造山運動のフェーズに関してはSTILLE (1924) 以来その考え方が定着していると思つている人が多いかも知れない。然しフェーズに関しては現在でもなおかついろいろの考えがあることの例を, 特にヨーロッパのヴァリスカン造山帯のブレトニック, ズデーティック, アストゥーリックフェーズについて述べた。これらのフェーズは必ずしも “きわめて短期間の激しい変動” を意味するものではない。そして, 現在世界中から知られているフェーズの数は非常な多数のものになつており, 遠隔地のフェーズ同士をその時期だけで対比することは大変むつかしいし, 多くの場合論理的に意味をなさない。
造山運動のサイクルについても, その区分の仕方にはいろいろの方法がある (第2表) 。異なる考え方で作つたサイクルを, 単にサイクルという名称にのみとらわれて混同すると, 議論の進め方に大きな誤りをおかすことがある。日本ではこのような混乱があつたように思われる。また造山帯において認めたサイクルと, 安定大陸における海進・海退のサイクルとが如何なる関係にあるのかも, まだ必ずしも明らかになつていない。造山帯と安定大陸とをひつくるめての世界全体としての変動・変化を明らかにするためには, この問題の追究も重要である。
ヨーロッパでの造山運動のサイクルを, 他地域のサイクルと容易に対比する人達がヨーロッパ以外にも多い。ヨーロッパ全体としてみると, 古・中・新ヨーロッパの区別が明瞭であるので, カレドニアン, ヴァリスカン, アルパイン造山帯におけるそれぞれの造山運動を識別することは容易である。然し, 一つの造山帯の内部において, これをいくつかのサイクルに分けることは容易ではない。例えばヴァリスカン造山帯において, カレドニアンサイクルとヴアリスカンサイクルに分けることは容易ではない。このようにして, ヨーロッパにおいてもカレドニアン, ヴァリスカン, アルパインサイクルの境界をどこにおくかはむずかしい問題である。広い地域を通じて大局的にみると, サイクルとサイクルとは時期的に重なり合つていると見る方がよいように思う。
日本の造山運動の系列を考えるにあたつては, 造山運動の時期を認める規準について反省してみる必要がある。これを (1) 傾斜不整合, (2) 岩相変化と古地理変化, (3) 地層の変形, (4) 変成岩の形成, 花崗岩の貫入, などの点から考察してみた。単にみかけの地層の変形の差であるとか, 単なる不整合の存在だけからは短期間の著しい造山運動の存在は立証できない。造山運動については, 綜合的なかつ緻密な研究が必要である。
筆者は現段階の知識では, 小林貞一 (1941) の秋吉系列の造山運動, 佐川系列の造山運動の考え方は基本的に正しいと考えている。日本の古生代末期の造山運動は明らかに三畳紀, 或いはまた更にそのあとまで続くもので, これは秋吉系列の造山運動に属する。これをヨーロッパのヴァリスカン造山運動と対比すると, サイクルの上で明らかにずれがある。このようなずれが, ヨーロッパと東アジアという異なる地域における単なる異なる運動を意味するのか, 或いはヨーロッパ大陸から東アジアへと波状的に動く要因といつたものが存在したのかといったことが重要な課題となる。日本の造山運動がヨーロッパのものと対比されるとか, 対比されないとかいう点にのみ終る議論は稔り多いものとは思われない。
造山運動のフェーズ, サイクルについては現在の地殻変動とか, 地層の層相のサイクルの統計的解析とか, 問題を発展させるためになさねばならぬことが多い。これらについては将来の機会を待ちたい。
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