ウイルス
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67 巻, 1 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
特集:麻疹ウイルス
  • 田原 舞乃, 竹田 誠
    2017 年 67 巻 1 号 p. 3-16
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
     麻疹ウイルスは非常に感染力と病原性が強く,小児死亡の主要な原因ウイルスであるが,有効なワクチンが存在する.多くの国でワクチン接種を徹底することによって排除が進んでいる.麻疹ウイルスHタンパク質がレセプターと結合することが感染現象の始まりである.麻疹ウイルスは免疫細胞に発現しているSignaling lymphocyte activation molecule (SLAM)と,上皮細胞の基底膜側に発現しているnectin-4の2種類の分子をレセプターとして用いる.麻疹の病態は,麻疹ウイルスがSLAMとnectin-4の両方のレセプターを使うことと強く関係している.Hタンパク質のレセプターへの結合が引き金となって,Fタンパク質による膜融合が起きる.このFタンパク質のトリガーにはHタンパク質のストーク部分が重要である.また,Hタンパク質のエピトープの詳細な解析の結果,レセプター結合部位など,構造的・機能的にアミノ酸変化を許容できない複数の領域がエピトープになっていることが分かった.このことが抗原性の変化が起こらないことのひとつの原因と考えられる.実際に,約60年前の株から作られたワクチンが,現在の流行株に対しても有効性が低下していないことが示されている.
  • 多屋 馨子
    2017 年 67 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
     2007年に10~20代を中心とする大規模な全国流行が発生した.麻疹に関する特定感染症予防指針を告示し,麻疹排除を目標に国を挙げた対策が開始された.2008年も引き続き1万人を超える大規模な全国流行となり,0~1歳の乳幼児と10~20代の若年成人が多数罹患した.多くは予防接種未接種,1回接種あるいは接種歴不明であった.2009年から患者数は激減し,日本の土着株と言われた遺伝子型D5の麻疹ウイルスは2010年5月を最後に検出されていない.海外からの輸入例を発端として,2011年と2014年には地域流行が認められたが,早期に終息した.2006年度から麻疹風疹混合(MR)ワクチンによる2回接種制度が始まっていたが,2008年度からの5年間で中学生と高校生に対する2回目のMRワクチンが定期接種化され10代への免疫強化がなされた結果,2歳以上のすべての年齢層で95%以上の抗体保有率が維持されている.2015年3月には,WHO西太平洋地域事務局から日本の麻疹排除が認定された.2017年はアジアあるいはヨーロッパからの輸入例を発端とした成人での集団発生が相次いだが,地域の保健所を中心とした積極的な対策により早期の終息宣言がなされている.麻疹排除認定後の年間患者報告数は200人未満である.
トピックス1:現代社会の環境とウイルス
  • 苅和 宏明
    2017 年 67 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
     ブニヤウイルス科のハンタウイルスはげっ歯類などの哺乳類を自然宿主とし,感染動物の排泄物を吸引することにより人が感染する.本稿ではハンタウイルス感染症の疫学ならびにげっ歯類とハンタウイルスの相互関係について概説する.ハンタウイルス感染症は腎症候性出血熱(HFRS)とハンタウイルス心肺症候群(HCPS)の二つの病型が知られている.HFRSは高熱,出血,および腎機能障害などを主徴とし,東アジア,ヨーロッパ,ロシアなどのユーラシア大陸で主に発生が見られる.一方,HCPSは急性の心肺機能障害を特徴とし,南北アメリカ大陸において発生が見られる.日本の近隣諸国では,ロシア,中国,韓国などでHFRSが多発しており,原因ウイルスが複数存在していることが明らかになっている.わが国では1985年以降ハンタウイルス感染症の発生はないものの,北海道に生息するエゾヤチネズミがウイルスを保有している.ハンタウイルスと宿主の間で,長年にわたる共進化が進行してきたものと考えられており,ハンタウイルス感染症の発生地域は病原性のあるハンタウイルスを保有した宿主の生息域と密接に関わっている.
  • 藤垣 裕子
    2017 年 67 巻 1 号 p. 33-34
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
トピックス2:新しく見つかってきた身近な植物ウイルス
平成28年杉浦賞論文
  • 岡本 徹
    2017 年 67 巻 1 号 p. 49-58
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)は,血液や血液製剤を介して感染後,高率に持続感染し,脂肪肝,肝硬変,肝細胞癌等の肝疾患を惹起するが,その発症機構は明らかにされていない.本稿では,HCVの増殖と病原性発現に関与するコア蛋白質のシグナルペプチドペプチダーゼによる切断のウイルス学的意義に関する知見を紹介する.
  • 川口 敦史
    2017 年 67 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
     インフルエンザウイルスゲノムはribonucleoprotein(RNP)複合体を形成し,その細胞内動態の制御には,ウイルスタンパク質だけでなく,宿主由来の因子(宿主因子)が必須である.我々は,試験管内再構成系を用いた生化学的な手法とプロテオミクス解析により,ウイルスRNP複合体の複製とその細胞内輸送を制御する宿主因子の同定を進めてきた.DNA複製のライセンシング因子であるMCM複合体によってウイルスゲノム複製は活性化され,複製されたウイルスゲノムはスプライシング因子であるUAP56がNPシャペロンとして機能することで子孫RNP複合体を形成する.複製されたウイルスRNP複合体は,宿主のRNA結合タンパク質であるYB-1と結合し,共に中心体へと集積する.YB-1による細胞周期非依存的な中心体の成熟化によって小胞輸送経路が活性化され,ウイルスRNP複合体はコレステロールが豊富なリサイクリングエンドソームを介して細胞膜まで輸送される.エンドソーム膜内のコレステロールは,細胞膜上で脂質ラフトのクラスタリングを誘導するのに関与し,ウイルスRNP複合体の細胞膜への輸送と協調したウイルス粒子形成場のトリガーとして機能すると推測される.
  • 橋口 隆生
    2017 年 67 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2017/06/25
    公開日: 2018/03/29
    ジャーナル フリー
     麻疹(はしか)を起こす麻疹ウイルスと流行性耳下腺炎(ムンプス・おたふくかぜ)を起こすムンプスウイルス,出血熱を起こす場合があるエボラ・マールブルグウイルスは,いずれもマイナス鎖一本鎖のRNAをゲノムとするエンベロープウイルス(モノネガウイルス)である.これらのウイルスがどの様なメカニズムで細胞へ侵入し,また,抗体により中和されるかは未解明なことが多い.我々は,ウイルス学的手法と構造生物学的手法を組み合わせることにより,その全容を解明すべく取り組んでいる.本稿では,上記ウイルスの糖蛋白質と受容体または抗体との相互作用を介した細胞侵入と中和に関する現在の知見を我々の研究成果を中心に概説する.
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