高次脳機能研究 (旧 失語症研究)
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43 巻, 3 号
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シンポジウム : 感じられない, 感じてしまう, 違って感じる─身体・体性感覚─
  • 花田 恵介
    2023 年 43 巻 3 号 p. 181-185
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      ナムセンスとは, 患者が体性感覚刺激に対して偶然を超えた高い確率で正しく反応することができるにもかかわらず, 同じ刺激を意識的に知覚することができない現象である。従来のナムセンスは, 触覚と触点定位との乖離という視点で議論されてきた。近年我々は, 触れた物体にナムセンスが生じる症例を報告した。患者は左頭頂葉梗塞後, 体性感覚刺激の大部分を認識することができなかったが, 形, 肌理, 物品に関する刺激を偶然を超えた高い確率で正しく選択することができた。失行報告と本例のナムセンスについて, 特徴と考えられる病態機序を解説した。

  • 坂本 和貴
    2023 年 43 巻 3 号 p. 186-189
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      身体部位失認は, 自己および他者の身体部位の呼称が可能であるにもかかわらず, その位置を指し示す空間定位が困難となる障害である。自己と他者に対してそのような障害を呈した症例に種々の検査を行った。結果, 身体部位失認はヒトだけでなく動物一般に対して生じていた。また, 身体に特異的な言語, 意味情報, 全体と部分一般の問題, 個々身体部位の視覚的記憶の問題, 個々身体部位と身体全体の対応の問題のいずれによっても説明できなかった。自己に与えられた体性感覚刺激をもとに自己の身体部位を指示することにも問題がなかった。しかし, 自己に与えられた体性感覚刺激をもとに他者の身体部位を指示することと, 意味情報を他者身体に適用することには障害があった。以上より, 本例では身体を外側から見るような視点を必要とする場合に, 自己を含めた動物一般について身体部位の認識が困難となる可能性が考えられた。

シンポジウム : 感じられない, 感じてしまう, 違って感じる─人生─
  • 目黒 祐子
    2023 年 43 巻 3 号 p. 190-194
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      妄想とは, 合理的な根拠をもたずに確信され, 容易に訂正しにくい事実から極端にずれた病的な判断や信念と定義されている。妄想はこれまで統合失調症やうつ病などの精神疾患, 認知症の進行過程で生じることが報告されてきた。特に妄想性誤認症候群 (DMS) はカプグラ症候群やフレゴリの錯覚など固有性や同一性の認識障害を呈する妄想であり, 右半球の損傷や両側前頭葉損傷で多く認められている。これは, 現実モニタリング機能の破綻と右半球の機能低下による左半球の過剰な活動性によって生じると考えられている。今回著者は, 前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血に対する瘤内コイル塞栓術後の妄想性誤認症候群のうち故人への生存妄想と食欲不振などの身体感覚を妊娠と錯覚した妊娠妄想についてその機序を検討したので報告する。

  • 千葉 朋子, 佐藤 睦子
    2023 年 43 巻 3 号 p. 195-199
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      Nurturing 症候群と一部のフレゴリの錯覚では, 愛する故人が現実世界にいると信じてしまうことがある。平山ら (2003, 2019) は, これら 2 つの妄想性誤認がいずれも情動喚起の過剰により生じる病態であることを指摘し, 共通の神経基盤を想定している。平山らの仮説をもとに, 両症候の成り立ちについて, 故人の存在を「感じてしまう」機序と, 故人の存在を「信じてしまう」機序に分けて考察した。故人の存在を「感じてしまう」のは, 故人の自伝的記憶を想起した際に生じる情動反応に由来し, 故人の存在を「信じてしまう」のは, 右外側前頭前野の機能低下による信念評価の障害が関与していると考えられた。 最近, 著者らは nurturing 症候群がフレゴリの錯覚に移行した症例を経験した。これら 2 つの妄想性誤認が同一症例に認められたことは, 両症候が密接な関係にあることの証左となると思われた。

シンポジウム : 脳画像で探るパーキンソン病
  • 菊池 昭夫
    2023 年 43 巻 3 号 p. 200-206
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      パーキンソン病 (以下, PD) は高齢者に多く発症する神経変性疾患であり, その患者数は超高齢社会に伴い, 爆発的な増加傾向にある。PD 患者の QOL を阻害する重要な因子の 1 つとして, 嚥下障害がある。PD の嚥下障害は高頻度にみられ, 必ずしも重症度と相関しない。嚥下障害に関連する症状として, 体重減少, 誤嚥性肺炎, 流涎などが挙げられる。大脳基底核回路や延髄嚥下中枢以外でも様々な病変部位によって, PD の嚥下障害はすべての摂食嚥下ステージ (先行期, 準備期, 口腔期, 咽頭期, 食道期) で起こりえる。なかでも咽頭期での障害が多いとされている。PD 患者は嚥下障害の自覚に乏しく不顕性誤嚥も多いことから, 嚥下障害の訴えがない PD 患者にも問診を行い, 嚥下障害が疑われる場合には積極的に嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査で嚥下障害を評価する。嚥下障害のパターンから病変部位を推定し治療方針を決定することが重要である。

  • 馬場 徹
    2023 年 43 巻 3 号 p. 207-211
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      パーキンソン病 (PD) では寡動, 筋強剛, 静止時振戦などの運動症状以外にも嗅覚障害, レム睡眠行動障害, 自律神経障害, 認知機能障害および精神症状など多彩な非運動症状を認めることが知られている。認知機能障害は, 重症化すると認知症にもつながる臨床的にきわめて重要な非運動症状であり, 患者・家族の QOL や予後にも大きく影響することから, 初期からの適切な評価, 治療介入が望まれている。 しかし, 患者によって認知機能障害の程度やパターン, 悪化速度が大きく異なるため, 現在のところ PD の認知機能低下を初期から正確に予測するのは困難だが, 最近では非運動症状を手がかりに PD の認知機能低下を予測しようとする取り組みが盛んになっている。本稿では PD の代表的な非運動症状である嗅覚障害から認知機能障害の早期発見, 治療介入にどう結び付けていくか, 我々の研究結果も交えて紹介する。

  • 梶山 裕太
    2023 年 43 巻 3 号 p. 212-216
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      パレイドリアとは, 曖昧な模様のなかに意味のある形 (顔, ヒト, 動物など) を見出す錯視である。 パレイドリアは健康人も経験する現象である一方で, パーキンソン病 (以下, PD) 患者では高頻度に認め, その後の認知機能障害の進行に関連すると指摘されている。我々は安静時機能的MRI により, 顔パレイドリアを高頻度に呈する PD 患者では内側前頭前野-紡錘状回の機能的結合が低下していることを見出した。また, 顔パレイドリア課題下の視線・脳波同時解析によって, 錯視出現中の前頭葉活動の亢進を示した。PD における顔パレイドリアの形成には, 過去の研究で指摘されてきたボトムアップの視知覚情報処理障害だけでなく, 前頭葉のトップダウン注意制御障害が関係していると考えられる。パレイドリアに限らず PD における幻視, 錯視は広範な脳活動がかかわる複雑な症候であり, 脳機能画像を含む今後の研究により機能的背景の解明が期待される。

  • 渡辺 宏久, 大嶽 れい子, 水谷 泰彰, 島 さゆり, 伊藤 瑞規
    2023 年 43 巻 3 号 p. 217-222
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      パーキンソン病 (以下, PD) では, 高頻度で多様な視知覚障害を認める。視覚的な異常は, 生活の質を低下させると指摘されており, 複視, 錯視, false sense of presence, passage hallucinations などは, 認知症の重要な危険因子とされる。疫学研究, 光干渉断層撮影解析, 脳内ネットワーク解析, incomplete letters や隠し絵課題をはじめとするタスク下の機能的 MRI 解析などを通じ, 視覚処理に関連する網膜や瞳孔を調節する自律神経系をはじめとする末梢レベルから, 視覚ネットワーク, 腹側および背側注意ネットワーク, デフォルトモードネットワーク, 辺縁系ネットワークなど視覚情報を統合する高次レベルに及ぶまで, 病期に応じて複数の病変が多様な病態に関与している可能性があることが判明している。また, 視知覚の異常は, 認知症発症の予測因子としても注目されている。PD では早期から視知覚障害を認めうることを認識し, 適切に評価するとともに, さらに病態を解明し, より良い対応方法や予防法を開発していく必要がある。

セミナー
  • 川勝 忍, 小林 良太, 森岡 大智, 坂本 和貴, 林 博史, 鈴木 昭仁
    2023 年 43 巻 3 号 p. 223-228
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      健忘失語ではじまり超皮質性感覚失語からジャルゴンに至った左後部側頭葉型アルツハイマー病例 (以下, 症例 1) と側頭葉萎縮が軽度であった初期から語義失語と行動異常が顕著であった意味性認知症例 (以下, 症例 2) について症状と画像, 病理の関係について呈示した。症例 1 では側頭葉のアミロイド沈着には左右差はないが, 海綿状変化を伴う神経細胞脱落および神経原線維変化や neuropil thread などのタウ病理は左側で強かった。症例 2 では左側頭葉に海綿状変化を伴う神経細胞脱落が強いが, タイプC 病理に相当する transactive response DNA-binding protein of 43kDa (TDP-43) 陽性の長い神経変性突起は, 側頭葉では左側では右側よりも少なく, 病変が軽い前頭葉や頭頂葉で多く, 神経変性に伴いむしろ減少していた。アミロイド病理は中等度で左右差はなく, タウ病理はごく軽度で症状への影響はない合併病理と考えた。神経変性疾患の高次脳機能障害は神経細胞脱落や海綿状変化と対応していた。

原著
  • 砂押 絵梨花, 石原 健司, 遠藤 佳子, 旭 俊臣
    2023 年 43 巻 3 号 p. 229-236
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/10/17
    ジャーナル フリー

      症例は 58 歳, 右利きの女性。左半身脱力, 話しにくさで発症し, もやもや病に伴う右前頭葉梗塞の診断で, リハビリテーション目的で当院に入院した。発話では速度低下, 抑揚の消失, 音の誤り, 音の途切れ, 助詞の脱落, 語順の誤りを認めた。書字では仮名の脱落を認めた。失語症構文検査では理解面, 産生面ともに低下していた。以上より, 本例の言語機能では発話におけるプロソディおよび文法が障害されていると診断した。また, 左半側空間無視, 構成障害は認めなかったが, ノートに延々と文章を書き続ける過書を認めた。もやもや病に伴う交叉性失語はこれまで 2 例が報告されているに過ぎない。本例の病変は右前頭葉に限局しており, 文法機能および発話におけるプロソディが右前頭葉に偏在していると考えた。

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