ウイルス
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67 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
総説
  • 金井 祐太, 小林 剛
    2017 年 67 巻 2 号 p. 99-110
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     ロタウイルス(RV)は乳幼児に重篤な下痢症を引き起こすウイルスであり,ワクチンが利用できるようになった今日でも世界中で年間約20万人がRV感染により亡くなっている.ウイルスゲノムの改変技術であるリバースジェネティクス系は,ウイルス学研究を行う上で必須の基盤技術であるが,11分節の二本鎖RNAゲノムを有するRVにおいては,その開発が遅れていた.最近,筆者らはRVの人工合成促進因子として,コウモリレオウイルス由来の細胞融合性タンパク質FASTならびにワクシニアウイルス由来のRNAキャッピング酵素を用いることでRVの人工合成に世界で初めて成功し,任意の変異を加えた組換えRVを自在に作製できる系を確立した.本稿ではRVを含むレオウイルス科のリバースジェネティクス系の概要について解説する.
  • 片山 和彦
    2017 年 67 巻 2 号 p. 111-120
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     ノロウイルスは,世界中に広く分布し,年間数十万人から数百万人に及ぶ非細菌性急性胃腸炎患者を発生させ続けている.ノロウイルスの研究は,1972年に免疫電子顕微鏡観察によってウイルス粒子が発見されて以来,感染感受性株化培養細胞の欠如,感染モデル動物の欠如によって長期にわたり進展が阻害された状態が続いていた.ATCC等から入手可能な株化培養細胞を用いてノロウイルスの増殖培養を試みたが,いずれも成功には至らなかった.2003年にネズミに感染するノロウイルスが,STAT1とRAG2をノックアウトした(RAG)/STAT1 / ・マウスにおける致死感染因子としてマウスの脳内から発見された.このウイルスは,マウスのマクロファージ細胞株,RAW264.7細胞で効率よく増殖培養させることが可能であった.ネズミノロウイルスの発見は,ノロウイルス研究の障壁を取り去り,ノロウイルスの研究の突破口となると期待された.
     本稿では,このような背景から,ヒトノロウイルスの機能性レセプター分子の発見を狙い,日本と北米でほぼ同時に進行したヒトノロウイルスのサロゲートウイルスとして有用性の高いネズミノロウイルスの機能性レセプター検索から発見に至までの研究を,ノロウイルス研究の背景とともに概説する.
  • 井上 隆昌
    2017 年 67 巻 2 号 p. 121-132
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     ポリオーマウイルスはエンベロープを持たない小型二本鎖DNAウイルスである.エンドサイトーシスにより宿主細胞に侵入した後に小胞体へと輸送され,小胞体のタンパク質の品質管理機構を巧みに利用し細胞質へと移行した後,細胞質から核内へ侵入し感染を成立させる.この原形質膜から小胞体を仲介して細胞質へ到達する感染経路は,ポリオーマウイルスに特異的である.小胞体から細胞質への移行はポリオーマウイルス感染を決定づけるステップでありながら,未だメカニズムの全容解明に至っていない.本稿では,ポリオーマウイルスが小胞体から細胞質へ逆行輸送される分子機構に関する知見について,サルポリオーマウイルスであるSV40を用いた研究結果を中心に解説する.
  • 0ウイルス学と数学の融合研究によるC型肝炎治療薬併用の薬効評価と最適化0
    大橋 啓史, 渡士 幸一
    2017 年 67 巻 2 号 p. 133-142
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     抗HCV治療薬はここ数年,抗ウイルス薬の開発史上類を見ない速さで新薬の上市が進んでおり,その治療成績は著しく改善してきた.一方で,ごく短期間に多くの新薬が開発されたため,個々の薬が持つ性質や特性上の相違点,最適な組み合わせ,薬剤耐性ウイルスに効果を発揮する薬剤の選択,等の深い議論がほとんど行われず,限られた組み合わせの多剤併用療法が用いられてきた.我々はすでに市販されている,もしくは臨床開発段階の抗HCV薬15種の抗ウイルス活性を培養系で定量し,またこの基礎データを用いた数理モデル解析により,各薬剤の薬効プロファイルを表現するパラメータを導き出した.さらに,コンピュータシミュレーションの援用により現在主流の2剤併用療法および今後の導入が想定される3剤併用療法での,抗ウイルス効果と耐性変異ウイルスの出現リスクを解析し,多剤併用療法の有用性を定量的に議論した.本稿では,従来のウイルス学に数学を組み合わせた融合研究による抗ウイルス薬の特性解析手法とその応用について解説する.
特集:ウイルス研究の最前線
  • 好井 健太朗
    2017 年 67 巻 2 号 p. 143-150
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)は,フラビウイルス科フラビウイルス属に属する人獣共通感染症の原因ウイルスで,自然界ではマダニによって媒介される.TBEVは野鼠等の野生動物とマダニの間で感染環が維持されているが,感染マダニの吸血により人を含めた幅広い動物種に感染し,時には脳炎といった致死率の高い重篤な症状を示す.ダニ媒介性脳炎(TBE)はユーラシア大陸の広域で発生しており,年間1万人前後の患者が発生していて,患者報告地域も拡大している.日本においては,1993年に北海道南部において,国内初のTBE確定診断症例が発生した.その後,20年以上TBE患者の発生の報告はなかったが,2016年と2017年に相次いで2例目から4例目までの患者が北海道で発生した.我々はTBEV感染に対する診断系を確立し,継続的な血清疫学調査を実施しており,北海道の広域に流行巣が分布している可能性を示している.また北海道以外においても,TBEVもしくは近縁のダニ媒介性フラビウイルスの感染を疑われる事例が示されている.
     本稿では,TBEVの一般的な情報を解析するとともに,我々が行ってきたTBEの診断法やそれを応用した疫学調査やTBEVの病原性に関する研究を紹介し,TBE流行に関する課題を考察したい.
  • 澤 洋文, 佐々木 道仁, 大場 靖子
    2017 年 67 巻 2 号 p. 151-160
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     人獣共通感染症は自然界にその原因微生物が存在していることから,根絶することは不可能と考えられる.それ故,その発生を予測し,流行を防止する先回り戦略をとることが重要である.先回り戦略をとるために,病原微生物の起源と自然界における存続のメカニズム,伝播と侵入の経路および感染,発症と流行に関与する諸要因を明らかにする必要がある.
     我々のチームは,検査体制,医療体制が不十分であり,感染症対策の支援を必要としているザンビア,およびインドネシアにおいて,野生動物が保有するウイルスを対象とした疫学研究を推進している.本稿では,両国との共同研究により得られた研究結果の内,DNAウイルスであるオルソポックスウイルス,ポリオーマウイルス,ヘルペスウイルスを対象とした研究について得られた結果を紹介する.
  • 村上 晋, 堀本 泰介
    2017 年 67 巻 2 号 p. 161-170
    発行日: 2017/12/25
    公開日: 2018/10/24
    ジャーナル フリー
     これまでインフルエンザウイルスには,人の季節性インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスなどが含まれるA型からC型が知られていた.最近,これらとは性質が異なり,ウシをはじめとする家畜に感染するD型インフルエンザウイルスの存在が米国で報告された.これまでの疫学調査によって,D型インフルエンザウイルスは日本を含む世界中で流行し,特にウシの呼吸器病症候群を引き起こす原因ウイルスの一つであることが明らかとなってきた.本稿では,D型インフルエンザウイルス発見の経緯,流行状況,ウイルス性状について解説するとともに,日本におけるD型インフルエンザの流行状況について紹介する.
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