-
三浦半島南部の谷底低地の微地形分析からの考察
金 幸隆, 萬年 一剛, 熊木 洋太, 松島 義章
セッションID: 314
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
三浦半島南端の毘沙門湾付近は,1923 年と1703 年の関東地震の時にそれぞれ約1.2m隆起し,地震間では約 3.7 mm/年の速度で沈降している.最近,半島南西部の小網代湾の堆積物調査から1703年の一つ前の地震の履歴が1060年~1400年の間と推定した[Shimazaki et al., 2011].本研究は,三番目の関東地震の発生履歴について,さらに詳細な情報を提示し,その上で地殻変動の蓄積と地震の発生間隔との関係について考察する. 毘沙門湾に注ぐ4つの谷のうち東側の谷底では,高さ1~2mの低崖で画された海成段丘が5段認められ,間欠的に発生する関東地震に対応する可能性が指摘されている[地理院,1981].最低位の段丘面は標高+2.1mに分布し,海岸沿いに西側の谷まで発達している.本研究は,この最低位の段丘面をさらに細分して形成過程を検討する.
抄録全体を表示
-
阿子島 功
セッションID: 315
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. 目 的 洪水ハザードマップをはじめ各種の防災図が全国的に整備されつつある。1地区あたり数十年に1回といった洪水被害例について既存の防災図の検証が行われる機会は多くないが、その作成にかかわる者は、防災図の分類基準や限界を検証し、補足すべき点を認識することが責務になる。
2. 2014年7月梅雨前線による山形県南陽市の被害 2014年7月梅雨前線性大雨は山形県南部(上山市中山)では7.09-10の24時間雨量185mm、最大1時間雨量54.5mmであり、最上川支川の吉野川沿いの南陽市では浸水約1200戸と推定された。周辺丘陵地ではいくつかの斜面崩壊と土石流が、上流では渓岸浸食が多く発生した。2013.7梅雨前線による大雨被害より大きく、今回の雨量はその約1.5倍であった。浸水範囲と深さを概査し、既存の3種の防災図の検証を試みた。
3.洪水被害地域の地形の特徴と土地履歴 吉野川(延長約30km)と織幡川(同約10km)の下流部であり、米沢盆地北縁に半径6km程度の複合扇状地のような平面形で、勾配8/1000程度の氾濫原面が広がっている。数条の旧河道がみえるが今回の溢流箇所ではない(ひとつは天正年間)。大正前期の1:50,000地形図では、市街地は宮内と赤湯のみであり、吉野川下流(約6km)の上半は無堤で水田が広い。下半(赤湯旧市街沿い)は
天井川の性格を帯び、最下流外側には広い後背湿地(大谷地。中心に白竜湖)がある。昭和後期に宅地・業務地が宮内と赤湯の間の水田地帯に、さらには大谷地低地の縁まで進出した。今回の氾濫範囲はこれらの部分である。氾濫箇所は3つの低い橋付近からの堤防越流で、最大水深は1m未満であるが市街地の広範にわたり床上・床下浸水、泥が堆積した。
4.洪水ハザードマップの洪水被害予想評価 ・2008年公表の洪水ハザードマップ(縮尺1:14,000)の氾濫想定条件は50年に1回程度の時間雨量32.5mm、連続総雨量89mmであり、今回より小さ目であった。洪水ハザードマップは箇所を問わずすべての堤防が破堤した場合の最大の浸水範囲と深さを述べている。実際の
浸水範囲と深さ想定はおおよそ妥当であった。ただし、吉野川の氾濫のみを想定していたため、大谷地低地(無住、農業被害あり。集水域は低い丘陵)の内水湛水は想定外だった。
・強雨と急な出水が深夜であり、早目の避難勧告とはならず、“にげどきマップ”とならなかった。 ・1次避難所も浸水範囲にあり、冠水した道路を横切っての移動も困難だった例が報道された。実感ある浸水深想定は複雑な地盤高の市街地では難しく、町内会レベルの対応が必要。
5.治水地形分類図1:25,000(未改訂版)
の洪水被害予想評価 微地形分類に加えて2.5m間隔等高線が相対的に浸水深さと氾濫流下方向を示唆していたが、一般向けには翻訳が必要である。河川構築物の整備の記録になる。
6.
国土調査1:50,000地形分類図(1983)
の洪水被害予想評価 微地形の定性的区分は、洪水ハザードマップの予想浸水深(地盤高)によって検定された。橋による溢流地点が自然堤防の切れ目である可能性、最下流部では自然堤防上の低い堤防によって溢流が小規模で済んだことを説明する。
7.大雨による斜面災害の予想評価 ・国土調査地形分類1:50,000「赤湯・上山」は山形県方式として凹型斜面を付加記号で示していた。地すべり斜面の多い県内では例外的なごく浅い谷型斜面を図示していたが、いくつかで線状の斜面崩壊が生じた。
・市西部の土砂災害ハザードマップ2葉(2012)は具体的な避難経路も図示した優れた防災図であるが未評価。
8. 洪水ハザードマップの説明に際して ・大縮尺であるが、市街地では表現内容に限界がある。住民自らつくる具体的な地図でなければ役立たない。そのときこの図の限界を正しく説明する必要がある。
・洪水ハザードップの説明付図に過去の災害の写真は採用されるが、旧版地形図や地形分類図が採用された例を知らない。地形分類図の低地の表現は過去(数)千~数百年間の形成史が複合された結果を述べているため、ここ百~数十年間の予想を(人工構築物の効果を含めて)直裁に述べる洪水ハザードマップの説明には採用されない。 ・本来の土地条件を説明するのに旧版地形図は造成前の土地の状態(無堤、無住、水部・・)を表現しているため、住民にもわかりやすい材料である。国土調査土地分類“土地履歴調査”は、中縮尺という制約はあるが、町内会レベルの避難地図づくりの際に利用されることが望まれる。 ・防災図類は、一般に印刷基図の等高線が薄く、土地の起伏を表現していないものが多い(気象庁2012.4防災啓発ビデオ“津波からにげる”も同様)。土地の起伏を意識して表現されることが望ましい。
抄録全体を表示
-
楮原 京子, 岡田 真介, 松多 信尚, 戸田 茂, 副田 宣男, 今泉 俊文
セッションID: 316
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. はじめに 佐賀平野と背振山地との境界には,活断層が存在することが知られている(九州活構造研究会編,1989など). 2013年地震調査研究 推進本部の活断層の地域評価(九州)では,重力異常の特徴も踏まえ,佐賀平野北縁の活断層(佐賀平野北縁断層帯)が,小城市から吉野ヶ里町までの東西約 22kmにわたる正断層帯であると評価した.しかし,その詳細な分布や断層面の形状,活動性など,明らかにされていない点が多く残されている.筆者らは,佐賀平野北縁の活断層の性状を明らかにすることを目的に,詳細な地形判読と地質調査を実施した.本報告では,特に断層変位が疑われる地形を対象に,それらを横断する極浅層反射法地震探査を行った結果について紹介する.2.極浅層反射法地震探査の仕様極浅層反射法地震探査は,東北大学を中心とする研究グループが三本松川右岸(神埼B測線),田手川右岸(吉野ヶ里測線)において実施した.測線は,それぞれ1000 mと200 mとした.震源は掛け矢による打突とし,受振器にはランドストリーマーを用いた(神埼A測線(城原川右岸)は土木研究所によって実施された).P波探査は発振点間隔2 m,受振点間隔1mとした.S波探査は発振点間隔1 m,受振点間隔0.5 mとした. 収録はDAS-1 (OYO)を用いて記録長1secとした.この仕様により,深度100 m程度までの地下構造を高分解能で捉えることができる.これらの探査は,土木研究所の協力を得て行った.3.結果(変位地形と地下構造) 城原川から田手川にかけては広い沖積面が広がり,一部にはこれらの地形面の勾配がわずかに変化する箇所がみられる.吉野ヶ里遺跡がのる台地の西側の2カ所で行われたボーリング資料(佐賀県,1988)によると,両地点とも中地表直下に阿蘇4火砕流堆積物(厚さ5m以上)が確認され,その基底に約5m,基盤の花崗岩に60m程度の落差(南落ち)が生じている. 吉野ヶ里測線の反射法地震探査断面には,地表直下数メートル~10mに明瞭な反射面が認められた.この反射面は,阿蘇4火砕流堆積物上面とみられ,明瞭な2条の高角度(北傾斜)の断層によって,この地層以下の地層が変形していることが確かめられた.前述のボーリングデータは,南側低下の断層変位が推定されることから,この反射断面は正断層上盤の変形を表していると考えられる.すなわちこの測線における主断層(正断層)は,測線よりやや北側にあり,この主断層に随伴して逆向きの副断層(北側低下)をあわせて,凹地状の変位地形が生じたものと解釈される.しかし,主断層の位置は,神埼B測線の解析を含めて検討する.
抄録全体を表示
-
中埜 貴元, 小荒井 衛, 須貝 俊彦
セッションID: 317
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
茨城県下妻市の鬼怒川旧河道では,2011年東北地方太平洋沖地震に伴い液状化が発生したが,その分布は旧河道内でも偏っていた.その要因のひとつとして,旧河床地形(すなわち旧河道を埋める堆積層の厚さ)が影響していると考え,地中レーダ(GPR)を用いて旧河道内の浅部地下構造を調査した.その結果,複数の測線で旧河床面を捉えることができ,一部の測線では攻撃斜面側の方が,旧河床深度が深いと推定された.
抄録全体を表示
-
津波浸水想定データによる浸水地域人口の推定
橋本 雄一
セッションID: 318
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
本研究は北海道が作成した津波浸水想定データを用いて浸水地域人口の推定を行い,北海道沿岸部における津波災害リスクについて考察した。その結果,北海道沿岸部の津波浸水想定地域では夜間人口も昼間人口も減少していた。しかし,太平洋沿岸の都市内部には,いまだ多くの人口が分布しており,局所的な津波災害リスクは高まっていた。
抄録全体を表示
-
-積雪寒冷地における港湾都市の津波災害に関する地理学的研究-
川村 壮, 橋本 雄一
セッションID: 319
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
本研究では,積雪寒冷地の港湾都市における津波発生時の災害リスクと都市構造との関係を明らかにするため,北海道苫小牧市と北海道小樽市を事例に分析を行った.結果,苫小牧市では港湾機能の集積により災害リスクが高い状態にあるが,避難所の設置により避難困難人口の低減が図られている一方,小樽市では災害リスクは比較的小さいものの避難ビルの配置が十分ではなかった.このことから,沿岸都市開発による都市構造変容が津波災害リスクに影響を与えていることが明らかとなった.
抄録全体を表示
-
釧路市保育施設の津波集団避難に関する分析
最上 龍之介, 橋本 雄一
セッションID: 320
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
本研究は認可保育園(以下、保育園)を対象に乳幼児の津波集団避難行動における課題を明らかにすることが目的である。分析の結果、明らかになった点は以下の通りである。(1)避難先の変更に伴い避難先階数は上昇したが、避難施設機能の低い場所への避難が増え、冬季には二次災害が懸念される。(2)避難先選定は保育園の周辺環境が工業地・住宅地である場合、困難となる。(3)介助者が少ない散歩・登園時・降園時は避難が困難となる可能性がある。以上により、都心部の保育園よりも周辺部の保育園の方が津波災害リスクは大きい事、また都心部・周辺部ともに冬季積雪期には災害リスクが高まる傾向にある事が分かった。
抄録全体を表示
-
平野 勇二郎, 一ノ瀬 俊明
セッションID: 401
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
都市気候の予測精度を向上するために、地表面熱収支やその支配要因となる地表面の物理特性を的確に把握する必要がある。これまでの気象モデル等を用いたシミュレーションでは、地表面の物理特性を土地利用データ等を用いて設定することが一般的に行われてきたが、土地利用と地表面被覆の不一致が誤差要因であった。そこで本研究では、衛星リモートセンシングデータを用いて都市域の地表面熱収支の解析を行い、地表面の熱慣性や蒸発効率などの熱収支に関する各種パラメータを取得し、顕熱・潜熱フラックスを算出した。とくに、衛星観測された地表面温度と一次元熱収支・熱伝導モデルを用いて、経験式ではなく物理的な計算により各パラメータを算出した点に本研究の特徴がある。得られたパラメータを地上観測等に基づく文献値等と比較し、計算結果の妥当性を確認した。
抄録全体を表示
-
ICHINOSE Toshiaki, LIN Ye
セッションID: 402
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
Solar radiation heats the wall and surface of canopy, generates a strong buoyancy flow, and by the long-wave radiation emitted from urban surface, air can be heated and also generate buoyancy. The impact of this buoyancy is more obvious at the condition of lower wind velocity. Since the flow pattern mainly depends on the wind velocity at the roof-top level, the exposure of the heating wall, and the canyon aspect ratio H/W, we conducted experiments on the mutual influence between wind velocity and surface temperature of asphalt heated by four halogen lamps which were used to present as solar radiation in wind tunnel (MRI, Tsukuba), and simulated the same condition to see the flow field distribution. Wind velocity above rooftop and surface temperature of the roof was measured. When wind is 1 m/s, the difference of velocity between heating and no heating condition can hardly be observed. The wind flows through the roof before getting influenced by the buoyancy flow generated by the heating roof. When wind is 0.5 m/s, velocity at heating condition is generally higher than that of no heating. A vortex was formed near the windward edge. From the results of calculation (CFD), we can see that the energy maintaining the vortex is from turbulent effect at the windward edge and momentum transport. This experiment is the first challenge to use artificial light (adjusted as same level of short wave radiation at the roof top) as radiation and real building materials in wind tunnel.
抄録全体を表示
-
日下 博幸, 小松 美智, 酒井 敏, 中村 美紀
セッションID: 403
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1.はじめに
ヒートアイランドの観測手法は移動観測と定点観測に大別される.最近では,安価で小型のロガー付き温度センサーの普及,小・中学校にある百葉箱の利用,小型で軽量な放射よけシェルターの開発,持ち運びが可能な自動気象観測システム(AWS)の普及により,定点観測手法も徐々に増えつつある.しかしながら,これまでの移動観測の実施数に比べればまだまだ少ない.とりわけ,中規模都市で観測した例は大都市に比べるとずっと少ない.中規模都市内のオープンスペースでの空間詳細な気温の定点観測は,ヒートアイランド研究だけでなく,地球温暖化も含めた気候変動研究一般にも重要である.よく知られているように,都市域における過去の気温上昇量は,主として大規模場の気候変動とヒートアイランドによってもたらされてきた.日本の気象庁は,都市化の影響が小さいとみなせる観測所で測定された気温データを用いて,地球温暖化による気温上昇量を算出している.ただし,これらの中には,中規模都市も含まれている.
本研究では,中規模都市であるつくば市を対象として,空間詳細な観測ネットワークにより,ヒートアイランドの実態を調査する.さらには,都市内の気温の非一様性の影響を評価する.
2.観測方法
2010年1月と8月に,つくば駅を中心に東西約10km、南北約13kmの地域内の道路32地点と公園7地点において,地上2.5mの気温観測を実施した.また,これとは別に、つくば市中心部の道路と郊外の道路の計3カ所で2010年2月1日から2011年1月31日まで気温観測を実施した.観測では,酒井ほか(2009)によって開発された自然通風式の放射シェルターにサーミスタ温度計を組み込んで行った.測定間隔を1秒に設定し,その2分平均値をデータロガーに記録した.
3.解析方法
つくば市の地上気温分布の実態把握のために,観測より得られた1月と8月の気温データから水平分布図を作成する.次に,ヒートアイランド強度(UHII)を算出する.本研究では観測地点を中心部と郊外の2つに分類し,それぞれについて,解析期間ごとにUHIIを求めた.気温分布図,UHIIとも,10分と1時間平均値を算出した.本稿では10分平均値の結果を紹介する.
4.結果
2010年1月と8月の観測結果から,以下のことがわかった.
(1)つくば市は,つくばセンター(つくば駅)を中心に最高温域となっている.高温域はつくばセンターから南に広がっている.この特徴は季節によらず同じであった.(2) UHIIの日変化を見ると,1月は夜間ほぼ一定であるのに対して,8月は早朝に大きくなることがわかった.(3)UHIIの2010年1月平均値は,最大となる2地点間で1.6℃,中心部と郊外の道路間のUHIIで1.1℃,公園間のUHIIで1.0℃であった.2010年1月のUHIIは最大で2.0℃であった.地点の取り方によっては,負のUHIIとなる組み合わせもあった.(4)UHIIの2010年8月平均値は,最大となる2地点間で0.7℃,道路間UHIIで0.4℃,公園間UHIIで0.5℃であった.2010年8月のUHIIは最大で1.4℃であった.地点の取り方によっては,負のUHIIとなる組み合わせもあった.(5)道路間のUHIIの年平均値は0.8℃で,中心部の道路沿いと公園内の気温差の年平均値は0.3℃であった.UHIIは都市内の気温の非一様性よりも2倍以上大きかった.
以上の結果は,UHIIは観測点の取り方に大きく依存し,その不確実性は1℃程度に達することが確かめられた.
謝辞
本研究は,文部科学省「気候変動適応推進プログラム(RECCA)」 および日本学術振興会の科学研究費補助金(若手研究(B)20700667)の支援により実施された.
抄録全体を表示
-
池田 亮作, 日下 博幸
セッションID: 404
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
都市の気温は, 都市化の影響を大きく受けていると考えられており, 都市の暑熱環境の悪化は, 熱中症など都市住民の健康にも影響を与えうると不安視されている. そこで, 街区の風通し, ドライミスト・街路樹の設置などの暑熱環境緩和策への関心が高まっている. これらの効果を, 数値モデルを用いて評価するためには, 街区スケール(10
2~10
3m)から建物周辺スケール(10
1m)の現象を計算できるモデルが必要となる.そのためには, 建物を解像し, 街路樹の効果もモデルに反映させる必要がある.本研究では, 街区・建物周辺スケールのシミュレーションが可能なモデルの開発を行い, 現実都市における熱環境シミュレーションを行った.
抄録全体を表示
-
中島 虹
セッションID: 405
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
関東平野南部における1990年から2011年の7,8月に2日間連続して海風が発達した海風日を抽出し,大気汚染物質濃度の時間変化を解析した.海風日2日目の浮遊粒子状物質 (SPM) 濃度は1日目と比較して上昇する傾向が示された.それに対してオキシダント (Ox) 濃度は海風日1日目と2日目での濃度差は小さく,海風日が連続する期間においてSPMとOxでは1日目と2日目の濃度の時間変化が異なることが示された.
抄録全体を表示
-
澤田 康徳
セッションID: 406
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
目的 強雨発現の地域性は,降水量極値では時間スケールが短いほど地域性が不明瞭になることが指摘されている(二宮 1977,藤部 2014)。一方で,夏期の関東地方は夕立など短時間の強雨が多発し(岩崎ほか 1999),降水域の挙動の地域性が認められている(澤田・高橋 2002,中西・原 2003など)。しかしながら,これらは降水強度の強化事例について解析したものが多く降水の時間スケールを踏まえた降水発現の詳細な地域性は明らかではない。資料の時間スケールに基づいた降水量階級別の頻度など降水特性の差異は,降水域の挙動などと関連して地域性が認められることが想定される。本研究では夏期の関東地方における毎時および日降水資料による総降水量に対する降水量の階級別発現頻度の地域性を明らかにする。
資料 降水資料は,1980~2013年の夏期7,8月(2046日)における毎時のアメダス(104地点)で,欠測が1%未満の地点を対象とした。なお,2007年まではアメダスの降水量観測値の最小単位が1.0mmで,2008年以降は0.5mmである。そこで,2008年以降の0.5mm単位の降水量をそれ以前(~2007年)の資料に合わせることとした。
結果 時間および日降水量資料について総降水量に対する各降水量階級の累積寄与率をそれぞれ算出し,それに対しクラスター解析(ウォード法)を施した。地域性を捉える際,複雑にならない程度に類型化をする必要があることを考慮しつつ,クラスター間の距離の指標が不連続となる2から3個目の箇所で両者とも結合を中断した。時間降水量では20mm/h,日降水量では100mm/d程度でクラスター間の累積寄与率の差が拡大している(図1)。すなわち,時間および日降水量ともに夏期の総降水量に対して下位の降水量階級の寄与が大きい地点および上位の降水量階級の寄与が大きい地点,その漸移的な地点が存在する。類型化された地点の分布は地域的にまとまっており,時間降水量(日降水量)は,上位の降水量階級の寄与率が大きい地域は,北部山麓域,東京を含む南関東に点在(北部山地,秩父山地,南関東沿岸に点在)している。一方,下位の降水量階級の寄与率が大きい地域は,平野~沿岸域に分布(北関東を中心に分布)している(図2)。すなわち,北部山地や関東山地および相模灘沿岸では日降水量で,北部山麓域~南関東では時間降水量で大きい降水量階級の寄与が明瞭である。これは,短時間の強雨の発現およびその持続性を反映していると考えられる。そこで,時間降水量で大きい降水量階級の寄与が明瞭な地点を対象に,まとまった降水量として100mm/dの事例について時間降水量の内訳を把握すると,南関東で短時間強雨の寄与が大きい地点(世田谷,練馬)は,小さい降水量階級と極端に上位の降水量階級の寄与率が大きい。北関東(伊勢崎,上里見,桐生)では比較的大きい降水量階級が,関東中部(久喜,熊谷,鴻巣)では小さい降水量階級が日強雨に寄与しており,降水の突発性や継続など地域により強雨の現れ方が異なると考えられる。
抄録全体を表示
-
高根 雄也, 日下 博幸, 近藤 裕昭, 岡田 牧, 阿部 紫織, 高木 美彩, 宮本 賢二, 冨士 友紀乃, 永井 徹
セッションID: 407
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
岐阜県多治見市は,夏季の高温が著しい地域の一つである.過去の調査・研究等により,多治見の高温の仮説として,様々なスケールに渡る以下の7つが示唆されている.すなわち,(1)特定の気圧配置,(2)北西/西側の山からの気流,(3)名古屋都市域からの熱の輸送,(4)盆地効果:多治見市周辺の盆地と山越え気流に伴う小規模なフェーン,弱風時の谷風循環による盆地内の昇温効果,盆地内の空気の滞留による熱交換の抑制,(5)多治見市のヒートアイランド,(6)土壌の乾燥化,(7)多治見アメダス周辺の熱環境の問題である.本研究では,上記7つの仮説について,過去23年間の気象観測データおよび,独自に3年間実施した気象観測により得られたデータを用いて,様々なスケールの視点に立ち,気候学的に検証する.
抄録全体を表示
-
花井 嘉夫, 榊原 保志
セッションID: 408
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
晴天日における長野県下の局地気圧系について、局地高気圧・低気圧の構造、発達や消滅の経過を詳しく調べるため、高精度の気圧計を車載し長野ICから中津川IC間の高速道路上を移動しながら気圧測定を実施した。その結果、局地気圧系に数十km範囲の細部構造が認められた。気圧移動観測により局地気圧系の細部を明らかにすることができると期待される。
抄録全体を表示
-
田中 博春, 浜田 崇, 陸 斉, 中村 勤
セッションID: 409
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
I. 気候変動適応策 現在の気候変動対策の多くは、温室効果ガスの排出抑制を進める気候変動「緩和策」である。しかし、近年の研究の進展に伴い、温室効果ガスの削減努力を最大限行っても、今後数十年~百年間の気温上昇は避けらないことが判明してきた。このため、緩和策とは異なるアプローチの気候変動対策として、気候変動「適応策」の必要性が増している。これは、変動する気候に適応するように社会の仕組みや人の動きを変えることで、気候変動による被害を軽減し、気候変動の利点を活用する気候変動対策である。
現在、各省庁による適応策プロジェクト研究が進められている。それらの成果に基づいた政府としての「適応計画」が、2015年夏頃を目途に閣議決定される予定である。
II. 長野県の気候変動適応策導入に向けた動き 長野県環境保全研究所は、環境省の適応策プロジェクト、環境省環境研究総合推進費S-8 「温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究」(以下S-8と略)に参画し、2010年度から気候変動適応策を長野県に導入するための取り組みを進めてきた。長野県は防災・生態系・農業・健康など、様々な分野の気候変動適応策の立案を取り扱うことから、S-8のモデル自治体に選定された。
S-8の取り組みを受け、長野県では適応策の検討会を組織し、関係各課から気候変動影響予測の希望を収集した。それを長野県環境保全研究所にて整理し、様々な分野の気候変動影響予測の実施をS-8に依頼した(表1) 。その結果、気温、最大積雪深、自然植生の生育適域(ブナなど)、マツ枯れ危険域、熱ストレス死亡リスク、果樹の生育適地(リンゴなど)等の将来変化予測結果の提供を受けた。
図1は、S-8共通シナリオ第2版を用い、1kmメッシュで表した長野県飯田市の年平均気温予測結果である。各種の影響予測の多くも、1kmメッシュで提供されている。
県内の詳細な影響予測は地方紙でも大きく取り上げられ、長野県の適応策推進に大きく貢献した。適応策は、2013年度施行の県温暖化対策実行計画「長野県環境・エネルギー戦略」に位置付けられた。
III. 信州・気候変動モニタリングネットワークの構築 長野県環境保全研究所は2013年度から、本戦略に位置付けられた地球温暖化適応策推進事業のひとつ、「信州・気候変動モニタリングネットワーク」の構築検討を開始した。これは、県内の国・県の現地機関や研究機関、大学や独立行政法人、市町村など、気候変動の影響評価に活用可能な観測データを従前から収集している機関の参加により、長野県独自の気候変動観測体制の構築を目指すものである。それらの観測点数は気象庁観測点の6~9倍の規模に及ぶため、観測精度の調整やデータ共有が可能になれば、詳細な現状把握が可能になると考えられる。それにより、長野県の気候変動に関する研究を促進すること、および、気候変動の程度に応じ適切な対策を選択する「順応的適応策」を実施することを視野に入れたものである。
謝辞:本研究は環境省環境研究総合推進費(S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究)の支援により実施されている。
抄録全体を表示
-
田宮 兵衞
セッションID: 410
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
日本における年間の大気の状態の変化について、四季の観点から記述的整理を試みる。梅雨・秋霖を盛夏の前後の雨季とし、梅雨・盛夏・秋霖を夏とする考え方の当否を論じる。
抄録全体を表示
-
植田 宏昭
セッションID: 411
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
冬季日本における降雪の発生環境は、(i)冬季東アジアモンスーンがもたらす強い寒気の吹き出しによる山間部の大雪、(ii)強い寒冷渦あるいは深い寒冷トラフによる平野部の大雪に大別される。本研究では、気象官署降雪深データを用いて多雪・少雪年を定義した上でコンポジット解析を行い、多(少)雪年においては冬季東アジアモンスーンの強化に伴う寒気の吹き出しが強(弱)まっていることを診断的に明らかにした。また、多雪年における大循環場は、ベンガル湾からフィリピン海にかけて対流が活発化し、上層の日本周辺に低気圧偏差が形成されていた。このようなLa Niñaタイプの熱帯強制が日本の降雪変動に関係していることを確かめるために、線形傾圧モデル (Linear Baroclinic Model: LBM) を用いて実験を行ったところ、インド洋から海洋大陸にかけての熱源が、松野-ギルタイプの大気の応答を通して、アジア大陸上における対流圏中上層の高気圧偏差を生成し、その渦度偏差を励起源とした定常波の伝播が、(ii)に関係する日本周辺の低気圧偏差を引き起こしていることが定量的に明らかになった。
抄録全体を表示
-
中川 清隆, 重田 祥範, 渡来 靖, 吉﨑 正憲
セッションID: 412
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
Ⅰ.はじめに
我々は,関東平野北西部猛暑の発生メカニズム解明に資することを目的として,2012年8月から上信越山岳域の利根川-魚野川谷筋17地点および碓氷川-千曲川谷筋7地点の計24地点において高密度10分間隔連続気象観測を継続している.
この度, 当該地域における2013年8月晴天日の気温と気圧の日較差の関係について調査したので,ここにその結果の概要を報告する.
Ⅱ.晴天日気温・気圧日変化の抽出
先ず,欠測や異常値が無く144個の観測値がすべて有効な日のみを解析対象とする.次に,三国峠や碓氷峠を越えた地域における代表性に疑問はあるが当該地域南東部に位置する前橋地方気象台の日照時間が9.0時間以上の日を晴天日とする(該当日数は15日).上記の方法で抽出されたデータの時刻別月平均を求め2013年8月の晴天日における気圧日変化とする.
Ⅲ. 晴天日気温日変化と気圧日変化の特徴
図1(省略)は利根川谷筋の標高が,それぞれ,55m,265m,585m, 1400mの4地点における気温と気圧の日変化を日平均からの偏差で示したものである.当該地域の8月の太陽南中時刻は11:50頃なので,JSTは約10分遅れの地方太陽時とみなせる.
日最低気温起時はほぼ等しく, 日最大負気温偏差も高標高の赤城山▲以外はほぼ等しいが,赤城山以外の低標高地点の日最高気温起時には標高に依存する位相差と日較差が存在する.この特性が,関東平野北西部猛暑日の日最高温部を山麓域から隔離する重要な要因となっている可能性がある.赤城山と平野部との間に顕著な位相差は認められないので,この特性は標高の相違だけに起因するのではなく,谷の深さ等の地形の影響を受けた局地循環に起因している可能性がある.
図1より,調和解析を施すまでもなく,気圧の日変化には1日周期と半日周期が卓越していることが明白である.半日周期は大気潮汐に起因しており,高標高の赤城山▲では午前および午後9時の極大が明瞭である.赤城山以外の低標高地点では,夜の極大の位置はほぼ変わらないものの頂上が高原型になるのに対して,朝の極大はピーク形状を保ったまま2時間ほど位相が進んでいる.早朝の気圧降下は4地点ともほぼ同様の浅い鍋底型となるが,日中出現する午後3時ごろの気圧降下は極めて明瞭なV字谷型を呈し,最大負気圧偏差には明瞭な高度依存性が認められる.
Ⅳ. 日中の昇温量と降圧量の関係 図2(省略)は日中の最大正気温偏差(℃)と最大負気圧偏差(hPa)の散布図である.全24観測地点の状態点が谷筋別に区分して描画されている.全体的には両者には明瞭な負の相関関係が認められ日中の気圧降下が日中の昇温に起因することが明白であるが,同程度の日中の昇温に対して気圧降下量に0.5~1.0hPa程度のばらつきが認められる箇所があり,地上昇温量だけでなく昇温層厚の差異も貢献している可能性がある.負の相関関係は魚野川谷筋◆や碓氷川谷筋
×で特に明瞭であるが,偏差の大きさは相対的に小さい.最も大きな偏差は千曲川谷筋
△に現れ,次いで利根川谷筋
○●に相対的に大きな偏差が現れる.利根川谷頭●ではほぼ同様の気温偏差に対して様々な気圧偏差が発生しており,この地域の日中の気圧降下の差が主として昇温層厚の差に起因していることが示唆される.
これに対して利根川谷口
○では気圧偏差に顕著な気温偏差依存性が認められないことから,昇温層厚がほぼ一様でかつ薄い可能性がある.
抄録全体を表示
-
渡来 靖, 重田 祥範, 中川 清隆, 吉﨑 正憲
セッションID: 413
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
本研究では,我々のグループで2012年8月より継続している上信越山岳域での高密度な連続気象観測データを用いて,2013年10月9日に日本海側で発生したフェーン事例における山岳斜面に沿った地上気象場の特徴を調査した.10月9日日中における地上の擬似的な温位場は,新潟県上中越地方から長野県北部にかけて高いが関東平野では相対的に低く,上信越山岳域に大きな水平勾配がある.地上風は南寄りの風で日本海側ではおおよそ山岳斜面を流下する風向となっており,新潟・長野北部では風下斜面の下降風に伴う断熱昇温が示唆される.魚野川–利根川谷筋と千曲川–碓氷川谷筋の2つの測線に沿った地上温位分布を見ると,魚野川谷筋では日中12~16時にかけて高温位域が標高400 m以下に広がり,同時に南寄りのやや強い風が見られる.千曲川谷筋では同等の高温位域が標高900 m以上まで広がり,斜面上はほぼ等温位となっている.これらの結果からも,長野県北部から新潟県にかけて斜面下降風による影響が強いことが示唆される.
抄録全体を表示
-
重田 祥範, 渡来 靖, 中川 清隆, 吉﨑 正憲
セッションID: 414
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
関東平野北西部では2007年8月16日に埼玉県熊谷市で国内最高気温(当時)となる40.9℃を記録するなど,暖候期に35 ℃以上の猛暑がしばしば発生している.この猛暑の要因の一つとして,上信越山岳域を越える気流がフェーン的な現象をもたらしているとの指摘がある.我々研究グループは,2012年8月からこの猛暑の形成機構解明を目指して,上信越山岳域の利根川-魚野川谷筋に17地点および碓氷川-千曲川谷筋に7地点の計24地点に独自の気象観測網を構築している.日本海側からの一般風が関東平野に到達するには,谷川岳や三国山脈が大きな障害となっている.この風が関東平野に吹き込むには,山越え気流となるか,魚野川-利根川の谷筋等のギャップを吹き通る可能性が高い.そこで本研究では,谷川岳山麓に位置する新潟県湯沢町土樽(標高396m)と群馬県みなかみ町湯檜曽(標高585m)の通年観測の結果から温位を算出し,両地点の温位差からフェーン発現日の抽出を試みた.
その結果,湯沢町(日本海側)が高温位となる日に,季節的な変化認められなかった.その一方で,みなかみ町(太平洋側)では,日平均で3.0℃以上の高温位となる日が3月中旬から4月下旬頃に集中し,夏季には値が小さくなっていた.
抄録全体を表示
-
拡張干ばつ・ゾドメモリ仮説
篠田 雅人, 黒崎 泰典, 伊藤 健彦, 木村 玲二, 立入 郁
セッションID: 415
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
われわれ人類は極端気象の多発時代に向かいつつある。社会の脆弱性ゆえに気象災害が甚大となる乾燥地の人々に対して、本研究は日本の乾燥地科学の英知を結集した国際貢献をめざすものである。本研究「乾燥地災害学の体系化」(略称、4Dプロジェクト)は科研費基盤研究(S)(2013-2017年、代表:篠田雅人)により、ユーラシア乾燥地における自然災害の発生機構の体系的理解と能動的(災害前の)対応の提言を目的としている。ユーラシア乾燥地には特徴的な4種類の自然災害がある。それらは、日本に飛来する黄砂の発生を引き起こす砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)であり、英語の頭文字をとって4D災害とよぶ。本発表では、2009/2010年にゾドが発生した過程について解析する。
抄録全体を表示
-
ユーラシア大陸の寒気形成
飯島 慈裕
セッションID: 416
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
I.はじめに
最近のユーラシア大陸の冬季気候の特徴として、大陸での急激な寒気形成(寒波)に伴う、低温偏差が上げられる。例えば、2009/2010年冬季では、強い寒波によって中国や中央アジアにかけて多量の積雪がもたらされ、モンゴルでは家畜が大量死する寒気災害(ゾド:Dzud)が大規模に発生した。その冬季に大陸上で発達した寒波事例の大気場の解析結果(Hori et al. 2012, SOLA)によると、北極振動の負偏差の強まりとともに、バレンツ海上でのリッジの形成をトリガーとするユーラシアでの寒気移流プロセスが示されている。一方、寒気が大陸上を移流する際、地表面付近で強烈に発達する接地逆転層の発達を伴い、寒気が地上で持続すると推測される。しかし、大陸上における上空の寒気移流から、逆転層発達に伴う寒気蓄積(強化)、その後の寒気消滅までの一連の過程における大気-陸面の時空間的な応答関係に関しては不明な点が多い。そこで、本研究では2009/2010年以降の冬季における寒波に着目し、ユーラシア大陸上での接地逆転発達と、寒気形成過程との関係について、気象観測データに基づく解析を行った。
II.使用データ
解析にはNOAA/NCDCのIntegrated Global Radio- sonde Archive (IGRA)から、ユーラシア大陸上の北緯40°-80°、東経60°-150°の領域の特異点データを含む高層気象観測点(89地点)の00Zと12Zの高層気象観測データを用いた。本研究では、地上気温から気温逆転が継続する層を接地逆転層とし、その最高気温の気圧面を接地逆転層の上端とした。飯島ほか(2011:地理学会春予稿集)の逆転層強度指標に加えて、逆転層上端の気圧と気温を接地逆転発達の指標として用いた。
また、冬季中の地表面積雪分布について、MODIS/Terra Snow Cover 8-Day L3 Global 0.05Deg CMG, Version 5を用い、8日平均での接地逆転層発達分布との対応を調べた。 地上観測データとして、JAMSTEC地球環境変動領域(当時)によるウランバートル近郊の観測点における下向き長波放射量と一般気象要素の測定データを用いた
III.結果
2009/2010年以降の冬季における大陸上の全観測地点平均の接地逆転層強度の年変化によると、逆転層は例年10月下旬から発達を開始し、3月末まで継続する。強度の最大は1月上旬であり、発達期間の方が速く進む。北ユーラシアの緯度帯の日射量を考慮すると、10月下旬と3月末は非対称な関係にある。入力放射量の季節的な減少と、積雪域の拡大が重なることで、11月以降急速に接地逆転強度が強まると考えられる。2009/2010年冬季は、1月上旬の強度の最大値が、4冬季中でも突出している(図1:太線)。また、2月上旬にも強まる時期があり、その時点での積雪と寒波が、家畜の大量死に繋がるゾドとなった。
2週間ほどの周期で繰り返す寒気形成・衰退過程では、逆転層が中央シベリア以東で非常に強く発達し、5日程度の間に、発達域はモンゴル・中国北東部・アムール川流域へと南下するパターンとなった。このとき、上空の大気はHori et al. (2012)の事例に対応して、(1)「北極海・バレンツ海でのリッジ形成」→(2)「北極域からの寒気移流と大陸上での蓄積」→(3)「大陸上では高・低気圧の波束が伝播」→(4)「寒気の南下が進む」という時間変化を示した。ユーラシア大陸上での接地逆転の強度は上空に寒気移流が生じた(2)の段階で強まり、(3)で東シベリアの逆転層の撹乱からモンゴル側に逆転層発達域が南下し、東アジア全体へと寒気が流出する過程を示していた。
寒気がシベリアで蓄積し、モンゴル地域へ移流する間、逆転層上端(約850hPa)の気温は-20℃以下に維持されており、逆転層上の上空寒気が弱まらずに南下できる条件となっていた。上空の寒気移流は、大気(下向き長波)放射量の減少をもたらし、地表面での放射冷却を強化させるため、その後の継続した接地逆転層の発達に寄与する。実際、モンゴルでの現地観測では、2009年12月~2010年2月に大気放射の急減後に速やかに地上気温低下(日最低気温が-25℃以下)が生じ、その低温状況が1週間程度持続する事例が毎月確認されている。したがって頻繁に生じる上空の寒気移流がトリガーとなって、接地逆転層の発達に伴い地上の寒気が継続することで、モンゴルでの強い寒波の持続をもたらしたと考えられる。
抄録全体を表示
-
社会的要因の考慮
立入 郁, 杜 春玲, 篠田 雅人, 小宮山 博
セッションID: 417
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
ユーラシア乾燥地には特徴的な4種類の自然災害がある。それらは、日本に飛来する黄砂の発生を引き起こす砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)であり、英語の頭文字をとって4D災害とよぶ。われわれは4D災害を干ばつとそれから派生するものの災害群ととらえて統合的に扱うべく、「乾燥地災害学の体系化」(略称、4D)プロジェクト(科研費基盤研究(S)、2013-2017年、代表:篠田雅人)を立ち上げた。このプロジェクトは、ユーラシア乾燥地における自然災害の発生機構の体系的理解と能動的(災害前の)対応の提言を目的としている。 上記プロジェクトでは、最近の事例である2009-2010年のゾドに特に注目し、この事例の分析から研究をスタートさせており、今回はその成果を連続した3つの発表として示す。3番目となる本発表では、家畜死亡率と植生・積雪の空間分布の対応を分析した後、社会脆弱性の考慮と、牧畜モデルを利用した自然要因・社会要因の影響の統合によるリスク評価の計画を述べる。 本研究では、植生や積雪などの気象条件と2010年ゾドの家畜被害率を比較した後、社会的要因の寄与の考慮を試みる。まず、設備(畜舎など)・機械の数、通信条件、牧畜民の年齢・性別別人口、世帯当たり家畜数、地域生産力(GDP)、飼料準備量、畜産物価格などを説明変数とした主成分分析をおこない、次にこの結果をもとにした牧畜モデル上における自然・社会条件の統合によるリスク評価を計画している。
抄録全体を表示
-
古川 理央
セッションID: 701
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. はじめに
氷期・間氷期サイクルやD-O振動に伴う気温・降水量変動は、日本の河川流域の地形変動に大きな影響を与えてきた。しかし、山地河川流域における侵食の歴史は、陸上地形や堆積物として保存されにくいため、不明な点が多く残されている。陸上の削剥史は、河口沖~沿岸域における海底堆積物に記録されている可能性がある。海底堆積物の元素分析は、堆積物供給域の地形変化を知る手がかりの一つである。Ni、Crの濃度分布は、富山トラフや石狩湾などの海域に限っては、砕屑物の現在の輸送プロセスの評価に用いられてきた(Ohta et al, 2010)。これらの海域の流入河川流域に超苦鉄質岩が分布する事から、Ni、Crは超苦鉄岩起源の砕屑物として河川により輸送されると考えられている(今井ら, 2010)。この考えに則れば、Ni、Cr濃度の変動から特定河川の物質輸送の変化を復元できる可能性がある。本研究では、Ni、Crの濃度の変動を明らかにし、河川流域の侵食と気候変動の対応関係を論じる。
2. 調査地域と研究方法
試料は、日本海上越沖を対象としたMD179航海で採取された3296コアおよび3312コアである。3296コアは姫川現河口に近く(直線距離で約44.4㎞)、3312コアは河口から遠い(直線距離で約62.7㎞)。調査海域の堆積速度は0.3 m/ka程度に達し(仲村ほか2013)、河川供給物の寄与が大きいと推定される。調査海域へ流入する主要河川の一つである姫川は急勾配な河床縦断面をもち、河口の沖合には大陸棚が発達しない。姫川上流域にあたる飛騨山脈北部地域には時代未詳の蛇紋岩化した超苦鉄質岩が分布し、完新世の地すべりや土石流に関して詳細な研究がなされている(佐藤ら, 2005)。試料は乾燥・粉砕後、走査型蛍光X線分析装置((株)RIGAKU製ZSXPrimusII)による元素分析をコア深度約50㎝ごとに行った。コアの年代モデルはテフラ、14C年代値などを用いて復元した。
3. 結果と考察
3.1 Ni、Cr濃度変動
Ni濃度の時間変動をみると、MD-3296と3312では、変動パターンが互いに酷似している。いずれも40~70 ppmの範囲で変動しており、現在の底質における濃度分布(今井ら,2010)と整合的である。また、ほとんど全ての層準において、3296コアのほうが、3312コアよりもNi濃度が高い値を示す。なお、Cr濃度はNi濃度と高い正の相関を有し、Niと同様の変動傾向を有する。前述した両コアの姫川河口からの距離の違いを踏まえると、上記の特徴から、コア中のNi、Crは姫川起源の砕屑物起源と判断できる。したがって、Ni濃度の時間変動は、姫川流域における削剥の強さの変化を反映している可能性が高い。
3.2 元素濃度と底生有孔虫化石のδ18Oとの比較
Ni、Cr濃度の変動を底生有孔虫化石のδ
18O(Lisiecki et al, 2005)で代表される海水準変動と比較した。Ni、Crはδ
18O曲線とのタイムラグはほとんど無く、海水準の低下(上昇)期に減少(増加)する傾向が確認できた。急峻な姫川は、海水準の上昇期にも河口位置が後退せず、Ni、Cr濃度は海水準変動の影響を受にくいために、海底堆積物は姫川流域の環境変化を時間差なく記録しているとみなしうる。
3.3 元素濃度とGRIPδ18Oとの比較
各コアのNi、Cr濃度の変動をグリーンランド氷床コアの酸素同位体比(Dansgaard et al, 1993)と比較すると、Ni、Cr共に温暖期に増加、寒冷期に減少する傾向が見られた。この傾向は姫川流域で温暖化し降水量が増えると、削剥が活発化する可能性を示唆する。これは飛騨山脈北部地域において、退氷や多雨、多雪によって完新世を通じて地すべりや土石流による活発な地形形成が生じてきたとする(佐藤ら,2005)とも整合的である。
本調査は資源エネルギー庁の表層型メタンハイドレート資源探査プロジェクトの一環として実施された。
引用文献:Ohta et al(2010)Applied Geochemistry. 25, 375-376. Tada et al(1999)Paleoceanography. 14, 236-247. 仲村ら(2013)石油技術協会誌. 78, 79-91. Lisiecki et al(2005)Paleoceanography. 20, PA1003. 滝澤ら(2014)日本地球惑星科学連合大会講演要旨HQR24. 今井ら(2010)海と陸の地球化学図, 207p, 産業技術総合研究所地質調査総合センター. Dansgaard et al(1993)Nature. 264, 218-220. 佐藤ら(2005)地学雑誌. 114, 1, 58-67.
抄録全体を表示
-
ケイ トエ ライン, 成子 春山, マウン マウン エ
セッションID: 702
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
イラワジデルタの頂点に当たるヘンサダ地点の地形分類図を作成したところ、自然堤防帯にあたることがわかった。蛇行が顕著であり、メアンダースクロール、河川の切断過程などをおうことができた。オールコアボーリングを行った結果、完新世の堆積物のリズムがよくわかった。
抄録全体を表示
-
福井 幸太郎, 菊川 茂, 飯田 肇, 後藤 優介
セッションID: 703
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
はじめに
2014年5~6月,立山カルデラの温泉の池「新湯」で湯枯れが発生し湖底が干上がった.6月13日なると温泉が再び湧出して水位が上昇,6月15日にはもとの温泉の池にもどった.新湯が一時的に干上がることは数十年前から富山県内の山岳関係者の間で指摘されていた.しかし,写真などの記録は無く,現地で確認できたのは今回が初である.本発表では,湯枯れの発生と温泉の再湧出による水位回復の経過について報告する.
新湯について
新湯は立山カルデラ内を流れる湯川左岸に位置する直径約30 m,水深約5 mの円形の火口湖.もともと冷水の池であったが1858(安政5)年の安政飛越地震(M7.3~7.6)の際の激しい揺れによって熱水が湧き出したとの伝承がある.現在も約70℃の湯が湧出している.希少な玉滴石(魚卵状蛋白石=オパール)の産出地で2013年10月17日に国の天然記念物に指定された.
湯枯れと温泉再湧出の経過
・2014年4月15日:立山砂防事務所撮影の航空写真から新湯では温泉が湧出しており水位も平年通りであることを確認.
・5月13日:博物館撮影の航空写真から新湯が干上がっていることを確認.
このため,新湯は4月15日~5月13日の間に干上がったと考えられる.
・6月11日:
現地にて新湯が完全に干上がっていることを確認(図1a).池の最深部(水深約5 m)に直径1 m程の凹みが3つあり活発に湯気を噴き上げていたが温泉の湧出はなかった.
・6月13日:立山砂防事務所より新湯で再び温泉湧出がはじまったとの連絡が入る.
・6月15日:現地にて池の最深部付近から温泉が湧出しており水位が元のレベルまで回復していることを確認(図1b).水位は
6月13日~15日の3日間程で元のレベルで回復したといえる.湯温は池の切れ口付近で72.6℃と干上がる前と同程度だった.
謝辞
今回の調査は国土交通省立山砂防事務所の協力・支援によって実現しました.お礼申し上げます.
抄録全体を表示
-
白濱 吉起, 宮入 陽介, 何 宏林, 傅 碧宏, 狩野 謙一, 越後 智雄, 横山 祐典, 池田 安隆
セッションID: 704
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
チベット高原はインドプレートとユーラシアプレートの衝突により側方へと成長している.チベット高原北東縁のKumkol盆地はその隆起しつつある領域に位置しており,盆地内部には,多数の褶曲や断層によって構成されたほぼ東西伸張の複背斜構造を見ることができる.盆地の南にある東Kunlun山脈から北に向かって流れるPitileke He(Heは中国語で河の意)は先行谷となってこの構造を南北に貫いており,その両岸には多数の段丘面が分布している.これらの段丘には,複背斜構造の成長によって変形している様子が見られる.したがって,段丘面の形成年代を推定できれば,その形成過程とチベット高原北東縁における高原の拡大に関わる複背斜構造の成長速度を明らかにすることができる. ALOS衛星によって取得されたPRISM画像を使用してKumkol盆地内部の地形分類を行った結果,高位から順にT1からT6まで6面の段丘があることがわかった.また,複背斜構造の変動が高位の段丘面ほど累積していることもわかった.2013年2月から3月にかけて現地調査と,表面照射年代測定用のサンプル採取が行われ,T1面とT2面の2点から深度別に地下の段丘堆積物を採取したほか,22点から段丘面表層の砕屑物を採取した.堆積時の宇宙線生成核種(CRN)濃集量を十分平均化するために,礫ごとの測定を行ったサンプル以外は,50個以上の礫を破砕・混合してCRN濃集量を測定した.化学処理はAORIの横山研究室で行い,AMSによる
10Be/
9Be,
26Al/
27Alの測定は東京大学タンデム加速器研究施設(MALT)を使用した. 深度別サンプルのCRN濃集量の分布から堆積時の濃集量(Inheritance)と露出年代が推定できた.その結果,T1面の露出年代は178-430 ka,T2面は126-167 kaと推定された.また,
10BeのInheritanceがT1面でおよそ4.5 * 10
5 atoms/gであるのに対し,T2面で3.5 * 10
6 atoms/gと一桁大きい値を示した.
26AlのInheritanceについても同様の結果が得られており,T2面の堆積物に高位の段丘からの再堆積物が多く含まれていることを示唆する.そこで,T2面表層から採取した15個の礫について礫ごとのCRN濃集量を調べたところ,3つのクラスタがみられた.そのうち大きい濃集量を示す2つのクラスタの露出年代はおよそ190-250 kaと,T1面の露出年代と一致していた.この事実は,T2面にはT1面からの再堆積物が多く含まれることと,T1面の形成年代が190-250 kaの可能性が高いことを示す.堆積段丘面の形成時期は砕屑物が多く供給される氷期に対応すると推定されるため,T1面はMIS8,T2面はMIS6に形成されたものと推定される. 段丘面の年代から複背斜構造の最大隆起速度が見積もられる.T1面の現河床からの最大相対高度(約285 m)は,現河床の河床縦断面形がT1面形成時と比べて変化していない場合,隆起量とみなすことができる.T1面の年代(190-250 ka)から,隆起速度は1.1-1.5 mm/yrと求められた.これは,チベット高原北縁の地形的境界である本地域において,著しい変形と隆起が活発に生じていることを示している.
抄録全体を表示
-
大畑 雅彦
セッションID: 705
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
能登半島北岸において空中写真判読および現地踏査より更新世・完新世段丘面の分類図を作成した。更新世段丘の内縁高度をポーリン気圧高度計により測量し、完新世段丘面は斜面測量器を用いて縦断面の測量を行った。こうして得られた更新世・完新世段丘面の旧汀線高度分布を対比すると、更新世段丘面が分類できなかった馬緤から町野の区間において、完新世段丘は西側へ連続的に高度を下げており、馬緤と町野の更新世段丘面の高低と矛盾しない。よってこれらの地域では完新世における傾動が更新世段丘面の傾動と対比できる可能性がある。
抄録全体を表示
-
大上 隆史
セッションID: 706
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
隆起する山体の河床縦断形モデル
アクティブテクトニクスによる隆起が継続している山地では,隆起と侵食のバランスが保たれる“平衡状態”に向けて変化していく地形モデルが一般に受け入れられている.こうした地形モデルにもとづいて河床縦断形と侵食速度(≒隆起速度)の関係などが論じられつつある.他方で,山地が“平衡状態”に達するのに必要な継続時間や,氷期間氷期サイクルや崩壊などの比較的大規模な土砂移動イベントと“平衡状態”との関連性についての検討は不十分な状態にある.隆起する山地地形の研究を進展させていくための基礎的な事例研究として,第四紀を通じて隆起してきた養老山地および鈴鹿山地を取り上げ,その河床縦断形の特徴を比較検討した.
養老山地および鈴鹿山脈の第四紀テクトニクスと地質 養老山地および鈴鹿山地は,東麓を西側隆起の逆断層である養老断層系および一志断層系に縁取られた東傾斜の傾動地塊である.両山地には定高性があり,養老山地の山頂には侵食小起伏面が発達し,鈴鹿山地では高位置小起伏面が貧弱ではあるものの分布する.鈴鹿山地東麓の後期鮮新世以降の隆起速度は0.58−0.68mm以上と見積もられている(石山ほか,1999).養老山地については最高地点の標高(908.3 m,笙ヶ岳),および隆起が約200万年前以降に開始し,約100万年前以降に現在と同程度の速度になった可能性が指摘されていることから,鈴鹿山地と同等の隆起速度であると考えられる.山地の地質はジュラ紀の付加体(砂岩・泥岩・チャート・石灰岩・玄武岩ブロック)と白亜紀の花崗岩(領家花崗岩類)からなる.
河床縦断形とS−Aプロットの作成 国土地理院が公開している数値標高モデル(10 mメッシュおよび5 mメッシュ)を使用して河床縦断形を作成した.計算にはUTM53座標系において10 m間隔で再サンプリング処理した数値標高モデルを用いた.山地尾根を源流とする河川を対象として流域解析を行い,流路となる各セルのXYZ座標と各地点の上流側の流域面積を算出した.また,流路長125 m毎に最近傍のセルを抽出し,各区間の平均勾配を計算した.上記のデータを用いて河床縦断形とS−Aプロット(横軸に集水域面積の対数:log(A),縦軸に勾配の対数:log(S)をとったもの)を作成した.隆起速度Uで隆起している地域の岩盤河川について,平衡状態に達しているときにはS=(U/K)
1/nA
-(m/n)という関係式が導かれ(たとえばWhipple et al, 2000),このとき,log(S)はlog(A)の一次関数として表現されると考えられている.
河床縦断形の特徴 個別の河床縦断形を見ると,それらの形状は一様ではなくばらつきが認められる.養老山地においてはS−Aプロットが直線状になるような河川が存在する一方,遷急点を有する河川,遷急点はないが下流で河床勾配が大きいままの河川が認められる.特に養老山地北部では遷急点や下流部の直線的な急勾配区間が多く存在する.鈴鹿山地においても同様に遷急点や下流側の急勾配区間が認められるものの,全体としてはS−Aプロットが直線状を呈する河川が多い.特に南部ではS−Aプロットが直線に近い河川が多く分布し,北部では遷急点等が分布する河川が多い傾向がある.
エリア毎の河川の平均的なS−Aプロット 研究地域を便宜的に養老山地北部・南部,鈴鹿山地北部・中部・南部の5つのエリアに分けて,各エリア平均的な河床縦断形(S−A図)を作成した.養老山地北部は徳田谷以北,養老山地南部は羽根谷以南,鈴鹿山地北部は員弁川源流以南,鈴鹿山地中部は多志田川以南,鈴鹿山地南部は田光川以南,御幣川以北とした.各エリアの全てのS-Aプロットにもとづき,流域面積の幅0.5毎に平均値を算出してこれらを繋いだ(図).
5つのエリアのS−Aプロットは全体としてよく似ている.一方で上に凸状を示す程度が鈴鹿山地よりも養老山地のほうが大きく,各山地内では南部より北部で大きい.こうした違いは隆起速度の長期的な変化(加速)様式を反映している可能性がある.
(引用文献:石山ほか,1999,地震,
52,229−240;Whipple et al., 2000,
Geol Soc Am Bull,
112, 490―503.)
抄録全体を表示
-
小野 映介, 河角 龍典, 藤根 久
セッションID: 707
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
筆者らは,1)京都盆地における詳細な地形発達史を編むこと,2)旧石器時代以降における地形環境と人々の土地利用の関係性の解明を主な目的として,公益財団法人京都市埋蔵文化財研究所が実施する遺跡の発掘調査時に,微地形と浅層地質の調査を継続的に行っている.今回は,これまでの調査成果から,姶良Tn火山灰(以下,AT)の検出状況を中心に報告する.ATは扇状地群の発達過程を解明する上での鍵層であるとともに,最終氷期における京都盆地の景観復原において重要な指標として位置付けられる.
京都盆地では,これまでに多くの遺跡でATが検出されてきた.ATの検出地点が集中するのは,平安京の右京北部,鴨川以東の盆地東縁部である.これは,両地域が更新世の段丘からなり,それ以外の地域は完新世に鴨川や桂川などの氾濫によって形成された地形であることを示唆する.筆者らは,右京北部の1地点,盆地東縁部の3地点でATの検出状況を確認した.
平安宮典薬寮跡・六波羅蜜寺境内・六波羅政庁跡ではATの上位に薄い細粒堆積物と遺構関連の堆積物のみが認められることから,AT降灰までに段丘化した地形,すなわち更新世段丘に位置すると考えられる.一方,法勝寺跡・延勝寺跡はAT降灰後に砂礫の堆積を受けている.砂礫は,風化花崗岩起源であることから,東山から流れ出る白川の堆積作用を受けた可能性がある.また,その時期は地点④のATを覆う堆積物の年代から弥生時代前半と推定される.その場合,両層には時代的ギャップが認められることになる.
抄録全体を表示
-
藁谷 哲也
セッションID: 708
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
カンボジア・シェムリアップ州を中心に分布するアンコール遺跡は,9~14世紀にかけておもに砂岩とラテライトなどの石材の組積み工法で建築された。19世紀にヨーロッパ人によって発見された当初,多くの遺跡は,厚い植生に覆われていたと考えられている。その後,国際的な遺跡の保存・修復事業が進められ,遺跡周囲や遺跡を構成する砂岩ブロック上の樹木は取り払われてきた。砂岩ブロック上の樹木は,遺跡の崩壊に結びついていると考えられるが,遺跡周囲の樹木伐採は,建物の高温化をもたらし,砂岩ブロックの乾湿変動を加速させていると推測される。そこで本研究では,アンコール遺跡の熱環境を調べるとともに,その砂岩ブロックの風化に与える影響を分析した。
熱環境を調査するために選定した遺跡(寺院)は,植生被覆の環境が異なるアンコール・ワット,タ・プロムおよびバンテアイ・クデイの3寺院である。これら寺院では,2014年3月16日から21日にかけて,温・湿度を記録するロガーを境内にほぼ等間隔にそれぞれ約40機設置した。そして,温・湿度を4分間隔で計測し,約24時間後にロガーを回収して,気温分布を調べた。また,ロガーによる計測時間中,寺院を構成する砂岩ブロックの表面(放射)温度をサーモグラフィーで測定した。一方,砂岩ブロックの風化状態は,アンコール・ワットを対象に建築部材(柱)の凹み深度を方位別に測定して分析した。
境内における気温分布を調べると,建物の近傍は建物の周囲を取り巻く緑地の気温より約2℃高いことがわかった。アンコール・ワットを例にとると,気温分布は日の出前(6:00)にはおおむね均質であるが(図1A),10時における建物近傍の気温は緑地より最大で約3℃高い(図1B)。また,サーモグラフィーによる同日9時における回廊東側の表面温度は,55℃(気温31℃)に達していた。この表面温度は,15:31でも約40℃(気温34.5℃)の高い温度を維持していた。建物近傍の気温が,その外周に広がる緑地に比較して高いことは,2011年の乾季と雨季に実施した気温観測結果からも判明している。このため寺院では,直達日射を受けて加熱した建物と緑地との間に,年間を通じて大きい温度勾配が生じている。
アンコール・ワットにおける回廊を支える砂岩柱の基部に発達する凹みの深度は,日射のあたる日向側で深く(平均最大深度:約35mm),日陰側で浅い(約13mm)。柱は降雨があると毛細管現象により水分を吸い上げるが,日向側では日射を受けて急速に乾燥化が進む。これに対して柱の日陰側は,日射を受けにくいため,乾燥化の進行は遅い。すなわち,柱の凹みはおもに乾湿繰り返しによる風化によって形成されたと考えられる。
アンコール遺跡では,保存・修復を目的に樹木伐採が進められてきた。しかし,これは建物に対して,樹木による日射の緩和効果を減じてしまった。建物の高温化は,雨水を吸水した砂岩ブロックの乾燥化を加速させ,大きい乾湿変動をもたらしていると推測される。このため,建物周囲の樹木伐採は,寺院を構成する砂岩ブロックの風化に加担している可能性が高い。
抄録全体を表示
-
-地理情報科学における倫理的課題について-
鈴木 晃志郎
セッションID: 709
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1990年代に飛躍的な進歩を遂げたICT(情報通信技術)は、誰もがウェブ上で情報交換できる時代をもたらした。いまや紙地図は急速にウェブや携帯端末上で閲覧できる電子地図へと主役の座を明け渡しつつある。二者の決定的な違いは、地理情報を介した情報伝達が双方向性をもつことである。Google Mapなどの電子地図とLINEやFacebookなどのコミュニケーションツールの連携で、利用者はタグや文章、写真を貼り付けてオリジナルの主題図を作成でき、不特定多数に公開できるようになった。また、OpenStreetmapなどに代表される参加型GISの領域では、官公庁や製図家に限られていた地理情報基盤整備の局面における、一般人の参画を可能にしつつある。
しかし、こうしためざましい技術革新に比して、利用者側に要求されるモラルや責任、リテラシーについての議論は大きく立ち後れている。阪神大震災の教訓を踏まえ、電子地理情報の基盤整備に尽力してきた地理学者たちは、2007年に制定された「地理空間情報活用推進基本法」に貢献を果たすなど、電子国土の実現に深くコミットしてきた。電子地理情報の利活用におけるユビキタス化は、その直接・間接的な帰結でもある。ゆえに、ユビキタス・マッピング社会の実現は、地理学者により厳しくその利活用をめぐるリスクや課題も含めて省察することを求めているといっても過言ではない。本発表はこうした現状認識の下、地理学者がこの問題に関わっていく必要性を大きく以下の3点から検討したい。
(1)地図の電子化とICTの革新がもたらした地理情報利用上の課題を、地理学者たちはどう議論し、そこからどのような論点が示されてきたのかを概観する。この問題を論じてきた地理学者は、そのほとんどが地図の電子化がもたらす問題を「プライバシーの漏洩」と「サーベイランス社会の強化」に見ており、監視・漏洩する主体を、地理情報へのアクセス権をコントロールすることのできる政府や企業などの一握りの権力者に想定している。本発表ではまず、その概念整理を行う。
(2)地理学における既往の研究では、地理情報へのアクセスや掲載/不掲載の選択権を、一握りの権力(企業や行政、専門家)が独占的にコントロールできることを主に問題としてきた。しかし、逆にいえば、権力構造が集約的であるがゆえに、それら主体の発信した情報に対する社会的・道義的責任の所在も比較的はっきりしており、そのことが管理主体のリテラシーを高める動機ともなり得た。これに対し、ユビキタス・マッピング社会の到来は (A)個人情報保護に関する利用者の知識や関心が一様ではない、(B)匿名かつ不特定多数の、(C)ごく普通の一般人が情報を公開する権力を持つことを意味する。それでいて、情報開示に至るプロセスには、情報提供を求めてプラットフォームを提供する人間と、求めに応じて情報提供する人間が介在し、一個人による誹謗中傷とも趣を異にした水平的な組織性も併せ持っている。ユビキタス・マッピング社会は、そんな彼らによって生み出される時にデマや風聞、悪意を含んだ情報を、インターネットを介してカジュアルに、広く拡散する権力をも「いつでも・どこでも・だれでも」持てるものへと変えてはいないだろうか。本発表では、ある不動産業者が同業他社あるいは個人の事故物件情報を開示しているサイトと、八王子に住む中学生によってアップロードされた動画に反感を抱いた視聴者たちが、アップロード主の個人情報を暴くべく開設した情報共有サイトの例を紹介して、さらに踏み込んだ検討の必要性を示す。
(3)地理情報をめぐるモラルや責任の問題は、端的には情報倫理の問題である。本発表で示した問題意識のうち、特にプライバシーをめぐる問題は、コンピュータの性能が飛躍的に向上した1980年代以降に出現した情報倫理(Information ethics)の領域で多く議論されてきた。本発表では、これら情報倫理の知見からいくつかを参照しながら(2)で示された論点を整理し、特に地理教育的な側面から、学際的な連携と地理学からの貢献可能性を探ることを試みる。
抄録全体を表示
-
若林 芳樹
セッションID: 710
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
アメリカ学術会議のレポート(NRC, 2006)が出版されて以来,欧米のGIS教育では空間的思考が関心を集め,その能力を測るテストの開発(Lee and Bednarz, 2009, 2012; Huynh and Sharpe, 2013)も進められている.しかし,空間的思考力の構成要素や測定方法,それを規定する要因については不明な点が多い.そこで本研究は,Lee and Bednarz (2012)が開発した空間的思考力テスト(STAT: Spatial Thinking Ability Test)を改良して日本の大学生に適用し,テスト項目間の関係や個人特性との関連性を分析することを目的とする.とくに,従来の研究では触れられなかった,日常的活動での関心事や地理の学習経験との関連性に着目して分析を行った. STATには,①テスト項目の選定基準の曖昧さ,②回答者の既有知識の影響,③多肢選択による定量化の困難さ,といった問題点があった.それらの点を改善するために,本研究では独立性の高い6項目を選び,素材の匿名性を高めて知識とスキルを分離した上で,1項目に複数の設問を用意したテスト(STAT-J)を新たに作成した.採用した項目は以下の六つである.Q1 経路探索:言葉による道案内に基づいて地図上で経路探索を行う課題Q2 分布パターンの断面図:階級区分図の値をもとに,断面図のパターンを読み取る課題Q3 最適立地:3つの条件を充たす立地場所を選択肢から選ぶ課題Q4 分布図の相関関係:複数の分布図から,ある分布図と相関が最も高いものを選ぶ課題Q5 3次元画像の視覚化:2次元の等高線図の任意の地点から見える景色を想像する課題Q6 地図のオーバーレイ:2つの図形のブール演算から得られる図形を選ぶ課題 また,STAT-Jの妥当性を検討するために,空間的思考力自己評価テスト(SESS)を作成した.これは,サーベイマッピングに関わる6項目,ルートマッピングに関わる6項目,小規模空間での空間的スキルに関わる6項目からなる合計18項目の質問について,それぞれ5段階評価で回答してもらうものである. その他,空間的思考力に関連する個人属性として,日常的活動への関心事(地理の学習,地図,野外活動,乗り物,コンピュータ),高校・大学での地理の学習歴,性別などをとりあげた.これらの質問に対する157人(男子57%;地理学専攻生38%)からの回答を分析に使用した. STAT-Jの各項目の得点と合計得点との間には有意な相関が得られたのに対し,テスト項目間では,Q4とQ6の間以外では有意な相関は得られなかった.これは,テスト項目の独立性を意味しており,空間的思考力が複数の要素で構成されることを示唆する. 一方,自己評価テスト(SESS)の結果に因子分析を適用したところ3因子が得られ,第1因子はサーベイマッピングの能力,第2因子はルートマッピングの能力,第3因子は日常的活動での空間的推論能力,をそれぞれ表すことがわかった. STAT-Jの成績とSESSの因子得点との相関をみたところ,有意な相関が得られたのはQ4,Q5と第1因子との間のみであった.つまり,分布図の相関を捉えたり,3次元空間を視覚化する能力はサーベイマッピングの能力と関係するが,その他の能力間には明確な関連性はみられない. 個人属性によるテスト得点の差の検定を行った結果,高校での地理の履修と大学での地理の専攻は,Q4,Q5の成績に有意な差をもたらすことが判明した(図1).つまり,地理の学習経験は,分布図を比較したり,空間を視覚化する能力を高める可能性がある. 性差については,Q5とQ6で有意差がみられた.Q5の視覚化課題については男性の成績がよく,心的回転能力に関する過去の研究結果と符合する.しかし,Q6のオーバーレイ課題は女性の成績がよく,空間的課題の種類によって男女の優劣が異なるといえる. 日常的活動への関心は項目間で関連性が強く,とくに地理の学習,地図の利用,野外活動,乗物への関心の間で有意な関連性がみられた.これらとSESSの3因子との関連性をみると,第1因子のみ地理の学習,地図の利用,野外活動と有意な関連性がある.つまり,これらの活動への関心がサーベイマッピングの技能を高めると予想される. STAT-Jの成績との関係では,Q4とQ5が地図の利用,野外活動と強い結びつきを示している.つまり,分布の相関を読み取ったり,3次元の景色を視覚化するスキルは,地図利用や野外活動によって高まる可能性がある.本研究の結果から,空間的思考力は複数の独立した要素で構成され,学校での地理の学習経験のみならず日常的な興味関心にも関係していることが明らかになった.
抄録全体を表示
-
田中 雅大
セッションID: 711
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. はじめに
これまで障害の地理学では,社会的に生産される「不可能にさせる空間」の中で障害者の生活が著しく制約されていることが明らかにされてきたが,近年では,様々な技術を利用して障害者が主体的に「可能にする空間」を創り出していることが指摘されている(Chouinard et al. 2010).
本研究では,ボランタリー組織による地図の協同作成活動を事例に,参加型GIS(PGIS)やボランタリーな地理情報(VGI)によって視覚障害者の外出移動を「可能にする空間」がいかにして創り出されているかを検討する.対象事例は認定NPO法人ことばの道案内(以下,「ことばの道案内」)である.当該団体は「ことばの地図」という独自の地図を作成してWeb上で公開することを通じて視覚障害者の自立促進を図っており,全盲の視覚障害者を代表に東京都北区を拠点として活動している.なお本研究では「可能にする空間」を,熊谷(2013)の「依存先の分散としての自立」という考えを基に,「心身の障害を負った人々が多数の人やモノに十分に頼りながら様々な行動の可能性を見出せる空間」と定義する.
2. 地理空間情報のデジタル化と視覚障害者
施設内部の移動支援は受けやすくなってきている一方,施設間の公道は依然として人やモノに頼りづらい空間である.外出先までのアクセス情報を事前に入手できるか否かは視覚障害者にとって重要な問題であり,近年ではインターネットによる情報提供への期待が高まっている.そこで,現在の東京都内の市区町庁舎ホームページ(HP)に掲載されている当該庁舎までのアクセス情報を発表者が調べたところ,視覚障害者が利用可能な情報はほとんど存在しないことが明らかとなった.多くのHPでは庁舎の位置情報がデジタル地図を中心としたビジュアルな地図のみで示されており,テキスト形式の情報も鉄道・バスの路線名や最寄駅・バス停からの徒歩移動時間の掲載にとどまる.地理空間情報のデジタル化が進展し,晴眼者がいつでもどこでも地図を使用できるようになってきている一方で,そうした社会の主流から視覚障害者は排除されている.
3. ボランタリー組織によるVGI実践
「ことばの道案内」が提供する「ことばの地図」は駅・バス停から目的地施設までの空間を道案内するようにテキスト形式で書かれており,PCや携帯電話の音声化機能によって利用できる.「ことばの地図」の書き方には10年以上かけて作られてきたルールがある.長年の活動を通じて見出された重要なルールとして,「<歩道>,<構内>といったロケーションの変化に関する情報を必ず入れる」というものがある.一定の広さを持った空間の名称を入れることで,どのような空間にいるかを把握し,その後の行動を自ら選択,判断しやすいようにされている.また,道行く人に現在地について尋ねやすくするために通り,交差点,店等の名称や交番の位置が書かれている.触地図案内板,盲人用押しボタン,シグナルエイド等既に設置されている様々な装置に関する情報も書かれており,それらを利用できるルートが選択されている.先行研究では身体感覚を意識した道案内が数多く提案されてきたが,「ことばの地図」ではそれはもちろんのこと,周囲の人やモノが持つ機能を十分に生かした移動が想定されている.こうしたローカルな情報は複数の視覚障害者と晴眼者が協同で何度も現地調査を行うことで発見され,その後の活動で生かされている.
また,「ことばの道案内」は活動の継続と普及の点から行政との連携を重視している.従来の行政主導の支援策では,上記のようなローカルな情報を反映するのは難しいと考え,当事者による地図作りの必要性を提案している.そして,自前のHPだけでなく行政のHPにも「ことばの地図」を掲載してもらっている.また,「ことばの地図」の提案をきっかけとして,点字ブロック等の既存の支援ツールのメンテナンスも強く呼びかけている.
4. VGIによる「可能にする空間」の創出
「ことばの道案内」は「ことばの地図」を作成,提供することで,視覚障害者のメンタルマップの構築を支援するだけでなく,人やモノと結びついた移動を促している.そこで求められているのは,現行の福祉施策にしばしば見られるハイテク技術の新規開発とそれに依存した外出移動ではなく,一般的な技術を媒介にして周囲の人や既存のモノを結びつけながら依存先を分散させ,多様な行動を選択できる空間を創り出すことである.そして,そうした「可能にする空間」の創出におけるPGISやVGIの役割は,依存先となる既存資源の発見,再評価,存在の周知であると考えられる.
抄録全体を表示
-
山田 育穂, 岡部 篤行
セッションID: 712
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
Moranの
I 統計量(Moran 1948)は、地区データの空間自己相関を検定する手法として広く用いられている。対象地域内の地区数、
n、が十分に大きく、解析対象変数、
X、が特定の仮定を満たす場合、
I 統計量の確率分布は漸近的に正規分布に従うとされ、検定はその仮定の下に行われる。しかしながら、実際の検定の際に、
I 統計量が正規分布となるための条件が精査されることはごく稀である上、Tiefelsdorf and Boots (1995)などにより、特にその裾野において
I 統計量の確率分布が正規分布から乖離することも指摘されている。山田・岡部(2013)は、Cliff and Ord(1971)の指摘を大規模シミュレーションにより拡張し、
nが2,500程度であっても
I 統計量の正規性が満たされる可能性は低いことを示した。特に、変数
Xが尖度の大きい分布や離散分布である場合に、
I 統計量の正規分布からの乖離が大きいとされた。
本研究では、
I 統計量の裾野分布に着目し、解析対象変数
Xが正規分布、対数正規分布、ポアソン分布の場合について、Monte Carloシミュレーションを用いた検証を行った。その結果、
I 統計量を用いた検定では順列空間ランダムのシミュレーションにより棄却限界値を求めるべきであるという従来の知見を裏付けると共に、
nが大きい場合には
Xの分布形による影響はほとんどないことを示した。一方でこれは、
nが小さいときには
Xの分布形への配慮が必要であることを意味しており、これまであまり考慮されてこなかった
Xの分布形に関する仮定について注意を促す結果である。また、シミュレーションで得られる
I 統計量の推定分布は、
nおよび繰り返し回数が大きい場合には非常に安定していることから、大規模なシミュレーションにより地区数に応じた棄却限界値を予め算出しておき、実データの検定に利用することも可能と考えられる。こうした数表は、
I 統計量の幅広い利用に繋がるだけでなく、過去の研究事例の再検証などにも活用が期待できる。
抄録全体を表示
-
竹本 弘幸
セッションID: 801
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
はじめに 昨今の論文に見られる無断転載・行政審査の根幹に関わる不正問題は,教育や研究現場・行政審査(有識者会議)・報道にまで蔓延し,結果として多くの不利益を発生させているのが現実だろう.本発表では,演者が体験したモラル以前の違反・不正と思われる事例(不正流用と深刻な情報操作)を紹介し,この積み重ねによる不利益と日本最初の報道・研究災害がもたらした悲劇を紹介し,私たちが取り組むべきものは何か考えたい.
独法・行政機関に見る丸投げ体質とその実態 東大と産総研が実施した地震防災関連報告(須貝ほか,2000他)では,外部発注の報告書に基づき,内部報と学術雑誌への投稿が認められた.この数億円をかけた複数のコア分析が数回の観察で根本的誤りを指摘された事態(中村・竹本,2014)は深刻である.巨費を投じた公的プロジェクトでは,現場を指揮した筆頭著者について,その資質と責任を問わざるを得ない場合(当該人物の研究費申請の一定期間制限)も必要だろう.
八ッ場ダム問題では,有識者会議座長と河川官僚により建設に不都合な資料を意図的に排除し,座長権限でうやむやにし続けた実態を傍聴した.その事例は「洪水が山を登り,隣接する低地帯で氾濫が起きていない【ねつ造氾濫図】を日本学術会議土木建築部門の委員長や群馬大委員が追認」パブコメでは,埼玉県主導でダム推進の「同一印刷文によるやらせコメント」が5千通を越え,報道を受けても関係者の処分は行われていない.
磐梯山噴火史料では,内閣府中央防災会議・県・観光施設担当者が,版権所有者に無断で転載して分析した報告書と書籍を,現在でも頒布・販売を継続している.いずれも,公表論文は引用せず,自らの業績として報告していたのが実態である.
125年間続いた日本最初の報道・研究災害の払拭(まとめ)
磐梯山噴火の災害報道で起きた「長坂集落の悲劇」は,不十分な取材に基づく報道がきっかけであった.一方で地域報道に徹した福嶋新聞の記事は,全国紙報道によって埋もれていった.讀賣新聞の記事は,写真師のケガもあり集落全体の裏付を取らない報道であった.その後の報告(郡)も曖昧だったことが誤報を拡大化させた.災害の実像を残すため生存者が1926年に建立した「殉難之精霊」碑文(1989に再刻)をめぐる解釈・改ざんの研究論争はさらに被害者住民に追い打ちをかける事態をまねいた.風化に伴う再刻で起きた「誤記」に対して,米地(2006)は,結果として碑文の改ざんに繋がったとし,北原(1998)が尊重した伝承まで揶揄する報告を行っている.後世の研究者による一次史料の曖昧な検証と論争を繰り返したことが,125年間という永きにわたる風評被害を与え続けたのであった. 地道な報道をした福嶋新聞記者の活躍と犬塚又兵氏の記録絵画の発見がなければ,長坂に纏わる報道・研究災害はこれからもずっと続いていただろう.両者に学ぶべきは,客観的一次情報(史料)をしっかり記録し,論文として公表・発信し続けること,調査・研究に携わるものは,異論があれば常に客観的議論を公表し続けること,公権力を行使する側には,より厳しい眼を向け,情報操作や違反を発見した時は,最も不利益を受けるだろう側に立って情報を発信し続ける努力が大切ではないだろうか.
抄録全体を表示
-
辻村 千尋
セッションID: 802
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
地理学は人と自然とのかかわりを総合的に明らかにする学問分野であり、その時空間軸の扱いかたは、国のグランドデザイン作成にも重要な視点である。こうした観点で、中央リニア新幹線事業にかかわる自然保護問題や、国のグランドデザイン作成に関して発表時には地理学が果たすべき、果たさなければならない問題について提起するとともに議論を深めたい。
抄録全体を表示
-
吉田 圭一郎
セッションID: 803
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
I はじめに
外来植物の生物学的侵入(biological invasion)はグローバルな環境問題の一つである(Vitousek et al. 1997).特に,太平洋島嶼では外来植物の生物学的侵入が顕著にみられ,外来植物の分布予測やその影響評価に関する研究が数多く行われてきた(Daehler et al. 2004など).
近年,外来植物の生物学的侵入が気候変化に影響をうけることが指摘されつつある(Dukes & Mooney 1999).特に,乾湿条件の変化は外来植物の侵入定着や分布拡大に有利に働くとされ(Davis et al. 2000),長期的な気候変化を考慮した外来植物への対策が急務となっている.
こうした背景から本研究では,1)気候条件の異なるいくつかの島嶼において,同一の外来植物の生物学的侵入による影響を明らかにし,2)それらの地理的な比較から,気候変動と外来植物の生物学的侵入との関連性を検討することを目的とした.本発表では,特に外来植物ギンネム(
Leucaena leucocephala)の生物学的侵入による影響の地理的な差異について明らかにする.
II 調査地と方法
本研究では調査対象地を,北西太平洋に位置し,乾湿条件が異なる琉球列島,小笠原諸島,ハワイ諸島とした.これら全ての島嶼では外来植物ギンネムによる生物学的侵入がみられ,その影響が危惧されている.本研究では,ギンネムが群落を形成してから30年以上経過した林分を対象に,100m2の調査プロットを設け,植生調査を行った(琉球列島-7カ所,小笠原諸島-24カ所,ハワイ諸島-28カ所).調査プロットでは,樹高1.5m以上の個体を対象とした毎木調査を行うとともに,林床植生を含めた出現種などを記載した.
III 結果と考察
過去の空中写真判読から,調査を行った全ての島嶼において,ギンネムが二次遷移初期に密な一斉林を形成していたことが確認された.しかし,現地調査の結果,ギンネム林が成立した後30年程度経過した林分の植生構造やその特徴は島嶼間で異なっていた(図1).
琉球列島では,ギンネム林は成立から30年の間に在来種に置換され,ギンネムはほとんどみられなくなった.小笠原諸島においても同様に,多くのギンネム林が遷移後期種に置換され,別の外来植物が優占する林分が成立していた.ハワイ諸島では,ギンネム林内に遷移後期種はほとんど出現せず,ギンネム林が長期間維持されていた.島嶼間での種組成の比較から,ギンネム林内に出現する種の多くが複数の島嶼間で共通しており,そのほとんどは湿潤熱帯を分布の中心とするものであった.
本研究の結果から,北西太平洋島嶼におけるギンネムの生物学的侵入による影響は地理的に異なっていることが分かった.ギンネムが優占する林分は,その原産地(熱帯サバナ)と類似する気候の島嶼で長期間維持される一方で,降水量がやや多い湿潤な島嶼では,湿潤熱帯に分布の中心をもつ別の樹種により置換されていた.このことは,在来種や外来種という区分に関わらず,乾湿傾度を背景としたギンネムと競合する種群の有無が,ギンネムの生物学的侵入による影響の地理的な差異の重要な要因であることを示唆している.
本研究は,平成26年度科学研究費補助金若手研究(B)「気候変化が外来植物の生物学的侵入に与える影響に関する生物地理学的研究」(研究代表者:吉田圭一郎)による研究成果の一部である.
抄録全体を表示
-
―八幡平山系を例にして―
今野 明咲香
セッションID: 804
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
八幡平山系には、広く湿原が存在する北部の八幡平地域と、一部に湿原が存在する南部の秋田駒ヶ岳地域がある。この湿原の分布の差異は、完新世の地形や気候変化が影響していると考えられる。本研究では、両地域の地形や湿原の分布、表層地質を比較することで湿原の形成時期や形成要因を明らかにすることを目的とする。
八幡平地域では平坦面上に成立する地下水涵養型山地湿原が広く存在する。一方で秋田駒ヶ岳地域では、地下水涵養型山地湿原は北部に広く存在するが、南部にはほとんど存在しない。八幡平地域の地下水涵養型山地湿原は泥炭層と狭在するテフラから、完新世初頭に成立したと考えられる。秋田駒ヶ岳地域では、北部の湿原で完新世の中頃に形成されたが、南部では現在でも湿原がほとんど形成されていない。八幡平地域で観察した土壌断面では、総じて安定して土壌層が形成されているが、秋田駒ヶ岳地域では完新世テフラが厚く堆積している。
以上の結果から、八幡平山系では秋田駒ヶ岳南部を給源とする火山活動によって、秋田駒ヶ岳地域の広範囲で地表面が攪乱され、さらにテフラが厚く堆積した。そのため、秋田駒ヶ岳地域は八幡平地域に比べて湿原の分布が狭く、湿原形成も遅れたと考えられる。
抄録全体を表示
-
田林 雄, 池田 浩一, 伊藤田 直史, 榊原 厚一, 辻村 真貴
セッションID: 805
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
石灰岩地域は、鍾乳洞・カルスト地形などの自然景観に恵まれ、地下空洞や裂か中に含まれる豊富な地下水が地域の水資源として重要な役割を果たす。我が国では、岩手県の龍泉洞や山口県の秋吉台等において水文学的研究が行われてきた。石灰岩特有の地形である鍾乳洞周辺における地表水−地下水循環系は、依然解明されていない部分が多くさらなる検討の必要がある。調査対象地域は、岩手県下閉伊郡岩泉町字神成の龍泉洞とその周辺、南北約20 km、東西約5 kmの範囲である。当地域は安家石灰岩、チャート、粘板岩、砂岩等の堆積岩類と、それらを貫く花崗岩類からなり、龍泉洞、龍泉新洞、安家洞などの洞穴が存在する。また、地形については、石峠を境に江川川が北流し安家川に注ぎ、また本田川が南流して小本川に注ぐ。調査は、2014年9月2日、3日にかけて実施した。また、9月2日の午後2時から6時までの間に15.5 mmの降雨が観測された。一般に陸水中ではCa
2+、Mg
2+、HCO
3-は地層中の炭酸塩がその供給源であり、イオン交換、海水や温泉水の混入、人為的汚染がない場合には双方はほぼ当量線に含まれる。電気伝導度とCa
2++Mg
2+の関係については、9月2日に採水された地下水において電気伝導度が高い値を示し、9月3日に採水された水試料とは傾向が異なる。すべての地点において水質特性はCa−HCO
3型を示し、とくに石灰岩地域に起源を有すると考えられる湧水、地下水においては、Ca
2+、HCO
3-濃度が顕著に高い値を示した。
抄録全体を表示
-
加藤 晶子, 堤 克裕
セッションID: 806
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
河川の上流域・水源域では、廃棄物や残土等の埋立地からの浸出水が地下へ浸透し、地下水や河川の水質を悪化させ、飲料用井戸や農業用水等に問題を生じることがある。このような場合、直近の河川水質を連続的に監視する必要があるが、一般的に上流部の河道内では、水や土砂の流下による影響が大きく、とくに気象条件によっては急激に激しい変化にさらされるため、計器を設置することが困難である。本研究では、耐久性が高い現場用多項目水質計を用いて、造成工事に使用された鉄鋼スラグによる影響で、アルカリ性の高い浸出水が確認された千葉県内の河川での連続観測を行った。 調査期間は平成24年12月から26年6月であり、この間24年12月から26年3月にかけて、高アルカリ水の原因である鉄鋼スラグが事業者により撤去された。埋立て現場は河川沿いに位置し、23年12月時点で、支川上流側から下流側へかけてpH平均7.7→9.4、Caイオン濃度上流側20mg/L前後、下流側30mg/L前後であり、鉄鋼スラグから溶出した浸出水の影響が確認されている。また、定期的な採水・測定より、まとまった降雨の後ではpHが上昇する傾向がみられた。これより、降雨後のpH上昇が懸念され、とくに多量の降雨時からその後にかけてのpHの挙動を確認すること、また鉄鋼スラグ撤去工事の影響による浸出水の水質変化をみるため、下流側に現場用の多項目水質計を設置し、サンプリング間隔1時間で観測した。この水質計では、pH、電気伝導率、溶存酸素、濁度、温度、塩分を測定できる。pHセンサーについてはほぼ3~4週間毎に校正を行った。連続モニタリングにおいては、撤去工事開始後、下流部のpHの値は徐々に下がっており、開始前では9.5前後、25年2月~3月で8.5~9、4月~7月で8~8.5、8月で8前後、9月~26年3月7.5~8、工事終了後は7.5となり、影響を受けていない上流側の値にかなり近くなってきている。一方電気伝導度については、降雨時を除き、期間を通じて20mS/cm前後で推移している。また、降雨時には表面流出による水量増加で河川の水質が一時的にうすまり、 pH、電気伝導度とも急速に低下するが、1日後にはほぼ元の値に戻っている。時間雨量が多い場合、降雨後にpHが一時的に元の値より上昇することが多く、観測期間を通じて最大pH9.5~10であった。pHの上昇と累積雨量や降雨時間との明瞭な関係はみられなかった。集中豪雨時には、計測器を流失することはなかったが、流下する土砂によりセンサーが急速に埋没し、測定値に影響した。このため、センサー保護筒に不織布を巻き、センサーが直接埋まらないように改良した。しかし降雨時の濁度は急上昇しており、細かい粒子の流入は避けられない。時間雨量20㎜以上の降雨後は、定期以外のメンテナンスの必要があると考えられる。
抄録全体を表示
-
森 和紀
セッションID: 807
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
背景と動機 かつて演者は,1994年(平成6年)に生じた典型的な少雨・高温の条件下における河川水質の変化について考察し, BODの上昇,DOとSSの低下が平年と比較し顕著に認められたことを指摘した(Mori, 1998)。6月~8月の平均気温に着目すれば,その後,類似の気象現象は2004年・2005年・2010年・2013年に繰り返され,近年,その生起頻度が高くなる傾向が継続している。ここでは,降水量・平均気温の平年値との偏差が30年に1回程度起こる現象を異常気象と捉え,統計期間を2010年まで伸ばした検討結果を報告する。
資料 夏季の平均気温と日照時間に関する平年値との偏差が全国の最大値を記録した中部圏に位置する木曽川・雲出川の両流域を対象に,水文気象要素については1891年~2010年の120年間(気象庁),流量と河川の水温・水質については1990年以降(国土交通省)の観測値に基づき解析した。
結果および考察 年降水量(5項反復移動平均値)の経年変化は極大期・極小期の5~6組の繰り返しによって特徴づけられ,1990年以降が比較的少雨の一時期に相当することは(Fig.1),北半球中緯度帯において得られている近年の特性と整合する。年降水量とThornthwaite法により算出した年蒸発散量との差を年流出量と見做して求めた年流出率の経年変化は年降水量に支配されると共に,1990年以降の低下傾向がより顕著である。夏季の少雨・高温は一過性の現象であるとは言え,これらの気象条件が河川水質に及ぼす負の影響は地球温暖化に対する水文環境の応答を評価する上で重要である。2005年の典型的な事例では,流量の減少が引き起こす希釈機能の低下による濃度の上昇(Fig.2),および河川水温の上昇に伴うDOの低下が認められた。
抄録全体を表示
-
沼尻 治樹
セッションID: 808
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1.はじめに 本研究では,降雪と降雨を分離する積雪・融雪モデルを備えた分散型タンクモデルを,ダムの水位データからモデルのパラメータを設定し,同一水系の下流域にそのタンクモデルを適用させた。日単位流域流出モデルの入力値としてグリッドデータであるレーダーエコーと地上観測降水量による解析雨量(気象庁)が有効であることは,これまでの研究で示されている。
ここでは積雪・融雪モデルを備えた分散型タンクモデルを常呂川鹿ノ子ダムで最適パラメータ探査し,実行したシミュレーション結果と,常呂川流域のシミュレーション結果を報告する。
2.研究対象流域 対象流域は,常呂川流域である(図1)。この川の上流部に鹿ノ子ダム流域(流域面積:124k㎡)がある。鹿ノ子ダムは発電を行っていないことから,揚水発電によるダム湖への流入量データへの影響を考慮せずに流出モデルを構築できる。
3.使用データとアプリケーション 流出モデルの入力値として気象庁の解析雨量(2007年・2008年)を使用した。解析雨量の空間解像度は1kmであり,正時のデータを日単位で集計し日雨量分布データを作成した。また,日可能蒸発散量の算出は,まず流域内の各グリッドの日平均気温を得るため,流域至近のアメダス観測所(境野)の日平均気温を基に,稚内の高層気象データから算出した気温減率を用いて各グリッドの気温推定を行った。この日平均気温のグリッドデータを用いて,ソーンスウェイト法にて月可能蒸発散量を求め,日平均気温から比例配分して日可能蒸発散量を算出した。流出モデルの最適パラメータ値探索用に必要な実測流域流出量(=ダム流入量)は国土交通省のダム諸量データベースから鹿ノ子ダムのデータをダウンロードして使用した。
グリッドデータの処理と流出モデルのシミュレーションには,C#とC++によるアプリケーションを自作し利用した。
4.流出モデル タンクモデルを各グリッドに分散配置し,各グリッドで計算される流出量を流域で集計するという分散型流出モデルを構築した。タンクモデルは単槽式とし,流出量は,表面流出,中間流出,基底流出の合計である。日平均気温を用いて降雪と降雨に分離し,積雪・融雪モデルでは融雪を融雪係数と日平均気温から求めている。
最適パラメータ値は,解析期間の流域モデル流出量と,鹿ノ子ダムへの流入量の差の2乗が最小値となるように,多重ループ法で探索した。
5.結果 このモデルによって,この流域の2007年9月から2008年6月までの流出をシミュレーションできた。また鹿ノ子ダム流域で得られたパラメータを使用し,常呂川流域の流出をシミュレートすることができた。
抄録全体を表示
-
紺野 祥平, 大久保 さゆり, 菅野 洋光, 福井 真, 吉田 龍平, 岩崎 俊樹
セッションID: P001
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
イネ葉いもち病は,コメの収量や品質の低下をもたらす重要病害であり,葉いもち病発生を事前に予測することは病害防除の点でも重要である.本研究では,アンサンブル予測実験結果を用いたイネ葉いもち病発生確率予報とイネ葉いもち発生予察モデル(BLASTAM)に入力される気象データの関係について検証を行った.
抄録全体を表示
-
高橋 洋, 松本 淳
セッションID: P002
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
日本海側を中心とした地域では、長期的に積雪量が減少していることが指摘されている。しかしながら、本研究での寒候期平均の長期変動傾向の解析では、降雪量・積雪量ともに有意な長期変動は、ほとんど見られなかった。北海道の東部についてのみ、有意な長期増加傾向が見られた。また、北海道の太平洋側と本州中部の内陸部の一部で、長期減少傾向が見られた。降水量については、北海道については、降雪量と同様な傾向が見られるものの、本州では、傾向の一致が見られない。
過去の研究では、2000年代までの傾向として、減少傾向が指摘されているものがいくつか見られる。これらのことから、2010年付近を含める場合と含めない場合とで傾向がどのように違って見えるのかを詳しく議論する必要がある。
抄録全体を表示
-
榊原 保志, 関 隆太郎, 花井 嘉夫
セッションID: P003
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
夜間、放射冷却等により斜面上の大気が冷却され、重力流となって下降し、盆地底に冷気湖が形成されることについては、研究が進められており、長野盆地でも夜間に冷気流が侵入することが報告されている。 しかし、冷気流が地上付近で観測されることは少なく、連続的に流入し続けることもあまり見られない。これは、夜間に冷気流が、地上よりも高い位置にある等密度面を流れているためであると考えられる。
本研究では、気柱大気密度の積分値である地上気圧に着目し、盆地の異なる地点で気圧を観測することにより、盆地内大気の熱的変化から冷気流の検出を試みる。また、気温、風速、風向を用いた冷気流の観測を同時に行うことで、より正確に長野市街地へと侵入する冷気流を検出することを試みた。
抄録全体を表示
-
都市的気候を強調するアメダスの問題点
福岡 義隆, 丸本 美紀
セッションID: P004
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. はじめに
昨今の熱中症激増をもたらす温暖化は特にヒートアイランドを形成する都市域に顕著であるが、ことさら夏季は盆地都市において著しい。内陸の平野部でもフェーン現象を伴うと極端な高温を記録することがある。周囲が山で囲まれている盆地都市はいずれの風向時でもフェーンを伴いやすいので高温が発生する。これまでに実測してきた盆地都市の気候特性をレビューし、諸問題をまとめてみたい。その際、盆地都市や非盆地}(平野)都市を問わずアメダス観測による気温が地方気象台に比べてやや高温気味である問題点を提示してみたい。
2. 研究方法
1 諸盆地都市のヒートアイランド実態調査例の概観、福島県福島市、広島県三次市、岡山県津山市の例
2 地方気象台測定値に基づく盆地都市と非盆地都市の比較気温の年較差、真夏日日数、静穏率などの比較
3 アメダス観測圃場の現地踏査
3. 研究結果と考察
1 盆地都市のヒートアイランド実態、津山市の例―島の形はほぼ盆床の形に類似、風配図(wind-rose)から風の影響を示唆
2 盆地都市と非盆地都市の比較、気温年較差・真夏日数・静穏率は盆地都市の方が非盆地都市より大きいことが分かった。
3 千葉県牛久アメダスの例、気候の比較は地方気象台とアメダスとですべきではない。10―20m四方の芝生を敷き詰めた地方気象台の観測圃場と芝生に代えて畳み舞くらいの緑色のビニールシート上での気温測定に、大きな違いが生じる筈であるからである。
抄録全体を表示
-
瀬戸 芳一, 高橋 日出男
セッションID: P005
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. はじめに 関東平野においては,夏季の一般風の弱い日に起こる猛暑の経年増加が顕著であり(藤部,1998),局地風系と地衡風型の出現頻度の経年変化が指摘されている(Fujibe,2003).報告者らは,北関東の高温増加に関連し,熊谷と東京との日最高気温差が大きい場合に東風成分の弱い風系が現れやすく,夏季晴天日に占めるこのような日の割合の増加傾向を報告した(2013年度春季大会S1104).これらの風系変化は猛暑の増加とも関わっている可能性があり,詳細な解析が必要である.本研究では,風系構造を把握する指標として地上風の収束・発散場を用い,総観場の気圧傾度との関係や経年変化の観点から,関東平野における局地風系の特徴と気温分布を明らかにすることを目的とする.
2. 資料と解析方法 気象庁によるアメダス観測資料に加えて,海上保安庁の沿岸海上気象データ,各都県による大気汚染常時監視測定局のデータもあわせて利用した.解析期間は1979年から2011年(33年間)の7,8月とし,地衡風速6 m/s以下かつ関東地方平野部の気象官署の60%以上で日照8時間以上,日降水量1 mm未満の日を晴天弱風日として抽出した(369日).
周辺の土地利用から推定した地表面粗度により高度50 m風速に統一した地上風を,約8 km間隔の格子点に内挿し,平面近似法を用いて平滑化した収束・発散量を求め,晴天弱風日における毎時(9時~17時)の収束・発散量(標高200 m以下の格子点)に対し,主成分分析を行った.
3. 結果 各主成分の寄与率は,第1主成分が13.4%,第2主成分が11.2%,第3主成分が7.5%となった.各主成分の負荷量分布および主成分得点の日変化は,海風や谷風に対応して東京湾や北関東にみられる発散域など,晴天弱風日に特徴的な収束・発散場とそれぞれよく対応していた.これらの主成分得点の日変化が似た日には,収束・発散量の変化パターンおよび局地風系や一般場の風が類似した日変化をすると考えられる.そこで,各対象日における第1~第3主成分の毎時の主成分得点に対してクラスター分析を適用し,A~Eの5カテゴリに晴天弱風日を分類した.分類した各事例は,一般場の気圧傾度との関係が認められ,AとBは東よりの風,CとEは南よりの風,Dは典型的な海風が卓越する地上風系となっていた.また,Aは全域で低温傾向となる一方,Cはほぼ全域で,Eは鹿島灘沿岸で高温傾向となるなど,気温分布にもそれぞれ特徴がみられた.C,D,Eの出現頻度には経年的な変化があり,関東平野における風系の経年変化傾向が示唆される.
今後,各カテゴリの風系および気温分布について詳しく検討し,局地風系の経年変化について,総観場の変化との関係を含めて検討していく予定である.
抄録全体を表示
-
山添 謙
セッションID: P006
発行日: 2014年
公開日: 2014/10/01
会議録・要旨集
フリー
1. 研究の目的
地球温暖化の進展に伴い気候変化が顕在化し,その人類社会への影響は様々な時間・空間スケールで及ぶことが考えられる.都市では,都市特有の気温上昇に加え,水蒸気量の増加の影響が懸念されている.とくに,ヒートアイランドに象徴される都市の温暖化は夜間に顕著に現れるが,水蒸気量の日変化も都市において特徴的で,日中よりも夜間に増大する傾向が指摘されている.そこで,気温と水蒸気量の両者の影響を反映している温湿指数を指標にし,その最低値が75以上となる場合を暑熱夜とし,その出現の特徴について東京を対象にして明らかにする.温湿指数は,「不快指数」とも呼ばれ,その値が75以上となると多くの日本人が「やや暑い」と感じると言われており,本解析ではこの値を「暑熱夜」の基準として採用した.
2.データと研究方法
資料:東京(大手町)における時刻別(3時間毎)値
気象要素;気温,水蒸気圧,相対湿度
対象期間:1971~2010年,6~10月
方法:03:00JST(日最低気温出現時刻に近い)における気象要素から温湿指数と水蒸気量を算出する. 3.おもな結果
・暑熱夜の温湿指数階級別出現割合(6~10月;03:00,図1)
暑熱夜日数は,1990年代後半以降に増加している.とくに温湿指数80以上の夜が1990年代後半以降頻発している.
・暑熱夜の気温と水蒸気量との関係(6~10月;03:00,図2)
気温が28℃以上となる暑熱夜は,130例で,7・8月を中心に年々増加している.水蒸気量が22g/m3以上となる暑熱夜は75例あり,8月を中心に出現しているが,2000年代には出現頻度が小さい.
抄録全体を表示