There are two purposes of this special issue. The first is to introduce the current state of local commerce and new activities, to define the associated problems, and to provide opportunities to think about solutions. We hope that this special issue will inform readers on both the positive and negative aspects of current regional commerce and will promote thoughts and ideas on commerce and town development. The second is promotion of academic research. Rather than focus only on new phenomena, there is an opportunity for researchers to think about the underlying mechanisms and problems. Through this process, we hope to see further progress in regional commercial research.
小売業の地域貢献に多くの注目が集まっている。それは決して小売業の「本来的業務と無関係な余計な業務」ではない。むしろ,店舗型の小売業が本来的のもっていた外部性への正当な評価にほかならない。かつては外部性への配慮は本業と不可分に結びついていたが,チェーン店の登場によってその両者が分離した。外部からの規制はそれを新たな規範として形成するための1つのステップであった。チェーン型の小売業も多くの地域貢献活動に取り組んでいるが,企業単独ではなく,地域の小売業と共に「まちづくり」に取り組むことが強く求められている。
イギリスの都市政策では多様性の維持に加えて,1990年代後半以降は持続可能性が,基本となる考え方として位置づけられてきた。それらに基づいて,一方で開発許可を軸にしたプラニングシステムによって大規模ショッピングセンターをはじめとするさまざまな開発を規制してきた。そこでは,タウンセンターの「活力と存続」,あるいはタウンセンターファーストの考え方を前提にした逐次的アプローチというコンセプトが受け継がれている。他方,都市再生の側面では,タウンセンターにおける小売,サービス,エンターテイメント,そして住宅などを含む大規模再開発と,インナーシティにおける近隣街区リニューアルが並行して実施されてきた。本稿では,以上のような経緯について思想,政策,取組みという3つの次元から確認する。その上で,都市計画による郊外開発規制,将来ビジョンとしてのコンパクトシティ,タウンセンターやハイストリートにおける多様性と同質化,という3つの論点から日本への示唆を探る。
本研究は,生産と消費をつなぐ流通・商業,特に相対的に小商圏を対象とする地域商業・流通における中小規模卸売業と中小規模小売業の環境適応に着目する。そして減退化に向かう地域の小売業に対して積極的に支援しながらも自身の成長を目指し,もって地域全体の商業・流通の活性化を図ろうとする卸売業の動向をボランタリーチェーンの事例を通して確認し,商業・流通の果たすべき役割の変化について検討する。
近年の卸売業と小売業の販売額推移をみると,本来は卸売業と小売業が連関性を持って,生産と消費をつないできた商業・流通にあって,全国市場を標的とする大規模な小売業・卸売業が減退し,小規模な小売業と中規模な卸売業において増大の傾向が見られる。中間流通として,小規模な小売業と中規模な卸売業を中心とした連関性が生まれ,全体としては減退傾向にある商業・流通において反転の動向を示している。この一つの事例としてコスモス・ベリーズは,ボランタリーチェーンの本部企業として,地域市場の小規模な小売業支援を行っている。バンドリング,ハブ&スポーク,業種を超えた業態対応の点で,優位性を保ち,流通フローを最適に流しているのである。
近年,いかに顧客の「経験価値」を高めるかということが課題になっている。それに対し小売業では,店舗ごとに「特別感」を演出することも行われている。顧客への個別対応は,独立小売商に強みがあるといえるが,販売局面の属人的コミュニケーションだけでは十分でない。そのためには,生産局面にまで踏み込んだ仕入れ活動による品揃えの差別化が課題となる。しかし,経営資源の限られた零細小売商にとって品揃えの差別化がどのようにおこなわれるのか,その実態はほとんど明らかではない。個別小売商の経営実態をとらえるには,特定業種における小売商の品揃え形成活動にまで立ち入って分析する必要がある。そこで,本稿では野菜・果実小売業「やおや植木商店」を事例として,経営実態を分析した。従来の研究では,小売商の活動についても,商品取扱い技術についても,仕入・販売局面のみに絞られていたが,植木商店は,生産と消費の局面にも積極的に介入し,その結果として新たな需要を生み出していることが見出された。
本稿の目的は,愛媛県松山市三津地区の衰退商業地を事例にして,ワークライフバランス事業者のビジネスモデルに関する仮説的論点を抽出することにある。三津地区において,近年微増しつつあるワークライフバランス事業者は,不動産価格の下落をチャンスととらえ,内装のセルフビルドにより固定費を抑えると同時に,高付加価値商品の提供により収入曲線の傾きを増大させることで,自らのビジネスの損益分岐点を引き下げることに成功している。三津地区においては,人口減少や住民高齢化により,周辺住民の購買力が低下しているため,単なる地域密着のビジネスでは店舗経営が成り立たない。むしろ,高付加価値商品を提供することで,関与度の高い消費者を広範囲から集客することに成功している。上記のようなビジネスモデルは,衰退商業地で収益をあげるための知恵として理解できる。また,衰退商業地は,上記のような商店主を呼び込むポテンシャルを有している。
国際マーケティング論や国際流通論における最重要トピックの一つは,輸出チャネルの選択である。これまで,大半の既存研究は,企業が単一種類の輸出チャネルを選択すると仮定してきたが,現実世界における数多くの企業は,複数種類の輸出チャネルを選択している。そのため,近年の学術研究は,国際市場におけるマルチ・チャネル戦略,すなわち,マルチ・チャネル輸出に関する研究を展開することが必要であると頻繁に主張してきた。しかしながら,マルチ・チャネル輸出に関するレビュー論文は,未だ刊行されていない。マルチ・チャネル輸出に関する研究の必要性が高まっていることを考慮に入れると,これまでの研究知見を整理し,残された問題点を明確化することは,必要不可欠な試みであると言いうるであろう。そこで本論は,マルチ・チャネル輸出の選択要因を探究した研究潮流,および,マルチ・チャネル輸出が成果に及ぼす影響を探究した研究潮流について概観する。そして,それを踏まえた上で,今後の研究には,(1)既存の研究潮流の拡大,および,(2)新たな研究潮流の形成が求められるということを指摘する。
本研究の目的は,製品リニューアルにおけるパッケージ・デザインの変更が,消費者の製品購買に及ぼす影響を明らかにすることである。そこで,変更されたデザイン要素ごとに影響を測定し,その影響に差異があるのかを探索的に検証した。検証には,複数のペットボトル入り茶系飲料ブランドの購買実態に関するデータを用いた。これらのブランドでは,製品の成分や抽出法による中味の改良に伴うパッケージの「ラベルデザインの変更」もしくは「ラベルデザインとボトル形状の変更」と,中味の増量に伴う「ラベルデザインとボトル形状の変更」が行われていた。分析の結果,中味の改良に伴うパッケージ・デザインの変更の効果は,変更されたデザイン要素によって,また,変更されたデザイン要素は同じであっても,中味の改良が伴う場合と増量が伴う場合では,消費者の購買に及ぼす影響が異なることが明らかになった。
このケースでは,1974年から2015年まで東京の渋谷と原宿で営業した伝説的な雑貨店,文化屋雑貨店に注目する。雑貨とは,どこまでから雑貨であり,どこからが雑貨ではないかという範囲設定が分からない不思議な製品カテゴリーであるが,現在では雑貨店が日本各地で見られるようになった。この日本独自の製品カテゴリーを創造したのが,文化屋雑貨店店主・長谷川義太郎である。長谷川は「雑貨」という概念を通じて,消費者のみならず,ファッション・デザイナーや雑誌編集者など内外のクリエイターに対して,現在に至るまで多大なる影響力を与えてきた。このケースでは,本人によるオーラル・ヒストリーに基づいて,長谷川が文化屋雑貨店を通じて実現した市場創造について見る。