日本化粧品技術者会誌
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56 巻, 4 号
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総説
  • 大石 泉
    2022 年 56 巻 4 号 p. 349-354
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    近年,生活者の多様なライフスタイルや環境変化に伴い,身だしなみや健康維持の重要性に対する意識が高まっている。2020年以降,COVID-19の流行をきっかけに,「家で過ごす時間の増加」が要因となり,スキンケアやヘアケアを入念に行うようになるといった意識や行動に変化が起きている。特にヘアケア業界においては,高価格帯のヘアケア製品やアウトバスを含めたトリートメントの市場が伸びている。その背景には,SNS を中心としたデジタルコミュニケーション施策による若年層の行動変容が影響していると推察する。マスク生活の終息が依然として見えない中,顔よりも,マスクで覆われていない「髪」の美しさがその人の印象を左右する大きなファクターとして捉えられるようになり,これまで以上にヘアケアを重要視する風潮が高まることが予想される。そのため,今後,生活者の実態を捉えた製品開発がより一層必要になるだろう。本報では,定量調査結果から読み解く生活者の着目すべき価値観とヘアケアの実態,また毛髪の構造や特徴に関する基礎知識と毛髪評価手法について,実際の開発事例を交えながら解説する。

原著
  • 秦野 衛, 蝦名 宏大, 山中 亜弥, 須藤 秀
    2022 年 56 巻 4 号 p. 355-362
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    これまでいくつかの研究に基づき,頚部からデコルテ部位に至る首もとのケアを意識した化粧品が発売されている。その多くは加齢や紫外線の影響による頚部のシワに着目したもので,さまざまな研究知見が得られている。しかしながら,頚部に限定した評価では,シワ形成に直接結びつく決定的な原因は明らかにされていない。加えて,頚部のシワとその近傍部位における皮膚生理機能の変化との関係性に関する知見もまた少ないのが現状である。そこでわれわれは,25~54歳の健常女性32名を対象に,頚部のシワの程度とその近傍部位における皮膚生理パラメーターとの関係性について精査した。その結果,鎖骨下の角層水分量は年齢との相関関係が認められなかった。さらに,頚部のシワが目立たないグループにおける鎖骨下の角層水分量はシワが目立つグループに比べ有意に高く,比較的一定に保持されていることが判明した。以上のことから,頚部のシワは,鎖骨下の水分保持能と密接に関係し,その関係性において年齢は主たる要因ではないことが推察された。頚部のシワのケアを考えるうえで,鎖骨下の皮膚生理パラメーターの変化を理解することは重要であると考えられた。

  • 久保田 紋代, 後居 洋介
    2022 年 56 巻 4 号 p. 363-368
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    植物を構成する繊維を物理的に細かくすることで得られるセルロースナノファイバー(CNF)は,昨今のナチュラル指向に対し非常に適した材料である。CNFは高い粘性と透明性を示すため,レオロジーコントロール剤としてさまざまな化粧品に利用されている。またCNFは増粘効果以外にもさまざまな機能を有する。CNFの機能の1つとしてピッカリングエマルションを形成することがあげられる。しかしながら,多種の成分が配合される化粧品処方において,どのような条件であれば乳化可能かは不明であった。そこで,まず油の種類による乳化の可否について検討した。その結果,有機概念図を用いて乳化の可否を予測可能であり,有機性値に対する無機性値の割合が0.25以下の油を乳化可能であることがわかった。さらに水相への添加成分が乳化に与える影響について調査したところ,水と油の界面張力が50mN/m以上であれば乳化できることがわかった。このようなCNFの機能を利用し,新感覚の化粧品を創造すべく引き続き検討を進める。

  • ─セラミドを含有した逆ヘキサゴナル液晶分散液(Cer-Hexosome)の開発と皮膚への透過性およびバリア機能への効果評価─
    竹治 智子, 中井 隆人, 德永 俊輔
    2022 年 56 巻 4 号 p. 369-378
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    セラミドは細胞間脂質の主成分であり,皮膚の保湿とバリア機能に重要な役割を果たすが,その高い疎水性と結晶性から水系の化粧品処方への配合は困難である。これまでさまざまなセラミド含有カプセルが開発されているが,カプセル表面は親水的であり,疎水的な皮膚角層への親和性は十分に考慮されていない。そこで本研究では,粒子表面が疎水的であるヘキソソームに着目した。ヘキソソームは逆ヘキサゴナル液晶(H2)のナノ分散によって形成された表面が疎水性のカプセルで,皮膚に効率的に浸透することが期待できるが,一方でその疎水性により化粧水などの製剤中ですぐに凝集するため,分散安定剤が必須となる。本研究では,従来の石油由来とは異なる植物由来の分散剤で安定化したセラミド含有ヘキソソーム(Cer-Hexosome)の開発を行った。Cer-Hexosomeの構造はSAXSとCryo-TEMで確認した。次に,セラミドの皮膚浸透量をLC/MSで定量し,ヘキソソームによるセラミドの皮膚浸透性がリポソームの1.5倍であることを確認できた。また,1カ月連用試験で,Cer-Hexosomeが角層バリア機能を有意に改善することも確認した。細胞間脂質への影響を広角X線回折(WAXD)で解析し,Cer-Hexosomeが角層の直方晶構造を強化することもわかった。

  • 伊達 正剛, 髙田 広之, 森田 美穂, 小川 雄一
    2022 年 56 巻 4 号 p. 379-387
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    スキンケア製品の重要な役割の1つは,角層に潤いを与えて維持することであり,その役割の具現化には乳化物が有望である。乳化物に関しては多くの報告があるが,その多くは調製技術に関するもので,角層水分量の向上という機能についてはいまだ不明な点が多い。そこで本研究では,乳化物を塗布した後の成分の分布に着目し,皮膚中および皮膚上における油分・水分それぞれの分布と角層水分量の関係について検討を行った。その結果,油分は,皮膚中に分布しない,すなわち浸透性が低いことが高い閉塞効果につながり,乳化粒子を大きくすることはこの点に有効であった。さらに,皮膚上では固形油の配合が皮溝への落ち込みを防ぎ,表面をくまなく覆う効果をもたらした。また,水分は塗布時に分離し,皮膚上に形成された油分の層の上に配置する場合があったが,粘土鉱物の油分保持性がこれを防ぎ,水分の皮膚への接触が促された。上記の要素を組み合わせた乳化物は,従来型の乳化物と比較して高い閉塞効果を示し,角層水分量も向上させた。これにより,油分の皮膚中・皮膚上での分布,水分と油分の配置関係の重要性が確認された。

  • 早川 知宏
    2022 年 56 巻 4 号 p. 388-394
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    シリコーンを用いたW/Oエマルションは耐水性,伸びが良くべたつきが少ないため化粧料に用いられる。有機変性粘土鉱物は界面活性剤などの極性物質を添加することで,チキソトロピー性を有するオイルゲルを形成する便利な増粘剤であるが,そのオイルゲルの粘度は界面活性剤の量によって変化する。有機変性粘土鉱物は長鎖アルキル基で変性されているため,シリコーンをベースとして使う場合はシリコーン界面活性剤を用いる。リキッドファンデーションのような実際の処方では,水・油・粉が使われ複数の界面が存在する。界面活性剤はこれらの界面によっても影響を受けるので,粘度や安定性の変化が起こる原因がわかりにくい。本研究では,有機変性粘土鉱物とシリコーン界面活性剤を用いたシリコーンオイルゲルの増粘機構を検討し,それを用いたW/Oエマルションの粘度挙動について検討を行った。その結果,界面活性剤量が,ある一定量のときに粘度が最大となり,保管温度の影響を受けにくいが,さらに配合量が多く,界面活性剤が過剰になるほど,増粘機構が阻害され高粘度のエマルションが得られず,高温保管することで増粘機構が回復し粘度が上昇することがわかった。

短報
  • 大野木 涼乃, 関本 奏子
    2022 年 56 巻 4 号 p. 395-401
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    香りは,低濃度かつ揮発性の異なるさまざまな成分から構成される。香りの分析には,これまで,ガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)法が広く用いられてきた。GC/MS法は定量・定性分析の性能に優れているものの,1サンプルの測定に時間を要することが難点である。香り成分は時間経過とともに変化するため,香りの挙動を理解するためにはリアルタイムな測定が非常に重要となる。また,香料として用いられているモノテルペンには構造異性体が多く存在するため,異性体を識別する必要がある。そこで本研究では,大気圧コロナ放電イオン化(APCDI)法と衝突誘起解離質量分析(CID-MS)法を用いて,モノテルペン(C10H16)の異性体をリアルタイムに識別できるか評価した。3つのモノテルペンを試料とし,それぞれのプロトン付加分子(C10H17+; m/z 137)に対して,CID法の一種であるプロダクトイオンスキャンとプリカーサーイオンスキャンを行った。その結果,プロダクトイオンスキャンではすべてのモノテルペンで類似したスペクトルパターンが観測されたが,プリカーサーイオンスキャンではそれぞれの異性体に特有なスペクトルが得られた。したがって,プリカーサーイオンスキャンがモノテルペン異性体のリアルタイム識別に有効であることが示唆された。

  • 中野 祐樹
    2022 年 56 巻 4 号 p. 402-410
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2022/12/20
    ジャーナル フリー

    ヘアケア剤との相互作用を理解するうえで毛髪の表面特性評価は必要不可欠である。ダメージによる毛髪表面の化学組成変化は赤外分光法をもちいて分析可能である。しかし毛髪のダメージ補修は固液界面で行われるため,含水状態の毛髪の表面特性評価が補修剤との相互作用を理解するうえで有益である。すなわち毛髪表面のゼータ電位を再現良く簡便に測定できれば,毛髪のダメージの定量化につながるとともに各種薬剤における吸着挙動の評価方法として活用できる。そこで本研究では流動電位法を測定原理とするゼータ電位測定により,ブリーチ毛の液中における表面特性評価およびカチオン化セルロースの吸着挙動の追跡を行った。ATR測定によるシステイン酸由来の吸収ピーク値とゼータ電位のpH依存曲線から求めた等電点との間に高い相関があった。さらにブリーチ処理による等電点の変化量を毛髪のダメージ度とみなし,ブリーチ処理時間に対するダメージ度の半定量が流動電位法によって可能であることが示された。カチオン化セルロースの吸着挙動の追跡ではブリーチ処理時間と流動電位の変化速度との間に負の相関がみられ,流動電位法をもちいて補修剤の吸着の程度が見積もれることが示唆された。

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