われわれは,最新の組織化学的手法を駆使したラット副腎皮質自家移植片再生過程の解析によって,これまで明らかとなっていなかった副腎皮質自家移植片再生のカギとなりうるシグナル経路を同定した.新規in situ hybridizationであるRNA scopeによって,移植片再生過程におけるDesert hedgehog(Dhh)の一過性発現上昇とSonic hedgehog(Shh)の発現低下を明らかとした.DHHは性腺に限局した発現を示すヘッジホッグファミリータンパクとされており,これまで副腎皮質での存在は報告されていなかった.一方,SHH陽性細胞は副腎皮質の幹・前駆細胞候補として知られているが,興味深いことに,副腎移植片の再生過程への関与はほとんどないことが考えられた.われわれが得た所見は,副腎皮質自家移植片再生過程において,発生起源を同じくする性腺の発生発達に関与するDHHが寄与することを示唆するものである.今回の発見を皮切りに,移植片の生着促進,あるいは幹細胞由来副腎皮質細胞作製等への手掛かりが得られることを期待している.本稿では,われわれの研究成果,副腎皮質の発生発達,幹・前駆細胞等を概説する.
腸内細菌叢とはヒトの腸管内で一定のバランスを保ちながら共存している多種多様な細菌集団である.近年,次世代シークエンサーによる遺伝子解析技術の進歩に伴って腸内細菌叢の研究が加速している.腸内細菌叢は新生児期(あるいは胎児期)から形成され3歳までに成人同様となるが,様々な要因でその構成は乱れ,小児期・成人期の疾患発症と関連する.したがって乳幼児期の腸内細菌叢の構築過程に関する知識と理解はヒトの健康増進を考える上できわめて重要である.しかし,腸内細菌叢に影響を及ぼす因子は数多くあり,まだ不明な点も多い.今回,分娩様式や栄養法が新生児の腸内細菌叢に及ぼす影響を検討した筆者らのデータを中心に小児期の腸内細菌叢について紹介する.
Follicular pancreatitisは,多数の反応性リンパ濾胞が膵実質において形成されることを特徴とする膵炎として認識されている.しかし,その臨床病理学的特徴と原因はまだ明らかにされていない.我々は手術を行った3名のFollicular pancreatitisの臨床病理学的特徴の検討を行った.組織病理学的検討により,膵管周囲及び膵実質内に胚中心を伴うリンパ濾胞が多数形成されていた.Podoplanin(Th17マーカー)を発現するリンパ球は,follicular pancreatitis患者のリンパ濾胞に存在したものの,正常リンパ節およびIgG4関連自己免疫性膵炎(AIP)患者のリンパ濾胞には存在しなかった.RNA発現解析では,樹状細胞およびリンパ濾胞マーカーを含む20遺伝子の発現数と関連サイトカイン数がAIPよりもfollicular pancreatitisで有意に高値であった(p<0.01).Th17に関連する遺伝子であるIL23Aの発現も高値であり,follicular pancreatitisが組織病理学的および免疫学的にTh17の活性化に特徴付けられる膵炎であることが示唆された.