子宮内膜癌(体癌)は近年増加の傾向にあるが,子宮頚癌とくにその扁平上皮癌と異なり,その自然史がまだ解明されていない.そこで1983年から1993年までの11年間に関西医科大学産科学婦人科学教室で治療した120例の体癌を対象に,その臨床病理学的事項および治療成績を検討し,その問題点を考察した.
1.当教室においても子宮癌における体癌の割合は増加しており,1983年の子宮癌の14.1%から1993年には27.7%を占めている.
2.平均年齢は57.0歳で,臨床進行期1期の47.7歳に比して,II期以上は56.7-58.0歳と10年の差がみられた.
30歳未満の若年例が3例あった.妊娠回数の少ない婦人に多く,閉経後が78例(65.0%)を占めた.3.主訴は,性器出血が94例(78.3%)であった.
4.術前診断のための子宮内膜細胞診の正診率は69.2%,腫瘍マーカーの陽性率はCA125が42 .9%,CA19-9が47.3%であった.なお,子宮筋腫等良性疾患の診断にて開腹し術後に体癌の発見された症例が9例あった.
5.治療に関しては子宮摘出を原則とし,広汎子宮全摘出術,準広汎子宮全摘出術および単純全摘出術を症例に応じて施行し,1986年からは,術中,もしくは術後 cisplatin(CDDP)を中心とする抗癌化学療法を併用し,5-FUによる維持療法を行った.
6.1988年までの61例の5年生存率は1期84%,H期83%,皿期75%,IV期40%で,全症例の現在の生存者の割合は1期86.0%,R期87.0%,皿期90.0%,IV期30.8%で21例(17.5%)の再発死亡例があった.死亡例の再発部位40ヵ所の内容は局所(骨盤内)10例(25.0%),癌性腹膜炎9例(22.5%) ,遠隔転移21例(52.5%)であった.
7.死亡症例の要因として,組織学的に低分化型(G3),リンパ節転移陽性例,子宮筋層内深達度2/3以上が密接に関与し,これらを総合すると組織学的分化度が最も重要な予後因子であった.
8.再発部位では,低分化型では遠隔に,深達度の深い症例では腹腔内に多く見られ,大部分は3年以内に発見された.
9.術後再発を防ぐためには放射線療法が主体であったが,1986年からはcisplatin(CDDP)を主とする抗癌化学療法を併用し,癌性腹膜炎には60%に有効であったが,局所再発ならびに遠隔転移例には効果が少なく,とくに低分化型(G3)には大部分無効であった.
以上の研究結果から,体癌の予後を改善するためには,前癌病変からの自然史の解明とともに,現行の老入保健法による子宮癌検診に際して,体癌のスクリーニングの励行による早期発見の推進と手術の根治性向上をはかることが第一義的であるが,それとあわせて,適切な抗癌化学療法と維持療法の併用療法の改善による再発防止,免疫・ホルモン療法の開発など多元的な治療法の導入をはかり,とくに組織学的に低分化型(G3)に対する対策を検討している.
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