頭頂部緩反応(SVR)は音刺激により脳波上に誘発される聴覚誘発反応の1つで,自覚的聴力検査の困難な幼児や精薄老に対する客観的聴力検査などに使用されている.SVRを含む脳波はシグナル・ノイズ比が非常に小さく,SVRと自発脳波の周波数成分が互いに重なりあっているため,従来のフィルタリングやスムージングだけでは,自発脳波を充分低減できない。そこで,SVRの測定には,音刺激を繰り返し与え,音刺激時点を基準にして脳波を平均加算する平均加算法が現在では使用されている.
この平均加算法は,シグナル・ノイズ比が低いデータでは加算平均の回数を多くしなければならず測定時間が長くなる.一方,脳波は生体の状態により絶えず変動しておりほとんど定常性を仮定できない.この非定常性のため,脳波を長時間平均加算することは効率が悪く,得られたSVRに歪が生ずる危険性がある。
本論文では,SVRを含む脳波から効果的にSVRを抽出する新しい手法(符号化加算法)を提案する.まず,対象データの統計的解析結果からモデルを作成し,専門家の知識を用いてそのモデルを簡単化する.次に,簡単化されたモデル上で,信号を見落とさず,かつn回の加算平均で雑音成分を拾わないようなデータの符号化を行い,最後に,符号化データを加算平均する.このアルゴリズムが符号化加算法である.この符号化加算法の有効性を音刺激中の脳波からSVRを抽出する問題に適用して検討する.
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