高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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36 巻 , 2 号
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会長講演
  • 三村 將
    2016 年 36 巻 2 号 p. 163-169
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      ヒトの大脳の 1/3 を占める前頭葉は, 多くの神経科学者の関心を引きながら, いまだに解明されていない「謎」の部分が多い。神経心理学的立場からは, 前頭前野の損傷に伴って生じる問題として, 注意の持続や分配・転換の障害, ワーキングメモリや展望記憶を含むさまざまな記憶の障害, 問題解決・遂行機能の障害, 社会的行動障害などが挙げられる。これらの前頭葉損傷に伴う神経心理学的問題に対する認知リハビリテーションの技法としては, 注意障害に対する Attention Process Training や, 前頭葉性記憶障害に対する外的補助を利用した展望記憶の強化が考案されている。健常者のワーキングメモリを向上しうるツールとして, 右頭頂葉に対する磁気刺激実験を紹介し, 左右および前頭-頭頂の連絡に関する脳内ネットワーク仮説について述べた。近年, 話題に上ることの多い遂行機能障害のリハビリテーションについては, 問題解決過程を計画の立案にかかわる側面と, 計画の実行にかかわる側面に分けて考えると理解しやすい。
      前頭葉損傷においては, これらの神経心理学的障害以上に, 感情・気分の障害, 強迫症状, 作話, 脱抑制や情動制御の障害, 判断や社会認知の障害といったさまざまな精神症状が問題となる。前頭葉損傷に伴うもっとも対応困難な問題の1 つは, パーソナリティ変化を基盤とした社会的認知ないし社会的行動の障害である。このような問題が生じる背景には, 大きく情動面の抑制障害の問題と, 自分の言動を相手がどう思うかが理解できない問題 (心的推測の問題) とがある。これらの社会的行動障害に対して, うつ病や不安障害に対する認知行動療法的アプローチを援用していく試みも最近ようやく広がりをみせている。

教育講演
  • 宇野 彰
    2016 年 36 巻 2 号 p. 170-176
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      発達性読み書き障害 (Developmental Dyslexia: DD) は, 直訳すると発達性読み障害だが後天性のdyslexia とは異なり, 読めなければ書けないので, 発達性読み書き障害と翻訳されることが多い。DD は, (知能や) 年齢から推定される読み書きの習得度と乖離がある低さが認められ, 環境要因では説明ができない障害である。すなわち, 診断評価としては, 知能検査, 読み書きの学習到達度, および文字習得にかかわる認知能力の3 種類が必要となる。出現頻度は言語の種類によって影響され, 「読み」に関しては文字列から音韻列への変換の規則性が不規則な英語では出現頻度が高いと考えられる。すなわち, 同じ能力であってもどの言語を用いるかによって, 読み書きに関する習得度が変化することになる。DD の生物学的な原因としては, 異所性灰白質や小脳回などが観察されていることから, 細胞遊走の異常が仮説としては有力である。これら生物学的原因によって, 音韻, 視覚認知, 自動化, などの認知障害が生じ文字習得に困難さを生じると考えられる。訓練法については, 日本語では症例シリーズ研究法により科学的根拠にもとづいた効果のある方法が2 種報告されている。

  • 渡邉 修
    2016 年 36 巻 2 号 p. 177-182
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      東京都の高次脳機能障害者実態調査 (平成 20 年) によると, 高次脳機能障害の内訳として, 社会的行動障害, 注意障害, 遂行機能障害など, 前頭葉損傷に起因する症候が極めて多い。本稿では, これらのリハビリテーションについて論述する。(1) 注意障害に対する机上の注意訓練は, strategy training として有効である。また, タイムプレッシャーマネージメントも効果が高い。(2) 遂行機能障害に対し, 自己の能力を自覚したうえで, 動作を選択していく Metacognitive strategy training や意図した行動が実現するように, 「計画し, 構造化」できるように訓練を行うGoal management training は効果が高い。(3) 易怒性に対しては, その原因を明らかにし軽減するための環境調整や行動変容療法, 認知行動療法, 薬物療法に効果がある。(4) 病識低下に対し教示, 体験学習, 体験学習などが有効である。前頭葉損傷は重篤例であっても時間をかけて適応し回復していく。「社会脳」の再学習には, 地域をベースとした連携体制のうえでのリハビリテーションが必要となる。

  • 田渕 肇
    2016 年 36 巻 2 号 p. 183-190
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      急性一過性の健忘を呈する患者のなかに, 健忘の原因がてんかん性の機序であるような, 一過性てんかん性健忘 (transient epileptic amnesia: TEA) と呼ばれる一群がいる。TEA の患者は, 典型的には発作時でも記憶以外の認知機能がほぼ保たれる。発作時を除けば, 記憶を含む認知機能検査の成績はあまり低下しない。一方で, TEA 患者には, てんかん発作に起因すると思われる, 発作間欠期に生じる特徴的な健忘症状もしばしば認められる。加速的長期健忘 (accelerated long-term forgetting) などと呼ばれる前向性健忘や, 主に自伝的記憶の障害で現れる遠隔記憶障害 (逆向性健忘) である。てんかん性健忘は認知症と誤診されることもあるが, 抗てんかん薬の治療により軽快する疾患であり, 鑑別は重要である。本稿ではてんかん性健忘と診断された症例を紹介し, 特徴的な健忘症状について述べる。

  • 吉野 眞理子
    2016 年 36 巻 2 号 p. 191-198
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      国際失語連合 (Aphasia United: AU) , 失語のベスト・プラクティス提言 (Aphasia United Best Practice Recommendations for Aphasia: BPR) 作成過程, その日本語訳作成と日本における動きについて報告した。AU は2012 年に設立された失語当事者・研究者・臨床家を結びつける国際的組織である。その目的は, (1) 当事者組織に能力をつけること, (2) 失語のベスト・プラクティスについてコンセンサスを確立すること, (3) 失語についての認知度を高めること, そして(4) 国際的研究計画を立てることである。失語のある人々のためのリハビリテーションのあり方を提言する BPR は, 現存の文献やガイドラインをもとに専門家によるパネル, オンライン・サーベイを経て国際的コンセンサスが確立された。BPR 日本語訳および失語のある人々にもわかりやすいバージョンも作成され, 来年には第1 回国際会議が開催されようとしている。

シンポジウム I : 発達障害と神経心理学
  • 村井 俊哉, 十一 元三
    2016 年 36 巻 2 号 p. 199-200
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー
  • 十一 元三
    2016 年 36 巻 2 号 p. 201-206
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      自閉スペクトラム症の言語性記憶に関する心理学的研究の展望を行った。まず, 言語性記憶の基本的概念 (記憶の三段階など) について確認をした後, エピソード記憶の古典的モデルである二重貯蔵モデルおよび短期記憶・長期記憶について概説し, さらに, エピソード記憶研究の推進に大きく寄与した検査課題である自由再生について, その特徴とともに解説した。次に, 自閉スペクトラム症を対象とする古典的な記憶研究をやや詳しく紹介し, そこで見出された所見 (健忘症候群に類似する所見と良好な長期記憶成績の混在) に含まれる一見, 矛盾する結果をどのように説明するかが, 後続の研究の課題となったことを述べた。その後, 対象が知的障害のない自閉症へと移るとともに, 記憶材料のもつ要因を操作した自由再生や, 記銘時の処理内容を操作した記憶検査 (処理水準課題) などを用いることにより, 自閉スぺクトラム症のユニークなエピソード記憶の特徴の背景に, 意味記憶の特異な構造あるいは機能が想定された。 最後に, 同じ自閉スペクトラム症のなかでもDSM-IV が規定していた病型 (自閉性障害, アスペルガー障害, 特定不能の広汎性発達障害) により所見が変化することを述べた。

  • 小西 海香
    2016 年 36 巻 2 号 p. 207-213
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      顔認知の障害を示す発達障害として, 先天性相貌失認がある。先天性相貌失認では, 視覚障害や知的機能障害, 脳の器質的損傷がないにもかかわらず, 顔という視覚刺激から人物を特定することが困難である。この顔認知の障害はholistic processing の障害であると考えられている。「人の顔を覚えられない」という顔認知の障害は自閉スペクトラム障害でも認めることがある。先天性相貌失認の2 症例を紹介し, 顔再認課題の成績と課題中の視線パターンを自閉スペクトラム障害症例の結果と比較した。その結果, 先天性相貌失認と自閉スペクトラム障害では顔認知障害のメカニズムは異なる可能性が推察された。

  • 熊崎 博一
    2016 年 36 巻 2 号 p. 214-218
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      嗅覚機能は, 危険認識, 生殖活動の誘発をはじめ多岐にわたりそのいずれもが生命を営むにあたり重要な機能となっている。アルツハイマー型認知症や統合失調症では予後の予測因子として嗅覚は注目を集めている。自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder: ASD) においてもDSM-5 (American Psychiatric Association 2013) において, 嗅覚をはじめとした感覚の問題が診断基準に取り上げられた。 現在までの質問紙を用いた嗅覚研究では, 質問紙を用いた感覚スコアと自閉症の程度との間に相関関係があることがわかっている。臨床場面において認めるASD 児の嗅覚特性は社会機能との関係が示唆される。 一方で自叙伝では嗅覚に関する記述は少なく, 生理的な指標を用いた嗅覚検査の結果も一貫したものとはなっておらず課題も多い。嗅覚特性を把握し, 支援を行うことでASD 者の大幅なQOL 改善につながる可能性があり今後の研究が待たれる。

  • 橋本 龍一郎
    2016 年 36 巻 2 号 p. 219-224
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      複数の脳領域から構成される巨視的な脳機能ネットワークは, 対人相互性の障害や常同反復的行動など, 自閉スペクトラム症 (ASD) の中核症状を理解するうえで重要な研究対象である。本稿では, 成人高機能ASD の脳機能ネットワークに関して, 課題賦活fMRI と安静状態fMRI を用いた知見を紹介する。 課題賦活fMRI 研究では, ASD の自己・他者認知の異常に加えて, 他者の視点取得が機能結合に与える影響を検討し, 大脳正中部構造などの自己参照処理領域と社会脳関連領域の機能結合の異常を明らかにした。 成人高機能ASD の安静状態機能結合MRI 研究では, グラフ理論と呼ばれる数学的枠組みを適用したネットワーク解析を行い, ASD の脳機能ネットワークについて, クラスター係数や固有パス長などの大局的ネットワーク指標, およびハブ構造の変調が示された。これらの結果は, ASD の脳機能ネットワークに関する多面的な異常を示している。

シンポジウム II : 前頭葉と言語
  • 西川 隆, 松田 実
    2016 年 36 巻 2 号 p. 225-226
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー
  • 松田 実
    2016 年 36 巻 2 号 p. 227-235
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      前頭葉障害による発話障害を, 3 つの水準に分けて考察した。発話運動面の障害である発語失行 (AOS) では, 従来から重要視されていた構音の誤りの非一貫性では, 他の構音障害と区別できない可能性がある。神経行動学的水準と思われる発話開始困難や発話衝動の低下については, 補足運動野よりも白質障害に注目すべきかもしれない。言語学的な水準の障害として自由発話での喚語や表現選択の問題以外に, 文の構成障害があることを取り上げ, 自験の進行性非流暢性失語例の文作成の障害像を提示した。

  • 坂井 麻里子, 鈴木 則夫, 西川 隆
    2016 年 36 巻 2 号 p. 236-243
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      前頭葉内側面損傷はさまざまな言語障害を生じうる。超皮質性運動失語を代表とする失語のほか, 吃音や発話開始困難などのより基礎的な音声表出そのものの障害や, まれに失書の報告もみられる。今回の発表では, 前補足運動野を含む右前頭葉内側面損傷により一過性の発話開始困難と漢字の失書を呈した自験例を通して, 発話と書字に対する前頭葉内側面の関与を検討した。本例の発話の開始困難は一過性であったため, その病巣が発話開始に関わる中枢部位を含んでいたと主張することはできない。過去の報告において, 左前頭葉内側面損傷では発話障害の症状が持続するが, 右半球損傷では症状が持続しないことから, 発話に関与する前頭葉内側面の機能が側性化している可能性が示唆される。一方, 本例の漢字の失書は持続した。右前頭葉内側面損傷による失書は過去に報告されていない。本例の書字の成否は, 漢字の画数や使用頻度に依存せず, 構成要素 (偏や旁など漢字を構成する要素的単位) の数が増すほど書字が困難であり, その誤りの特徴は構成要素の置換であった。これらより, 右前頭葉内側面は漢字書字を実現する過程の終盤の段階で, 構成要素の選択・配列に関与している可能性が示唆される。

  • 大槻 美佳
    2016 年 36 巻 2 号 p. 244-254
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      前頭葉損傷患者における言語理解障害について, 「単語指示課題 (単語を提示され, それに該当する対象を選択肢から選んで指差す課題) 」, 「文命令課題 (文レベルの命令文を提示され, その通りに動作する課題) 」, 「構文検査」を用いて検討した。その結果, 前頭葉損傷患者における「単語指示課題」の低下は, 左中前頭回損傷と関係が深いこと, そして, その機序として, 語義の理解障害というよりも, 課題形式 (提示された単語に該当する対象を選択肢から選んで指差すという形式) に関係の深い障害である可能性が示唆された。また, 「文命令課題」の低下は, ブローカ野後部と関係が深いこと, そして, その機序として, 想定されている視点と異なる文のパターンに対しての, 対応の問題に由来する可能性が示唆された。

  • 金野 竜太, 小野 賢二郎
    2016 年 36 巻 2 号 p. 255-262
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      心理言語学において, 言語は音・意味・統辞の3 要素を中心とした構造を有すると考えられている。 言語情報は, 単語から文や文章まで異なるレベルでそれぞれ処理される。文法知識を適用して文構造を構築していく過程を統辞処理と呼ぶが, 統辞処理では左前頭葉が重要な役割を果たしている。我々は機能的磁気共鳴画像法を用いて, 左下前頭回および左運動前野外側部が文の統辞処理に関与することを実証した。 さらに, 左前頭葉の神経膠腫患者の統辞的文理解を評価したところ, 左下前頭回と左運動前野外側部の神経膠腫によって, 確かに統辞的文理解障害が生じることが明らかとなった。これら統辞的文理解障害を呈する患者の脳活動を詳細に検討することにより, 統辞処理に関与する3 つの脳内ネットワークが可視化された。そして, 統辞的文理解障害が機能的に区別される3 つのネットワークの再構築にもとづくことが明らかとなった。以上の結果は, 統辞処理における神経回路の重要性を示唆する。

ワークショップ I : 情動
  • 梅田 聡
    2016 年 36 巻 2 号 p. 263-264
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー
  • 梅田 聡
    2016 年 36 巻 2 号 p. 265-270
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      情動に関する神経科学的アプローチによる研究は, 近年, 急速に発展しており, その背景にあるメカニズムについて, さまざまな事実が明らかにされつつある。情動のメカニズムを理解するうえで特に重要な点は, (1) 情動は, 精神活動と脳活動だけでは捉えきれず, 自律神経を介した身体活動に着目する必要があること, (2) 脳活動について検討する際, 関連する脳部位レベルの局在論に限定せず, ネットワークとして理解すべきであること, の 2 点である。本稿では, 情動に関連する概念についてまとめ, 関連する脳部位とネットワークの機能に焦点を当てる。そして, 共感という側面から, 各ネットワークがどのように関与しているかについて考察する。

  • 鈴木 敦命
    2016 年 36 巻 2 号 p. 271-275
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      感情認知の神経心理学研究では感情と表出行動の対応関係がしばしば想定されてきた。この立場によると, 感情認知は他者の内的状態をその表出行動から読み解く一種の知覚的パターン認識である。しかし, 脳損傷研究は扁桃体や島などのいわゆる〝感情脳〟の役割を明らかにし, 他者と感情状態を疑似的に共有することが感情認知に寄与することを提案している。また, 感情と表情の対応関係を否定し, 文脈情報にもとづく推論が正確な感情認知に重要であると主張する研究者も少なくない。近年では, 感情認知の種々の手がかりの統合に関わる神経・認知メカニズムへの関心も高まっている。以上のように, 感情認知は多様な過程によって支えられている。このことは, 感情認知が脳機能障害に脆弱でもあり, 頑健でもあることを示唆する。つまり, 上記の一つの過程に異常が生じただけでも, 感情認知障害は起こりうる。一方で, 一つの過程の障害は他の正常な過程によって代償されうる。こうした感情認知の相反する特徴に臨床検査では留意する必要があるだろう。

原著
  • 大森 智裕, 穴水 幸子, 加藤 元一郎, 谷合 信一
    2016 年 36 巻 2 号 p. 276-285
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      病識欠如を伴う重度前脳基底部健忘症例および視床性健忘症例に対して, 過去の訓練場面における自己の活動動画を, 訓練後に視聴させるという方法を用いた認知リハビリテーションを試みた。訓練は, パソコンを用いた視聴訓練を主とした。視聴させる内容は, 発病に関する知識的情報や季節に関するイベントをその時季に応じた画像や音楽で提示する前半部 (reality orientation) とケースのリハビリテーション訓練場面の自己活動動画である後半部 (self-awareness video) から成る。認知リハビリテーションの結果, 両例ともに, 病識を含めた自己認識の改善の後, 前向性記憶が改善する過程を経たが, その改善程度や要した期間は異なった。「reality orientation & self-awareness video」視聴訓練は, 疾患特性によって改善に差はあるものの, 病識欠如を伴う重度記憶障害例に対して, 健忘に対する「気づき」を促進し, その後の自己想起の改善に繋がる可能性が示唆された。

  • 本田 慎一郎, 村部 義哉, 日下部 洋平, 玉木 義規
    2016 年 36 巻 2 号 p. 286-295
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      顔を構成するパーツを配置する課題によって著明な異常を認めた 69 歳女性と 70 歳男性 2 名の左半球損傷例を経験した。2 例はいずれも重度な失語症および上肢の習慣性動作模倣障害, 手指の構成模倣障害に加え, 自らの手を顔のパーツへ接触する動作の模倣に著明な誤りを認めた。
      この 2 例の顔面部位へ接触する模倣の誤りには, 失行症に加えて顔に関する身体表象の異常も合併していると考え, 顔を構成する各パーツを配置する課題を実施した。比較対象として半側空間無視が著明な 87 歳と 78 歳女性 2 名の右半球損傷例にも実施した。利き手は全員右利きであった。
      結果は, 左半球損傷例 2 名にのみ著明な空間的な配置異常が認められた。本課題における左半球損傷 2 例に認められた空間的な配置異常からは, 顔に関する輪郭と内部のパーツの相対的関係性を構築する機能が障害されたことが示唆され, その基盤には顔の意味性身体表象および視空間性表象の異常も反映された可能性がある。

  • 小嶌 麻木, 岡橋 さやか, 羅 志偉, 長野 明紀, 酒井 弘美, 関 啓子
    2016 年 36 巻 2 号 p. 296-303
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      失語症者の日常生活における包括的な認知機能の評価用として, Virtual Reality 技術を用いた Virtual Shopping Test-easy version ( VST-e) を開発し, 失語症者への適用および妥当性と信頼性を検討した。 VST-e において被験者は, 買い物内容を暗記した後, PC 画面のタッチパネル操作により仮想の商店街でなるべく速くかつ正確に買い物課題を行った。失語症者, 健常者各 20 名を対象に施行した結果, 失語症群は健常群より有意に買い物リスト参照回数と方向転換回数が多く, 所要時間が長かった。また, 失語症群の VST-e 成績は言語機能, 知的機能, 注意, 遂行機能との相関を認め, 内部一貫性に関する Cronbach の α は 0.62 であった。したがって, VST-e は言語機能の影響を受けるが, 基準関連妥当性と信頼性を有し, 失語症者の総合的認知機能検査として有用であることが示唆された。

  • 竹田 奈央子, 渋谷 静英, 塚本 能三, 西川 隆, 柏木 敏宏
    2016 年 36 巻 2 号 p. 304-311
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      症例は 83 歳, 右利き男性。視覚失認, 大脳性色覚障害, 失語症, 前向性健忘を呈した。MRI では左側の舌状回・紡錘状回を含む後頭葉から側頭葉内側下部に出血性梗塞, および左視床, 右後頭葉の内側下部に脳梗塞を認めた。一般的に, 視覚対象の認知は実物や写真より線画のほうが難しいと考えられている。しかし, 症例では線画に比べ実物や写真の認知が不良であった。症例の視覚認知機能をさらに検討した結果, 輪郭情報にもとづく対象の認知は比較的保たれていたが, 陰影や奥行きの情報を統合し, 立体感のある対象として認知することが困難であると考えられた。

  • 掛川 泰朗, 磯野 理, 西川 隆
    2016 年 36 巻 2 号 p. 312-319
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      脳血管障害による右半球病変に伴って身体パラフレニアとフレゴリの錯覚を合併した2 症例を報告した。脳血管障害によるカプグラ症候群やフレゴリの錯覚などの人物誤認症候群の報告は未だ少数である。 Feinberg ら (1997) は, 身体パラフレニアを, カプグラ症候群と同型の病態構造を有していると指摘しているが, 身体パラフレニアとカプグラ症候群の合併の報告はみられない。一方, 身体パラフレニアにフレゴリの錯覚の合併をうかがわせる記述は少数見出された。身体パラフラニアの患者における麻痺肢への態度は一定の既知感があるという意味でむしろフレゴリの錯覚に近いかもしれない。身体パラフレニアと人物誤認症候は右半球病変, とりわけ前頭葉病変に共通した責任病巣があるものと考えられており, これまで注目されてこなかったが, フレゴリの錯覚と身体パラフレニアはより高率に合併している可能性がある。

  • 甲斐 祥吾, 笹原 紀子, 野村 心, 芝尾 與志美, 中島 恵子
    2016 年 36 巻 2 号 p. 320-329
    発行日: 2016/06/30
    公開日: 2017/07/03
    ジャーナル フリー

      左内頸動脈閉塞に起因する脳梗塞後に, 高次脳機能障害による社会的行動障害として万引きを繰り返し, 時刻表的行動, 失語症を呈した症例を経験した。今回, 責任病巣から先行研究と比較・検討したうえ, 万引きの対象品, 要因等を行動観察により評価した。介入内容として, 多職種の協力体制のもと, (1) 万引きの対象は特定の嗜好品であったことから金銭管理, 嗜好品の保管, チェックリスト作成を行い, (2) 時刻表的行動をプラスの側面と捉えて買物・摂食をスケジュール化したことで, 万引きは消失した。今回, 前頭葉に損傷がなく, 一側性の病変により常同的な食行動異常を呈する万引きに対しては, 環境の構造化により, 不適切行動が早期に消失する可能性が示された。これらのことから, 病巣と行動観察から原因を評価し, 地域生活にわたるまで多職種で関わることが, 万引きのような触法行為を伴う社会的行動障害にも有効であると示唆された。

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