分割表において,各セルの確率の推定値を最尤推定法によって単に割合とすることは,各セルにおけるデータ数が少ない場合,標本変動に過度に影響され,推定の精度が十分ではないことがある.本論文の目的は,事前の知識を事前分布として用いることによって,全体のデータや,各セル間に存在する傾向性に関する知識を利用して推定値を安定化させ,ひいては分割表の割合の推定値を平滑化させることである.分割表において,各セルの度数や割合が,(a)2項分布によって表現される場合と(b)多項分布によって表現される場合を考える.2項分布の場合は,まず,角変換によって分布を正規化し,その平均を分散分析モデルによって表す.ついで,(1)モデルの母数が交換可能になっている場合と(2)外的変数の一次関数になっている場合の2つのケースについて事後分布のモードを推定値とする方法を提案した.シミュレーションデータに適用した結果,(1)交換可能事前分布の場合には全体平均への縮約推定値が得られた.また,(2)母数がある傾向性を持っ場合には推定された各セルの確率が一定の傾向を持つことが確認された.
各セルの割合が多項分布に従う場合には,事前分布をディリクレ分布とし,その母数,すなわち,超母数の分布を交換可能分布とした.E-Mアルゴリズムによって,事前分布の超母数を推定し,その後で母数のベイズ推定を得る方法を提案し実データへ適用した.交差確認法によって単純な最尤推定値とベイズ推定値の推定精度を比較したところ,ベイズ推定値のほうが精度が高いことが示された.
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