切削油剤の作用機構のうち潤滑機構について考察するための資料を得るために,いおう華を添加したスピンドル油を供給して切削状態の変化を調べ,つぎのような結果を得た。
1. 他の切削条件が一定であつても,スピンドル油中のいおう含有率が多くなるにしたがつて,削りくずは明りようなせん断型から完全な流れ型に移り変わる。これはいおう濃度によつて,切削油剤としての極圧潤滑性が異なるためであると推定できる。
2. 切削抵抗の時間的な変動の状態および平均値がいおう濃度によつて異なり,その状態は本実験においては三つのタイプに分類できる。平均値はいおう濃度の増加にしたがつて減少しS0.500%程度の濃度において最低値に達するか,ある値に漸近する傾向を持つが,分散値はS0.050%程度の濃度までは乾切削の場合よりもかえつて大きい。
3. 切削初期において,切削状態が安定するまでの時間は,いおう濃度の増加および削り速度の増加にしたがつて減少する。
4. 削り速度が100m/minの程度においても,いおう分子は削りくずと工具との接触部において作用しうると推定できる。
5. 潤滑効果を期待して切削油剤を使用する場合には,ある一定量以上に切削油剤を供給しても無意味である。
6. 反応系と生成系の自由エネルギ差を比較することによつて,鉄といおうから硫化鉄のできる反応は,本実験における切削条件の程度では十分に進行するといいうる。
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