戦後のわが国の工業技術の発展が主として先進諸外国からの技術導入にもとついてなされてきたにもかかわらず,「猿真似」に終わらずに製品の品質,価格,生産量において先進諸国を抜き,今日の繁栄をもたらした原因は何かと考えると,よく指摘される新技術の消化,吸収能力のほか,われわれ日本人が導入技術を独自のものに改良・洗練し,経済的生産システムを組織すること,すなわち“技術の改良とシステム化”にすぐれた能力を持っていたことを挙げねばならないと思われる.こうした発展の流れは,コンピュータ技術と結びついたいわゆる“総合化技術”として付加価値の高い新製品の開発,生産工程の自動化・システム化と経済性の追求といった現在の命題に及んでいる.しかしながらこのような発展の一方では,深刻な貿易摩擦の発生をはじめ,省資源,省エネルギー,環境保全,また合理化にともなう労働問題自動化と人間性の確保といった厳しい拘束条件が課され,更にはかつての先進諸国およびアジアの後発諸国がわが国を手本として同じ方向をたどって急速に追いつこうとする状況も生じている.このような状況のもとで無資源の賃加工国であるわが国が21世紀に向かって活路を開くためには,従来技術の改良と総合化にとどまらず,“独創性のある新技術の芽を自前で開発・育成し”独自の技術立国をめざすことが是非とも必要であろう.
精機学会創立50周年記念特集号の刊行にあたり,会誌編集委員会はこのような視点のもとに骨子となる次の編集方針を定めた.
「本会のこれまでの発展に対する壮大な記念碑を建立するよりは,むしろ精密工学,精密工業の諸分野において現在われわれが何を,どこまで実現できるようになったか,なりつつあるかを明らかにし,これに基づいて将来どのような技術分野の,どのような方向の発展が可能であるかを会員諸氏とともに考える企画としたい.」
すなわち記念特集号としての常識的な体裁は維持しながらも,より多く現在・未来に目を向けたいということである.そのほか,年鑑的な堅苦しいものとなることを避け,気軽な楽しい読みものとなるようにまとめる.このため座談会,討論会形式の記事も積極的にとりあげる.またページ数の制限,アンケートの企画などによりできるだけ多くの会員にご協力いただけるようにするとともに,自由に参加・発言していただける場も設ける,などにも配慮したつもりである.幸い多数のすぐれた執筆者,参加者をお願いでき,一応のまとまりが得られたことは会員各位の御理解と御協力によるものであり,深く感謝している.また筆者は年長のゆえにとりまとめをしたに過ぎず,本特集号の刊行は企画,立案,依頼のすべてにわたって非常な熱意と努力を示された編集委員諸兄の力によるものである.以下にあえて氏名を記すとともに末筆ながら厚く御礼申しあげる.
副委員長 橋本 誠也(日立製作所中央研究所)神馬 敬(東京工業大学精密工学研究所)
幹 事 塚田 忠夫(東京工業大学工学部)津田 展宏;(設量研究所)
委 員 浅野 克彦(東芝タンガロイ)中沢 弘(早稲田大学理工学部)
井越 昌紀(機械振興協会技術研究所)成瀬長太郎(電気通信大学)
伊藤 公俊(東京工業大学総合理工学研究科)西川 寿子(三菱金属)
池田 正幸(電子技術総合研究所)西脇 信彦(東京農工大学工学部)
石川 晴雄(電気通信大学)能戸 幸一(日立製作所生産技術研究所)
大見 孝吉(機械技術研究所)本多 庸悟(東京農工大学工学部)
川上 常太(精工舎)松本 弘一(計量研究所)
北嶋 克寛(東京大学工学部)守友 貞雄(セイコー精機)
佐藤 真(牧野フライス製作所)
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