化粧品の効果,有用性を評価する際には,肌上での化粧品の状態を解析する必要がある。特にメーキャップ製剤では,肌上での化粧塗膜の状態が化粧効果に大きく影響していると考えられるため,その状態の詳細な評価は,より高機能な製品を開発するうえで重要である。従来,皮膚上に形成された化粧塗膜の状態を評価する手法としては目視やマイクロスコープを用いて観察する方法が一般的であったが,得られる情報は巨視的,かつ二次元の情報に留まり,製剤を開発するうえで重要な粉体の微視的情報や塗膜の三次元的な状態を確認することは不可能であった。そこでわれわれは肌に塗布した化粧塗膜の状態を微視的に解析するための手法として,転写剤を用いて肌上の化粧塗膜を転写し,走査型電子顕微鏡 (SEM) を用いて観察する手法を考案した。まず,化粧塗膜の採取方法を検討し,最適な転写剤を選定した。次に,化粧塗膜の観察に適したSEMの観察条件を設定し,塗膜の微視的な解析を試みた。さらに本手法を応用し,塗布方法の違いによる化粧塗膜の状態の差異,および化粧が崩れる際の塗膜構造の崩壊の過程,さらには化粧塗膜に含まれる粉体の分散状態とSPF機能との相関について検討を行った。その結果,われわれが開発した手法により,これまで目視レベルで認識されていた仕上がりの差異を,塗膜状態の差異として微視的かつ客観的に評価できることが明らかとなった。化粧崩れという時間経過を伴う現象においても,油脂と粉体の微視的な挙動を追跡することでそのメカニズムが解明可能であることを示した。化粧塗膜に含まれる粉体の分散性とSPF機能との相関については,粉体の分布が製品の機能に直結することが示された。今回開発した手法は,肌上での粉体の状態の観察を可能とし,メーキャップ製剤の機能性を評価するうえで有用であることが示された。
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