大気中には, 微量成分として, 非常にわずかのオゾンが含まれていることは, よく知られた事実である。大気中にオゾンの存在がみとめられたのは, 太陽輻射の測定が, そり端緒になつている。太陽輻射の波長による分布は, 大体, 太陽を6000°K (絶対温度) の黒体と考えたどきの輻射分布と一致するのであるが, ふしぎなことに, 紫外部は2950Åの附近から短かい方が急に浩失することがわかつた。すなわち, 地球上では2850Åより以下の波長の太陽紫外線は観測できないということである。
この紫外部のつよい吸牧の原因として, オゾンの存在が考えられた。オゾンは2000Åから3000Åの間に, きわめてつよい吸收帶をもち, わずかなオゾンの存在によつて, この附近の光は完全にさえぎられてしまう。太陽紫外線の強さから推定すると, 大気全体として, 標準状態に直して, 0.3cmくらいの厚さのオゾンが存在することがわかる。大気全体を0℃, 1気圧にすると, その厚さは7.9kmになるから, オゾンの平均存在量は空気中では, ほゞ4×10
-5% (容量) になるはずである。
このわずかなオゾンが, 短波長の紫外線を完全に遮断していることは, 驚くべきことである。もし, 反対に, このわずかなオゾンが存在しなかつたら, 短波長のつよい紫外線が地球表面にまで到達するため, 生物の細胞は破壊されて, 地球上には現在の生物はすめないだろうとさえ言われている。オゾンの量が4.5×10
-5%というのは李均のことであつて, 実さいにぼ, 地上からの高さによつて, 一様に分布しているわけではないことがわかつて来た。
地面に近いところでは化学的な分析によつても, またRayleighが行つたような分光学的な研究によつても, オゾン量は非常に少なく, 10
-6%あるいはそれ以下であることが明らかになつている。そうして見ると, オゾンの大部分は, 上層の大気中に存在していなければならない。最近までの研究によると, オゾンの大部分は地上20kmから35kmくらいのところに層になつて存在していることが確実なようである。この高さは, いわゆる成層圏の高さであつて減層圏のなかに, オゾンの濃縮された暦があることになり, これをオゾン暦とよんでいる。
ここで, ついでに言つておくが, 化学の教科書などに, 海岸松林等の空気中にオゾンが多いという記載がある。しかし, これは現在では, 少しも根拠のない説であるから, 改められることが望ましい。
オゾン層の重要さは, 最近とくにつよく認識されるようになつたが, その最も大きい気象的な影響は, 高層における高温層の出現に見られる。すなわち, 大気の温度は地上から20kmくらいまでは漸実低下し, 20kmでは-50℃以下になるが, その上では逆に温度が上りはじめ, 55kmくらいのところで+25℃くらいにまでなる。この30kmかち60kmの間の高温層は, オゾンが太陽輻射を吸牧する結果生ずるものであることは, 現在では疑う余地がない。
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