ウイルス
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61 巻, 2 号
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総説
  • 柳井 秀元
    2011 年61 巻2 号 p. 141-152
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     核酸によって活性化される免疫応答は病原体に対する生体防御に重要である一方,自己免疫疾患や炎症等の病態とも密接な関連がある.これまでに,Toll様受容体(TLR)をはじめとし,ウイルスや細菌由来のDNA,RNAを認識する,種々の核酸認識受容体とそのシグナル伝達機構が明らかにされてきている.これらに加え,私達は最近,核酸認識受容体シグナルの活性化に必須の役割を果たす分子としてHMGB(High mobility group box)タンパク質を新たに同定した.HMGBタンパク質は様々な核酸と結合し,HMGB欠損細胞においては核酸による免疫応答の活性化が顕著に減弱する.私達はHMGBタンパク質の機能を阻害するような非免疫原性のオリゴ核酸(核酸アナログ)を作製し,核酸による免疫応答の活性化に与える影響について検討し,この核酸アナログが,DNA,RNAを問わず,核酸による免疫応答の活性化を阻害できることを明らかにした.本稿では,このような私達の最近の知見に基づき,核酸誘導性の自然免疫系活性化における核酸アナログの抑制作用について概説し,その応用について考察したい.
  • 押海 裕之, 松本 美佐子, 瀬谷 司
    2011 年61 巻2 号 p. 153-162
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     ウイルス感染に対する自然免疫機構の解明はRIG-I様受容体やToll様受容体の発見により大きく進んだ.細胞質内に侵入したウイルス由来のRNAは主にRIG-I様受容体により認識される.この時,HMGB1-3分子群やDExD/H box型のRNAヘリケース分子群が,ウイルスRNAとRIG-Iの結合を仲介する.RIG-Iはウイルス由来のRNAを認識すると,アダプター分子のIPS-1を介してI型インターフェロンを含む炎症性サイトカインの産生を誘導する.このシグナルにはRipletやTRIM25等のユビキチンライゲースによりRIG-Iがユビキチン修飾を受けることが重要である.エンドソーム内のウイルスRNAはToll様受容体により認識され,TLR3が二重鎖RNAを認識し,TLR7や8が一本鎖RNAを認識する.ウイルスはこれらの過程を阻害する機構を持つ.C型肝炎のコア蛋白質はDExD/H box型RNAヘリケース分子の機能を阻害し,さらに,ウイルスのNS3-4A分子が宿主のIPS-1を切断しI型インターフェロンの産生を抑制する.ウイルス感染に対する自然免疫機構の解明が進むにつれ,今後,ウイルスによる宿主免疫の抑制機構の理解も大きく進むと期待される.
  • 木村 宏
    2011 年61 巻2 号 p. 163-174
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     普遍的なウイルスであるEpstein-Barr virus (EBV)は初感染後,終生潜伏感染するが,細胞性免疫が損なわれない限り症状が現れることはない.一見免疫が正常と思われる個体にEBVの慢性感染が起こることがあり慢性活動性EBV感染症(CAEBV)と称されてきた.CAEBVは発熱,リンパ節腫脹,肝脾腫などの伝染性単核症様症状が持続あるいは反復する疾患である.本症は稀ではあるが,重篤かつ予後の悪い疾患である.近年では,本症は単なる感染症ではなく,EBVに感染したTもしくはNK細胞の単クローン増殖が本態であることが明らかとなっている.本稿では未だ全貌が解明されていないCAEBVの発症病理について,筆者らの知見を交え考察するともに,本症の臨床像・治療・予後についても概説する.
  • 小柳 義夫
    2011 年61 巻2 号 p. 175-182
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     ATLの原因ウイルス探索研究からHTLV研究が始まり30年である.このウイルスのレトロウイルスとしての性状とTaxとRexを中心にウイルス遺伝子の制御系,細胞増殖の活性化ならびに細胞間ウイルス伝播様式,そのウイルスキャリアと関連疾患の存在などが,日本の研究者を中心にそれぞれ解明されてきた.そして,どのようにヒトに感染し,個体の中で増え,腫瘍細胞クローンが選択され,そして,どのような分子が介在して病気を起こすのか,未解明のことも数多くある.HTLVが見い出された当初,レトロウイルス研究には多くの知見の蓄積があったこと,そして,このウイルスはATLやHAMというきわめて特徴のある疾患に関わることから,これらの疾患の発病分子論はすぐに明らかにされると考えられていた.しかしながら,いずれの疾患の発症メカニズムに多くのなぞがあり,そして,根治療法もまだ開発されていない.このウイルス研究のはじまりから,振り返ってみる.
特集:Positive Strand RNA Virusのウイルス学
  • 小池 智
    2011 年61 巻2 号 p. 183-192
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     ピコルナウイルス科はヒトや動物に種々の感染症を引き起こすウイルスの大きな科であり,ポリオウイルス,A型肝炎ウイルス,口蹄疫ウイルス(foot-and-mouth disease virus: FMDV) など重要なウイルスを含んでいる.感染の初期過程はそれそれのウイルスに固有の宿主域や標的組織を決定するために重要な役割を果たしている.本稿においてはこれまでのピコルナウイルスの受容体,細胞内への侵入過程,脱殻過程などについて明らかになってきていることをまとめて解説する.
  • 牛島 廣治, 沖津 祥子, Pattara KHAMRIN
    2011 年61 巻2 号 p. 193-204
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     ノロウイルス,サポウイルスに代表されるカリシウイルスは,ヒト,哺乳類のみならず広く動物に存在する.臨床症状も胃腸炎のみならず多彩である.不顕性感染のこともある.カリシウイルスは環境に強いために,宿主動物間の感染以外に自然界,食品などを介しての感染が見られる.カリシウイルスでは突然変異の他にゲノム内の組換えが頻繁にみられる.現時点では組換えは同じ動物種ウイルス内である.遺伝子診断,遺伝子解析や組換え中空ウイルスを用いた酵素抗体法で,臨床や疫学研究が進んできた.ウイルスと宿主との免疫反応はウイルス遺伝子型特異性が強く交差免疫が出来にくい.従ってノロウイルスやサポウイルスなどのカリシウイルス感染では,世界規模で新しい変異株の流行が短期間に広がる可能性がある.感染にカリシウイルスの細胞側のレセプターである組織血液型抗原が関与する場合があり,感染,発症に個体差がある.ヒトノロウイルス,ヒトサポウイルスは細胞培養が出来ないので研究に制約がある.培養できる動物のノロウイルスを用いて病態や治療薬・消毒薬,ワクチンの開発が進んでいる.
  • 田口 文広
    2011 年61 巻2 号 p. 205-210
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     コロナウイルス(CoV)はアーテリウイルスと共にニドウイルス目に属するウイルスであり,ゲノムは約30 kb(+)鎖でエンベロープを持つRNAウイルスである.CoVの特徴は,mRNAの構造にあり,ゲノムRNA 3‘側から5‘側に違う長さで伸張する数本のmRNAから構成され,各々のmRNAの5‘末端にはゲノムRNA 5’末端に存在するリーダー配列を持つ.その構造から,mRNAは不連続のRNA合成によりできあがることは推測されるが,その機構については,現在も2つの仮説が存在し,いずれが正しいのか決定的な実験的証明はなされていない.ウイルス蛋白の翻訳は一般に各々のmRNAの5‘末端に存在するORFからのみ翻訳される.ゲノムRNA (mRNA-1) の5‘末端約20kbには2つのORF(1aと1bで802kDaをコードする)からなる.このORF間には,pseudoknot(Pn)と呼ばれる複雑な3次構造を持つ領域があり,そのため1a蛋白だけで翻訳が終止する場合と,Pnにより,1a + 1b融合蛋白が合成されるケースがある.1a + 1b蛋白は16個の調節蛋白に解裂され,プロテアーゼ,RNA polymeraseとして働く他に,細胞の蛋白合成を抑制するような蛋白も同定されている.基本的に,mRNA-2以下のものからは,構造蛋白が翻訳される.マウス肝炎ウイルス(MHV)では,mRNA-3, 5b, 6,7から,それぞれspike(S),envelope (E),integral membrane (M),necleoprotein (N)が翻訳される.合成されたM, E蛋白は小胞体からゴルジ装置に至る細胞内小腔に親和性を持ち,M蛋白にRNA-N複合体とS蛋白が結合し,小腔内に感染性粒子として出芽し,exocytosisで細胞外に放出される.最近,細胞外放出にも宿主のプロテアーゼが関与していることが報告されている.
  • 森 嘉生, 大槻 紀之, 坂田 真史, 岡本 貴世子
    2011 年61 巻2 号 p. 211-220
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     トガウイルス科は,アルファウイルス属とルビウイルス属が存在し,医学・獣医学・公衆衛生学的に重要なウイルスが多く属している.アルファウイルス属には29種のウイルスが報告されており,そのほとんどがアルボウイルスである.その一種であるチクングニアウイルスは2004年にケニアで流行が始まり,現在ではインド洋諸島,南~東南アジアおよびヨーロッパの一部にまで流行が拡大している.一方,ルビウイルス属の唯一のウイルスである風疹ウイルスは,風疹および先天性風疹症候群(CRS)の病原体である.風疹ウイルスの自然宿主はヒトのみであり,効果の高い弱毒生ワクチンが存在することから,全世界で麻疹とともに排除に向けた動きが進められている.
  • 石川 知弘, 小西 英二
    2011 年61 巻2 号 p. 221-238
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     フラビウイルス科フラビウイルス属は,日本脳炎ウイルス,デングウイルス,ウエストナイルウイルスなど,全世界で公衆衛生学的問題となる感染症を起こす病原体を多く含む.これらウイルスはヒト以外の哺乳動物や鳥類が保有宿主・増幅動物となり,蚊またはダニにより媒介されるため,完全に自然界から排除することは不可能である.近年,ウイルスの宿主細胞内での複製機構や構造,免疫回避機構などが急速に解明されて来たため,これまでにない新しい抗ウイルス薬やワクチンの開発が可能となっている.本総説では,最新の知見を踏まえて,フラビウイルスの複製機構・免疫回避機構を解説するとともに,ワクチン・抗ウイルス薬開発の現状について紹介する.
  • 迫田 義博
    2011 年61 巻2 号 p. 229-248
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     ペスチウイルスとはフラビウイルス科ペスチウイルス属の牛ウイルス性下痢ウイルス,豚コレラウイルス,ボーダー病ウイルスを代表とする動物ウイルスの総称である.ペスチウイルスはいずれもヒトに感染することないが,獣医領域では重要な疾病を引き起こす病原体である.ペスチウイルスは他のフラビウイルス科のウイルスと似た遺伝子構造を持つが,ウイルスゲノムへの宿主遺伝子の挿入,ペスチウイルス特有のウイルス蛋白NproやErnsの病原性への関与など,興味深い報告が多い.本稿ではペスチウイルスの病原性の分子基盤を中心に最新の知見も含め解説する.
トピック:野生型麻疹ウイルスの二つのレセプター
  • 田原 舞乃, 竹田 誠
    2011 年61 巻2 号 p. 249-25
    発行日: 2011/12/25
    公開日: 2013/04/30
    ジャーナル フリー
     麻疹は,伝染力の強い急性発疹性ウイルス感染症である.一過性の強い免疫抑制を引き起こし,細菌などによる二次感染症が合併することが多く,致死率も高い.2000年に麻疹ウイルスのレセプターが免疫細胞上の分子SLAMであることが明らかにされ,これにより麻疹ウイルスがリンパ節,脾臓,胸腺などのリンパ系臓器を主な標的として感染し,免疫抑制を引き起こす現象の説明がついた.しかしながら,麻疹ウイルスの高い伝染力を説明する分子機構については未解明であった.われわれは麻疹ウイルスがSLAMとは異なるレセプターを用いて極性上皮細胞にも感染する能力をもつことを示したが,最近,Nectin4というアドへレンスジャンクション分子が上皮レセプターであることが解明された.麻疹ウイルスが免疫系細胞と上皮細胞のそれぞれに感染する能力をもったウイルスであることは,麻疹ウイルスの病原性を理解する上で非常に重要な知見である.
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