1977年から1978年の冬, 九州地区に於いてインフルエンザA型のH3N2とH1N1の両亜型の混合流行があった. われわれは, この流行期に病院の小児科病棟に於ける流行から14株のウイルスを分離した. このうち, 13株は抗A/FM/1/47 (H1N1) 血清に抑制され, 抗A/熊本/22/76 (H3N2) 及び抗A/東京/1/77血清には抑制されず, H1N1型と同定された. 他の1株のMF/11/78株はH1及びH3のいずれの抗血清にも抑制されなかった. MF/11/78株が分離された患者の急性期血清はH1株及びH3株のいずれの抗原にもHI価は, 32倍以下であったが, 恢復期血清では両抗原共, 有意の上昇を示した. MF/11/78株の抗原をマウスに免疫して得た抗血清は, HI試験でH1及びH3の両抗原を抑制した. 尚, 中和試験に於いては, 抗A/MF/11株血清は, A/東京/1/77 (H3N2) 株に対しては高い中和価を示したが, A/USSR/92/77 (H1N1) 株に対しては, 低い値であった. この事は, MF/11/78株中には, H3とH1の両抗原が混在している事を示唆する. 孵化鶏卵尿膜腔液内に3代継代したMF/11/78株を, MDCK細胞に接種し, そのプラックから64クローンをとり, H, Iを行ったところ60クローンはH3, 4クローンはH1と同定された. この中から16クローンを選び, NA抗原性をも同定した結果, H3N2型7, H1N1型2, の両株とこれに対応するレコンビナントウイルスのH3N1型6, HIN2型1が同定された. しかしながら, このレコンビナントウイルスが, ヒトの体内で生じたものか, 孵化鶏卵3代継代中に生じたものかは, はっきりしない.
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