高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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25 巻, 2 号
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第28回総会 会長講演
  • ―中間報告―
    河村 満
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2005 年 25 巻 2 号 p. 107-115
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    私たちの神経心理学的研究を振り返り, さらに本学会の現状を把握することにより, 私たちが今後歩むべき道を探ることを目的とした。方法・結果は, 1) 私たちの従来の研究を整理し, 研究成果をできるだけ客観的に評価した。私たちの研究は単一症例検討から多数例を対象とする検討に拡大しつつある。2) 13年前の千葉学会と本総会との演題内容を対比した。研究対象は失語が少なくなり, 記憶障害などが増え, 今後本学会の研究内容は「診療的側面」と「脳研究的側面」とに分離していく可能性があると思われた。3) 教育講演3演題の検討した。高次脳機能障害専門家医師の育成が必須であり, 「さまざまな立場を包括したグループからなる診療体制」を多くの施設で確立すべきであることが示唆された。私自身がなすべきことは, 痴呆, パーキンソン病の認知障害など, 症候学的に未成熟な領域について検討することにある。本学会のすべての会員とともになすべきことは, 高次脳機能障害患者診療体制を現在以上に充実させることにある。
特別講演
  • 小野 武年, 西条 寿夫
    2005 年 25 巻 2 号 p. 116-128
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    近年, 理性的な情報処理に中心的な役割を果たしていると考えられてきた前頭葉が, 感情や情動発現においても重要な役割を果たしていることが注目されている。すなわち, 1) 前頭葉背外側部は, 情動や感情に中心的な役割を果たしている大脳辺縁系の活動を制御 (抑制, あるいは促進) することにより, その個体が生存する確率を上げるように機能している, 2) 眼窩皮質は, すべての外界環境情報を脳内に再現し, それにもとづいて生物学的な行動戦略を形成することに関与する, 3) 前部帯状回は, 前頭葉背外側部や眼窩皮質からの高次情報を受けて, 自己の行動を生物学的に評価し, 適切な行動を導くことに関与していることなどが示唆されている。本稿では, これら領域のヒトの神経心理学的な研究やサルを用いてニューロン活動を記録した研究を紹介し, これら前頭葉の機能について考察する。
シンポジウム : 感情的処理と知的処理の脳内機構
  • 河内 十郎, 三村 將
    2005 年 25 巻 2 号 p. 129-131
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
  • 吉村 菜穂子, 河村 満
    2005 年 25 巻 2 号 p. 132-138
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    ヒトの脳で表情認知に関与する部位として上側頭溝領域, 扁桃体と前頭眼窩部・前頭前野内側面が重要である。われわれはパーキンソン病患者の恐怖の表情認知障害が生じる神経機構を事象関連電位と双極子追跡法のくみあわせで解析した。その結果パーキンソン病患者には扁桃体の機能不全が存在することが明らかとなり, 表情認知障害との関連が推測された。PDでは他者の表情や行動からその意思や感情を推測する社会的認知機能の低下があり, PDの精神症状ととらえられてきたものを高次脳機能障害という新たな視点からとらえなおすことができる可能性があると考えられる。
  • ―音色認知と扁桃体―
    佐藤 正之
    2005 年 25 巻 2 号 p. 139-144
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    音楽の脳内処理過程について, 扁桃体の機能を中心に述べた。失音楽症例の過去の報告から, 音楽の知覚能力と情動反応とは二重解離を呈しており, 両者が独立した脳内過程を有していることが示唆された。しかし扁桃体病変についての記載はなく, 音楽的情動への同部位の関与は明らかでなかった。Positron emission tomography (PET) による音楽的情動に関する脳賦活化実験では, 不快感を惹起すると想定された不協和音の聴取時に, 予想された扁桃体の活性化はみられなかった。著者は音色の認知についてのPETによる脳賦活化実験を行った。同じ旋律に対し, 音色に注目して聴いた時とリズムに注目して聴いた時とで脳血流の変化を調べた。その結果, 前者では後者に比し, 扁桃体, 海馬傍回, 帯状回, 側頭葉前部などに両側性に有意な活性化がみられた。扁桃体の活性化の機能的意義として, 進化論的側面と情動的評価から考察した。音楽を刺激に用いることにより, 情動の脳内過程に新たな知見が得られるものと期待される。
  • 酒井 邦嘉
    2005 年 25 巻 2 号 p. 153-164
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    本総説では, 人間の脳における言語処理にかかわる以下の3点の基本的問題について議論し, 言語の脳マッピング研究における最近の進歩について概説する。第1に, 文理解の神経基盤がその機能に特化していることを示す最初の実験的証拠を紹介する。具体的には, 最近われわれが発表した機能的磁気共鳴映像法 (fMRI) や経頭蓋的磁気刺激法 (TMS) の研究において, 左下前頭回 (IFG) の背側部が, 短期記憶などのような一般的な認知過程よりも文理解の統語処理に特化していることを証明した。この結果は, 左下前頭回が文法処理において本質的な役割を果たしていることを示唆しており, この領域を「文法中枢」と呼ぶ。第2に, 第2言語 (L2) 習得の初期段階において, 左下前頭回の活動増加が各個人の成績上昇と正の相関を示すことが最近明らかになった。これらの結果により, 第2言語習得が文法中枢の可塑性にもとづいていると考えられる。第3に, 外国語の文字と音声を組み合わせて新たに習得した場合に, 下側頭回後部 (PITG) を含む「文字中枢」の機能が学習途上で選択的に変わることを初めて直接的に示した。システム・ニューロサイエンスにおけるこうした現在の研究の動向は, 言語処理において大脳皮質の特定の領域が人間に特異的な機能を司ることを明らかにしつつある。
原著
  • 遠藤 邦彦, 阿部 晶子, 津野田 聡子, 柳 治雄, 井佐原 均
    2005 年 25 巻 2 号 p. 165-178
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    音節を認知するときに, 子音と過渡部 (子音から母音への移行部, フォルマントの遷移部) が果たす役割を検討した。認知の手がかりが子音と過渡部, 子音のみ, 過渡部のみにある音を自然言語音から作成し, 失語症31例と健常者18名に語音認知検査を実施した。認知の手がかりとして, 子音は, 過渡部より強力であった。子音を削除した刺激では, 過渡部のフォルマントが手がかりとして有効であった。言語音の中には認知の手がかりが子音にある音と, 過渡部にもある音とがあった。構音点の解読には子音と過渡部の両方の情報が, 構音方法, および鼻音・非鼻音の解読には子音の情報が, 有声・無声の解読には子音または過渡部のどちらか一方の情報が必要であった。言語音の認知にもっとも大きな障害を生じたのは, 左縁上回下部の病巣であった。音声からの特徴抽出が, はじめに子音を, 次に過渡部をもとに二段階でなされると, 精密で高速な語音認知が可能と考えられた。
  • 中川 佳子, 小山 高正
    2005 年 25 巻 2 号 p. 179-186
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    本研究は, 高齢者の日本語文法理解力を評価し, 加齢と知的機能障害による言語性能力への影響を検討した。55名の高齢者 (平均年齢78.4歳) を対象に知的機能障害をMMSにて, 文法理解力をJ.COSSにて評価した結果, 後期高齢者群は前期高齢者群よりも知的機能障害が顕著で, 文法理解力が有意に低かった。また, MMSの障害基準 (23点以下) にもとづき, 知的機能障害の有無による文法機能への影響を検討した結果, 知的機能障害群では二要素結合文程度は理解可能であったが, 助詞方略や接続助詞の機能に障害が認められた。さらに, 文構造の複雑性に関しては加齢と知的機能障害の両者による影響が示唆された。これらから, 語彙を対象とした言語性能力は高齢者でも比較的維持されると考えられているが, 文法知識を含めた場合は, 加齢や知的機能障害による影響を受け, 理解が困難になる可能性が示唆された。
  • 伊藤 永喜, 佐野 洋子, 小嶋 知幸, 新海 泰久, 加藤 正弘
    2005 年 25 巻 2 号 p. 187-194
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/07/14
    ジャーナル フリー
    閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群 (obstructive sleep apnea hypopnea syndrome : 以下, OSAHS) に対する治療目的に導入した経鼻的持続陽圧換気療法 (nasal continuous positive airway pressure : 以下, nCPAP) が, 言語機能回復に奏効したと考えられる失語症例を経験した。症例は43歳, 右利き男性。脳静脈洞血栓症に対するシャント手術後に脳内出血を発症, 右半身の不全麻痺と重度失語症が残存。発症8ヵ月後に江戸川病院にて, 本格的な言語訓練開始となる。病前より夜間無呼吸・いびきがあり, 終夜睡眠ポリグラフィ (PSG) の結果, 中等度閉塞型睡眠時無呼吸低呼吸症候群と診断された。失語症に対する言語訓練が開始されてから約2年経過した時点よりnCPAPを開始したところ, 失語症状の中でも回復に困難を示していた標準失語症検査での発話の項目などで検査上顕著な改善を認めた。また日常の発話においても流暢性が増して意思疎通性が大幅に改善した。以上より, nCPAP治療がOSAHSを合併する失語症者の言語機能回復に奏効する可能性が示唆された。
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