マーケティングジャーナル
Online ISSN : 2188-1669
Print ISSN : 0389-7265
41 巻, 3 号
DXとダイナミック・プライシング
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
巻頭言
  • 澁谷 覚
    2022 年41 巻3 号 p. 3-5
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    The theme of this issue is DX and Dynamic Pricing. One of the reasons we chose this theme is that there have not been many opportunities for discussion of the digitalization of pricing in a manner that is open to non-experts of the area. In the past, this magazine has featured a number of special topics on digital marketing, but has never focused on digital pricing. For this reason, we decided to pick dynamic pricing in this issue. The second reason is, now that we have covered digitalization in various aspects of marketing, we believe that the next important theme to be discussed is the digitalization of the entire business, or DX. For these two reasons, we have chosen DX and dynamic pricing as the special topic. This issue contains four papers. For dynamic pricing, the two papers in this issue include a review paper and an empirical study, and for DX, the two papers include a theoretical study and a case study, with the latter verifying the framework proposed in the former.

特集論文 / 招待査読論文
  • 兼子 良久, 上田 隆穂
    2022 年41 巻3 号 p. 6-17
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    1990年代後期以降,インターネットの普及,デジタル財の増加,収集可能な情報の増加,AI技術の発展など,情報技術の急速な進歩によって企業を取り巻くマーケティング環境は大きく変化した。これら環境変化を一つの背景に,企業が採用する価格戦略にも変化が生じた。この結果,近年ではダイナミック・プライシングとサブスクリプションが価格戦略の二大潮流になっている。本稿の目的は,情報技術が進歩する1990年代後期以降に採用されるようになった主要な価格戦略を整理し,Tellis(1986)によって示された価格戦略を起点としたプライシングの系譜を示すことにある。本稿では,近年の各価格戦略が採用されるようになった背景とプライシングの系譜に基づき,今後の価格戦略の行く末について述べる。

  • 太宰 潮
    2022 年41 巻3 号 p. 18-29
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    本論は近年影響力を増している,サブスクリプション・サービスにおける顧客満足の特性を知ることを目的とし,オリコン社の顧客満足度調査から利用の程度と満足度の関係を探索的に調査した研究である。利用が少ないにもかかわらず契約を続けてしまう現象などを踏まえて,利用の程度と満足との関係が線形であるか,満足度が大きく減る,もしくは増える閾値と思われる点などを調査した。その結果,日次・週次といった習慣的な利用に満足度が動く閾値があること,週1回といったラインを下回ると満足度に与える影響が大きいことなどが判明した。その他にもサービスタイプによって理想の利用にも閾値があること,長期的継続は満足に強く影響していないこと,単価と満足度が関係しないことを示し,日次・週次の習慣的利用の重要性や閾値の存在という利用の特性を明らかにした。

  • ― 概念アプローチ ―
    藤川 佳則, 近藤 公彦, 今井 紀夫
    2022 年41 巻3 号 p. 30-43
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    本論文の目的は,デジタル・トランスフォーメーション(DX)のダイナミック・プロセスモデルを提示することにある。まず,本論文のスコープとして,DXをデジタル技術の活用を前提とすること,新たな顧客価値の実現を目的とすること,そのために必要となる企業変革を遂行することとして捉える。次に,DXに関する先行研究の体系的レビューに基づき,その実行過程における動的発展に関する知見の欠如を指摘する。そして,経営分野のダイナミック・ケイパビリティ研究において蓄積されてきた組織能力に関する知見と,マーケティング分野のサービス・ドミナント・ロジック研究において展開されてきた組織内外の主体による資源結合を通じた価値共創に関する議論の統合を図ることで,DXの動的発展を説明するダイナミック・プロセスモデルを提示する。そのモデルは,プラットフォームの有無とステークホルダーの広狭の2つの次元を組み合わせることで4つの象限(段階)を類型化し,ある段階から次の段階への移行(パス)を動態的に捉えるものである。

  • ― 事例アプローチ ―
    藤川 佳則, 今井 紀夫, 近藤 公彦, 大川 英恵, 堀内 健后
    2022 年41 巻3 号 p. 44-56
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    本論文の目的は,デジタル・トランスフォーメーション(DX)のダイナミック・プロセスモデル(Fujikawa, Kondo, & Imai, 2022)が捉えようとするDXの動的過程について,事例分析を通じて詳述することにある。Fujikawa et al.(2022)が提唱する概念モデルは,プラットフォームの有無とステークホルダーの広狭の2つの次元を組み合わせた4つの象限(段階)からなり,特定の段階から別の段階への移行(パス)を動態的に記述する。本論文は,この概念モデルを用い,理論的サンプリングの手法に基づき,「DXの発展段階を異なる移行過程(パス)を通じて経時的変化を遂げた事例」として選択した4事例(アスクル,パイオニア,コマツ,日本交通)を分析する。新たな発見をもたらす事例,ならびに,経時的な変化を扱う縦断的事例としての事例分析から得た新たな知見や論理を概念モデルに反映する可能性について議論する。

レビュー論文 / 招待査読論文
  • ― 5つの研究潮流 ―
    王 珏
    2022 年41 巻3 号 p. 57-64
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    消費者の認知,感情,行動に広く影響を与える重要な心理状態を示す概念として,勢力感という概念がある。近年,消費者勢力感の影響に関する研究が徐々に増えてきている。しかしながら,当該領域全体の俯瞰的なレビュー論文はまだ存在しない。そのゆえ,消費者勢力感に関する既存研究の知見を整理し,今後の研究課題を明らかにすることは重要なことである。本稿は,消費者勢力感に関する既存研究を(1)勢力感と補償的消費,(2)勢力感と広告コミュニケーション効果,(3)勢力感と観光,(4)勢力感とSDGs,(5)勢力感と社会的過密という5つの研究潮流に分けて概観する。その結果,今後の研究課題として,(a)補償的WOMの検討,(b)広告の掲載場所と広告の視覚的要素への注目,(c)過密環境セッティングの多様性の探究を抽出する。

  • 岩間 雄亮
    2022 年41 巻3 号 p. 65-71
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    人間の特性や能力の可変性について個人が有している信念を示す概念として,暗黙理論がある。暗黙理論には,特性や能力は変化し得るという増大理論と,特性や能力は生まれつきのもので変化し難いという実体理論の2種類がある。ある個人がいずれの暗黙理論を持つかということは,その個人の思考傾向や行動傾向に影響を及ぼす,と異分野において指摘されてきた。この異分野の考えは,近年,消費者行動研究分野に援用され始めている。その暗黙理論に関する消費者行動研究の潮流は,主に,(1)暗黙理論がブランドを使用する消費者の自己知覚に及ぼす影響,(2)暗黙理論が消費者の製品評価に及ぼす影響,(3)暗黙理論が消費者の製品選択に及ぼす影響の3つである。本稿は,これらの潮流における代表的な既存研究を概観し,最後に今後の研究課題を提示する。

投稿査読論文
  • ― 初回利用の状況に着目して ―
    藤井 誠, 関 隆教
    2022 年41 巻3 号 p. 72-84
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
    [早期公開] 公開日: 2021/12/01
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    本研究では,(1)どのような状況において現場従業員のクリエイティビティは顧客満足に負の影響を与えるのか。(2)現場従業員のクリエイティビティが顧客満足に与える負の影響はどのような要因によって緩和されるのだろうか,という2つの研究課題を設定した。研究課題を明らかにするために,初回利用の状況に着目し,調査会社のモニターを対象に,ヘアサロンをコンテクストとする場面想定法実験を行った。分析の結果,初回利用の場合,サービス組織の現場従業員のクリエイティビティは顧客満足に負の影響を与えるという仮説は支持された。しかし,類似性は初回利用時におけるサービス組織のFLEsのクリエイティビティとCSの負の関係を緩和するという仮説については支持されなかった。最後に,分析結果を踏まえた実践的示唆と今後の課題について示した。

マーケティングケース
  • ― 「みん100」による百均商品の開発 ―
    岡田 庄生, 西川 英彦
    2022 年41 巻3 号 p. 85-94
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    近年,クラウドソーシングを新製品開発に活用する企業は増えているが,十分な数のアイデアが集まらないなどの要因で,失敗に終わることも多い。こうした中,知名度がないにも関わらず,アイデア投稿数を継続的に増加させ,商品化を実現しているのが,百円均一商品に特化したモバイル向けのクラウドソーシング・プラットフォームの「みん100」である。本稿では,みん100の仕組みの変遷や,開発プロセス,ヒット商品の事例を確認しつつ,顧客志向をもとに仕組みを進化させてきたことを理解する。その上で,みん100の実現した,モバイル・クラウドシーシング・プラットフォームが持つ,3つの優れた点,すなわち,(1)モバイルファースト,(2)共通認識,(3)プロセスマネジメントについて述べる。

  • ― 実走およびパラドクスの乗り越えを可能にした組織変革のプロセス ―
    石塚 千賀子
    2022 年41 巻3 号 p. 95-104
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    本ケースでは,小柳建設株式会社がマイクロソフト社との協業で複合現実(MR)技術をもちいて展開した新たなデジタル・サービス化をとりあげる。本技術により,工事の発注者,請負の施工者,設計者などの関係者が遠隔からも一堂に会し,実物大(ヒューマンスケール)で,工事の設計から竣工までの見たい場所を安全に歩き回り,意思疎通できるようになった。通常,デジタル・サービス化の多くは,顧客ニーズへのよりよい適応のために展開される。しかし,本ケースでは,経営者の内部顧客志向によってデジタル・サービス化が展開された。この内部顧客志向は,同社の経営理念そのものである。経営者は,偶然見つけたこの技術を,まさに自分たちのための技術だと直感的に確信し,リスクを覚悟で導入を即決した。デジタル・サービス化のパラドクスの乗り越えを可能にしたのは,迅速に顧客のネガティブな反応を察知し戦術転換できる組織体制にあった。経営陣は,本DXは経営理念実現のための手段のひとつと位置づけており,顧客体験の向上はもとより,業界のあたりまえとされてきた長時間労働の改善や,3Kイメージの払拭に挑戦している。

  • ― 地域のマーケティングとアクターの生成 ―
    神田 將志, 日高 優一郎
    2022 年41 巻3 号 p. 105-114
    発行日: 2022/01/07
    公開日: 2022/01/07
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    本研究では,岡山県小田郡矢掛町におけるアルベルゴ・ディフーゾ(Albergo Diffuso,以下ADと表記)の発展プロセスを考察する。ADは,町の中に点在する空き家を一体化した宿として活用してエリア全体を活性化する試みである。人口減少が進む中で,地方活性化の手法として注目を集めており,日本では矢掛町が初めてADタウンに認定されている。本研究は,矢掛町の事例では,当初からADを念頭に活動を進めたわけでなく,活動がADとの邂逅を生み出したことを示す。当事者が,当座の「町ごとホテル」の名のもと,当地の伝統的な関係性を紐解きながらアクターを生成し,生成した各アクターが資源をやりくりして実践を積み重ねた結果,ADとの邂逅を生み出している。事業が「AD」と再定義されたことは,当事者たちの当地の魅力や活動対象エリアの認識に変化を生み出し,更なる可能性を呼び込んでいる。本研究は,矢掛町のAD認定に至る軌跡を辿り,その意義を考察する。

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