが出来たが、食事場面での軽減は困難であった。原因としては、手関節の安定性不足によって起こる肩周囲の過剰努力や、姿勢不良が考えられる。また、セッティングに多くの介助を要するため、介助者への負担が大きいと考える。
     これらの問題点を改善するべく、肩関節や体幹がより安定した中で末梢の前腕や手指を動かすことができるような台を家庭での食事場面に合わせて作成した。これにより、手関節掌屈にて固定した中で口元近くまでお椀を運ぶことができるようになった。また、症例自身も以前の自助具より使用しやすいと感じている様子であった。
     今回、食事場面に対して環境設定を中心にアプローチを行った結果、初期時の問題点であった食べこぼしや、汁物の食べにくさについては改善を得ることができた。これにより本人のモチベーション向上もみられるため、今後アプローチの継続により、身体機能面の変化や、在宅の環境の変化に合わせた自助具の作成を行う必要があると考える。
  • 山中 みちる, 村田 奈理加, 溝口 祐香, 槌野 正裕, 神山 剛一(PhD), 荒木 靖三(PhD)
    セッションID: 50
    発行日: 2010年
    公開日: 2011/01/15
    会議録・要旨集 フリー
    【背景】
    リハビリテーション医療の中で排泄に関する問題は、患者だけでなくその家族や介護者にとっても重要な問題である。現在、理学療法士による排泄リハビリテーションは、動作的なアプローチ(起居動作、移乗、移動)が主であり、直接的なアプローチが行なわれている報告例は少ない。当院は大腸肛門専門病院であり、排便障害を有する患者が多く来院する。その中で、理学療法士はバイオフィードバック療法の一環として直接的アプローチを行っている。今回、当院の過去一年間に受診した排便障害を有する外来患者を対象に理学療法士が関与した内容について調査したので報告する。
    【対象と方法】
    2008年2月から2009年2月の間に当院に外来通院し、理学療法を施行した245例に関して診療記録を後方視的に調査した。調査内容は、年齢、性別、障害名、理学療法処方内容、理学療法実施回数とする。
    【結果】
    理学療法実施は、男性107例、女性138例の計245例。平均年齢58.69±21.19歳。理学療法対象者の中で排便障害が77.1%を占めていた。排出困難例は152例となり排便障害の62%を占めていた。また、排出困難例152例中128例に対し簡易便座を用いた疑似便の排出訓練を実施。実施回数は、平均3回(1回~18回)であった。便失禁例は33例となり排便障害の13.5%を占めていた。便失禁例33例中8例に対しては、疑似便を用い留置した状態でのADL訓練を実施。実施回数は、平均11回(1~56回)であった。
    【考察】
    当院を外来受診した排便障害を有する患者で理学療法士が関与した内容について調査した。当院の外来理学療法対象者のうち77.4%が排便障害であり、排便に関する問題を抱えている症例は少なくない。その中でも理学療法士が関与した症例では排出困難例が最も多く存在した。当院では、検査科と協働した直接的なアプローチを行うことで、症状の改善を期待している。内容は、実際の排便動作を再現した(疑似便を直腸に留置した状態で簡易便座を用いて疑似便を排出する)実用的な訓練である。また、運動学的視点からみた排便姿勢やいきみ動作(腹圧の加え方)を指導している。便失禁例に対しては、疑似便を直腸に留置した状態で起居動作や歩行等のADL訓練を行ない、実生活に基づいた肛門括約筋や骨盤底筋群の筋収縮の学習を促している。
    【まとめ】
    リハビリテーションを実施していく上で排便障害は大きな問題となるにも関わらず、患者側の羞恥心や治療者側の知識不足により、障害としての認識が薄いように思われる。実際、当院では理学療法の介入により排便障害が改善した例は少なくない。排便障害に対する理学療法アプローチについての報告は少ないが、QOL向上の観点からみても今後発展すべき分野であると考える。
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