ウイルス
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66 巻 , 1 号
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総説
  • 今川 和彦, 中川 草, 草間 和哉
    2016 年 66 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
      生命の進化上,哺乳類の胎盤は比較的新規に獲得された器官である.本稿では,哺乳類が獲得した胎盤の形態や構成細胞に多くの違いがあることやその違いが今まで考えられていた哺乳動物種の一連の進化と異なることを示した.そして,生体や他の器官や細胞群とは異なり,胎盤を構成する胚トロホブラスト細胞では,内在性レトロウイルスやLTR型レトロトランスポゾンに由来する遺伝子の高い発現が見られる.特に,Peg10,Peg11,さらに胚トロホブラストの融合や胎盤の形態の違いに寄与したenv遺伝子に由来するSyncytinについて紹介する.最後に,同一種において同様の機能を発揮するレトロウイルスの内在化が複数回起こっていること,新しく内在化したレトロウイルスが転写因子など以前に使用されていた発現制御機構を取り入れている事実から,既存の遺伝子から新規の内在性レトロウイルスに由来する遺伝子への機能の譲渡(バトンパス)が起こっていることを紹介したい.
  • 金児 石野 知子, 石野 史敏
    2016 年 66 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     ヒトゲノムには,LTRレトロトランスポゾン由来の獲得遺伝子が30以上存在している.これらの多くは哺乳類(真獣類)特異的遺伝子として存在しており,哺乳類の進化との関係に興味が持たれている.筆者らは,sushi-ichiレトロトランスポゾン由来のSirh遺伝子群に関する網羅的なノックアウトマウス解析から,Sirh11/Zcchc16遺伝子が注意や衝動性など認知に関わる脳機能に関係すること報告した.胎盤機能に関係する複数のSirh遺伝子に加え,この発見は哺乳類における胎生の起源と進化だけではなく,大きく発達した脳機能の進化にも獲得遺伝子群が関与した可能性を示すものである.興味深いことに,この遺伝子は真獣類の幾つかの系統において大きな構造変化を起こした後,それらの系統内で種特異的な機能の多様化を起こしたと予想される.Sirh11/Zcchc16は個体発生には必須な遺伝子ではないが,恐竜の絶滅後に起きた哺乳類の大規模な適応放散のプロセスにおいて,脳機能の調節に関わることで生存の適応度の向上に寄与した可能性があるのではないかと考えている.
  • 宮沢 孝幸, 下出 紗弓, 中川 草
    2016 年 66 巻 1 号 p. 21-30
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     ネコ(Felis catus)の内在性レトロウイルスであるRD-114ウイルスは,1971年にヒト横紋筋肉腫細胞から発見されたガンマレトロウイルスである.RD-114ウイルスは,およそ数百万年前に地中海沿岸でヒヒ属の祖先動物の内在性レトロウイルスが,ネコ属の祖先動物に感染し内在化,その後,数百万年もの間,感染性の内在性レトロウイルスとして維持されてきたと考えられてきた.RD-114関連ウイルスのネコゲノムの座位を精査した結果,感染性のRD-114ウイルスをネコはもっておらず,感染性をもたない内在性レトロウイルス(RDRSと命名)の組換えによって感染性が復活したRD-114ウイルスが生じることがわかった.さらに,感染性が復活しうるタイプのRDRS(新しいRDRSと命名)は,ネコが家畜化されたおよそ1万年前以降にネコのゲノムに侵入したと考えられた.新しいRDRSの保有率は,欧米とアジアのネコの間で大きく異なり,染色体上の位置もネコの品種によって異なった.本研究によって,これまで不明であった家畜化後のイエネコの移動経路を明らかにするための指標として,RDRSが有用であることがわかった.
  • 松井 毅
    2016 年 66 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     陸上脊椎動物は,約3億6千万年前に両生類が気相環境に適応できるようになり陸上に進出したと考えられている.その際に,体表面においては,増殖細胞が散在する多層化した上皮構造から,増殖層が最下層にあり最上層で剥離していく重層扁平上皮構造を獲得した.その中で,最も体表面に存在し,気相環境に対するバリアを担っている層が,死細胞からなる角質層である.地球上に現存する両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類を含むすべての陸上脊椎動物が,この角質層バリアを持っている.
     哺乳類は,約2億2千万年前に出現したが,その際に,皮膚特異的遺伝子群がゲノム上に獲得され,柔らかく保湿された角質層が形成されたと考えられる.さらに,多数の内在性レトロウイルスも,哺乳類の発生時に,ゲノム上に多く取り込まれたと考えられる.中でも,Skin ASpartic Protease (SASPase)/ASPRV1 は哺乳類特異的に獲得されたレトロウイルス型プロテアーゼであり,アトピー性皮膚炎の疾患素因として知られる哺乳類皮膚特異的蛋白質プロフィラグリンを分解する.欠損マウスの解析から,SASPaseは哺乳類の角質層の特徴である「保湿」に関わることが明らかになっている.すなわち,哺乳類出現時に,レトロウイルス様配列のDomesticationによる外適応(Exaptation:イグザプテーション)が皮膚の適応進化の際に起きた例と考えられる.ゲノム中に多数存在している内在性レトロウイルスの中には,皮膚表皮の多彩な機能獲得に関わってきた可能性がある.
  • 本田 知之, 朝長 啓造
    2016 年 66 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     内在性ボルナウイルス様エレメント (Endogenous bornavirus-like element: EBL) は,過去のボルナウイルス感染により内在化したボルナウイルス由来配列である.EBL の発見以来,ボルナウイルスのみならず,様々なRNA ウイルス遺伝子の内在化が見つかってきている.一方で,それらの内在性RNA ウイルスエレメントの生理機能についての解析は緒についたばかりである.本稿では,その中で最も研究が進んでいるEBL の生理機能について,私たちの研究を中心に最新の知見を紹介する.EBL の生理機能解析からわかってきたことは,宿主細胞はRNA ウイルス遺伝子由来の配列を利用し,様々な機構でウイルス感染を制御している可能性である.その制御は,ウイルスの転写・複製過程および転写後のウイルスRNA 安定性の両方のレベルにおいて起きていると考えられる.また,EBL の解析により,今まで哺乳類ではその存在が想定されて来なかった低分子RNA 増幅システムの可能性が見えてきたので,合わせて紹介したい.
特集:エボラ出血熱との戦いの総括
  • 古宮 伸洋
    2016 年 66 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     西アフリカで甚大な被害をもたらしたエボラウイルス病(Ebola Virus Disease: EVD)流行は対策強化の成果として現在のところほぼ終息している.
     EVDに関する新たな知見が多く得られた一方で,不明な部分も多く残されている.エボラウイルスが患者体内に長期間存在し感染源になりうることが示されたがその機序は不明である.治療においては画期的な治療方法はなく,古典的な支持療法が基本となることに変わりはない.新しく開発されたワクチンは曝露後接種であっても高い有効性を示した.検査では迅速診断キットの開発が進められている.
     現地では「患者発生ゼロの継続」を目標として,患者発生時の早期探知及び対応,医療施設における基本的な感染対策の強化が進められている.落ち着いた状況になりつつあるが,エボラ生還者(Ebola survivor)が偏見や後遺症に悩まされている状況は続いている.
     流行によって医療,経済や教育に至るまで社会全体がダメージを受けており,流行再燃のリスクも依然として存在している.保健医療システムを包括的に強固にすることがEVDを含めた様々な感染症の流行への備えとして望まれる.
  • 渡辺 登喜子, 河岡 義裕
    2016 年 66 巻 1 号 p. 53-62
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     西アフリカで甚大な被害をもたらしたエボラウイルス病(Ebola Virus Disease: EVD)流行は対策強化の成果として現在のところほぼ終息している.
     EVDに関する新たな知見が多く得られた一方で,不明な部分も多く残されている.エボラウイルスが患者体内に長期間存在し感染源になりうることが示されたがその機序は不明である.治療においては画期的な治療方法はなく,古典的な支持療法が基本となることに変わりはない.新しく開発されたワクチンは曝露後接種であっても高い有効性を示した.検査では迅速診断キットの開発が進められている.
     現地では「患者発生ゼロの継続」を目標として,患者発生時の早期探知及び対応,医療施設における基本的な感染対策の強化が進められている.落ち着いた状況になりつつあるが,エボラ生還者(Ebola survivor)が偏見や後遺症に悩まされている状況は続いている.
     流行によって医療,経済や教育に至るまで社会全体がダメージを受けており,流行再燃のリスクも依然として存在している.保健医療システムを包括的に強固にすることがEVDを含めた様々な感染症の流行への備えとして望まれる.
  • 古山 若呼, 高田 礼人
    2016 年 66 巻 1 号 p. 63-72
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     エボラウイルスはフィロウイルス科に属し,ヒトを含む霊長動物に重篤な出血熱をひきおこす病原体として知られており,その致死率は90%におよぶ事もある.しかし,エボラウイルスに対して効果的なワクチンおよび抗ウイルス薬は実用化されていない.近年,過去に類を見ない大規模なエボラ出血熱の流行が西アフリカで発生し,未承認ながら幾つかのワクチンおよび治療薬が試された.この流行を契機に,エボラ出血熱の予防・治療・診断法の研究開発が加速し,実用化に向け臨床試験も盛んに進められている.本稿では,それらの研究開発の現状を紹介する.
トピックス
平成27年杉浦賞論文
  • 加藤 哲久
    2016 年 66 巻 1 号 p. 83-90
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus type-1;HSV-1)は,軽度で合併症を伴わない粘膜感染から致死的な感染により,広範囲のヒト病態を引き起こす.HSV-1 Us3遺伝子は,α-ヘルペスウイルスに広く保存されるセリン・スレオニンリン酸化酵素をコードしている.次々と蓄積される知見が,Us3はHSV-1感染の極めて重要な制御因子であることを示唆している.しかしながら,Us3が司るHSV-1病態発現能の分子メカニズムは不明なままであった.本稿では,特に生体レベルにおけるUs3の重要性に注目し,HSV-1 Us3の役割に関する現在の知見を概略する.
  • 佐藤 佳
    2016 年 66 巻 1 号 p. 91-100
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)は,エイズの原因ウイルスとして1983年に同定されて以来,現在に至るまで約7,000万人もの感染者を生み出したと推定されている.1990年代後半に抗レトロウイルス薬多剤併用療法が開発・導入されたことにより,日本を含む先進国において,エイズは“死の病”ではなくなった.また,分子生物学の発展により,HIV-1複製の分子メカニズムの詳細が明らかとなった.しかしながら,HIV-1感染症を根治する方法は未だ確立されていない.その一因として,HIV-1感染を支持・再現できる適切な動物モデルがないことが挙げられる.筆者らはこれまで,生体内におけるHIV-1感染病態のダイナミクスを再現することを目的として,“ヒト化マウス”という新たな動物モデルを作出することに成功した.また,このモデル動物を用い,生体内におけるHIV-1複製ダイナミクスにおけるウイルスタンパク質と宿主タンパク質の相克の詳細について解析を行ってきた.本稿では,現在の“ヒト化マウス”モデルに至るまでの歴史と筆者のこれまでの研究の経緯について概説すると共に,筆者らがこれまで“ヒト化マウス”モデルを用いて明らかにしてきた研究成果を紹介する.
  • 高橋 忠伸
    2016 年 66 巻 1 号 p. 101-116
    発行日: 2016/06/25
    公開日: 2017/05/09
    ジャーナル フリー
     インフルエンザA型ウイルスが結合する糖鎖分子として,シアル酸分子種の一つN-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が最も知られている.細胞表面上の糖鎖末端のNeu5Acは,インフルエンザA型ウイルスの感染を開始する受容体として機能する.一方,インフルエンザA型ウイルスの中には,Neu5Acだけでなく,シアル酸の主な分子種の一つN-グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)にも結合するものがある.さらに,3-O-硫酸化ガラクトシルセラミド(スルファチド)は構造中にシアル酸を含んでいないにもかかわらず,インフルエンザA型ウイルスが強く結合する糖鎖分子である.Neu5Gcやスルファチドはウイルスが結合することから,感染時のウイルス受容体と考えられてきた.ところが,これらの糖鎖分子は感染時のウイルス受容体としての機能は認められず,ヒト細胞上のNeu5Gcは感染を阻害する機能があること,スルファチドはウイルス産生を促進する機能があることが分かってきた.これらの糖鎖分子の機能は,感染予防や新しい抗ウイルス薬の開発に利用できるものと期待される.
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