高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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36 巻 , 3 号
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教育講演
  • 佐藤 裕史
    2016 年 36 巻 3 号 p. 335-341
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      非言語的な表出・伝達は大きな臨床的意義を有するが, 昨今, communication 能力はその言語的・非言語的側面の双方で劣化傾向にあり, このため日常臨床における困難が生じている。井村恒郎 (1962) が非言語的な感情的疎通性の重要性を指摘して以来半世紀を閲し, 非言語的 communication の臨床的意義は見失われがちであるようにみえる。そこで本論では, 言語から非言語に及ぶ諸現象を spectrum の中に位置づけ, 言語自体に内在する非言語的側面について諸家の知見を概観し, 特に大橋 (2003) , 仁科ら (2013) によるhypersonic effect (可聴域を超える高周波成分が体表面から知覚され情動に影響する現象) , ならびに感情 (山鳥 2002, 2008, 2011) の非言語的側面の臨床的意義を論じる。
      臨床で遭遇する非言語的困難―「感情労働」 (武井 2006) としての労苦―を乗り越えて診療の質を高めるためには, 言語感覚の精錬と, 非言語への注目とを中心に, 多面的かつ細かな工夫を地道に重ねるのが唯一の方策と思われる。

  • 村松 太郞
    2016 年 36 巻 3 号 p. 342-347
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      互いに異界である法と医を橋渡しするのが司法神経心理学である。たとえば脳損傷と行動の因果関係の証明においても, またその意味づけにおいても, 法的場面では医学的手法を超えた論考が要求される。一方で法の側からの神経心理学に対する誤解は多くかつ根強い。脳の機能障害の過剰あるいは誤った解釈 (クリスマスツリー効果, 脳至上主義) や, 脳内に階層的な心を設定すること (心心 3 二元論) がその顕著な例である。司法にかかわる医学者は, 法と医の異質性を十分に認識しつつ, 公正中立な立場から科学的事実を呈示しなければならない。

シンポジウム III : 前頭側頭葉変性症と紛らわしい病態
  • 三村 將, 池田 学
    2016 年 36 巻 3 号 p. 348-349
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー
  • 小森 憲治郎, 豊田 泰孝, 森 崇明, 谷向 知
    2016 年 36 巻 3 号 p. 350-360
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      意味記憶の選択的障害例である意味性認知症 (SD) の言語症状は, 語義失語である。SD に伴う語義失語では, 語の辞書的な意味の喪失を反映し, 語の想起と理解の障害像に特有の症状があり, また書字言語に関しては表層失読のパターンが認められる。これらの症状に共通する特徴は, 頻度や典型性から離れた対象に対する既知感の喪失である。SD 特有とされる語義失語であるが, 側頭葉前方部の萎縮を伴うアルツハイマー病 (AD) 例の亜型にも, SD と類似の言語症状や画像所見を認める場合があり, 注意が必要である。本研究で取り上げた2 例は, エピソード記憶障害に違いはあるものの, 年齢や教育年数など背景条件が類似し, 画像や神経心理学的検査プロフィールにおいても共通の特徴が認められた。しかし注意深い観察により, 次のような相違点を見出すことができた。まず, 呼称と理解成績の一貫性は, 症例2 では高いが, 症例1 では低かった。また理解できない対象への態度にも違いがあり, 症例2 では「わからない」反応が多いのに対し, 症例1 では命題的な場面で, 対象の個別の感覚的属性にとらわれ抽象的な判断能力が弱まる『抽象的態度の障害』を呈した。これは健忘失語の二方向性障害を示唆する所見である。これらの特徴から, 症例1 は側頭葉前方部の萎縮に伴い二方向性の健忘失語を呈したAD 例, 症例2 は高齢発症のSD 例と診断した。このようなSD と見誤り易い症候が出現する背景には, SD の神経病理として有力なTDP-43 の神経変性疾患における併存や, 比較的扁桃体周囲に限局する分布の特徴が関与している可能性を推測した。

  • 品川 俊一郎
    2016 年 36 巻 3 号 p. 361-367
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      前頭側頭型認知症 (Frontotemporal dementia: FTD) は遺伝学的, 病理学的, そして臨床症候群としても不均一な疾患群であり, 関連遺伝子としてはMAPT, GRN, C9orf72 などが知られており, 組織病理学的にはピック球のような tau をもつもの, TDP-43 をもつもの, FUS をもつものなどに大別される。この生物学的不均一性によりアルツハイマー病における A β蛋白のような疾患特異的なバイオマーカーの開発が困難となっている。画像診断においては前頭葉の大脳皮質の損傷は均一ではなく, 臨床場面で画像のみにおいて診断を行うことは困難である。認知機能検査における遂行機能障害も疾患特異的なものは少なく, 行動徴候の把握が認知機能検査よりも鋭敏とされている。行動型 FTD では診断基準に挙げられるような脱抑制, 自発性低下, 共感性の欠如, 常同行動, 食行動変化といった行動症候が出現するが, FTD は精神疾患や他の認知症などへの過剰診断と過小診断どちらも多いため,注意が必要である。

  • 三村 將
    2016 年 36 巻 3 号 p. 368-375
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      前頭側頭葉変性症, 特に行動異常型前頭側頭型認知症 behavioral variant frontotemporal dementia (bvFTD) においては, 一般に多彩な人格変化や常同行為, 固執傾向, 情動障害, 行動異常や精神症状を呈する。bvFTD の鑑別にあたっては, 当然ながら他の一次性認知症性疾患や, 他の器質疾患をきちんと除外していく必要があるが, 日常診療においてbvFTD と鑑別を要する頻度が高いのはむしろ精神疾患である。
      もともとbvFTD では, 発動性低下と生気感情の喪失が人格変化の前景に立つ場合, うつ病との鑑別が難しいことはよく知られていた。特に, うつ病の類縁疾患のなかで, 遅発緊張病は初老期以降にうつ状態や意欲低下で発症し, その後, 緊張病性興奮や昏迷, さらに著しい拒絶症やステレオタイプ, 対人接触障害を認めるために, bvFTD と誤診されることが多い。また, bvFTD を疑わせる社会的逸脱行動や精神症状が, 実は双極性障害の躁状態に起因していることもあるし, 統合失調症や強迫性障害もしばしば bvFTD と症候学的に鑑別対象となる。
      近年, bvFTD との鑑別で注目に値する病態は発達障害圏である。「成人の発達障害」の重要性はすでに共通認識となっているが, ここで問題にするのは「初老期以降の発達障害」である。これらの症例では, 画像上 bvFTD を疑わせる所見はなく, 生活歴でもともと発達障害傾向を有していた人が, 高齢になって, おそらくは加齢による脱抑制が関与して行動異常や固執傾向が顕在化したものと考えられる。一方, 最近は発達障害と bvFTD の遺伝的, 生物学的共通性にも関心がもたれている。

  • 池田 学
    2016 年 36 巻 3 号 p. 376-381
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      前頭葉, 前部側頭葉に病変の主座を有する神経変性疾患である前頭側頭葉変性症 (frontotemporal lobar degeneration: FTLD) の臨床サブタイプのうち, 前頭側頭型認知症と意味性認知症が新たに指定難病に含まれることになったので, これらの診断基準の要点と課題を, もとになった最新の国際診断基準ならびにその妥当性を検証した研究を紹介しつつ, 論じてみたい。指定難病の前頭側頭型認知症の診断基準は, 2011 年に出版された bvFTD の国際コンセンサス基準 (FTDC) を踏襲している。一方, 意味性認知症の診断基準は, まず進行性失語を診断し, その上でサブタイプ診断するという最近の原発性進行性失語 (PPA) 診断基準ではなく, 従来通り意味性認知症を直接診断する。これまで, FTLD は行動障害が激しく若年発症例が多いことから, 既存の介護保険サービスがほとんど利用できず, 自立支援医療と障害年金のみでは経済的支援が不十分だったので, 今回指定難病に選定された意義は大きい。これを機に, FTLD に関する全国規模の調査・研究の進展が期待される。

シンポジウム IV : 電子機器のリハビリテーション
  • 船山 道隆, 種村 留美
    2016 年 36 巻 3 号 p. 382-383
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー
  • 種村 留美, 長尾 徹, 野田 和惠, 相良 二朗
    2016 年 36 巻 3 号 p. 384-391
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      家電などの Everyday Technology (以下ET) の進化は著しく, 高機能, 多機能, 利便性に長けている。一方で, 高次脳機能障害や認知症などによる認知機能の障害は, これら ET の恩恵にあずかることは少なく, 目ざましく変化する ET に戸惑い, かえって家人等の実際の介護負担や介護負担感をも増やす結果となっている。
      筆者の研究グループは, 元気健常高齢群, デイサービス利用群, 認知症群の在宅を訪問調査し, Nygård らが作成した Everyday Technology Use Questionnaire (以下ETUQ) 等を用いて, ET の使用状況を調査した。
      その結果, 健常高齢者でも使用困難なET は最新の機器であること, ET 使用中止の理由は, 生活様式の変化によるものと認知機能低下によるものであった。認知症例における ET 使用は, 徐々に機器の手順がわからなくなり, 昔の道具を使用していることが多かった。さらに ETUQ を用いて, 発症後4 年経過した Gerstmann 症候群の ET 使用の調査を行い, 数字や文字を識別する必要のある機器の使用が最後まで困難であった。
      これらの高次脳機能障害者や認知症者の在宅訪問調査の結果明らかとなった生活上の諸問題に対し, 当事者の諸問題の解決や家族の介護負担を軽減する, 簡単テレビリモコン, 徘徊予防センサー, 記憶補助アプリなどの Assistive Technology (AT) を紹介した。

  • 東山 雄一, 田中 章景
    2016 年 36 巻 3 号 p. 392-401
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      コンピュータの急速な普及により, 脳損傷によるタイピング障害が社会生活に与える影響は深刻となりつつある。そこで我々は, 失タイプを呈した自験例の検討と, 健常者 fMRI 研究の結果から, タイピングの神経基盤, 失タイプの責任病巣について検討した。
      【症例】78 歳の右利き男性。失語や失行, 半側無視, 運動感覚障害は認めなかったが, 選択的タイプ障害が明らかであった。病歴と脳 MRI, 各種検討課題の結果から, 本例は左中下前頭回後部の脳梗塞により, 音素-書記素変換と書記素バッファに障害を認め, 特に後者が失タイプの原因になっていると考察した。
      【fMRI 検討】健常タッチタイピスト16 名を対象に fMRI による, タイプ・書字の神経基盤の検討を行った。その結果, 左上頭頂小葉前部~縁上回, 左上中前頭回後部にタイプ・書字の両課題で有意な賦活を認め, さらに左頭頂間溝 (IPS) 後部内側にタイピングでより強い賦活を認めた。
      【考察】タイピングは書字中枢として知られる多くの脳領域や, 左 IPS 後部内側皮質など複数の脳領域が関与する複雑な認知プロセスであり, 障害部位に応じて質の異なる障害が生じる可能性がある。本例のように個々の症例の障害機序を検討していくことで, 失タイプの症候学の確立やリハビリテーションへの発展が今後期待される。

  • 砂川 耕作, 船山 道隆, 中川 良尚, 北條 具仁, 種村 留美
    2016 年 36 巻 3 号 p. 402-409
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      電子機器は操作が複雑であるため, 高次脳機能障害を呈する症例では使用が困難であることが多い。電子機器操作は言語, 行為, 記憶, 視覚/ 視空間認知, 遂行機能等のさまざまな認知機能が必要となり, 各症状からの検討が求められる。そのなかでも, 視空間認知に注目し, 脳損傷後の Bálint 症候群を呈した症例の電子機器操作 (電子機器操作でもっとも基本となる数字入力能力) について検討した。その結果, Bálint 症候群を呈した症例は電子機器操作の数字入力において困難が生じていた。視覚性注意障害のみ呈する軽度の Bálint 症候群であっても数字入力の 5 桁以降の数字入力で遂行が困難であった。日常生活でも同様に, 軽度例であっても工程数の多い銀行 ATM 操作では困難が生じていた。電子機器操作は従来の道具とは異なり, 視空間機能を多用する可能性が考えられ, 視空間障害が現代の電子機器操作に与える影響を具体的に述べた。

  • 佐野 睦夫, 宮脇 健三郎, 大井 翔
    2016 年 36 巻 3 号 p. 410-417
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      高次脳機能障害者の日常生活や職場への円滑な復帰を実現するためには, 認知障害のレベルに応じて適切なナビゲーションが行える支援システムが必要とされている。そのためには, 障害者自身の行動や周りの環境を認識・理解できる仕組みと, 障害者の実際の日常生活や職場への認知的な適応能力を評価できる仕組みが要求される。本論文では, 簡易なウェアラブルカメラを用い, 協調的な行動ナビゲーションを行うプロトタイプシステムを用いた事例を紹介した。同時に, 障害者自身の認知能力や適応能力の向上を目指し, 認知障害に対する病識を改善し, 気づきや意欲を促進可能な認知リハビリテーション支援も要求される。我々は, 体験映像と教師映像, タスク達成率, 認知機能評価結果などの指標を提示することが可能な振り返り支援システムにより, 気づきや意欲を向上させる取組を行っている。システム事例を示しながら, いくつかの症例に対する結果を紹介した。

ワークショップ II : sense of agency パラダイムによる新たなリハビリテーション戦略―運動麻痺から高次脳機能障害まで
原著
  • 橋本 竜作, 岩田 みちる, 下條 暁司, 柳生 一自, 室橋 春光
    2016 年 36 巻 3 号 p. 432-439
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      症例は 11 歳 5ヵ月の女児。主訴は漢字の学習障害であった。本例は口頭および文字言語の習得を阻害する要因 (知的発達障害や感覚障害) はなかった。検査の結果, 音読速度は遅く, 漢字の書字困難を示した。さらに絵の叙述において困難が認められた。新しく作成した構文検査を本例に行い, 生活年齢対照群および語い年齢対照群の成績と比較した。結果, 本例は格助詞の使用に特異的な困難を示し, その他の群で困難は認められなかった。誤答から, 本例は動作主が明確な能動文では, 動作主に「ガ格」を付与し, 動作主が理解しづらい使役文や受動文では基本語順文の格配列順序 (ガ格-ニ格-ヲ格) に従って格助詞を付与していた可能性が示唆された。本例を通じて, 学習障害の背景として口頭言語の障害の存在を検討する視点の必要性と, そのための検査を提案した。

  • 中道 和輝, 細川 徹
    2016 年 36 巻 3 号 p. 440-449
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      Williams 症候群 (WS) とは, 7 番染色体 7q11.23 領域の微小欠失に起因する隣接遺伝子症候群である。特徴的な社会的認知特性を持ち, 比較的良好な顔認知能力を有するとされるが, 顔の長期記憶については十分な検討が行われていない。本研究では, 1 症例の WS と定型発達成人男性 (TD) 24 名, 知的障害者 (ID) 4 名を対象に, 顔の短期記憶 (STM) と長期記憶 (LTM) について詳細な検討を行った。その結果, STM では WS の成績はID 群よりも高く TD 群と同程度であったが, LTM では TD 群よりも低くID 群と同程度であった。WS の LTM での反応の詳細を検証すると, WS は既知顔に関するヒット率が高い一方, 未知顔に関するフォルスアラーム率も高いという結果が認められた。WS は顔の記憶において未知顔であっても既知顔であるとみなしやすく, 既知・未知に関わらず顔刺激全般に対して反応バイアスを有するのかもしれない。

  • 塚越 千尋, 俵 あゆみ, 松岡 慧, 生方 志浦, 納谷 敦夫
    2016 年 36 巻 3 号 p. 450-458
    発行日: 2016/09/30
    公開日: 2017/10/05
    ジャーナル フリー

      脳損傷患者の社会参加を阻む要因のひとつとして社会認知の障害が注目されている。我々は社会認知障害を呈した脳損傷患者 4 名に, 社会的な手がかり (表情など) を適切に知覚する練習として「Social Cognition and Interaction Training (社会認知ならびに対人関係のトレーニング, 以下SCIT) 」を用いたグループ治療を行った。また, 対象者らは対人関係の問題を過小 (または過大) に報告する傾向があり, これに対してロールプレイと動画を用いたフィードバックを含めた Social Skills Training (以下SST) を加えた。結果, 表情認知課題の成績が概ね改善し, また社会性を測定する KiSS-18 の成績において対象者自身の結果とスタッフの結果とのずれが小さくなった。予備的研究ではあるが, 認知的側面への介入である SCIT と, 行動的側面への介入である SST を組み合わせることが社会的認知・行動の問題に対して良い影響を及ぼす可能性があると考えられた。

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