ウイルス
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64 巻, 2 号
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総説
  • 坂田 真史, 森 嘉生
    2014 年 64 巻 2 号 p. 137-146
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     風疹の原因である風疹ウイルスはトガウイルス科ルビウイルス属に属する唯一のウイルスであり,一本のプラス鎖RNAをゲノムに持つ.自然宿主はヒトに限定され,一般的には乳幼児に好発する.風疹ウイルス感染症の重大な問題は,妊娠初期に罹患した場合,経胎盤感染して児に白内障,難聴や心疾患を伴う先天性風疹症候群(CRS)を発症させることである.本稿では,これまでに明らかにされた風疹ウイルスの侵入から出芽までの生活環を,近縁のアルファウイルス属ウイルスとの比較を交えながら解説する.さらにキャプシドタンパク質の多面的な機能についても解説する.
  • 世良 貴史
    2014 年 64 巻 2 号 p. 147-154
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     ウイルスは多種多様なものが存在し,ヒトおよび家畜・農作物に甚大な被害を与え続けているが,その被害は,抑制されるどころか,拡大の途をたどる一方である.そのため,効果的なウイルス対処法の開発が望まれている.ウイルスは体内に侵入しても増えなければ発病しないと考えられるので,我々はウイルスゲノム複製過程に着目し,人工タンパク質を用いて,ウイルス複製を阻害する手法を新たに開発した.まずは,ウイルスゲノムの複製の開始に必要な,ウイルス複製タンパク質のウイルスゲノム上の複製起点への結合を阻害できる人工DNA結合タンパク質を開発した.この遺伝子を植物個体および動物細胞に導入することにより,ウイルス複製を効果的に阻害し,植物個体ではウイルス耐病性を付与することに成功した.また,この人工タンパク質に細胞膜透過能を付与することにより,新たな抗ウイルスタンパク質製剤を創出した.さらに,人工DNA結合タンパク質にDNA切断部位を融合することにより,ウイルスゲノムを特異的に切断する人工ヌクレアーゼを創出し,有機化合物よりも10万倍高い比活性を示す,より効果的な抗ウイルス剤を開発することに成功した.
  • 小野 陽
    2014 年 64 巻 2 号 p. 155-164
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     ウイルス粒子形成が 細胞内のどの部位でおこるか,またそれがどのように決定されているかという点は,粒子形成・放出のみならず,細胞間伝播など粒子形成後の過程にも大きく影響するため,ウイルス増殖の理解を深める上でも,また抗ウイルス薬の戦略を考える上でも重要な問題である.レトロウイルスの粒子形成はウイルス構造タンパク質であるGagタンパク質の発現により起こる.HIV-1の場合,GagはそのN末端のMAドメインを介してplasma membrane (PM)に結合・局在し,そこでウイルス粒子を形成する.近年の研究により,この過程にはPM特異的なリン脂質PI(4,5)P2が重要な役割を果たしていることが明らかになって来た.本稿では,HIV-1 や他のレトロウイルスのMAが生体膜のリン脂質とどのように関わっているかについて,最近の知見を含めて紹介する.
  • 荻野 朝朗
    2014 年 64 巻 2 号 p. 165-178
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     モノネガウイルス目に属する非分節マイナス鎖RNAウイルスはウイルス粒子内にRNA依存性RNAポリメラーゼLタンパク質をもつ.Lタンパク質は,ウイルスRNAの合成と修飾 (mRNAキャッピング,キャップメチル化,および ポリアデニル化) を触媒する多機能酵素である.近年,筆者らは非分節マイナス鎖RNAウイルスのプロトタイプであるウシ水疱性口内炎ウイルス (vesicular stomatitis virus, VSV) をモデルウイルスとして用いることにより,L タンパク質が宿主真核細胞とは全く異なる機構でmRNAキャッピング反応を触媒すること,キャッピング反応が完全長mRNAを合成するための正確なストップ?スタート転写反応とウイルスの細胞内増殖に必須であることを明らかにした.本稿では,VSV mRNAキャッピング機構の解明につながった歴史的な研究と現在の最新の研究について解説したい.
特集:Double Strand RNA Virusのウイルス学
  • 河本 聡志, 谷口 孝喜
    2014 年 64 巻 2 号 p. 179-190
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     ロタウイルスは,冬季乳幼児嘔吐下痢症の病因ウイルスである.ロタウイルス胃腸炎により,開発途上国を中心に毎年約45万人の乳幼児が死亡している.感染性はきわめて高く,先進国においても,ほぼすべての乳幼児が5歳までに感染し,発症する.1973年にヒトロタウイルスが発見されて以来,ウイルスの粒子構造,遺伝子構造,抗原構造,各ウイルス蛋白質の構造と機能,複製,病態,疫学,進化などが明らかになってきた.また,近年のリバースジェネティクス系の開発,応用により,ロタウイルス研究は新たな展開をみせている.本稿では,ロタウイルス研究に関して最新の知見を交えて紹介したい.
  • 小林 剛
    2014 年 64 巻 2 号 p. 191-202
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     レオウイルス科オルソレオウイルス属は,非エンベロープ性の正20面体構造を示し,10本の2本鎖RNA(dsRNA)ゲノムを有する.オルソレオウイルスは細胞融合能の有無によりFusogenic reovirusグループとNonfusogenic reovirusグループに大別される.Fusogenic reovirusグループにはトリレオウイルス,ヒヒレオウイルス,コウモリレオウイルス,爬虫類レオウイルスなどが含まれ,Nonfusogenic reovirusグループには哺乳類オルソレオウイルス(MRV)が含まれる.MRVは,分節型dsRNAウイルスの複製機構,病原性研究のモデルウイルスとして研究されている.さらに,MRVは選択的に癌細胞を破壊することから,腫瘍溶解性ウイルスとして癌治療に対する臨床研究も進められている.本総説では,MRVのウイルス学的特徴を中心に最新の知見も含め,オルソレオウイルスについて概説する.
  • 松尾 栄子
    2014 年 64 巻 2 号 p. 203-212
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     レオウイルス科(family Reoviridae)に属するオルビウイルス(genus Orbivirus)は,節足動物を介して主に反芻動物やウマに感染し,重篤な感染症を引き起こす.また,ヒトへの感染も数例報告されている.近年,2本鎖RNA(dsRNA)ウイルスで,相次いで遺伝子操作法(reverse genetics, RGシステム)が開発され,ウイルスタンパク質やゲノムに挿入した特定の変異が,実際のウイルス複製サイクルにどのような影響を及ぼすかを直接精査できるようになった.オルビウイルスでは特に,ブルータングウイルス(BTV)において,分子レベルからの複製機構の解析が進んでいる.本稿では,BTVでの研究を中心に,RGシステムを用いて明らかになったオルビウイルスの複製機構と,オルビウイルスに特有の構造タンパク質VP6の機能について概説する.
  • 笹谷 孝英
    2014 年 64 巻 2 号 p. 213-224
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     レオウイルス科は2つの亜科に分かれ,15のウイルス属からできている非常に大きなウイルスのグループである.これらのうちファイトレオ属,オリザウイルス属およびフィジーウイルス属に含まれる14種のウイルスが植物に感染する.日本ではイネ萎縮ウイルスやイネ黒条萎縮ウイルスなど4種のウイルスの発生が報告されている.植物に感染するレオウイルスは,日本をはじめとする東南アジアのイネやトウモロコシなどのイネ科作物に突発的に大発生することがあり,東南アジアの食料の安定生産上の脅威となっている.ウイルスの粒子は二殻の正二十面体で,その直径は50~80nm,10から12 の分節された二本鎖のRNAを持つ.ウイルスは植物のみならずウンカやヨコバイなどの昆虫の細胞で増殖し,なかには親から子へと経卵伝染する種類もある.本稿では,研究が進んでいるイネ萎縮ウイルスの研究で得られた知見を中心に,植物に感染するレオウイルスの分類と起源,作物に及ぼす被害,ウイルスの基本構造と複製機構,昆虫および植物での細胞間移行について解説を行うとともに,遺伝子組換え技術を用いたウイルス防除に関する研究を紹介する.
  • 千葉 壮太郎, 鈴木 信弘
    2014 年 64 巻 2 号 p. 225-238
    発行日: 2014/12/25
    公開日: 2015/10/06
    ジャーナル フリー
     これまでに報告されている菌類ウイルス(マイコウイルス)の多くは2本鎖RNA (dsRNA)をゲノムに持つ.これは,菌類では回収が比較的容易なウイルス由来dsRNAを指標にして探索が行われてきたことと無関係ではないであろう.現在では,様々な菌類,特に植物病原菌類を対象にスクリーニングが行われ,宿主菌に対し病原性を有する或いは宿主菌の病原力を衰退させるマイコウイルスの分離・同定が盛んに行われている.この背景には,植物病原糸状菌による農作物の病害をマイコウイルスで制する,いわゆるヴァイロコントロール(ウイルスによる生物防除)を目指す研究の世界的流れがある.病原性の有無に拘らず多くのRNAウイルスが分離され,多様性に満ちた菌類のdsRNAウイルスの世界が明らかになりつつある.2014年現在, dsRNAマイコウイルスを包含するウイルス科は,国際ウイルス分類委員会で6科(Reoviridae, Totiviridae, Chrysoviridae, Partitiviridae, Megabirnaviridae, Quadriviridae)承認されている.加えて,未分類ウイルスのグループをすべて含めると,近い将来倍増する見通しである.本稿では,菌類から分離された多種多様なdsRNAウイルスを最近の知見を交えて概説する.
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