経時的に全数調査の結果が遅れて入手できるが,迅速な行動決定を行うために最新の標本調査データを利用する場合に全数調査データ自身を層別のための属性データとすることが考えられる.電話の通話度数料データはちょうどこの性質を持っており,過去の通話度数料の大きさに応じて加入者を層別することが考えられる.そのようにして層別された加入者から標本を無作為抽出する場合の母平均の推定精度についてはすでに示した(上田(1988)).これに対し,田口(1986)が提案した各層の代表値に近いものから標本を抽出する有意選出法は,時間的な変動が小さければ層内のばらつきを小さくできるため標本調査法の精度向上に寄与することが期待できる.しかし,その方法では層の数Lを比較的大きくして0(1/L
n)の議論をしているために層別や標本サイズの最適性を論じにいくこと,実際に得られるデータには時間的な変動が存在することなどの問題点がある.
そこで層別や標本サイズは無作為抽出下で最適化し,層内からは層の代表値に近いものから標本を有意選出する複合的な方法を提案し,まず各区間での代表値の決め方について論じた.そして6電話局の通話度数料データを用いて標本を系統的に抽出する場合と有意選出する場合との母平均の推定精度を比較した.その結果,有意選出の方が系統的抽出よりも誤差が小さいが,標本サイズが増えると差はなくなった.系統的抽出の場合には回帰処理による精度向上を期待したが,系統的抽出の場合でも単純無作為抽出に比べると誤差が相当小さいため,精度の向上は認められなかった.
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