子宮頸がんより高頻度に分離される16, 18型など一群のヒトパピローマウイルス (HPV) の初期遺伝子E6は, 齧歯類培養細胞3Y1およびΨ2を形質転換する。これらのE6はp53の分解を促進し不活化することがよく知られているが, p53の不活化はこの形質転換には関与しないことを示す実験結果が得られた。これらE6による細胞形質転換機構を明らかにするため, E6の新たな標的探しをイースト two hybrid 法を用いて検索した結果, PDZドメインを持つ蛋白がE6と結合することが明らかになった。さらに, 一群のE6はC末端に保存されたXS/TXV/L (X: 任意のアミノ酸; S/T: セリンまたはスレオニン; V/L: バリンまたはロイシン) モチーフを介してショウジョウバエがん抑制蛋白Dlgのほ乳類ホモログ (DLG) の第2PDZドメインと結合することを明らかにした。この第2PDZドメインはAPC (Adenomotous Polyposis Coli) がん抑制蛋白とも結合することが明らかにされているが, E6のC末モチーフを含む合成オリゴペプチドは両者の結合を阻害した。また, C末モチーフを潰した変異E6はp53の不活化活性は維持しているものの, 3Y1およびΨ2細胞に対する形質転換能を失っていた。これにより, これらの細胞に対する形質転換能など少なくとも一部の生物活性が, p53の不活化によるのではなくC末モチーフを介した宿主因子に対する結合に依存していることが明らかとなった。これらの結果は, E6がAPCとほ乳類DLGとの結合を阻害し, APCあるいはDLGのがん抑制蛋白としての機能を阻害することにより細胞を形質転換あるいはがん化するという可能性を示唆している。一方これらのE6はE7と共同してヒト初代表皮細胞や乳腺上皮細胞を不死化するが, この系においてはE6によるp53の不活化もDLGに対する結合能も必要ではなく, テロメラーゼの活性化能が必要であることが最近明らかとなった。
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