本論文では,確率変数間の因果関係(データ生成過程)が線形構造方程式モデルと対応する非巡回的有向グラフにより記述できる状況を考える.未観測交絡因子が存在する場合,観測された相関情報から総合効果を推定する方法論として,操作変数法とフロントドア基準に基づいた二段階最小二乗法がある.しかし,これらの2つの推定方法のいずれもが適用できる場合において,総合効果の推定精度の観点では,これら2つのあいだに定性的な優劣関係を与えることはできない.そこで,本論文では,操作変数法とフロントドア基準によって推定された総合効果を統合した新たな推定量を提案する.また,数値実験をとおして,総合効果の推定精度の観点から,(i)この統合型推定量が個々の推定量よりも優れていること,そして,(ii)仮に未観測交絡因子がなく,通常最小二乗推定量(バックドア基準)が個々の推定量よりも優れている場合であっても,統合型推定量のほうが通常最小二乗推定量よりも優れているケースがあることを指摘する.
二項母集団の母比率の区間推定は古典的な問題であり,様々な信頼区間が知られている.ベイズ法を用いた信頼区間には,Jeffreysによる信頼区間があるが,実際の被覆確率が公称値を大きく下回ることがあると指摘されている.本論文では,階層ベイズモデルによる信頼区間の構成方法を考える.本論文では,母比率の事前分布のベータ分布の母数について,その超事前分布を適切に定める階層ベイズモデルを考えることにより,二項母集団の母比率の信頼区間を構成する方法を提案する.マルコフ連鎖モンテカルロ法による数値計算により,実際の被覆確率と区間幅を比較したところ,いくつかの設定において,提案法はJeffreysの信頼区間よりも良い性質をもつことが確認された.