1) 第四紀火山地帯温泉 (主に噴気地帯に伴う温泉) 以外の温泉は, 分布の上で, 第四紀火山帯と第三紀火山活動地帯の共存地帯に位置を占めるものが多い, 特に第三紀火成活動地域にのみ分布する温泉は, 瀬戸内地方, 紀州中南部地方, 常磐地方等の温泉である。 なお, 大井川上流から甲府附近を通り小河内ダム附近に連る地帯にも温泉が分布するが, 熱源の時代については明らかでない。
2) 我国全股の温泉は島孤の主軸に沿つて帯状に分布し, 特に中央構造線・ フオッサマグナによつて温泉の分布形態が著しく支配される。 これは, 大構造と火山および温泉との関連を暗示するものである。
3) 温泉と湧出母岩との成因的関連は一般に見掛けの場合が多く, 概括的に我国の温泉は第三紀以降の火成活動に成因的な関連をもつもののようである。
なお, 第三紀以前の火成活動に関連ある温泉としては, 中生代花崗岩に伴う塩分含量の高い放射能泉がこれに相当するように思われる。
4) 第四紀火山地帯温泉以外の地域においても変質帯を伴う温泉がしばしば見られる。 第四紀火山に伴う噴気地帯あるいは変質帯の例から推して, 第四紀および第三紀の火山活動地帯を通じ, 変質帯を伴う地域は温泉活動の中心あるいは中心近くであつたと考えられる。
5) 変質帯を伴う温泉の化学成分は,
(i) 第四紀火山地帯の場合
温泉活動の中心外側地域
A) 酸性 SO
4′ 型
B) 酸性 Cl′-SO
4″型
Cl′型, Cl′-HCO
3′ 型, HCO
3 型
(一般に塩分含量稀薄)
(ii) 第三紀火成岩地帯の場合
中心外側
Cl′ 型, Cl′-HCO
3′型 HCO
3′型
の例が多い。 このうち, (ii) の Cl′ 型, Cl′-HCO3′ 型温泉は高い塩分含量で特徴づけられ, 一般に Cl′ 1.5g/l 以上, HCO
3′ 1g/l 以上に達する。 これらの温泉は第三紀火成活動に関連ある温泉を代表するものと思われ, 第四紀火山地帯温泉に比べ, より時間の経過した, より深い状態の温泉の性質を代表するものとみなされる。
6) 火山帯外側地域に分布する温泉は一般に塩分含量が稀薄であるが, 中信温泉群を例にとつてみると, SO
4″ を2次的成分とみなした場合, 温泉の化学成分は普通の地下水と大差がなく, 水温のみ異常を呈することになる。また, 瀬戸内火山岩地帯の外側に位置する道後, 祖谷等でも一般に塩分含量が稀薄であり, 僅かに HCO
3′ で特徴づけられる。
7) 変質帯と地質構造との関係を示す例として, 長野県湯田中・ 渋・ 地獄谷温泉の場合をみると, 横湯川に沿う変質帯の形成は, 基盤 (第三紀石英閃緑岩) 内の地溝性弱帯の生成に引続き, 地表に噴出した高温の噴気ガスないし温泉水に関係がある。いいかえると, 噴気・温泉水の地表への出現は
岩漿の固化→ 揮発性成分の分離→ 割目の生成噴気ガスの上昇 (噴気地帯の形成) → 地下水の滲透→ 温泉の生成地下水の滲透→ 温泉の生成の経路を辿るものと推定される。この関係は一般の温泉地帯においても同様であつて, 温泉の分布が地域的な構造に支配される場合が少なくない。 ある地域内の幾方向かの 裂〓・ 節理・ 断層のうち, 特にある方向にのみ温泉が伴うことは, 温泉の生成と裂〓の生成時期との間に密接な関連があることを暗示している。
8) Cl′濃度の高い火成源高鹹泉の問題に関連して, Cl′型, Cl′-HCO
3′ 型温泉の生成は, 高い外圧下における揮発性成分の物理的状態に繋りがあるようにみえる.水蒸気の密度は高圧下において漸次大となるという実験的な結果と, 高温々泉地帯の深い試錐孔から遊離酸を含む温泉の湧出が知られていない事実を併せ考えると, 高圧下における水蒸気は液相に近い状態にあり, 一部に塩化物を溶存する状態にあることを暗示するようにみえる。なお, 高圧下における水蒸気ないし凝縮熱水が, 時間の経過と共に臨界温度以下に温度が低下し, 同時に地下水の浸入をうけ, より深部の温泉成分が洗い出される場合, あるいは水蒸気の発散のため残留成分がより濃集する場合が予測される。第三紀火成岩および中生代花歯岩に伴う高鹹泉は, 恐らくこのような経路を経たいわば残留熱水性温泉であろうと思われる。
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