ウイルス
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62 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総説
  • 大島 一里
    2012 年 62 巻 2 号 p. 151-160
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     ポティウイルスは植物RNAウイルスの中で,最も大きな科であるポティウイルス科に属し,その科の中でも最も大きな属を形成する.ポティウイルスは双子葉植物だけでなく単子葉植物に感染する.ポティウイルスの時間的な解析を行うと,この属のウイルスは南西ユーラシアや北アフリカ地方において,約7250年前に単子葉植物から突発的に発生した様に推測できる.ポティウイルスの一種であるカブモザイクウイルス(Turnip mosaic virus, TuMV)は主に双子葉植物であるアブラナ科の農作物に大きな被害を与えており,植物ウイルスの中でも分子進化的研究と集団遺伝構造の研究が最も進んだウイルスの一つである.TuMVとポティウイルスの進化さらにそれらの集団遺伝構造について,我々が解析に利用しているコンピューターソフトウエアーも紹介しながら解説する.
  • 山本 拓也
    2012 年 62 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     ウイルス感染防御において,抗体は主要な役割を果たす.しかしながらHIV感染者では様々なB細胞性免疫異常が報告されている8).CD4T細胞によるB細胞へのヘルプはB細胞免疫において非常に重要な役割をなしていることは明らかであるが,HIV感染ではCD4T細胞の枯渇,機能異常が生じるため,これらCD4T細胞によるB細胞へのヘルプが正常でないことは容易に想像される.
     Follicular helper CD4 T細胞(TFH細胞)は第2リンパ組織に局在するCD4T 細胞集団であり,B細胞の胚中心(Germinal Center; GC)形成,体細胞超変異 (somatic hypermutation; SHM) ,メモリーB細胞産生,維持に中心的な役割をなしていると考えられており,近年ウイルス感染においてそれら細胞の役割に関して 注目が集まっている9, 1).そこで本稿では,我々のグループで得られた最新の知見を中心に,TFH細胞とHIV/SIV感染の関連,それに基づくワクチン開発の可能性について紹介する.
  • 深澤 嘉伯
    2012 年 62 巻 2 号 p. 167-174
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     サル免疫不全ウイルス(SIV)を用いたサルエイズモデルにおいて,弱毒SIV生ワクチンは,他のワクチンよりも強毒SIV攻撃接種に対し高い防御効果を示すが,その防御機序はいまだ解明されていない.筆者らによる最近の弱毒SIV生ワクチン免疫相関研究において,その防御効果は,抹消血,粘膜組織のSIV特異的T細胞免疫反応および血漿中抗体価とは相関しなかったが,リンパ節のSIV特異的CD4+およびCD8+T細胞免疫反応とは相関が認められた.この防御効果を示したサル個体群では,弱毒生ワクチン株がリンパ節濾胞性CD4+T細胞において持続感染することにより,高頻度のエフェクターメモリーT細胞免疫反応が誘導・維持されていた.よって,弱毒SIV生ワクチンによる防御免疫は,2次リンパ組織における持続的な抗原産生により誘導されるエフェクターメモリーT細胞免疫反応によるものと考えられる.本稿では,この最新の知見から弱毒SIV生ワクチンによる防御免疫誘導のメカニズムを解説し,有効なエイズワクチンに重要な免疫反応について言及したい.
特集:Negative Strand RNA Virusのウイルス学
  • 關 文緒, 竹田 誠
    2012 年 62 巻 2 号 p. 175-182
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     パラミクソウイルス科モルビリウイルス属は,医学,獣医学的に重要なウイルスを多く含む.モルビリウイルスは限られた宿主に感染し,しかも血清型が単一であるため,ワクチン接種やサーベイランスで,流行を効果的に制御できる.2011年には牛疫ウイルスが根絶され,また麻疹ウイルスの排除が世界的に進められている.近年,新たなウイルスレセプターNectin4が同定された.免疫系細胞に発現するSLAMと上皮系細胞に発現するNectin4,二つのレセプターがウイルスの感染性と病原性に重要であることが報告されている.
  • 西園 晃, 山田 健太郎
    2012 年 62 巻 2 号 p. 183-196
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     ラブドウイルス科のウイルス粒子形態は特徴的な砲弾型もしくは桿菌型を呈し,そのゲノムは非分節一本鎖マイナス鎖のRNAで,その全長は約11~16 kbである.ラブドウイルスはRNAウイルスの中でもその種類および多様性に富むウイルスで,哺乳類から植物に至るまで実に幅広い宿主から分離されている.ラブドウイルスのゲノムには共通して3’端より順番に5つの構造蛋白質遺伝子(N,P,M,GおよびL蛋白質遺伝子)がコードされており,加えてウイルス種によってはアクセサリー遺伝子が認められる.ラブドウイルス科のウイルスに関するウイルス学的知見のほとんどは,この科を代表する2つのウイルス,vesicular stomatitis virus(VSV : 水泡口炎ウイルス)とrabies virus (RABV : 狂犬病ウイルス)に関する研究から得られたものである.なかでもRABVを含むリッサウイルス属のウイルスは,病獣動物からの咬傷を介して哺乳動物や翼手目類に致死的脳炎である狂犬病を発症させる原因ウイルスである.この総説では,これら2つのウイルスに関する最新知見を含めたウイルス学的特徴について述べる.
  • 高田 礼人
    2012 年 62 巻 2 号 p. 197-208
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     フィロウイルス(エボラウイルスおよびマールブルグウイルス)はヒトを含む霊長類に重篤な出血熱をひきおこす病原体として知られている.ワクチンおよび抗ウイルス薬は実用化されていない.近年,ウイルス増殖過程におけるフィロウイルス蛋白質の様々な機能およびウイルス蛋白質と宿主因子との相互作用が明らかになってきた.また,霊長類以外の動物のフィロウイルス感染およびヨーロッパにおける新種のフィロウイルス発見などの報告により,フィロウイルスの宿主域・生態に関する研究も新たな展開をみせている.本稿では,フィロウイルスに関する基礎的な知見と最近の話題を紹介する.
  • 朝長 啓造
    2012 年 62 巻 2 号 p. 209-218
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     モノネガウイルス目に属するボルナウイルス科ボルナウイルス属には,哺乳類に感染するボルナ病ウイルスと鳥類に感染する鳥ボルナウイルスが同定されている.ボルナウイルスは神経系組織に好んで感染することが知られており,自然感染した動物ではさまざまな神経疾患を発症することが明らかとなっている.ボルナ病ウイルスはウマやヒツジの伝染性脳脊髄炎(ボルナ病)の原因であり,中枢神経系への持続感染が特徴である.一方,鳥ボルナウイルスは腺胃拡張症と呼ばれる難治性の消耗性疾患を引き起こす.これまで,ボルナウイルスは遺伝的に良く保存されていると考えられていたが,鳥ボルナウイルスには少なくとも9つの遺伝子型が存在することが報告され,ボルナウイルス属の多様性が明らかになってきている.ボルナウイルスは,細胞核での持続感染や宿主ゲノムへの内在化など,他のRNAウイルスではみられない多くの特徴を有している.本稿では,ボルナウイルスによる疾患に加えて,これまでの研究で明らかとなったユニークなウイルス学的性状について紹介する.
  • 野田 岳志
    2012 年 62 巻 2 号 p. 219-228
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     オルソミクソウイルス科のウイルスは,分節化したマイナス極性一本鎖RNAをゲノムとして持つ.その中で,我々の公衆衛生に最も重要なウイルスは,インフルエンザウイルスである.本稿では,インフルエンザウイルスの一般性状を中心に,オルソミクソウイルスについて概説する.
  • 谷 英樹, 福士 秀悦, 吉河 智城, 西條 政幸, 森川 茂
    2012 年 62 巻 2 号 p. 229-238
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     アレナウイルスはアレナウイルス科に属するウイルスの総称で,細胞内で増殖し,ウイルス粒子内に宿主細胞のリボゾームが取り込まれ,これが砂状に見えるのでラテン語の砂粒(arenosus) にちなんで命名された.感染症法において1類感染症に指定されているラッサ熱を引き起こすラッサウイルス,南米出血熱の原因ウイルスとしてフニンウイルス,グアナリトウイルス,サビアウイルス,マチュポウイルス,チャパレウイルスなどが,ヒトに強病原性のアレナウイルスとして知られている.いずれも一種病原体に指定されている.また最近では,2008年にアフリカ南部地域で小規模なウイルス性出血熱が流行し,新規のアレナウイルス(ルジョウイルス)が同定された.日本では1987年のラッサ熱患者の1症例を除きアレナウイルスによる出血熱患者の発生はないが,他のウイルス性出血熱と同様に,いつ我が国で輸入症例が発生してもおかしくない状況であることから,病状や致死率を考えると診断や治療を行えるように整備しておく必要がある.本稿では,アレナウイルス感染症について,基礎研究から診断方法,ワクチン開発までを広く概説する.
  • 吉松 組子, 有川 二郎
    2012 年 62 巻 2 号 p. 239-250
    発行日: 2012/12/25
    公開日: 2013/10/22
    ジャーナル フリー
     ブニヤウイルスは,ブニヤウイルス科オルソブニヤウイルス属,ハンタウイルス属,ナイロウイルス属,フレボウイルス属およびトスポウイルス属に分類されるウイルスの総称である.植物に病原性を有するトスポウイルス属以外は,脊椎動物に感染し,人や動物に重篤な疾患を引き起こす.いずれも,医学・獣医学・農学領域で重要な疾病であり,その多くが人獣共通感染症である(図1).ハンタウイルス属以外は,節足動物をベクターとするアルボウイルスであるが,自然界における感染環には属間で相違がある.近年,ハンタウイルスの自然宿主としてげっ歯目以外にトガリネズミ目の動物が重要な役割を担っていることが明らかになった.また,フレボウイルス属のウイルスを原因とし,血小板減少と発熱を特徴とする重篤な疾患が中国で新たに出現し1,2),その後,米国でも存在が確認され新興感染症として注目されている.
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