同じ薬を同じ量だけ飲んでも同時に同じ効果が現われるとは限らないし,同じ汚染源の近くに住む人たちが同じ害作用を受けるとも限らない.世間ではこれを個体差があるからと説明する.この報告では,生化学的個体差を体液中の物質の濃度Cの対数尺上での標準偏差σxで表現したとき,これに関してどんな通則が成り立つか,その根拠は何かについて筆者の調べた結果を述べる.
まず古典的な代謝方程式を基に,大筋の見当をつける.方程式中のパラメタが酵素系の代謝活性を表わし,しかも誘導や阻害(抑制)を除けば遺伝的に定まることから,現実に見られるσxの準恒常性―いろいろな属性にあまり依存しないこと―の根元が,生きて育つためには,遺伝子に許される変異の幅の小さいことに在ると推理する.この推理は,根元的な物質ではσxの小さいこと,効果発現時点te,の対数尺の標準偏差σvも根元的な生理現象では小さいことで支持される.
伝染病の潜伏期間をteと見ると,σvの大きさは体液中の物質のσxと同じ程度であるが,ウィルス性のものが細菌性のものに比して小さく,根元物質のσxに近い.また発病年齢の分布をteの分布とみたとき,右寄り分布(老人病!)の中では,ガンのσvが,発ガン部位に関せず,小さくしかもその大きさはウィルス性の伝染病並みである.
古典模型だけでは不十分な結果を説明するため伊藤型確率微分方程式の利用にも触れた.
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